佇む影
「やっぱりポイントが足りないか」
星夜はどんどんスライムを出現させていっていたが、とうとうダンジョンポイントが足りなくなってしまった。
「コボルトドッグ達の活躍を待つか?それとも、自分で魔物を狩るか。いや、せっかくだからダンジョンコアに魔力を注いでみるか」
ダンジョンポイントが不足した星夜は、どうするかを考えた。
第一は、現在も魔物を倒してポイントを集めてくれているコボルトドッグ達を待つこと。
第二は、自分でダンジョンの外の魔物を狩ること。
そして最後に、自分の魔力をダンジョンポイントに変換すること。
星夜はこの三つの内から、自分の魔力を使うことを選んだ。
そう決めた星夜は、ダンジョンコアをしっかり握って魔力を注ぎはじめた。
星夜の身体の中からゆっくり魔力が抜けていき、ダンジョンコアの中で注がれた魔力がダンジョンポイントに変わっていった。
「魔力を注ぐのに負担はないか。変換効率はどんなものかな?」
星夜は、ダンジョンコアを握っていない方の手を動かし、身体に異常がないか確認した。
とくに違和感はなかったので、継続して魔力を注ぎ続けた。
また、魔力をどれくらい注ぐと1DPになるのかの確認も行った。
その結果、注いだら注いだだけ上がることがわかった。
どうやら、魔力とダンジョンポイントの変換時にロスは発生しないようだ。
星夜は、手持ちの魔力が一度底に近づくまで魔力を注いでいった。
「こんなところか」
星夜は身体が怠くなってきたので、ダンジョンコアに魔力を注ぐのを終了した。そして、先程錬成した果物味のポーションを飲み、魔力を回復させていった。
とりあえず魔力をポイントに変換した結果、現状ダンジョンコアの中には150DPある。
これはコボルトドッグ達の活躍分も混じっている為一概には言えないが、星夜が魔力を注げば一度にだいたい100DP入手出来ると考えて良いだろう。
「さて、これでポイントは確保出来た。それじゃあ、出現系最後の依頼おっと」
星夜は、スライム百体を出現させた。
ポーン!
【依頼達成!依頼達成報酬、ユニークスキル《夢界顕刻》を獲得しました】
すると、いつも通りのメッセージが頭の中を過ぎっていった。
「こっちはここまで。あとはポーション系の依頼だな。ポーションを渡す相手は魔物と転生者。りっくんと愛ちゃんに渡せばすぐに達成だ」
星夜はさ迷える鎧の迷宮の方に移動した。
「あ、星夜くんお帰り。何処に行ってたの?」
星夜がダンジョンを移動すると、愛ちゃんに開口一番にそう言われた。
「ちょっと自分のダンジョンの方にな。それはそうと愛ちゃん」
「なに?」
「これあげる」
星夜は向こう側からポーションの瓶を十本取り出して愛ちゃんに渡した。
「何これ?」
「回復アイテムのポーション。よければ使って。りっくんもはい」
星夜は次にりっくんにポーションを渡した。
渡されたりっくんは、不思議そうに頭を傾げた。
ポーン!
