スライムバリエーション
「最初は何をどう錬成するかな?」
星夜は、どの魔物をどのように錬成するか考えを巡らせた。
ラストの時は、歩けないラストが自力で移動出来るようにする為にスライムと錬成した。
まあ、結果は自力で移動出来るようにはなったが、その他の部分がおかしなことになってしまったが。攻撃力とか繁殖力とかいろいろ。
その為、今回はあまり酷いことにならないように錬成する魔物の組み合わせを吟味した。
しかし、今回はラストの時のような錬成後の明確なウ゛ィジョンが無い為、実際にどんな風にすれば良いのかを決めるのが難航した。
「こうやって考えてみると、どれをどう錬成すれば良いのか迷うな」
頭の中でいろいろ組み合わせてみているが、実際に錬成するとなるとイマイチな感じだった。
「うーん、この際直接見ながら考えてみるか」
星夜はそう思いつくと、今から錬成の為に使う魔物達をイメージした。
そのイメージは星夜の頭の中で形を成し、やがて夢の世界で実体化した。
「こんなものか」
現在、星夜の目の前にはスライム、ハングリードッグ、ゴブリン、ラビット、コボルトが各一体ずつ立っていた。
ただし、あくまで錬成のシュミレートようの為、立っている魔物達に生気は感じられなかった。
まあ、星夜が望みさえすれば、今すぐに本物と同じように動き出させることは可能であったが。この辺はやっぱり夢である。
「さて、素材はこれで見やすくなったな。あとは、これを参考に組み合わせを考えていこう」
星夜は、実体化させた魔物達を順番に見ていった。
そして、とりあえずは一対一の錬成の組み合わせをイメージしていった。
「まずはスライムをベースした場合だな」
星夜は、実体化させているスライムにハングリードッグ、ゴブリン、ラビット、コボルトを組み合わせていった。
その結果、組み合わせにはいまひとつのものと、良さそうなものがあった。
スライムの能力強化という視点で見た場合、次のようになると星夜は想像した。
スライム×ハングリードッグの場合は、スライムがハングリードッグの姿を得て、移動速度の向上や敏捷性が向上すると星夜は想像していた。また、ハングリードッグは犬型の為、牙や爪で攻撃力の向上も見込めた。
スライム×ゴブリン、スライム×コボルト。この二つの組み合わせは、たいした違いや利点を星夜は想像出来なかった。
スライムにこの二種を組み合わせても、人型になることくらいしか思いつかなかったのだ。
ゴブリンもコボルトも集団で行動するタイプの魔物だ。道具を扱える指先と、道具を扱う程度の知能はある。
しかし、わざわざ錬成してスライムにその能力を持たせる程ではなかった。
だからどちらかといえば、ゴブリンもコボルトもダンジョン機能でまとめて出現させ、同一種族だけで運用した方が有用だろうと星夜は考えていた。
最後にスライム×ラビット。この組み合わせはハングリードッグの時と似たような利点があった。
ラビットは兎型の為、移動速度や跳躍能力、脚力の向上が見込めたのだ。
牙や爪がハングリードッグ程ないのは残念だが、代わりにキックが使えるようになるだろうと星夜は想像していた。
「スライムとハングリードッグ、ラビットの組み合わせはそれぞれ一体ずつ錬成してみるか?いや、もういっそ三体まとめて錬成してみるのもありか?」
星夜は最初は一対一のつもりだったが、ハングリードッグとラビットの強化点が似ていた為、まとめて錬成するのもありかもしれないと考えていた。
「・・・もう一体ずつ錬成してしまおう。ポーションで回復はきくしな。それじゃあ《錬成》」
星夜は、先程分解したものの中からスライム、ハングリードッグ、ラビットの材料一式を持って来て、錬成を開始した。
「これで完成っと」
いつものごとく錬成対象を中心に魔法陣が出現。それが回転したら点滅したりした後、材料が溶け合い一体のスライムの姿を形作った。
そして、魔法陣が消えたのを確認した星夜は、完成したスライムの様子を観察した。
完成したスライムの見た目は、オリジナルのスライム同様水風船のようだった。色艶もとくにスライムと違いはなく、錬成した星夜にしても、通常のスライムとの区別がつかなかった。
「失敗したか?」
星夜はだんだんとそんな気がしてきた。それほどまでに完成したスライムと通、常のスライムとが変わらなかったのだ。
「うん?」
星夜がそんなことを思ったからか、あるいは失敗かと疑ったせいか、とりあえずスライムが動きだした。
錬成されたスライムは、全身をプルプルと震わせながら形状を変化させていった。
最初はハングリードッグの姿。次にラビットの姿。最後に、その二つを混ぜたような姿になった。
大きさはスライムを一回り大きくした程度。見た目はハングリードッグをベースにした犬型のシルエットで、全体的な色は水色。耳はウナギ型の縦に伸びたもので、聴力が発達しているように見える。あと解りづらいが、後ろ脚がハングリードッグのものに比べて強化されていた。
「へぇ、こうなったか。けど、これってベースはハングリードッグなのでは?」
最初の姿はスライムだったが、次の姿がハングリードッグの割合が大きかった為、どちらがベースなのか星夜は判断に迷った。
「まあ、いいか。とりあえずは他のも錬成してしまおう。《錬成》」
星夜は一時判断を保留にして、残る二パターンで錬成を実行した。
「良し完成!こっちの二体は普通にスライムベースになったな」
星夜は新たに錬成された二体を見て、そう口にした。
現在星夜の目の前には、スライム状のハングリードッグとラビットの二体の魔物がいた。
先に錬成したのと違い、今錬成した二体は表面からして液状で、スライムがベースであることは疑いようがなかった。
「この違いの理由はなんだろうな?錬成材料の液体と固体の比率の違いか?」
星夜は、現状からそう分析した。
逆に言うと、それ以外の違いが出た理由が思いつかなかった。
「とりあえず名前をつけて、図鑑で確認するか。今回も単純で良いだろう。お前はドッグスライム、お前がラビットスライム。最後にお前はスピードスライムだ」
星夜は、錬成した魔物達にそれぞれそう名付けていった。
ドッグスライムが、スライム×ハングリードッグの魔物。ラビットスライムが、スライム×ラビットの魔物。スピードスライムが、スライム×ハングリードッグ×ラビットの魔物である。
一対一の二体については、ただ名前をくっつけただけだ。
三体錬成のについては、先程の命名方式でいくと名前が長くなる為、特徴である敏捷性強化の点からスピードと名付けられている。
星夜がそう名付け終わると、名付けられた魔物達がぴょんぴょんと跳ね回って喜びを表現した。
種族名をつけただけなのに、えらい喜びようである。
星夜は一瞬戸惑いを覚えたが、喜ぶ魔物達に水を差すようなことはしなかった。
星夜は魔物達を一旦放置して、図鑑で錬成した魔物達の情報を確認した。




