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邪神が夢見る異世界  作者: 中野 翼
20/80

MPK

「いつまで追いかけて来るんだ!」


あれから十分は時間が経ったが、今だに星夜は逃走者とその後ろにいる魔物達に追いかけ回されていた。


「見捨てないでくださいよおぉぉぉ!」

「だから俺には攻撃手段が無いと言っただろうが!」

「それでも見捨てないでくださいよおぉぉぉ!もうそろそろ限界なんですうぅぅぅ!」


逃走者は涙目で訴えかけて来る。


「・・・自分でなんとか出来ないのか?」

「出来たら逃げてませんよおぉぉぉ!」

「ふむ。・・・駄目元で削ってみるか」


逃走者が諦めないと判断した星夜は、現在使える手札で現状をなんとか出来ないか考え始めた。


「まずは足止めだ。《ダーク》」


星夜は、最初に魔物達の足を止めることにして、闇の魔法を発動させた。

魔法が発動すると、星夜の身体から黒い靄のようなものが周囲に溢れ出した。


「えっ!?煙幕!?」


溢れ出した靄は徐々に濃くなり、やがて光を遮断する闇になった。


その光景を見ていた逃走者は、突然溢れ出した靄を黒煙。

星夜が煙幕を張り出したのだと勘違いして、驚きの声を上げた。


まあ、たしかに闇の発生過程が煙幕に見えなくもなかった。


星夜の周囲で出来上がった闇は、最初は星夜の周囲に留まっていた。が、ある程度の範囲を満たすと、一気に星夜の後方。逃走者の後ろにいる魔物達を包み込むように移動していった。


「これで逃げ切れるか?」

魔物達の視界を塞いだ星夜は、これで魔物達が足を止めると思った。

今後ろにいる魔物達が暗い所でも物が見える可能性はあったが、逃走者を追いかけて来ている魔物達はいくつかの種類がいた。


スライム、ハングリードッグ、ゴブリン。あと他に知らない魔物が二種類。


全部の足は止められなくても、少なくとも一種類は足止めが出来るだろうと考えた。


「減らない?」


しかし、その考えは外れた。

闇に捕われた魔物達は、誰一人止まることなく逃走者を追いかけている。

そう、逃走者を追いかけているのだ。

星夜が逃走者を振り切ろうと左右に移動しても魔物達は反応しないが、逃走者が星夜を逃すまいと左右に移動すると、魔物達も左右に移動するのだ。


現状から魔物達が一種類も脱落しなかった理由を推察すると、あの魔物達は何らかの方法で逃走者を捕捉し、五感は使用していない可能性がある。あるいは、別種の魔物達が徒党を組んでることから、誰かに操られている可能性も出て来る。


少なくとも、さっきのハングリードッグ達とゴブリン達の様子からは、その二種族が一緒に行動しているところが想像出来なかった。


星夜は、速孝の効果で思考を加速させ、走りながら現状をそう推察した。


「厄介事の臭いが強くなったな。もうダンジョンに跳んだ方が良いかもしれない。これいじょうこの件に関わると、連鎖系のフラグが建ちそうだ」


星夜は、厄介事の臭いに顔をしかめた。


「待ってくだあぁぁぁい!」


星夜が現状に見切りをつけた直後、逃走者が速度を上げて星夜に迫って来た。


当然、逃走者を追いかけていた魔物達も速度を上げて来た。


その結果、今の状況でダンジョンへの出入口を開くと、星夜が出入口をくぐってその後出入口を閉じる間に、後ろの連中が揃ってダンジョンに突撃して来る可能性が出てきた。

少なくとも、逃走者の方は星夜を逃がす気がないので、まず間違いなくダンジョンに駆け込んでくるだろう。


星夜は、いい加減ラストも使うかと悩みだした。


ダンジョンを見られるリスクや、ダンジョンに侵入されるリスクを考えるなら、後ろの連中をまとめて始末した方が星夜にはリスクがなかった。逃走者を始末するのは人殺しでどうかと思うが、星夜が介入しなければ体力切れで早々に魔物達の餌食になるはずだ。死因が変わっても、結果が同じなら気にする必要は無いかもしれない。


