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邪神が夢見る異世界  作者: 中野 翼
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迷走のノーマッド

『お前が迷走のノーマッドか?』

「迷走のノーマッド?いったい何のことじゃ?というか、おぬしはいったい何者じゃ?その面妖な姿、人ではあるまい?」


星夜が牢屋にいる人物に転生者か確認すると、年老いた老人の声で逆にそう問い返された。


『ハズレか?・・・いや、自分の役柄を知らないだけか?ならば聞き方を変えよう。お前は異世界より来たりし者か?』


星夜は話し掛ける相手を間違えたかと思ったが、すぐに神様が役柄を伝えていない可能性を思いつき、役柄から転生者か?という内容に聞き方を変えた。


「・・・儂の質問には答えずそれか。しかし、そのことを知っているとはおぬしは何者じゃ?」


暗がりで顔は見えなかったが、老人は眉を上下させたように星夜は感じた。

そして、老人の返答から転生者であることが確定した。

ただし、この老人が迷走のノーマッドであるかどうかはまだわからなかった。


『どうやら転生者で間違いないようだな。なら、先程の質問に答えよう。何者かという答えについては、お前と同じ異世界からの転生者だ。人ではないという質問には是であり否だ』

「・・・異世界からの転生者。あの時あの場所に居た者の一人か。つまり、儂と同郷になるのじゃな。人かどうかがどちらでもないというのは何故じゃ?儂と同郷ならおぬしは人じゃろう?」


老人はこの世界に来る前のことを思い出すように、何事か考えながらそう星夜に質問した。


『たしかに俺は人だ。しかし、お前がこれを見て人ではないと言ったからそう答えたんだ。今お前の目の前にいるのは俺が魔法で作った写し身。これは人ではないからな。それと、先程のお前の自分と同郷なら人という言葉。あれは間違いだ』


星夜は影の指で影絵を指さしながらそう言った。そして、老人の認識の間違いを伝えた。


「どういうことじゃ?」

『俺の幼なじみは魔物の姿で転生した。中身は転生前と違わずに人だが、外観は完全に魔物だ。おそらく、他の転生達の中にも同じ状況の奴らがいるだろう。だから、先程のお前の言葉は間違いだ』


「・・・そうか。儂はまだ恵まれている方なんじゃな」


老人はそう言うと、目を伏せた。


「・・・それで、お前さんは何をしにここに来たんじゃ?先程は儂に迷走のノーマッドかと聞いておったが、お前さんの目的はそやつなのか?」


少しの間目を伏せた後、老人はそう星夜に尋ねた。


『そうだ。俺は俺の主の意向で迷走のノーマッドを救出に来た。もっとも、それはここに来た最初の目的ではないがな』

「どういう意味じゃ?」

『俺の最初の目的は、現在俺が保護しているカーバンクル達の救出。そして、そのカーバンクル達を狙う盗賊達を全滅させることだ。ゆえに、お前の救出の方が俺にとってはついでだ』

「儂の救出はついでなのかい?」

『なにを当然のことお。お前と俺に接点なんてないだろう?同じ異世界転生者だとしても、俺にお前を助ける義理は無い』

「たしかにそうじゃろうが、そんなはっきり言わなくても良いじゃろう。というか、お前さんには敬老精神は無いのか?」


星夜のひどい言い草に、老人は怒りはしなかったが呆れたようだ。


『普通にあるが、それがどうした?』


星夜はなんでもないことのように老人にそう返した。


「敬老精神はあるのかい!?」


老人は、星夜の返答にとても驚いたようだ。


「なにを当たり前のことお。お前が異世界転生者で、多分転生特典を付与されていなければ、俺だって普通の老人にするように労っているさ」


星夜は、牢屋に囚われているただの老人になら優しくしていた。しかし、相手は神様にどんな役柄を与えられているのか不明な転生者。

簡単に隙を見せるわけにはいかなかった。


「転生特典?なんじゃそれわ?」


星夜が警戒しているなか、老人は星夜の言葉に疑問を持っていた。


(知らない?とぼけている?それとも自覚がないだけか)


