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邪神が夢見る異世界  作者: 中野 翼
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盗賊対冒険者

「あいつらの中に転生者達が混じっているのか?」


老人が影絵の案内で洞窟の入口の方に向かっているなか、星夜は別の影から洞窟の入口の様子をうかがっていた。


現在、洞窟の入口では装備が異なる者達。おそらく冒険者達と、洞窟の中にいた盗賊達との戦闘が行われていた。


ただ、その中に黒髪黒目、日本人顔の人物は見つけられなかった。


「あそこには居なくて、後方支援でもしているのか?あるいは、転生の時に愛ちゃんみたいに容姿を弄られている?」


年頃の女の子から魔物の姿にされた幼なじみの姿を思い浮かべ、星夜はその可能性も考えた。


「どうするかな?適当に全員支援してみるか?少なくともそれで支援依頼のあった光剣のブレイバー、剛腕のバンデット、氷爪のバーサーカーが誰かはわかるかもしれないしな」


星夜はとりあえず、その方針で現状に介入することに決めた。


ただし、この方法だと空転のキャスターの正体がわからない為、攻撃支援ではなく防御支援をすることにした。


これで少なくとも、全ての依頼を達成出来る可能性が残るはずだ。


星夜はひっそりと彼らの戦闘に介入しだした。



「野郎共!お頭が来る前にこいつらみんなたたんじまえ」

「「「おおー!!」」」


盗賊の一人が盗賊達に掛け声を掛けて士気を向上させ、そのまま盗賊達を率いて冒険者達に向かって突撃していった。


「こちらも行くぞ!奴らの頭が出て来る前に、あいつらを討伐する!」

「「おおー!!」」


冒険者の側も負けじと声を上げ、冒険者達も盗賊達に向かって行く。


両者は先程よりも激しく戦闘を繰り広げていった。


しかし、そんな両者の戦いには先程までになかった変化があった。


彼らの攻撃がミスりまくった上、当たっても致命傷にならなくなったのだ。


その原因は簡単。星夜が両者の動きに介入しまくったからだ。

具体的に言うと、盗賊や冒険者達が武器をふるうタイミングで彼らの手足を影で軽く引っ張る。

当然、突然加えられた力に対象の攻撃の軌道がズレ、その攻撃は最初の狙いから外れる。

また、それぞれが攻撃を受ける時には、その体表面を影でコーティングし、物理攻撃のダメージを軽減させた。


こうして、まともに戦うことの出来ない戦闘風景が出来上がった。



「ふむ。依頼達成のメッセージは今だに無し。支援が足りていないのか、それともアレらの中に転生者がいないのか。どちらだろうな?」


あまり殺伐としなくなった戦場を眺めながら、星夜は転生者の姿を探し続けていた。

しかし、今だに誰が転生者なのか不明のままだった。


「もう少し介入を強めてみるか?・・・いや、もうすぐ迷走のノーマッドが到着するな。ここはもう、思い切って彼らに潰しあってもらうか。俺にはもう状況が動いてくれないとどうしようもない」


星夜は、盗賊と冒険者達にたいする介入の仕方を切り替えることにした。


今度は、致命傷は避けつつも行動不能に陥るダメージを互いに受けるように介入を開始した。



今回は両者の攻撃時、影で攻撃の軌道をずらしつつも、その攻撃にかかる力を増強。本来の攻撃よりも速さを上げ、さらに切りつける力も増加させた。


防御関係は先程よりも薄くし、本当に致命傷になるもの以外はそのまま攻撃を受けさせた。


その結果、戦場は先程までとは打って変わって手足が簡単に飛び、鮮血があちこちで舞い散る凄惨な戦場に成り代わった。

時間が進むにつれ、死者は無くとも五体満足で戦場に立っている者の数は激減していった。


今では、数十人にいた内の僅か数人が手足を抱えながらなんとか立っている状況だった。


「なんじゃこれわ!?」


そんなある意味戦闘末期の中、とうとう迷走のノーマッドと影絵が洞窟の入口まで到達した。


『盗賊達と冒険者達との戦闘後だな。もっとも、もうお互いに余力はないみたいだがな』


星夜は念話で、ここで起こったことをそのまま伝えた。


「戦闘後って、儂らは盗賊達が駆け出した後、少し話をしてからすぐにここに来たんじゃぞ!儂らと盗賊達の到着時間にそんな差はないはずじゃ。なのに、なんで両方とも長時間の戦闘後のような様相なんじゃ!?」


