ダンジョン
「ただいま愛ちゃん。早速だけど、今後の話をしよう」
逃走者を外に出して愛ちゃんの待つ奥の部屋に戻った星夜は、彼女と話の続きをしようとした。
「お帰り星夜くん。随分早かったけど、さっきの人は結局どうしたの?」
だけど彼女の方は、星夜が連れて行った逃走者のことが気になっているようだ。
「俺の配下の魔物に運ばせた。多分、人間か魔物に拾われるはずだ」
「運ばせたってどこに?」
「俺があいつと最初に出会った場所にだ。ラストの分体をつけているから、とりあえずは心配ない」
ラストの強さを知っている星夜は、その分体のことも信頼していた。少なくとも、星夜の中ではあの近辺の魔物に分体がやられるはずはないと確信していた。
「ラスト?それって誰のこと?それに分体って何のこと?」
愛ちゃんは、星夜の言葉に複数の疑問を持った。
「ラストっていうのは俺の使い魔というか、ペットのスライムズポットのことだ。ついでに分体っていうのは、ラストが吐き出したスライムのことだよ。さっき愛ちゃんも見ただろう?あいつを掴んだ腕みたいなものを?」
「ええっと、それって液状のアレ?」
愛ちゃんは、星夜から伸びていた何かを思い出しながら確認した。
「そうそれ。アレがラストだよ」
「へぇー、星夜くんスライムズポットっていう魔物を仲間にしてるんだ。どうやって仲間にしたの?戦って?それとも餌をあげたりしたの?」
「取引をしたというか、作ったんだよ」
「作った?」
愛ちゃんは、星夜の作ったという言葉を不思議そうに繰り返した。
「ああ。俺はこっちの世界にきて、ゲームみたいな職業。こっちでは【クラス】っていうんだけど、それの【錬金術師】っていうクラスを獲得したんだ。それで、その【錬金術師】の作れるものの中にスライムがいたから、試しに作ってみたんだ」
実際のところはそこそこ違うが、星夜はとおりの良さそうな感じになるように説明した。
「へぇー、この世界って魔物を作れるんだ」
愛ちゃんは、新らしい事実を知ったようにそう言った。
「いやいや、愛ちゃんだってそこにいるりっくんを作っているだろう」
しかし、ダンジョンマスターになってりっくんを生み出している時点で、星夜は新事実というわけではないと思った。
「うん?うん、言われてみればそうだね。私もうりっくん作ってたね」
愛ちゃんは何か嬉しそうに笑った。
「さて、そろそろ話を戻して、愛ちゃんはこれからの予定とか立てているの?」
「予定?ううん、私はとくにないかな?やることなんてダンジョン関係しかないし」
「まあ、そうか。魔物タイプのダンジョンマスターって、条件を満たさないと外に出られないからな」
「えっ、そうなの?」
「知らなかっの?」
「うん。だって、転生してから手探りでやってるから」
「そう。ちゃんとした説明もされてないんだ」
星夜は、神様のそのいい加減な采配に呆れた。それとも、愛ちゃんがスタンダードで自分が特別扱いされ過ぎなだけか?
