宝石の中の異世界
「ここが宝石の異世界か」
星夜が門をくぐった先には、くすんだ紅い石と火ルビーや緋ガーネットが空や大地に浮かぶ、不思議な光景が広がっていた。
「なんか宝石の世界って、想像していたのと違うな。てっきり、全部がルビーやガーネットで構成されているかと思っていたのに、くすんだ紅い石とか混じっているし。・・・いや、ひょっとしてあの紅い石、ルビーの原石か?この世界、本当に現実世界にあるルビーとかだけで出来ているのか?」
星夜はくすんだ紅い石で想像がハズレたと思ったが、少し考えてその正体を推察した。
そして、その正体が加工・研磨する前のルビーの原石ではないかと思いついた。
普段知るのは加工・研磨後の綺麗に輝くルビーだが、もともとルビーなどの鉱物は大地から掘り出す物。だから、原石があんなくすんだ紅い石である可能性は高い。
「ふむ」
星夜はそれを確かめる為に、くすんだ紅い石に近づいて行った。
「試してみるか。《錬成》」
そして、宙に浮かぶ石を一つ手に取ると、試しに錬成を開始した。
紅い石がルビーの原石なら、これで宝石の姿になるはずだ。
そして錬成が終わると、見事なルビーが出来上がっていた。
「ふむ。やっぱりルビーの原石か。なら、やっぱりここはルビーとかだけの世界なんだな」
星夜は結論が出ると、この世界を移動していった。
「普通のルビーが加工品で、大きな塊のある場所が現実の鉱脈だな。それにしても、街の近くにかなり埋まってるみたいだな」
星夜は異世界を歩きながら、それがある場所を覚えていった。
多分、外の同じ場所に鉱脈があるからだ。
自分で手に入れる分は、さっきみたいにこちらの世界で手に入れて錬成すれば良い。
しかし、大量に欲しい場合はやはり人手が欲しい。
それに、私有地の鉱脈からルビーの原石を取ったら犯罪だ。
まあ、さっき程度ならばれることはないだろうけど。
むしろ、ばれても星夜と同じ魔法が無ければ盗んだと証明すること自体が無理だ。
だが、それを除いてもこちらで大規模に原石を抜くと問題があるだろうと星夜は考えていた。
具体的に言えば、地盤沈下とか地盤の崩落とかが起きる可能性がある。
人死にが出る可能性があるいじょう、星夜にそんな博打を打つつもりはなかった。
「うん?あれは火ルビーか?あの位置からすると、カーバンクルだな。森のカーバンクル達は今俺の夢の世界にいるから、朝がたに仲間を呼びにいった内の一体か?」
星夜が歩いていると、星夜の足元くらいの高さを移動する火ルビーを見つけた。
動きが生物的なので、カーバンクルに間違いないだろう。
そして、森にいたカーバンクル達は全て星夜と合流していたので、そのカーバンクルは朝出かけて行ったカーバンクルだろうと星夜は判断した。
そう判断した星夜は、その火ルビーを目印にカーバンクルを追いかけた。
もう予定がなかったので、カーバンクルの護衛をすることにしたのだ。
「うん?」
星夜がカーバンクルを追いかけていると、カーバンクルの動きが途中からおかしくなった。
時々不自然に移動する時が出てきたのだ。
はっきり言ってしまうと、何かに襲われているように吹き飛ぶのだ。
「向こうで何かあったみたいだな。《ゲート》」
星夜は緊急事態と判断し、その火ルビーを対象に門を作りだした。
そして、星夜はその門をくぐって現実世界に移動した。
キュキュッ!
