分解
「しばらく向こうには戻れなさそうだな」
精神を夢の世界に移した星夜は、自分の身体の傍に出入口を開き、夢の世界から現実世界の様子を覗いていた。
「というか、愛ちゃん俺の身体を折らないよな?」
現実の光景を見た星夜は、そんな不安を覚えずにはいられなかった。
「今の内にHPポーションを錬成しておこう。今の状況だと、身体に戻ってもダメージで動けないだろうしな」
星夜は不安解消の為に、ポーションを用意しておくことを決めた。
「さて、ラストがいるから材料のスライムは問題無し。薬草もある。だけど水が無いな。これじゃあポーションは無理か。けどポーションが無いと危険だよなぁ。どうしたものか?」
ポーションの材料を確認した星夜は、材料の不足でポーションが作れないことを知った。しかし、なんとかポーションを作っておかないと身の危険があると思っている星夜は、どうにかポーションを作れないかと考え始めた。そして、結局思いつかなかった星夜は、いつも通り本に頼ることにした。
「うん?ポーションのところの記述が増えてるな。ひょっとしてこの本、自動で内容が増えていくのか?いや、今はそんなことは良い。新しく増えたこの記述によれば、ポーションは手に入れられる。早速試してみよう。おーいラスト!」
そうして本を見た結果、星夜は本の内容が増えていることに気がついた。が、今はそれを気にしている場合ではなかったので、とりあえず新しい記述を試してみることにした。
星夜は、ダンジョン内を散歩しているラストを呼んだ。
「来たかラスト。俺との約束を果たして、ポーションスライムを出してくれ」
星夜は、ラストにそう頼んだ。
ラストは、もともと星夜に身の安全を確保してもらう代わりに星夜が望む時にスライムを渡すことを約束していたので、快くそれに応じた。
ラストの味噌壷型の身体の中から、無数のスライムが飛び出した。
「ありがとうな、ラスト。さて、眠れ《スリープ》」
星夜はそんなラストに礼を言うと、ラストが吐き出したポーションスライム達に眠りの魔法をかけていった。
「さて、このポーションスライム達を分解していけば、ポーションが手に入るはずだな。あと、ポーションスライム達は触るだけでも材料にしたポーションの効果を受けられるんだったか?とことん俺の錬金術と相性が良いな、この魔物」
星夜は、今本で見たことと、図鑑に記載されていた内容からそう思い、手近なポーションスライムを一体抱き抱えて撫でた。すると、たしかに星夜は自分の何かが回復して、身体に力が充ちてくるのを感じた。
ただ一つ疑問なのは、もともとはポーションの効果のはずなのに、夢の世界の星夜に効果を及ぼしている点だ。
ポーションというものは、生身の肉体以外にも効果があるものなのだろうか?
星夜はその点だけは不可解でならなかった。
だが、それは考えてもわかるようなことではなかった。
その為星夜は、そのことを考えるのは止めにした。
「さて、それでは早速分解してみるか。《分解》」
謎を考えるのを止めた星夜は、手に持っていたポーションスライムに分解を発動させた。
今回は五分とかからずに分解が完了し、通常のスライムの材料一式と、一つのポーションが分解後に残された。
「あれ、なんで一つなんだ?最初にポーションスライムを錬成した時に使ったポーションは、HPとMPポーションの二つだったはずなのに?」
星夜は、分解後の結果を不思議がった。
「というか、これはどっちのポーションなんだ?HPかMPか、分解結果はランダムにでもなるのか?」
星夜はとりあえず、分解後に出てきたポーションを手に取り、それを鑑定してみた。
【SPポーション】
飲むとHP、MP、SPが回復するポーション。
使用方法:傷や怪我を治す場合は傷口に直接かける。
体内ダメージや肉体疲労、精神疲労を治す場合は一瓶分服用する。
服用・接触、どちらの場合でも魔力は回復します。
効能:HP・MP・SP10分の上記を回復する。(合計ではなく、それぞれ回復)
品質:普通
「ポーションの効果が混ざってる?これって複合ポーションになるのか?」
星夜は、鑑定結果を見てポーションの内容に驚いた。
ポーションの内容がHPとMPのもの複合しているうえ、新たなことまで追加されていたからだ。
「だけどなんでまた?・・・ポーションスライムを錬成した時に、二つのポーションを一緒に錬成したからか?。試してみるか、《分解》」
星夜は一つの仮説を思いつくと、それの検証の為にSPポーションに分解を発動させた。
「当たりか」
そうすると、SPポーションからHPポーションとMPポーションの二つに分解出来た。星夜の予想通り、ポーションスライムを作る時の錬成で、二つのポーションが一つのポーションに錬成されていたようだ。
「もう一段階分解するように思いながらすれば、始めから二つのポーションが出るか?《分解》」
星夜は、新しいポーションスライムを抱き上げ、今度はそのことを確認する為に分解を発動させた。
結果は最初から二つのポーションが現れた。
「予想通りか。どうやらこの分解って能力、俺の意思を反映して対象を分解しているみたいだな」
星夜は、分解のことを一つ理解した。
「それじゃあ早速ポーションの量産を開始するか。ラスト、どんどん頼むな」
星夜はそう言うと、ポーションの増産を開始した。
それからしばらくの間、星夜はポーションの在庫を増やすことに集中した。
まあ、時々は現実世界の様子を見て、ポーションスライムを派遣もしていたが。でなければ、現実世界の星夜の身体は愛の鎧で折れるか砕けてしまっただろう。
「こんなものか?」
現在星夜の隣には、ポーションが山積みされていた。HP、MP、SPポーション各種40本ずつ。
途中から数体まとめて分解していったせいか、星夜の魔力消費はあまり激しくはなかった。どうやら同一の対象を分解する場合、消費魔力も分解する時間も一本分解するのとたいして変わらないらしい。
今度から星夜は、同じものは全部山積みにしてから分解することにした。
「さて、向こうは・・・まだ駄目そうだな」
星夜は一段落ついたので、現実世界の様子を伺った。しかし、愛は今だに星夜の身体を抱きしめ続けていて、とてもではないがまだ戻って無事ではいられなさそうだった。
「・・・今度は錬成でもしておくか。ハングリードッグやゴブリン、ラビット、コボルト。錬成を試せる魔物の素材は結構手に入ってるしな」
なので星夜は、新しい魔物の錬成を試してみることにした。
ハングリードッグやゴブリンの群れを倒しているうえ、逃走者を追いかけていた集団もこのダンジョンに回収していたので、錬成を試す材料には事欠かないでいた。
「だけど、まずは死体の分解からした方が良さそうだな。いつまでも魔物の死体を自分の夢の世界に山積みしておくのはなんか嫌だし」
そう決めた星夜は、早速魔物達の死体の分解作業に取り掛かった。
ポーションの時のことを参考に、それぞれの種族事に分解していった結果、無理なく分解作業は行われていった。




