ニクス
「さて、何処で温めるかな?それとも、今から温める場所を創った方が早くて確実か?」
星夜は卵を抱き抱えて、夢の世界を見て回った。が、卵を温める場所はすぐには見つけられなかった。
なので星夜は、新しく実体化させた方が良いかもしれないと考え始めていた。
キュッ?
「うん?」
星夜がそんなことを考えていると、いつの間にか星夜の周りにカーバンクル達が集まってきていた。
『どうかしたのか?』
『タマゴ、タマゴ』
『タマゴ、タマゴ!』
星夜がそんなカーバンクル達に声をかけると、カーバンクル達からはそんな返事が返ってきた。
どうやらカーバンクル達のお目当ては、星夜が抱いている卵のようだ。
『これか?』
星夜がカーバンクル達に卵を差し出すと、カーバンクル達は玉になって卵を包み込んだ。
「ふむ。卵をかえすのはカーバンクル達に任せるか」
モコモコの毛皮であっためらている卵を見た星夜は、卵のことはカーバンクル達に任せることにした。
『生まれたら教えてくれ』
キュッ!
星夜がそう言うと、カーバンクル達が一斉に鳴いた。
星夜はそれを了解したという意味と判断し、夢の世界を後にした。
「愛ちゃんただいま」
「お帰りなさい星夜くん。外で何してきたの?」
「盗賊退治かな?」
「盗賊?この世界、そんな人達がいるの?」
「見た目も行動も盗賊な奴らだったから、間違いなくいるな」
星夜はカーバンクル達に襲い掛かっていたヒューマン達の姿を思い浮かべ、思いっきり断定した。
「そうなんだ。怖いね」
「・・・そうだな」
少なくとも今の愛ちゃんの方があのヒューマン達よりは強いと思った。
しかし、愛ちゃんに対人戦なんて無理だろうから、星夜は何も言わなかった。
「星夜くんはこれから何かするの?」
「いや、今日もう何もないな。寝るまで適当に何かして、後は寝るだけだ」
「そうなんだ。じゃあ、私とお話してくれない?」
「良いよ」
「ありがとう星夜くん」
それから二人は、寝るまでの間話をした。
「今日は何をするかな?」
次の日、夢の世界で目覚めた星夜は今日の予定を考えていた。
キュッ!
『うん?おはよう』
『タマゴ!タマゴ!』
星夜が予定を考えていると、カーバンクルが一匹駆け寄ってきた。
星夜が念話を発動させて声をかけると、カーバンクルはタマゴとタマゴと連呼してきた。
『卵?卵がどうかしたのか?』
『生マレル!生マレル!』
『生まれる?・・・生まれる!こうしちゃいられない!』
カーバンクルの生まれる発言に、星夜は慌ててカーバンクルと卵のもとに向かった。
『卵が生まれるって!・・・うん?』
キュキュッ!キュッキュッキュー!
星夜が向かった先では、カーバンクル達が卵を取り囲み、額の宝石を赤く輝かせながら踊っていた。
その光景を見た星夜は、一時的に思考が停止した。
星夜が固まっている間もカーバンクル達は踊り続け、やがてカーバンクル達の額の宝石から赤い光が卵に向かって放たれだした。
その光は卵を赤く染め上げ、神秘的な雰囲気を演出した。
星夜は、思わずその光景に魅入った。
そして、カーバンクル達の動きが加速しだし、中心に置かれた卵が揺れ動きはじめた。
その卵の動きはカーバンクル達の動きと連動し、だんだんと動きが激しくなっていった。
『ひびが!』
そして、とうとう卵にひびが走りはじめた。
『生まれるのか?』
星夜が固唾を飲んで見守る中、卵のひびは徐々に広がっていった。
『生まれた!生まれぞ!』
『生マレタ!生マレタ!』
そして、ついに卵が縦に割れた。
星夜とカーバンクル達が歓声を上げるなか、卵から何かが出て来た。
『ひよこ?』
卵から出て来て星夜の前にヨチヨチ歩いて来たのは、全身が朱の色合いをした鳥の雛だった。
ピヨ!