そのカーバンクルは森の中を駆けていた。
星夜と別れた後、そのカーバンクルはまず自分達の巣に帰って来た。
そして、仲間の幻獣と会う為に必要なものを回収し、仲間の幻獣と会う為にある場所に向かった。
しかし、その途中でおりわるくヒューマン達に見つかってしまった。
しかも、そのヒューマン達はこないだ森でカーバンクル達を捕まえていた奴らの仲間だった。
カーバンクルを捕まえに行った仲間達が帰って来なかったヒューマン達が、数を揃えて仲間達を探しに来ていたのだ。
ヒューマン達に見つかったカーバンクルは、脱兎のごとく逃げた。
ヒューマン達の方は、星夜が痕跡を完全に消していた為、仲間がここにいた痕跡を見つけられずにうろついているところだった。
そんな時にちょうど一体のカーバンクルを見つけたのだ。
仲間があのカーバンクルを捕まえようとして、仲間に何かあったのではないか?
そう考えたヒューマン達は、逃げるカーバンクルを捕まえることにした。
また、仲間と何の関係がなかったとしてもカーバンクルなら金になる。
ヒューマン達の中では、そんな欲望もちらついていた。
そんなこんなで両者の鬼ごっこが繰り広げられていた。
星夜が見つけた火ルビーの持ち主は、こんな経緯で移動していたのだ。
だが、逃げている途中とうとうカーバンクルにヒューマンが放った矢が命中し、カーバンクルは吹き飛ばされてしまった。
小動物のカーバンクルにとって、矢は致命傷になりえる。
吹き飛ばされて倒れたカーバンクルの身体からは、血が溢れ出し始めていた。
カーバンクルは、死を覚悟した。そして、カーバンクルの唯一の攻撃手段を使う決意を固めた。
カーバンクルは、ありったけの魔力を額の宝石に込めていった。
カーバンクルの唯一の攻撃手段。それは、自身の有り余れる魔力を額の宝石に充填。
その後注入した魔力を暴走させて放つ自爆技だ。
カーバンクルの魔力と、宝石に込められた火の魔力。
この二つが相乗効果を生み出すこの自爆技は、発動した場合半径数百メートルを吹き飛ばす程の威力がある。
群れで行動するカーバンクルは、仲間を巻き込む為、普段は絶対にこの奥の手を使わない。
その為、ヒューマン達の方でもカーバンクルにこんな自爆技があることは知られていなかった。
だが、ここにはそのカーバンクルしかおらず、カーバンクルにこの奥の手を使わない理由がなかった。
カーバンクルは魔力をどんどん充填していく。
ヒューマン達が怪我を負わせたカーバンクルを回収しに来た時。
その時が自爆をするチャンス。
カーバンクルは耳をすませ、近づいてくるヒューマン達の足音から距離を計った。
ヒューマン達に最高の威力の一撃をおみまいしてやる為に。
カッ!
ちょうどそんな時だ、カーバンクルの額の宝石から光の扉が出現したのは。
そして、間をおかずに光の扉から星夜が現実世界に出て来た。
『大丈夫か!?』
星夜は扉から出てすぐに周囲の状況を確認した。
そして、倒れているカーバンクルを見つけ、慌てて駆け寄りその身体を抱き上げた。
『待ってろ、すぐに治してやるからな』
星夜はカーバンクルの身体から矢を抜き、急いでポケットからHPポーションを取り出すと、それをカーバンクルに飲ませた。
HPポーションを飲んだカーバンクルの身体は、急速に治癒していった。
『ドウシテ?』
『自分の用が終わって、少し異世界で遊んでたら向こうでお前を見かけたんだ。それで、途中から様子が変だったからこうして様子を見に来たんだ』
『アリガトウ。マタ、助ケテクレテ』
『気にする必要は無いよ。それで、何があったんだ?』
カーバンクルは、星夜にヒューマン達のことを伝えた。
『なるほど、まだ仲間がいたのか。なら、これから来る連中を始末した後、徹底的に盗賊狩りをするか』
星夜は、カーバンクル達の為に盗賊退治をすることに決めた。
『さあ、みんな出てこい!狩りの時間だ』
星夜は夢の世界から配下の魔物達を呼び出し、盗賊狩りをはじめた。
スライム、コボルトドッグ、ラスト、そして各種錬成スライム達。
複数の影が森の中に散って行った。
『お前は向こうで休んでろ』
星夜もカーバンクルを夢の世界に預けると、配下の魔物達の後を追った。