星夜は、もう二、三手やって駄目そうならその手でいくことに決めた。


しかし、やはりというか、すぐに始末するのは見送った。

やはり人殺しは精神的に問題があると思うからだ。


「ダーク以外に出来ること。残る手は一つ、《スリープ》」


星夜は、魔物達の先頭に向かって眠りの魔法を発動させた。ダークの魔法で魔物達の周囲を暗くしているから、この魔法の効果も向上しているはずだ。


効果は覿面だった。魔物達の先頭を走っていたゴブリンが身体を揺らして突如減速した。

その結果、後ろを走っていた魔物達が先頭のゴブリンに激突。後ろを走っていた魔物達も続けて激突していき、ドミノ倒しのように魔物達は次々と前者によって足を止めることになった。

しかし、勢いがついた今の状況で簡単に止まれるはずもない。

先頭から後ろまでの魔物達は、後続に押され、また押し潰されていった。

最後まで生き残ったのは、この追いかけっこの最後尾を走っていた魔物達だけだった。


「なんとかなったか」

「何したんですかあぁぁぁ!」


マップで魔物達が停止したのを確認した星夜は、いったん立ち止まった。

押し潰された魔物達を回収に行こうとした星夜は、同じく立ち止まった逃走者の大きな声に顔をしかめた。


「煩い。せっかく助けてやったんだから、今の内に逃げろよ」

「そんな、一人にしないでくださいよおぉぉぉ!」

「やかましい!助けてやっただろうが」

「それには感謝してますけど、一人にしないでくださいよおぉぉぉ!」

「お前理解してるのか?」

「何がですうぅぅぅ?」

「現状だとお前って俺の敵だぞ?」

「な、なんでそうなるんですかぁぁぁ!?」


逃走者は、星夜の言葉泣きながら悲鳴を上げた。


「だってお前、俺を意識的にじゃなくてもMPKモンスタープレイヤーキルしようとしたじゃないか」


MPK。モンスタープレイヤーキル。野生のフィールドモンスターを使って、他のプレイヤーを殺すという、漫画や小説、ネットゲームなどで登場するプレイヤーを殺すやり方。または、自分がターゲットされているフィールドモンスター達を、同じフィールドにいる他のプレイヤーになすりつける、押し付けることでもある。ゲームでも現実でも、完全な迷惑行為である。


星夜と逃走者の関係は、完全にこれであった。


星夜が逃走者を敵と言うのは、星夜の側から見れば正しい。


「そんなあぁぁぁ!私は別に」

「否定の言葉は要らない。自分を擁護する言葉も聞くつもりはない。魔物は足止めしてやったんだ、さっさとどっかに行け!」


星夜は、逃走者の言い訳を封じ、明後日の方向を指差した。


「行かないのなら、敵として今すぐに排除する。まだ魔物達は少し残ってるんだ、魔物達とお前の相手を同時にするつもりはない」


星夜はこうしている今も、マップで魔物達の動きを見ていた。

潜在的な敵の逃走者に、足を引っ張られる状況で魔物達と戦いたくないと思うのは、普通のことだ。

逃走者の目を気にして、ダンジョンに逃げ込むことも、ラストを使うことも自粛しているのだ。

逆に言えば、逃走者という邪魔者さえいなければ、星夜は現状をどうとでも出来るのだ。


「そんなあぁぁぁ!そんなこと言わないでくださいよおぉぉぉ!」


逃走者は、星夜に縋り付いてきた。


「それがお前の解答か。なら眠れ《スリープ》」


星夜は、冷めた目で逃走者を見た後、逃走者に眠りの魔法をかけた。


ZZZ


逃走者は一瞬にして睡魔に襲われ、その場で崩れ落ちた。


「最初からこうしておけばよかったな。まあ、後で街に届けるくらいはしてやるか」


星夜は逃走者をダンジョンにほうり込むと、ラストを呼び出して魔物の処理に向かった。



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