「まあ、愛ちゃんが知識を不足させているんなら、俺がいろいろと教えてあげるよ」
「本当、星夜くん!」
「ああ、幸い俺はダンジョン関係の取説をもらってるからな」
星夜はポケットから本を取り出すと、それを愛ちゃんの前で振って見せた。
「じゃあ最初は基本的なことから説明していくぞ」
「うん!」
それから星夜と愛ちゃんの勉強が始まった。
そうして愛ちゃんが知ったのは、以下のことになる。
1.この世界のダンジョンは、人の脅威であり重要な資源であるということ。
ダンジョンから魔物が溢れ出せば街の一つ二つ簡単に飲み込む危険な場所。逆に、その魔物を溢れ出さないように対処出来るのなら、魔物の素材やダンジョンの宝物を定期的に入手出来る資源の供給源に出来る。
2.ダンジョンマスターはダンジョンに縛られるということ。
魔物タイプのダンジョンマスターは、条件を満たさないとダンジョンの外には出られない。外に出る為には、ダンジョンを一定のダンジョンの段階まで拡張する必要がある。
また、人間種のダンジョンマスターでも、最初から外に出られるがダンジョンが小さいと、ダンジョンからあまり離れられないこと。
3.ダンジョンコアとダンジョンマスターが一心同体であること。
例えばダンジョンコアにダメージが入ると、ダンジョンマスターもダメージを受ける。逆に、ダンジョンマスターがダメージを受けると、ダンジョンコアもダメージを受ける。
4.ダンジョンマスターに死は無く、ダンジョンコアに消滅は無いということ。
ダンジョンマスターは、ダンジョンコアが一片でも残っていれば、たとえ身体が消滅しても時間をかければ復活が可能。
また、ダンジョンコアの方もダンジョンマスターが存在していれば自動修復される。
5.ダンジョンマスターとダンジョンコアの倒し方及び破壊方法。
ダンジョンマスターに負けを認めさせる及び、ダンジョンコアの所有者の削除・書き換え。
6.ダンジョンの拡張方法。
ダンジョン拡張アイテムを使う。
他のダンジョンと自分のダンジョンを結合、または吸収する。
ダンジョンポイントを消費して拡張する。
7.ダンジョンポイントの入手方法。
日付の変更時に獲得。
ダンジョン内で魔力が消費される毎に獲得。(ダンジョンマスター自身が魔力をポイントに変換する。冒険者などがダンジョン内で魔法を使用するなど)
ダンジョンマスター及びその配下が魔力を持ったものを殺害すると獲得。
ダンジョンで規定の条件を満たすとボーナスとして獲得。
特定スキル、称号を持っているとダンジョンポイント獲得時に追加で獲得。
8.ダンジョンの魔物の増やし方。
ダンジョンコアに登録されている魔物を、ダンジョンポイントを消費して出現させる。
ダンジョンで出現させた魔物を自然繁殖させる。
ダンジョン外の魔物を勧誘して仲間にする。
ダンジョン外の存在を殺害し、その存在を転生させる。
他人のダンジョンを吸収し、他人の配下を自分の配下に加える。
9.ダンジョンの移動方法。
ダンジョンマスター許可のもと、ダンジョンコアにダンジョンの全てを収納して移動させる。
または、周囲の地形の変化を使ってダンジョンの入口の位置を移動させる。
10.ダンジョンの魔物の強化方法。
戦闘経験を積ませる。
武器やアイテムを持たせる。
魔物をランクアップさせて、上位種に進化させる。
ダンジョンコアを使って、魔物に新しい能力を与える。
ダンジョンの環境を魔物に合わせる。
ダンジョンの特殊効果で強化する。
ダンジョンマスターの能力や称号で強化する。
「基本的なことはこれくらいだ。本にはまだまだいろいろなことが書いてあるが、今はこれくらい覚えておけば大丈夫だ」
「結構いろいろとあるんだね」
「そうだな、これでも結構省いているんだけどな」
星夜は、持っている本の厚みを確かめながらそう言った。
「たしかにかなり分厚いものね。けど、そのおかげでダンジョンのことがいっぱいわかったよ」
「なら、愛ちゃんは今後の予定を立てられそう?」
「うん!今日星夜くんに教えてもらったことを参考に、ダンジョンをいじってみるつもり。そう言う星夜くんは予定とかあるの?」
「あと四日か五日経つまでは急ぎの用はないから、【錬金術師】とかの能力でいろいろやるつもりだ」
「四日後とかに何かあるの?」
「冒険者ギルドの新人研修があるんだ」
「へぇー、そんなのがあるんだ。それなら星夜くん、その日まで一緒に居てくれない?」
「構わないぞ。俺のは何処ででも出来るからな」
星夜は、愛ちゃんの提案を快く受け入れた。