雛は星夜の正面で止まると、元気良く一鳴きして自分の存在をアピールした。
『誕生おめでとう』
星夜は雛を手にのせて、その頭を優しく撫でた。
雛は、嬉しそうに目を細めた。
『せっかく卵から生まれたんだから、名前をつけてやらないとな』
星夜は大量生産ではない雛に、名前をつけることにした。
『何が良いかな?やっぱり鳥関係の名前か?それとも、体色から紅に関する名前が良いかな?』
星夜は、自分の知っている言葉を思い返した。
『いや、もういっそアレから名前を採るか。紅くて有名な不死鳥、フェニックス。まあ、まんまは駄目か。ならニクスでどうかな?』
ピイ!
星夜が有名なものから名前をチョイスして雛に尋ねると、雛は一つ頷いた。
この名前で良いらしい。
『決まりだ。今日からお前の名前はニクスだ』
名前が確定すると、雛は嬉しそうに夢の世界を走り周りだした。
カーバンクル達も、雛と一緒に走り周りだした。
星夜は、しばらくの間小動物がちょこまかする光景に和んだ。
『さて、そろそろ卵の殻を与えてみるか。さすがにひよこのままにしておくのは心配だしな』
その後星夜は、割れた卵のカケラを一つ手に取った。
すると、卵のカケラが赤い光の粒子に変わり、雛に吸収されていった。
ピイ!
赤い光が完全に雛に吸収されると、雛が一回り成長した。
ピィピイー!
成長した雛は、大きく鳴いて空を飛び出した。
『ひよこが飛んだ!たしかに成長したみたいだな。けど、まだカケラを一つ与えただけなんだけどな』
星夜の手元には、まだ卵のカケラが大量に残っていた。
そのことに星夜は困惑した。
全てのカケラを吸収させたら、いったいどこまで成長してしまうのかと。
少なくとも、カケラを与える毎に大きくなるのなら、後十数回は大きくなるはずだ。
その場合、最終的には数メートルのサイズにまでなる可能性がある。
ガチャの説明だと、その生物の活動に支障がない程度に急成長するとあったはずだ。
ニクスの幼体でこれだと、成体はいったいどんなサイズなのやら。
星夜は、ニクスの正体が気になった。
『調べてみるか。・・・追加されていない?いや、カーバンクル達の名前も無いな。ああ、違うな。カーバンクル達は俺の配下じゃないか』
星夜は、ダンジョンコアから出現させられる魔物を調べた。ニクスは星夜の配下に加わっている為、ここに名前が追加されているはずだからだ。
しかし、調べた結果そこに新しい名前は増えていなかった。ついでに言えば、カーバンクル達の名前もなかった。
だがこれは、カーバンクル達がただの居候なので名前が無いのだろうと星夜は判断した。
『なんでニクスの種族の名前が無いんだ?ダンジョンコアの異常か?それとも、卵ガチャの生物は名前が載らない仕様なのか?』
星夜はしばらく考えたが、答えは出なかった。
『卵のカケラは今はしまっておくか。ニクスがどんな生物かわからないいじょう、下手に成長させるのは危険だしな』
星夜はニクスの成長を保留し、しばらく様子を見ることに決めた。
『せっかくだから、今日の分は今しておくか』
ポーン!
星夜は今日分の無料卵ガチャを行った。
新しい卵が一つ卵ガチャから出て来た。
星夜はそれを、カーバンクル達の前に置いた。
『お前達、この卵も温めておいてくれないか』
『タマゴ、タマゴ!』
『タマゴ、タマゴ?』
星夜がそう言うと、走り回っていたニクスとカーバンクル達が一斉に集まってきた。
しかし、カーバンクル達は今回はすぐには卵に纏わり付こうとはしなかった。
『どうかしたのか?』
『『『無理!』』』
星夜がカーバンクル達を不思議そうに見ると、カーバンクル達は一斉に無理だと思念を返してきた。
『なんでだ?』
星夜は、カーバンクル達のこの返事が完全に予想外だった。




