卵ガチャ
「こんなものか」
あれから星夜はスライム達にヒューマン達の痕跡を掃除させ、現場証拠の類いを全て消しさった。
ついさっきまでそこらにちらほらあった赤い水溜まりは全て消え失せ、ヒューマン達の細胞の一片にいたるまでスライム達の餌になった。
通常の手段では、ここで先程惨劇があったと気付かれることはないだろう。
ポーン!
星夜が現場を確認し終えると、いつもの音が聞こえてきた。
【緊急依頼達成。依頼報酬贈呈。ダンジョンコアとバージョンアップを開始します。・・・ダンジョンコアのバージョンアップが完了しました】
今回は、いつもより長く頭の中でメッセージが流れた。
「さて、帰ってカーバンクル達の様子を覗いてみるか。あと、依頼報酬も忘れずに確認しないとな。《ディスタンスチェンジ》」
メッセージを確認し終えた星夜は、距離を短縮して最速で愛ちゃんの待つダンジョンに帰って行った。
『これからお前達はどうする?』
ダンジョンに戻った星夜は、現在夢の世界でカーバンクル達と今後の話し合いをしていた。
『オ外、怖イ』
『ヒューマン、怖イ』
『ヒューマン、キライ!』
が、カーバンクル達からはそんな言葉しか出てこなかった。
どうやら、ヒューマン達に追いかけ回されたせいで、対人恐怖症やらになってしまったようだ。
『話が進まないな。お前はどうするつもりなんだ?』
星夜は多数のカーバンクル達と話すのを諦め、最初から行動を共にしているカーバンクルに話を振った。
『仲間、助ケテクレタ、オ礼、スル』
そのカーバンクルはそう言うと、星夜の肩に乗ってきた。
『お礼?別口から貰ってるから別に気にしなくても良いぞ』
星夜はそう言うと、カーバンクルの頭を撫でた。
『ウウン、スル!』
『そうか』
カーバンクルは星夜の手に頭を擦りつけながら、はっきりとそう言った。
星夜は、本人の好きにさせることにした。
『まあ、お礼はお前の好きにすると良い。それで、お前達はこれからどうするんだ?』
『仲間達、帰リタクナイ』
『まあ、みんな口々に怖いやら嫌いやらを連呼してるしな』
星夜は、今だに先程の言葉を繰り返しているカーバンクル達を見た。
『ダカラ、此処ニ置イテ欲シイ』
『此処に置いて欲しいって、このダンジョンにか?』
『ソウ』
カーバンクルは星夜の確認に頷いた。
『まあ、たしかに此処ならヒューマンに会うことはないだろうな。ちなみにそれは、お前だけの判断か?それともお前達全員の?』
『皆デ決メタ!』
『そうか。まあ、スペースは拡張出来るから俺は構わないが』
実際のところ、夢の世界ならカーバンクル達の住む場所はどうとでも創れる。
適当に森を実体化させた後、カーバンクル達の希望に従って手を加える程度だ。
文字通り、指先一つ動かすことなく終わる程度のことだ。
『アリガトウ』
『ただ、俺の配下のスライムなんかが住んでるぞ?』
これは先に言っておかなければならない。
『構ワナイ』
カーバンクルは、先住民がいても良いらしい。
『そうか。なら、好きにしてくれ』
キュッ!
カーバンクルは一つ鳴くと、星夜の肩から飛び降りた。
「愛ちゃんにはいつカーバンクル達を紹介するかな?・・・あいつらがもう少し落ち着いてからにするか。今愛ちゃんと対面させて、何かあると悪いしな。とりあえず、俺は森でも創っておくか」
星夜は、カーバンクル達から少し離れ、夢の世界に森をイメージした。
そうすると、星夜が現在いるダンジョンコアのある島から、無数の道が周囲の海に伸びていった。
その道がある程度まで伸びると、道の先端を中心に海が陸地に変わっていった。
海の一部が完全に陸地になると、さらに変化が行った。
陸地より無数の何かが生えてきたのだ。
最初は小さな芽だった。だがそれは次の瞬間には急速に成長し、あっという間に背の高い樹木の姿になった。
ちなみに、何故か全ての樹木が果実の実った果樹だった。
さらに言えば、実っている果実は全てコボルトドッグ達が集め、星夜がポーションの錬成に使ったものばかりだった。
おそらく、星夜の無意識が反映されたのだろう。
「こんなものか。細かなところは、カーバンクル達の意見を聞いてからだな。さて、次はさっきの報酬の確認でもするか」
星夜は、ダンジョンコアの傍に向かった。
「これだな。・・・卵ガチャ。ガチャ?」
星夜はダンジョンコアを操作し、見覚えのない項目を見つけた。
「ガチャって、課金ガチャとかのガチャか?それに卵って?」
星夜はその項目の名前を不思議に思った。
そして、説明書に何か書いていないかと思い、ポケットからダンジョンコアの仕様書を取り出して確認した。
「ガチャ、ガチャ、卵ガチャ・・・あっ、あった!」
そして、ダンジョンコアのバージョンアップというところで卵ガチャの項目を見つけた。
星夜は、すぐにその内容を確認した。
そこには、以下のように書かれていた。
【卵ガチャ】
ダンジョンコアの追加機能。
ダンジョンレベル5から実装が可能。
ダンジョンポイントを最低100DP消費することで、一回出来ます。
卵ガチャの景品は、世界に存在する全生物からランダムに一体をプレゼント。
卵の返品は出来ません。
消費するダンジョンポイントに制限は無し。
消費ポイントが多いほど、景品で出て来る生物のレア度がアップ。
一日一回は無料でガチャが出来ます。
ただし、その際のレア生物の出現率は当ガチャの最低倍率となります。
その日のガチャの使用回数に応じて、レア生物の出現率が上昇します。
また、ダンジョンに存在する生物と同じ種類の生物が出現する確率が存在する生物の数に応じて上昇します。
あくまでダンジョンに存在する生物の数が対象の為、違う種類の生物をお求めの場合はダンジョンから出しておいてください。
※注意事項
当ガチャの景品はあくまで卵です。
当ガチャの景品の卵は、適切な行為をもって孵かさせてください。
当ガチャの卵はあらかじめ主人登録を行っております。
生まれた生物は、そのままあなたの配下に加わります。
また、卵から生まれる時はその生物の幼体の姿で生まれます。
ただし、その幼体にその生物の入っていた卵の殻を与えることにより、その生物の活動に支障が無い程度まで急成長させることが可能です。
その辺りはお好みでどうぞ。
「まんま課金ガチャだな。お金がダンジョンポイントなんかに置き換わってるけど、全体の仕組みがまんまだ。・・・とりあえず試しに一回やってみるか。どうせただなんだし」
星夜はダンジョンコアから卵ガチャを起動させた。
「うわっ!?」
すると、ダンジョンコアから何かが飛び出してきた。
「うん?・・・これがそうなのか?」
今星夜の目の前には、透明な球体が浮かんでいた。
そして、その球体の中にはさらに無数の球体がつまっている。
おそらくこれが卵なのだろう。
「これかな?」
星夜は球体を少しの間観察し、その後球体にくっついていたレバーを引いた。
ポーン!
球体が数回回転した後、球体から卵が星夜に向かって吐き出された。
「これで終わりか?」
星夜は卵を抱きしめながら首を傾げた。
その後は球体は何も反応しなかったので、正真正銘これで終わりのようだ。
「・・・とりあえず温めるか」
星夜は卵を持って、卵を温める場所を探しに歩きだした。