老人は、目の前の光景とそれが出来上がるまでにかかったであろう時間に激しい違和感を覚えていた。


まあ、原因は星夜の介入であることが大きい。


星夜の影の介入は、戦っていた盗賊達と冒険者達の誰にも気づかれることなく行われた。

そして、違和感を持った者達がいても、その違和感の正体にまで辿り着けた者は誰もいなかった。


それゆえ、両者は最後まで何も気がつかずに突き進み、今の状況にまで到った。


両者は、星夜の手の平の上で踊る人形のようだった。


『それだけ彼らが本気でぶつかりあったって、ことだ』


が、戦ったこと自体は彼ら自身の意思だったので、星夜は老人に自分の介入のことは伝えなかった。

まあ、ただ一緒に来ただけの相手に伝えることでもないが。


「本気でぶつかりあったねぇ。なんと言うか、儂の時代の戦場よりも凄惨じゃな」


星夜の言葉を聞いた老人は、今と昔を比較してそう言った。


『お前の時代の戦場?・・・なるほど、終戦前の世代なのか。お前にはそう見えるんだな。俺の世代だと、現実感が微妙だな。あまりに自分の日常と掛け離れているせいかもしれないが』


老人の言葉を聞いた星夜は、そんな感想を口にした。


実際、ここまでの流血のある騒ぎは星夜の日常にはなかった。いや、外国と違い、故郷の日常にこんな光景がある人の方が少ないだろう。


ただ、ゲームや小説、テレビなどで紡がれたフィクションではかなり身近だとも言える。


星夜がこの戦場を見て、また、介入しても気分一つ悪くならないのは、そのせいなのだろうか?

あるいは、転生の時に神様に精神構造に手を加えられている可能性もある。


この世界の命は軽いと言っていた神様のことだ、星夜の為にそんな細工をしていた可能性がある。


「お前さんの世代だとそう感じるのか。世代差が激しいのう」


星夜が自分の現状を考えていると、老人はしみじみとそう言ってきた。


『この話はここまでにしよう。そろそろお互いの目的を果たさないか?』


星夜は、しみじみとしている老人に本来の目的を果たそうと提案した。


「そうじゃな。暢気に戦場を見ている場合ではない。早く孫の有無を確認せねばな」


そう言うと老人は、満身創痍の盗賊や冒険者達の顔を確認していった。


「・・・おらんようだな。お前が会おうとしていた転生者はこの中におるのか」


一通り確認し終えた老人は、この戦場に孫の顔がなかったことを安堵した。そして、星夜の方はどうなのかと聞いてきた。


『いないな。ここではない所にいるようだ。しかし、近くにはいるはずだ』


星夜は、老人の問いにそう返した。

結局のところ、支援を攻撃的にしても依頼は一つも達成はされなかった。


そこから導き出される答えは一つ。この中に該当する転生者達がいなかったということだ。

しかし、あのタイミングで依頼が来たいじょう、老人と同じようにこの近くにはちゃんと居るはずだ。


「その根拠はなんじゃね?」

『主からの情報だな』


転生者が近くに居ると言い切った星夜の言葉を、老人は不思議に思い、その根拠を星夜に尋ねた。


星夜は、ただの事実を老人に返した。


神様からの情報なので、転生者がいることは絶対に確定しているのだ。


「なんだこれわ!?」

「なんですかこれ!?」


星夜と老人が話していると、洞窟の奥と入口からそんな声が聞こえてきた。


星夜と老人がそれぞれ声のした方を見ると、洞窟の奥と入口の方に新たな人影があった。


どうやら、次が来たようだ。


星夜は、次は彼らの中に転生者がいるかどうか確認することにした。

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