神殿
星夜が向かった先は、街の神殿。クラスは、神殿で得られるからだ。
「すみません、クラスを得たいんですが」
「はい、こちらに名前を書いてお待ち下さい。順番が回って来ましたら、お呼びいたします」
「わかりました」
星夜は、神殿の受付が差し出して来た紙に名前だけを記入し、待合室の方に移動した。
星夜が名前だけを記入した理由は、この世界では姓を持っているのが貴族だけだからだ。
待合室の方には、それなりの人数が座っていた。ただ、その中には星夜と同年代の者は皆無だった。待合室にいたのは、十才にも満たない子供達と、その付き添いらしき大人達。二十代よりも上の大人が数人ばらばらに椅子に座っていた。
星夜は、そんな彼らから距離をとって椅子に腰掛けた。
その理由は、歳が離れた相手に気後れしたという他愛もないものだった。
けど、なんでこんなに年齢がズレているんだ?
呼ばれるのを待っている星夜は、ふとした拍子にそんな疑問を覚えた。
一度疑問に思うと気になるらしく、星夜は考え込みだした。が、今回はナイアルラトフォテップのアドバイスになかったことなので、ヒントの類いがなかった。しばらく考えても答えが出ず、もう諦めようかと思った頃、ふとナイアルラトフォテップに渡された本のことを思い出した。
星夜は、駄目元でずっと持っていた本の内容を確認した。
「あ、あった!」
その結果、星夜は理由らしき箇所を見つけた。
《異世界情報事典》
【クラス】
異世界での職業の総称。
剣士、拳闘士等の戦闘職。商人、会計士等の金融職。彫刻家、土木技師等の技術職。治癒術士、神官等の専門職。それぞれの属性の魔法使い(火・水・風・土)等の魔法職等など、様々なクラスが存在している。
【クラスの意義】
クラスは、対応する職業に就く際に必須というわけではない。
例:クラスが魔法使いの商人。
例:クラスが剣士の彫刻家。
上記のように、クラスと職業が一致していなくても問題は無い。
ただし、治癒術士や神官等の専門職については必須である場合がある。
では、クラスの意義は何か?それは、クラスを持っていると対応した職業の能力を獲得しやすくなることだ。
例:【剣士】
剣術、剣速上昇、切れ味上昇等。
例:【魔法使い】
詠唱短縮、無詠唱、魔法威力上昇等。
上記のようにそのクラスで必要になる、またはそのクラスで有用な能力を獲得しやすくなる。そのクラスを持っているのと持っていないのでは、獲得のしやすさにかなりの差がある。必要な努力量としては、およそ五倍から十倍と言われている。
その為、上記で記述したようにクラスと職業が一致していなくても問題は無いが、基本的にはクラスと職業を揃えるのが一般的だ。
ちなみに、クラスと職業が一致していない者の多くは、年齢が中年以降の者達だ。
この理由は簡単で、若年の時に戦闘職などを行い、肉体の衰えとともに引退。戦闘職から日常関係の職に移行した結果である。
このパターンがわりと多い。
【クラスの獲得方法】
神殿で獲得可能。
獲得可能なクラスは、本人の資質や加護を与えてくれている神によって変わる。
何かの能力を持っていると、その能力にそったクラスが選択肢として出る。
【クラスの獲得時期】
クラス一つ目は、八才から獲得が可能。
クラス二つ目以降は、人それぞれのタイミングで獲得が可能になる。が、基本的には二十代以降が一般的だ。
年齢以外にも、クラス獲得の為の条件は存在するので、必ずしも二十代以降でないと二つ目のクラスを獲得出来ないわけではない。
二つ目以降のクラスの獲得時期については、神殿で確認が可能。
ただし、この獲得時期は次の分までしかわからない。次以降は、二つ目、三つ目のクラスを獲得した後に調べられるようになる。
「ふむ、小さい子が一つ目のクラスをもらいに来た子達で、二十代以降の人達は二つ目以降のクラスをもらいに来たのか」
星夜は、本の情報から同年代がいない理由を理解した。けれど、一般的というだけなので気にしないことにした。
「セイヤさんどうぞ」
その後順番に人がはけて行き、星夜の順番が回ってきた。
星夜は、呼びに来た神官の案内に従って、ある部屋に移動して行った。
「セイヤさん、私が今回あなたの担当になりましたアリアと言います。本日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
星夜が部屋に入ると、部屋にいた茜色の長い髪をした女性がそう名乗り、星夜と挨拶をしあった。
「まずは本日の用件の確認からいたします。本日は次回のクラス獲得時期の確認ですか?それとも二つ目のクラスの確認でしょうか?」
「ええっと、一つ目のクラスの獲得にあたると思います」
「えっ!一つ目ですか?」
アリアの質問に星夜が答えると、アリアは人差し指を一本だけ伸ばしながら確認した。
「ええ。その、少し事情がありまして、一つ目のクラスを持っているのか不明なんです。だから今回確認の意味も含めて来ました。一つ目があるなら良し。無いのなら今回得るつもりです。また、一つ目があったのなら次回のクラス獲得時期も調べたいです」
「そうなんですか、わかりました。あなたの年齢で一つ目のクラスとは珍しいですが、皆無というわけではありませんからね」
星夜は、転生のことは話せないので、クラスを持っているかわからない理由をぼかして伝えた。
それを聞いたアリアは、深くは聞かずにそう納得することにしたようだ。
「それではクラスの有無の確認からですね?」
「はい」
「わかりました。では、そちらの水晶玉に手を当てて下さい」
「わかりました」
星夜は、アリアに言われるままに示された水晶玉に触れた。
「それでは現状を確認しますので、そのままの状態で少しお待ち下さい」
「はい」
それからアリアは、星夜が触れているのとは別の水晶玉を取り出し、何かの操作を始めた。
十分程経過して、アリアは水晶玉を操作するのをやめた。
「はい、現状の確認は終了しました。確認結果は口頭でお伝えして構いませんか?」
「大丈夫です」
「わかりました。それではまず最初に一つ目のクラスの有無からお伝えします。一つ目のクラスは、お持ちでした」
「そうですか!ちなみに、何と言うクラスでしたか?」
星夜は、自分がクラスを持っていることに驚いた。そしてすぐに、どんなクラスを持っていたのかが気になりアリアに尋ねた。
「ええっとですね、クラス名は《夢幻術師》になっています」
尋ねられたアリアは、水晶玉を確認してそう言った。
「《夢幻術師》ですか?」
「はい」
「それはどんなクラスなんですか?」
星夜は、名前から何となく出来ることを想像したが、専門家に確認しておくことにした。
「少々お待ち下さい。・・・なんで!?」
詳細を調べだした直後、アリアから驚きの声が上がった。
「どうかしましたか?」
星夜は、アリアの様子に驚き、心配そうにアリアに話し掛けた。
「すみません、水晶玉では詳細は不明なようです。急いでお調べいたしますので、お時間をいただけませんか?」
「詳細不明。・・・いえ、こちらで調べられますからお構いなく!」
星夜は、アリアの詳細不明という言葉に嫌な予感がした為、きっぱりと断りの返事をした。
ナイアルラトフォテップに渡された本の中には、それぞれのクラスについての記載もあった。聞いてもすぐにわからないのなら、後々本で調べれば良い。
それと詳細不明という点を考えると、下手に長いすれば面倒事が発生する可能性が高い。
星夜は、内心そう思っていた。
「そうですか?」
「はい!それよりも二つ目のクラスの時期はどうですか?」
星夜は、話をすり替えにかかった。