星夜は影の中で老人の言葉を反芻した。が、老人の気配を探る限り本当に知らないようだ。

つまり、老人に与えられた転生特典はわかりにくいものか、発動条件が限定的なもののどちらかなのだろう。


星夜はひとまずそう結論した。


『転生特典というのは、神様が転生者個人個人に与えた能力のことだ』


なので、星夜は老人に自分が認識している転生特典について説明することにした。


「個人個人にじゃと?つまり、一人一人違う特典ということか?」

『そうだ。俺が知っているのは自分とさっき話した魔物になった幼なじみの分だけだが、与えられてるものは違っている』

「どういったものかね?」

『俺の方は、この世界では一般的ではないクラス。幼なじみの方は、ダンジョンだ』

「クラス?ダンジョン?」


老人は、星夜の言った言葉に首を傾げた。

どうやら、老人には星夜が言った二つの言葉の意味がわからなかったようだ。


星夜の世代では本やゲームで有り触れた言葉だが、老人の世代ではあまり一般的ではないからだろう。


そう推察した星夜は、老人に簡単に説明することにした。


『クラスは職業。そのクラスを持っていることで、その職業に対応した能力を得られる。ダンジョンは迷宮。魔物を発生させる建造物のことだ。どちらもゲームや文庫本などでは一般的なものだが、お前に孫とかいないのか?』


言外に、孫から聞いたことはないのかと星夜は老人に尋ねた。


「孫か。おるにはおるが、遠くに住んでいて普段は会わんからな。それに孫ももう大きくなった。もう儂とは一緒に遊んではくれんのじゃ」

『そうか』


星夜はそういうものかと思った。そして、自分もそんな感じだったのだと少し過去を振り返って思った。


『まあ良い。説明はいじょうだ。俺はそろそろお前以外の転生者に会いに行かなければならない。光剣のブレイバー、剛腕のバンデット、空転のキャスター、氷爪のバーサーカー。いったいどんな奴らだろうな。牢屋は壊しておく、あとはお前の好きにすれば良い。ここで助けが来るのを待つのか、あるいはここの人々を連れて脱出するのか。それとも他のことをするのか、自分で選べ。ラスト』


星夜はそう言うと、ラストに鉄格子を破壊させた。そして、囚われていたカーバンクル達を夢の世界にほうり込み、洞窟の入口へ向かおうとした。


「待ってくれ!」


そんな星夜を、老人が呼び止めた。


『なんだ?』


星夜は影絵の足を止め、老人の方を向いた。


「お前さんはこれから他の転生者に会いに行くのかね?」

『そうだ。それがどうかしたのか?』


星夜の言葉を聞いた老人は、何事か考えはじめた。


「・・・儂も連れて行ってはくれまいか」


そして、老人は影絵に頭を下げてそう頼んできた。


『どうしてだ?』


星夜は、老人がそう自分に頼む理由がわからず、異世界の方で首を傾げた。


「おぬしは今から他の異世界転生者と会うのじゃろう?」

『そうだ。ただし、どんな奴らかは俺も知らないがな。それがどうしたんだ?』

「儂はそやつらに会いたいのじゃ」

『なんでまた?』

「孫か確かめたいのじゃ」

『孫か確かめる?ひょっとしてお前の孫も転生しているのか?』

「ああ。少なくともあの場所では一緒におった。おそらくは孫もこの世界に来ているじゃろう」

『なるほど、そういうことか』


星夜は、老人の言葉で一緒に行きたいと言う理由に納得がいった。


『一緒に行きたいと言うのなら好きにすれば良い。ただし、俺はただ一緒に行くだけだぞ?』


老人の理由に星夜は納得はしたが、老人の面倒をみる気はなかった。


「構わんよ。そこまで迷惑をかけるつもりはない」

『なら好きにすると良い』


そう話がまとまると、影絵と老人は一緒に洞窟の入口に向かって行った。



ポーン!


【依頼達成。報酬贈呈。時間魔法:タイムリープが使用可能になりました】



道中で星夜は報酬の魔法を受け取った。

この瞬間、この老人が迷走のノーマッドであることが確定した。

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