他の転生者
【次はこれとこれ、最後にこれだな】
ナイアルラトフォテップは、虚空から新たに三冊の本を取り出し、それを星夜に渡した。
「なんですかこれ?」
【一冊目は、今渡したダンジョンコア及びダンジョンの取り扱い説明書。二冊目は、これから汝が錬成したもののデータが自動的にフィードバックされる図鑑。最後に、我々が主の依頼発注書だ】
「一冊目と二冊目はわかりますけど、三冊目の依頼発注書ってなんです?」
一冊目と二冊目は自分がお願いしたものだからわかる。が、最後の本を渡された理由が、星夜にはさっぱりわからなかった。
【主の望みでクエストが記載される本だ。その本に載っているクエストを達成すると、主から報酬がもらえるぞ】
「へぇー」
神様からのご指名依頼。しかも報酬付き。難易度とかが不安な上、これで面倒事からは完全に逃げられなくなった。さすがにピンポンイントで神様から依頼されて、それを無視とか出来るわけがない。
【ちなみに、依頼ってどんなことをすることになります?あと、この依頼にも期限とかあるんですか?】
神様の依頼。冒険者ギルドの依頼とはかなり違ってくるはずだから、少しでも情報を得ておきたい。それに、期限とかあって依頼失敗時のペナルティーとかあるなら、今のうちに知っておきたい。
【依頼内容か。大まかな内容だと二つだろうな。一つ目は汝自身にたいする依頼。これは先程頼んだ魔物の錬成や、汝の行動について要望を伝える感じだ。この方面の依頼は、汝が請けるかどうか、また、いつ請けるかを汝の好きにして良いだろう。別に期限や失敗にたいする罰等は無いしな】
「そうですか。じゃあ、二つ目の方はどんなのですか?」
星夜は、一つ目の依頼にとくに問題が無さそうで安心した。が、もう一つの方はどうかまだわからない。
【二つ目は、他の転生者や世界に関する依頼だな】
「他の転生者?そういえば、あの時別れた人達ってあの後どうなったんです?」
星夜は、いまさらながら他の転生者達のことが気になった。
【汝と同じようにそれぞれ世界を選択して転生した。ただし、立ち位置や役柄はこちら側で勝手に割り振ったがな】
「立ち位置に役柄?なんですかそれ?」
【立ち位置というのは、転生先の敵味方の関係などだな。人間なら魔物の敵。魔物なら人間の敵。その他種族的な関係等などだ。役柄は代表的なので魔王に勇者。他にもいろいろとあるが、まとめるとこの世界に波乱を起こす役柄を振ってある】
「魔王に勇者、それと波乱を起こす役柄。それって、漫画や小説のメインキャラクターやサブキャラクターみたいな感じですか?」
星夜の頭の中では、物語の起点になる者達のことが想像されていた。
【そうだ。世界という物語を維持するなら、干渉する対象を絞った方がやりやすいからな。転生者達には、せいぜい主の関心を引くために踊ってもらう】
「うわー」
星夜は、他の転生者達に同情した。
先程命が軽いと言っていたナイアルラトフォテップのことだ、どんな苦難が待っているのかわかったものではない。
しかし、転生者達や自分の一喜一憂で世界が存続するかが決まるのだ。
もともと死人なんだし、ここは諦めてもらうしかない。
星夜は、心の中で転生者達に合掌した。
むろん、ただの現実逃避である。
自分に依頼がきて転生者達と関わるいじょう、自分も巻き添えをくらうのは確定している。
第三者の立場に立てないのが悲しいが、裏事情を知っているいじょう、逃げ場はなかった。
何事も諦めが肝心である。
なので、星夜はそうそうに諦めをつけて意識を切り替えた。
「あの、転生者や世界に関する依頼って、どんな感じになりますか?」
【転生者側は味方として共に戦うや、敵として戦う。あるいは、汝が錬成した魔物をぶつけるような依頼が主になるだろうな。世界に関する依頼は一概には言えないが、世界情勢に干渉するものになるだろう。それが勢力的にか、経済的にか、人間関係的にか、あるいはもっと別の形かは我々にもわからんがな】「はあ」
前者と後者で依頼の規模なんかに差が有りすぎて、星夜はそうとしか言えなかった。
【あと、こちらの依頼にも期限や未達成時のペナルティーなどはない。ただし、こちらの依頼については汝ではなく、別の対象がメインの為、依頼を請ける請けないで転生者や世界の状況が変化してくる。場合によっては、汝に不利益が発生する可能性は低くないだろう】
「そうですよね」
星夜の中で、完全に無理そうなの以外はどうにかしようという決意が生まれた。
【ふむ。今日伝えるべきことはこの程度か。汝をそろそろあちらに戻そう】
「わかりました」
【ではまた。汝が主を喜ばせることを願っているぞ】
「善処します」
そう言った直後、星夜の姿が掻き消えた。
【ふむ。意外と早く彼と再開することになったが、元気そうだったな。だが、転移前にしたアドバイスの結果、主が喜ばれることになるとは予想外だったな。まあ、我々の意思を汲んでくれる彼に頼むことが出来たのだ、しばらくは安定した頻度で主に喜んでもらうとしよう。さて、我々は仕事の続きをしなくてはな】
星夜を送り返した後、ナイアルラトフォテップは虚空に視線をさ迷わせた。
その結果、この空間では何も起こっていないが、外の世界では様々な事象が引き起こされている。
【ふむ。他の転生者達はまだまだ動きが悪いな。まあ、それも当然か。転生して一週間もしないうちに主を喜ばせた彼が異常なだけだ。ふむ、何人かは彼のいる街やその周辺にいるな。彼に依頼を出して少しつついてもらうか。報酬はそうだな、錬成する魔物か有用な能力で良いだろう。さて、依頼内容をどうするか?】
ナイアルラトフォテップは、早速星夜にクエストを頼むことにした。報酬を先に決め、依頼内容をまとめていった。
【こんなところだろう】
依頼内容を考え出して数時間。現在ナイアルラトフォテップの手元には、複数枚の依頼の紙が握られている。
ナイアルラトフォテップが作成した依頼の内容は、だいたい次のようになっていた。
パターン1
勇者○○の仲間になれ。
魔王○○の仲間になれ。
パターン2
勇者○○と戦え。
魔王○○と戦え。
パターン3
勇者○○と魔王○○を戦わせろ。
勇者○○と魔王○○を共闘させろ。
パターン4
勇者○○の戦力を強化しろ。
魔王○○の戦力を強化しろ。
これらが全勇者と魔王分存在し、個別に特殊な依頼も作られていた。
他の役柄の依頼もあるにはあったが、そちらは数枚しかなかった。どうやら、勇者と魔王の役柄の転生者の数の方が圧倒的に多いようだ。
【なかなかの量が作成出来たな。もう少し増やしておくか?・・・いや、通常の依頼はこれくらいで良いだろう。あとは、いくつかボーナスの依頼を混ぜるとしよう。
小さな積み重ねが世界を動かし、混沌を生み出す。森羅万象は流転し、やがて恩恵と災厄を形づくり、もろ人の傍に這い寄る。さあ、もろ人の子らよ!主を楽しませ、御のが世界を守れ!ハアッ!ハアッ!ハアッ!】
ナイアルラトフォテップ。這い寄る混沌、無貌の神、千の化身を持つ邪神の異名を持つ神は、世界の外から世界を動かし、盛大に笑い声を上げた。
しばらく笑った後、ナイアルラトフォテップは依頼の紙を星夜のもとに送った。
その中に自分が作ったもの以外のものが紛れ込んでいることに気づかずに。




