繋がる拠点
「愛ちゃん、せっかくだから俺の拠点と結合しないか?」
「星夜くんの拠点?」
「ああ、俺も神様からダンジョンをもらってるんだ。さっき説明した中に、ダンジョンの拡張についてあっただろう?せっかくだからどうかと思ってな」
「さっきは詳しく聞かなかったけど、それをするとどうなるの?」
「本によれば、結合した二つのダンジョンの共有化出来る部分が全て共有されるらしい。具体的に言うと・・・」
星夜は、ダンジョンの結合について説明していった。
ダンジョンの結合で共有されるのは、まずはダンジョンそのもの。ダンジョンのサイズがお互いに最初期の場合、単純に二倍のサイズになる。
結合箇所が縦なら階層が増える感じになり、結合箇所が横ならダンジョンが長くなったようになる。
他に共有されるのは、ダンジョンポイントにダンジョンコアに登録されている魔物、配下の魔物が共有される。
「こんなところだな」
「ふーん、そうなんだ」
「それで、愛ちゃんどうする?」
「うーん、お願いしようかな?別に何か問題があるわけでも無いし、私ここから動けないから、星夜くんと繋がりを作っておきたい」
「良し、なら早速」
星夜は、彼女の傍にあったダンジョンコアに手を翳した。
「ダンジョンの結合を申請」
『ダンジョン結合申請を受理。【ダンジョン】さ迷える鎧の迷宮と、【ダンジョン】混沌を連ねる夢現の迷宮を結合します』
星夜がダンジョンの結合手続きを行うと、ダンジョンコアからそんな無機質な声がはっせられた。
『ダンジョンの結合を完了』
最初の声から十分が経過すると、新たにそんな声がはっせられた。
「終わったみたいだな」
「だけど星夜くん、とくに何も変わってないよ?」
星夜がダンジョンコアから手を離すと、愛ちゃんは周囲を見回して星夜にそう言った。
実際、さ迷える鎧の迷宮に変化らしい変化はとくに起こってはいなかった。
「おかしいな?手続きに問題は無かったはずなんだが?」
星夜もダンジョンを見回して、愛ちゃんと同じ感想を持った。
「なんでだ?うーん」
星夜は、とりあえず自分のダンジョンの方に意識を向けてみた。すると、自分がいるこの場所と自分のダンジョンが重なっている感じがした。
どうやら、星夜のダンジョンは普通の結合はせず、愛ちゃんのダンジョンと重なるように結合したようだ。
原因はおそらく、星夜のダンジョンが夢の世界に存在するものだったからだろう。
星夜は、そう当たりをつけた。
「ふむ。とりあえず結合は成功しているということか。なら」
当たりをつけた星夜は、試しに魔物をイメージしてみた。
すると、先程夢の世界でしたみたいに、イメージした魔物が星夜の傍で実体化した。
どうやらこちら側も半分は夢の世界と化しているようだ。
「わっ!?魔物!?」
星夜が現状を確かめていると、突然出現した魔物に愛ちゃんから驚きの声が上がった。
「うん?・・・ああ!ごめんごめん愛ちゃん」
星夜は愛ちゃんを見て状況を理解すると、実体化させていた魔物を消した。
「星夜くん、今の何?オバケ!?」
愛ちゃんは、鎧の身体を震わせながらそう星夜に聞いた。
魔物を消したは消したで愛ちゃんを怖がらせたようだ。
「いや、俺の人形かな?」
「星夜くんの人形?」
「詳しく説明するなら、俺のダンジョンの力で実体化させた俺のイメージの産物かな?」
「実体化?イメージ?それってどういう?」
「俺のダンジョンは夢の世界にあるんだ。愛ちゃんのダンジョンみたいな現実世界にあるタイプじゃなくて、俺の精神の中にあるんだよ。だから、俺のダンジョンの中では俺のイメージを実体化させられるんだ。結合してこちらでも出来るようになった今は、白昼夢とも言えるかもな。もっとも、五感全てに干渉出来るから、幻のような儚いものじゃないけどな」
星夜は自慢げにそう言った。
「そうなんだぁ。ねぇ星夜くん、今ダンジョンは結合してるんだよね?」
「ああ、今確認したからしてるな」
「なら、私にも星夜くんみたいに出来るかな?」
愛ちゃんは、期待している感じの声を出した。
「どうだろうな?試しみたらどうだ」
星夜は、その辺りが共有されているのかわからなかったので、愛ちゃんに試してみるように勧めた。
「うん、やってみる。えっとね」
それから少しの間、愛ちゃんはイメージを練った。
しかし、いつまで経っても実体化することはなかった。
「どうやら夢の実体化までは共有化されてないみたいだな」
「そうみたい」
愛ちゃんは、とても残念そうだった。
「ちなみに愛ちゃんは何を出そうとしたの?」
星夜は、落ち込んでいる愛ちゃんにそう聞いた。
星夜が知っているものなら、星夜が実体化させてあげられるからだ。
「向こうで読みかけていた本だよ」
「読みかけの本?それって実体化出来ても、読んだページまでしか無理だろう」
星夜は、愛ちゃんの答えに呆れた。少なくとも、先を知らないものを実体化させる意味がわからなかった。
「そうなの?魔法みたいにポンッ!と出ないの?」
「出ないだろう普通。たしかに魔法だったら、原子や分子の動きとかみたいな根本的な部分は勝手にやってくれるだろうさ。だけど今やってるのは夢の実体化。つまり、自分の記憶や想像を引き出しているんだ。たとえ実体化させた本に続きがあったとしても、それは愛ちゃんの想像の分だろう。知らないものは夢には出てこれない。逆に、自分が忘れていることでも、かつて認識していることなら実体化は可能のはずだ」
「そうなんだ。やっぱり星夜くんのダンジョンだけあって、詳しいね」
「そういうわけじゃないんだけどな」
星夜の方も、彼女に説明したことくらいしかダンジョンについては知らない。
星夜が今言ったことは、星夜が夢にたいして思っていることや、認識していることを言葉にしただけだ。
「愛ちゃんは少し待ってて、今から内装をいじるから」
「うん」
気を取り直した星夜は、さ迷える鎧の迷宮の模様替えを始めた。
星夜と愛ちゃんが今いる部屋を区切り、迷宮側はいかにもボス部屋といった感じに内装を変えていった。
迷宮側の空間を広げ、冒険者達とボスモンスターが戦える広さを確保した。
そして、部屋の奥にボスモンスターが座る巨大な椅子と、ボスモンスターを照らす蝋燭を設置した。
次に、迷宮側の入口からボスモンスターの下まで床に赤い絨毯を敷き、その絨毯の脇にも蝋燭を設置していった。
「こっちはこんなものか」
星夜は、迷宮側の部屋を入口側から確認し、ボス部屋に見えると判断した。
ポーン!
「うん?」
そう判断した直後、最近良く聞く音がした。
「今度は何だ?」
【条件が満たされました。空間魔法《結界》、《ディスタンスチェンジ》が使用可能になりました】
「結界にディスタンスチェンジ?ダンジョンの内装をいじっただけなのに、なんで二つも新しい魔法が使えるようになるんだ?」
星夜は、頭の中に流れたメッセージにただただ困惑することになった。
夢の世界で、誰かが笑った。




