危ない使い方
「やっぱり何か対処方法を考えておかないとまずいか」
寝ている侵入者達にドリームラビリンスの魔法をかけて、彼らを外にほうり出した星夜は、現在これからどうするかを考えていた。
「少なくともこのダンジョンの戦力が充実するまで時間を稼げれば良いんだよな。さっきの結界を利用してみるか。だけど持続時間がわからないしな」
星夜はあれやこれやと対処方法を考えていった。
星夜としては、結界に持続時間がなければ簡単に対処出来ると考えていた。
具体案としては、光を遮断して視界零の空間を生み出す。
光そのものを遮断している為、これなら照明や暗視系の能力も無効化できる。
完全な闇の中、あの迷路を進むのは不可能だ。
または熱を遮断して氷の空間を生み出す。この方法なら、迷宮の入口を物理的に塞ぐことができる。その上熱を遮断している為、火や炎のような熱を伴う攻撃を完封できる。
万が一熱を伴わない手段で氷を除去しても、体温を持つ生物は結界の中には入れない。
もしも無理に結界に入った場合は、おそらくは体内の熱を全て押し出されて凍死することになるだろう。
他には、大気か空気を構成する特定の気体を遮断するという手もある。
生物は酸素が無くては呼吸が出来ずに窒息するし、逆に酸素があり過ぎても体調を崩すことになる。
不可視という点も良い感じだ。
また、水分や血液に対象を変えても良いだろう。
水分や血液を持たない生物なんてほとんどいないはずだ。
だからこの条件で結界を発動させると、生物を結界で押し出すことができる。
そして、生物が無理に結界内に入った場合、体内から対象の液体を吐き出すことになる。
水分の場合はおそらく強制発汗で脱水症状を引き起こすだろう。
対象が血液なら全身の血管を破裂させて失血死させることになるかもしれない。
「なんかやたらと殺傷能力が高いな」
星夜は内容が物騒になっていた為、もう少し穏便な結界を考え始めた。
その結果、次のような結界が思案された。
思案一、重力遮断結界。
重力を遮断して無重力空間を生み出すという発想だ。
これなら殺傷力なんてものはないし、活動のしずらさを考えればわりと良い感じだ。
思案二、摩擦熱遮断結界。
そこまで細かい指定が出来るかわからないが、摩擦熱という狭い範囲の熱を遮断するという発想。
この結界が成立した場合、床に立つことは出来なくなり、武器も滑って持てなくなるはずだ。
行動不能と武装解除が同時に出来る優れた結界だ。
ただ、少し気掛かりな点がある。摩擦が無くなると足や物を滑らせることは確定だろう。ただ、服や鎧などがどうなるかが不明だった。
その為、下手をすると身につけているもの全部が脱げてしまう可能性があった。
物理ダメージより精神ダメージの方が高そうだ。
思案三は、特定の電気信号を遮断する結界だ。
摩擦熱と同じ問題はあるが、対処をそこまで指定出来るのならかなり有用な結界だ。
生物のほとんどは脳からの電気信号で身体を動かしている。
その電気信号を遮断出来れば、実質相手の全ての行動を抑制することが出来る。
「なんというか、短時間の間にいろいろ出てきたな。結界ってこんなにアレだったっけ?」
星夜は今まで考えた結界を思い返して、結界のイメージが崩れた。
星夜の中に最初にあった結界のイメージは、防御一辺倒だったからだ。が、少し発想をズラしたらこの有様だ。
星夜は、空想の魔法と現実の魔法とのギャップに微妙な気持ちになった。
「でもまあ、持続時間がわからないと皮算用なんだよな。持続時間はあとで確認するとして、確実に効果のある対処を考えないとな」
星夜は、再びダンジョンを守る方法を考えはじめた。
「今の手札だと無理か」
しばらく考えた星夜は、そう結論を出した。
やっぱり異世界に来て数日では、そんな都合の良い能力なんて手持ちにはなかった。
「そうなると次善策しかないよな。ちょっとずつ戦力を増やして、冒険者達に対処出来るようにしていくしかないか。あと、神様からの依頼をどんどん達成して、何か有用なスキルかアイテムを達成報酬で貰うという手もあるにはあるか。とりあえずは、すぐに出来る分を達成してしまおう」
そう言って星夜は本をポケットから取り出し、すぐに出来そうな依頼を本から破り取っていった。
そして、すぐに達成出来る依頼は次のもの。
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に10体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【スキル】念話
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に20体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【スキル】統制
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に30体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【スキル】指揮
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に40体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【スキル】士気向上
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に50体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【ユニークスキル】魔群氾濫
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に60体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【ユニークスキル】魔軍進行
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に70体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【ユニークスキル】幻獣現創
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に80体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【ユニークスキル】魔獣現創
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に90体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【ユニークスキル】混沌現創
【依頼】
ダンジョンコアを使って魔物を一度に100体、ダンジョンに出現させよ。
【報酬】
【ユニークスキル】夢界顕刻
【依頼】
錬成したポーションを10本、魔物にばらまけ。
現在の譲渡数:0/10
【報酬】
【魔法】闇魔法:シャドウ
【依頼】
錬成したポーションを10本、転生者にばらまけ。
現在の譲渡数:0/10
【報酬】
【魔法】夢魔法:ナイトメア
「とりあえずダンジョン系の依頼を先にするか。本当はレモラの為にダンジョンポイントを使いたかったけど、スキルの獲得を優先しよう」
星夜はそう決めると、さ迷える鎧の迷宮から混沌を連ねる夢現の迷宮の方に移動した。
「さて、スライムを増員していくか」
現在星夜が持っているダンジョンポイントは、450DP。外でコボルトドッグ達が果物を収穫するついでに魔物達を始末しているらしく、ダンジョンポイントは現在進行系で増加していっている。
今回依頼達成の為に出現させるのは、もっともダンジョンポイントの消費が少ないスライムだ。
具体的にいうと、1DPしかポイントを消費しない。
やはり子供でも倒せるだけあって、ダンジョンでも評価が低いようだ。
だが、だからこそこの出現系の依頼と相性が良い。
スライムなら、必要最低限の出費で依頼を達成出来るのだ。
しかも、スライムなら錬金術の材料で余さず使うことが出来る。
星夜は、スライムに感謝しながらダンジョンコアを操作していった。
最初は10体。次は20体。それから順に10体ずつスライムを出現させる数を増やしていった。
星夜の夢の世界。もといダンジョンは、あっという間にスライムだらけになっていった。
まあ、空間を広げることは星夜にとって簡単なことだったので、スライムとおしくらまんじゅうするようなことにはならなかったが。




