ラストの戦い
「ラストっていうのはな、人間が持つ七つの大罪と言われるものの一つなんだ。意味は色欲。本当は暴食のグラトニーにしようかとも思ったんだが、お前の場合はこちらだと思ったんだ。全てを喰らいい尽くす暴食ではなく、全てと混じり合って子をなす色欲。お前がスライムを産まないのなら暴食にしてたけどな」
星夜のそんな言葉に、ラストは一度震えるだけだった。
「さて、今度こそ外に戻るか」
星夜がそう言うと、次の瞬間には星夜の姿がダンジョンから掻き消えた。
「ふむ、人の夢に繋いでない場合は、自分がダンジョンに入った場所にしか出られない、か。まあ、閉じ込められないのなら問題は無いか。さてさて、ポイントを稼ぐのに適した魔物は近くにいるのかなぁっと。・・・おっ!反応あり、向こうだな」
星夜は、ダンジョン作成前に寝ていた場所に出現した。出現した後は、少し状況を確認してから次の目的に向かって行動を開始した。
マップを確認し、レモラを呼び出す為に必要なポイントを集めに移動を開始する。
「あれだな」
20分程移動すると、星夜はお目当ての魔物の集団を見つけた。
星夜が見つめる先には、数十体のハングリードッグの姿があった。
「こうして見てみると、結構多いな。さっき考えたことを試すつもりだったが、誘い出して個別に試した方が良いかな?うーむ・・・うん?」
ハングリードッグの群れを見た星夜は、安全を採るかどうか少しの間考えた。しかし、すぐに考えるのを中断することになった。
星夜が見ていたハングリードッグ達に動きがあったのだ。
ハングリードッグ達は、全員が一斉に星夜と反対側を見ていた。
星夜が今いる場所は、ハングリードッグ達にとって風下。向こうは風上になる。どうやらハングリードッグ達は、何かを見つけたか、何かの臭いを嗅ぎ取ったようだ。
ハングリードッグ達は一部を残し、大半が一斉に向こうに駆け出して行った。
後には、数体のハングリードッグ達だけが残っている。
「これってチャンスなのか?それとも向こう側を気にした方が良いんだろうか?」
星夜は、迷っている間に事態が動いて、今度は別のことで迷うことになった。
現状は星夜にとって好ましいことになっている。分断するまでもなく、勝手にハングリードッグ達が数を減らしてくれたからだ。このことについては、星夜は得しかしていない。
問題は、駆け出して行った群れの方だ。おそらくあのハングリードッグ達は、何か獲物を見つけて狩りに行った可能性が高い。
その獲物となった何かを助けに行かなくて良いのかというのが、星夜が迷っている原因だ。
まあ、これについては可能性は五分五分。ハングリードッグ達が狩りに行った獲物が人間だとは限らない。同じ魔物のスライムを喰うような魔物だ。案外魔物同士で共食いしている可能性も否定出来ない。
「とりあえずこっちを片付けて様子を見に行ってみるか」
悩んだ結果、星夜は目先のことから片付けていくことにした。
「ラスト、食事の時間だよ」
星夜は、自分の周囲に複数のダンジョンの出入口を開き、そこからラストに呼びかけた。
星夜が呼びかけると、開けられた出入口からラストはスライムの部分をにゅっと、突き出した。
「ほらラスト、見てみろよ。お前のご飯がたくさん居るぞ」
そう言って星夜は、残っていたハングリードッグ達を指差した。
「今からあいつらを始末するんだ。残骸を残しててもしょうがないからな。お前が消化して良い。ただ、出来れば魔石とかあったら残しておいてくれ」
星夜がそう頼むと、穴から突き出していたスライム部分が一斉に頷いた。
「いい子だ。ついでに少し連携確認もするからな。お前の力を存分に見せてくれよ」
そう言うと星夜は、ゆっくりハングリードッグ達に接近を開始した。
「まずは初手の確認だな。ラスト、今こっちに出してる部分を腕や足に出来るか?」
くい?こくり
ある程度進んだ星夜は、ラストにそう話を振った。振られたラストは、スライムの頭を一度捻ってから頷いた。
どうやら、星夜の言うとおりに出来るらしい。
星夜の見ている中、スライム部分が一斉に腕や足の形に変わった。
「ふむ、形は問題無いな。強度の方も・・・問題無し。うん、いけそうだな」
星夜は、形の変わったスライム部分を一つ一つ確認していった。あるものは前後左右から見たり、あるものは触ってみたり、あるものは握りしめてみたりした。
その結果、星夜はそれらを自分の腕や足と変わらないと判断した。
「それじゃあ今からあいつらに攻撃を仕掛ける。ラストは、俺の指示通りに動いてくれ」
こくり
ラストが頷くのを確認して、星夜は移動を再開した。
「先手必勝、まずは数を減らそう。ラスト、形状は腕。攻撃方法はパンチで頼む」
星夜がそう指示すると、ラストの穴から出ていた部分が腕の形に変わり、ハングリードッグ達目掛けて伸びていった。
星夜は、その伸びていった手を追うような形で走り出した。
バスッ
昨日ハングリードッグ達を捕食していた時よりは遅いが、それでも通常では出せない速度で伸びて行った複数の腕が、無防備なハングリードッグ達をまとめて吹き飛ばした。
「最初の攻撃は無事に成功。今ので何体かは気を失ったな。さて、それじゃあ次を試してみよう」
ファーストアタックが成功したのを確認した星夜は、新たに空中に穴を開け、そこからダンジョンコアを操作しだした。
「良し!成功だ。ラスト、どんどん食べろ!」
星夜がダンジョンコアをいじると、気を失っているハングリードッグ達の傍の空中に穴が空いた。
星夜が気を失っているハングリードッグ達が寝ているものと同じ扱いか試した結果だ。
結果は、気を失っていることと寝ていることは同義で処理されていた。
この為、星夜は気を失っているハングリードッグ達の傍にダンジョンの出入口を開くことが出来た。
そして、その出入口から星夜の命令に従ったラストが身体を出した。
ラストは、最初に気を失っていないハングリードッグ達に掴みかかり、昨日同様あっという間に穴の向こう側にあるダンジョンにハングリードッグ達を連れ去って行った。
ダンジョン側では、現在進行形でハングリードッグ達が消化吸収されている。
そしてある程度消化が済むと、ラストは最後に気を失っているハングリードッグ達を向こう側に連れ去って行った。
ラストの身体が向こう側に消えると同時に、空中にあった出入口も一緒に消えた。
「ふむ。危なげなく終わったな。これで魔物相手にラストの攻撃が通用することと、気を失っている相手の傍にも出入口を作れることがわかった。次は応用でも試してみるか」
星夜は今の戦闘結果に満足した。
そして、先程別れたハングリードッグ達が向かって行った方向に歩き出した。
まだまだ頭の中で考えていたことを試してみたいからだ。
星夜が移動している間、ダンジョンではラストが頑張ってハングリードッグ達を消化吸収していた。吸収が終わると、ダンジョンコアの中にダンジョンポイントが加算されていった。また、ラストはちゃんとハングリードッグ達の魔石を消化せずに残し、まとめてダンジョンコアの傍に置いた。
そして、数体のハングリードッグ達を食べたラストにも変化が起きていた。
一気にハングリードッグ達分の質量を体内に取り込んだラストは、それらを一度魔力に変換。その魔力を使ってスライムを生成。
それらと合体して密度を高めていった。
また、ハングリードッグ達をそれなりの数取り込んだラストは、ハングリードッグ達の体組織や器官を学習し終えた。
星夜は、まだこのことには気がついていなかった。