【依頼達成!達成報酬、闇魔法、夢魔法が使用可能になりました】
二人がポーションを受け取った直後、星夜は報酬を入手した。
「ふむ。・・・愛ちゃん」
「なに?」
「今度はダンジョンの外に出かけてくる」
「いってらっしゃい星夜くん。いつ頃帰って来る?」
「問題が起きなければ夕方には帰って来る」
「わかった」
「いってくる」
星夜はそう言うと、ダンジョンをあとにした。
『お前達、侵入者がいたらさっきの場所にまた追い込んでおけ』
その間際、ダンジョン内のコボルトドッグ達に留守番を頼むことも忘れていない。
ついでに、その命令をさっき手に入れたばかりの念話を使って行った。
このスキルは問題無く使えることを確認し、星夜はダンジョンから離れた。
「さて、まずはどのスキルから試すかな?いや、先に調べた方が良いか」
星夜はポケットから本を取り出し、先程獲得したスキルと魔法について調べた。
「うん?ユニークスキルについての情報が無い?」
スキルと魔法についてはすぐに見つかった。だが、ユニークスキルに関する記載は見つからなかった。
「はあ、ユニークスキルは実際に試してみるしかないか」
星夜はとりあえず、わかるスキルと魔法だけ読んだ。
【念話】
使用者の思いを直接相手に伝えるスキル。
言語的な違いを完全に無視し、知能がある相手とならなんであっても会話を成立させることが出来る。
念話の有効距離は使用者の認識範囲と同じ。探知系能力を持っている場合、その能力の最大距離と同じになる。
【統制】
任意対象を統制することが出来るようになるスキル。
【指揮】
使用者が指揮をすると、指揮された者達がその指揮に従いやすくなる。
【士気向上】
使用者がいると周囲の者達の士気が向上する。士気の低下が起こりにくくなる。
【シャドウ】
闇魔法の一種。影を操る魔法。基本的には自分の影を操るものだが、習熟すれば他の影も操れるようになる。また、操作する影は物理的な干渉をすることも可能。
【ナイトメア】
夢魔法の一種。悪夢を操る魔法。寝ている対象の記憶を参照し、恐怖や悲しみといった負の感情を呼び起こす夢を見せることが出来る。
「スキルは集団向けだな。スキルの方は魔物達を使う時に試すか。ナイトメアは次の侵入者相手にでもやれば良い。残るは、シャドウとユニークスキルだな。今からはこれらを試してみるか。まずは効果がわかっているシャドウからが良いな。《シャドウ》」
これからやることを決めた星夜は、早速影の魔法を発動させた。
すると、星夜の足元の影がうごめきだした。
「少し不気味だな。うーん、よっと!」
うごめく影を少しアレだなぁっと思いつつ、星夜は試しに腕を動かしてみた。
そうすると、足元の星夜の影が浮き上がり、星夜の正面に立つ形になった。
「ふむ。本当に物理的干渉が出来るんだな。影なのに触れる」
星夜はその影に向かって手を伸ばした。
影だから手が突き抜けるかと思われたが、星夜が伸ばした手は正面の影に触れ、突き抜けることはなかった。
「ふむ」
星夜はそれを確認した後、今度は反対の手を影に伸ばした。
今度は伸ばした手が影を突き抜けた。
「ふむ。物理的干渉は、影の方で干渉対象を選べるのか。なら、今手を干渉対象にすると・・・うん、影に掴まれた感じになったな」
星夜は影に突き刺している方の手を前後に動かした。
そうすると、手の傍の影も一緒に前後に動いた。
星夜が感じる影の抵抗感は、子供に掴まれている程度だった。
「力はあまり強くないか。が、好きなものだけを掴めるのはなかなか良いな。強度はどれくらいかな?」
星夜は、全力で影を殴打した。
しかし、星夜の手にダメージは無く、影の方も無傷だった。
「俺がノーダメージで向こうも無傷。無意識に手加減でもしたか?別に空を切ったような感覚はなかったんだけどな?」
星夜は二三度手を開閉した後、首を傾げた。
「しかたない。強度の方は今度魔物相手にでも試してみよう。次は影の形が変わるのか。また、変わるのならどこまで変わるのか調べてみるか」
星夜は、正面にある自分の影の形を変えるイメージをした。
そうすると星夜の影は、星夜の目の前で輪郭を崩し、星夜のイメージする形に次々と形状を変えていった。
「ふむ。影が変化出来る形状に制限は無し。ただ、影の大きさは最初の影の表面積と同じか。まあ、影を操っている魔法なのに、影が脈絡無く肥大化するわけはないか」
星夜はしばらく影を捏ねくり回し、そう結論した。
「あとは、他に何か確かめることはあったか?」
星夜は、あとこの魔法の何を調べるべきか考え始めた。




