危険な依頼
【いや、あの新種を処分する必要はない】
「どういうことです、合体するスライムの存在はマズイんでしょう?」
星夜は、あのスライムポットをナイアルラトフォテップから処分するように言われると思っていたので、意外に思った。
【たしかにマズイ。しかし、それは制御が効かない場合の話だ。幸いと言って良いのか、あの新種には汝の血が混じっている為、汝の制御を受け付ける。ゆえに、あの新種は処分せずとも良い】
「それは、俺としては助かります。が、本当に制御なんて効くんですか?」
星夜には、先程の話を聞いた後で制御出来るなんて言える根拠がなかった。制御出来なければ、下手すれば世界の滅亡へ向かってまっしぐらだ。
星夜にとって、あのスライムポットを制御出来るのかは、かなり重要なことになっていた。
【我々の見立てでは、問題無く制御出来る。それに、そこまで汝が気負う必要は無い。制御が不可能になった場合は、我々が対処するからな】
「それなら安心です」
星夜は、神様が暴走した場合の対応を約束してくれて一安心した。
【まあ、あの新種はな】
「どういう意味ですか?」
星夜が一安心した直後、ナイアルラトフォテップが意味深というか、不吉なことを呟いた。そのせいで、星夜の中で再び不安が沸き上がってきた。
【いや、汝があの新種を錬成したことで、主が味を占めてしまってな】
「それはいったい?」
ナイアルラトフォテップの味を占めたという言葉に、星夜の中の不安がどんどん肥大化していく。
【まあ、ここははっきりと言ってしまおう。汝にはこれからも魔物を錬成してもらいたいのだ】
「はぁ?えっ!?」
ナイアルラトフォテップからの突然の魔物錬成依頼。
星夜は、先程から肥大化する不安が的中し、呆然となった。
それから少し時間が経過した。
「さっきのはどういうことですか?」
呆然とした状態から回復した星夜は、開口一番ナイアルラトフォテップにそう尋ねた。
【どういうことも何も、言葉通りだ。汝には、これからもあの新種のような魔物を錬成してもらいたいのだ】
「なんでですか?」
【主が喜ぶからだ】
「俺が魔物を錬成すると、なんで神様が喜ぶんです?」
星夜には、イマイチ因果関係がわからなかった。
【最近は主の夢に登場する魔物がマンネリ化していてだな、新しい魔物がちょうど欲しかったのだ。それに、主自身が魔物を生み出すのと、間に他人を挟むのでは、やはり後者の方が主は楽しめるのだ】
「それって、自分で漫画や小説を書くのと、他人が書いた漫画や小説を読むことの違いみたいな感じですか?」
星夜も、ケータイ小説等書いていたので、似たような感覚なのかと思い、聞いてみた。
【その認識でだいたいはあっているな。やはり、物事には意外性や予想外が無いと面白くないということだ。だから、汝にはこれからも魔物を錬成していってもらいたい。そうすれば、夢の展開の幅が広がり、世界の寿命が延びることになる。確実に寿命が延びるのだ、これは是非ともやってもらいたい】
「わかりました」
当初の転生させられた理由を考えると、星夜に拒否権はなかった。それに、神様が起きたら自分は消滅してしまうのだ。もともと星夜に断るという選択肢はなかった。だが、先程のナイアルラトフォテップの言葉から考えるに、保険はかけておかないとマズイとも星夜は思っていた。
「ただ、少しお願いがあります」
【お願い?何だ?】
「まず、あのスライムポット以外に錬成した魔物についても暴走した時の対処を約束してくれませんか?」
【ふむ、たしかに汝にとってはその言質を我々からとっておきたいだろうな。しかし、残念ながらそれは出来ない】
「何故ですか?」
【スライムの方は、結果を知っているがゆえに対処を約束したのだ。汝がこれから錬成していく魔物については、まだ全てが未定。暴走した後の過程を主が楽しまれる可能性があるいじょう、今対処を約束することは出来ない】
「そう、ですか」
星夜は、ナイアルラトフォテップのこの言い分に納得が出来てしまった。たしかに、未定な方が予想やらで楽しめると思ったからだ。
「なら、次のお願いです。錬成した魔物を飼う場所と、ある程度の情報を得られるようにしてくれませんか?」
星夜は、ナイアルラトフォテップに対処してもらう方向から、自分で対処出来るようにする方向でお願いをすることにした。
魔物を錬成するのが確定したいじょう、その魔物を飼う場所が必要になってくる。スライムポットはともかく、中型や大型の魔物はポケットの亜空間には入らないだろうし、小型の魔物も数が増えれば問題になる。
自分で錬成しておいて、錬成した魔物を放置するのは問題が有りすぎる。他の人に襲い掛かる可能性があるし、自分が危険な魔物を作っているなんて知られるのはマズイ。
だから、魔物を飼育する場所は確実にもらわないと困る。
あと、その錬成した魔物の情報は少しでも良いから欲しい。
情報があるのと無いのとでは、対処のしやすさが全然違うはずだ。
ある程度暴走の方向性がわかっていれば、事前に暴走を防ぐ対策が打てるし、暴走した際の鎮静方法も考えておくことが出来る。
この二つのお願いは、絶対に通さなくてはならない。
【ふむ、たしかに飼育スペースは必要になるな。なら、これを使うと良い】
ナイアルラトフォテップは虚空から一つの結晶を取り出すと、それを星夜に渡した。
「なんですかこれ?」
星夜は、受け取った結晶をいろんな角度から見た。
色は黒。形はクリスタル型。かなりの魔力が含まれているように星夜は感じた。
【それはダンジョンコアだ】
「ダンジョンコア?それってあれですか、地下に広がっていたり、天まで伸びる塔の形とかをしている、別名迷宮とか呼ばれるものを作りだす、漫画や小説に出てくるアレですか?」
【それだ。魔物の飼育スペースとしては、ダンジョンがちょうど良いだろう。増築や改築、レイアウトの変更も簡単だからな】
「まあ、漫画や小説と同じ感じならそうですね」
大量の魔物を飼育する空間としては、たしかにダンジョンは最適だ。
もともと魔物が徘徊するものなのだから、魔物を放し飼いにしていても問題は無いし、ダンジョンなら魔物が暴走しても隔離が簡単に出来そうだ。ただ・・・
「たしかにダンジョンなら魔物の飼育スペースとしては最適ですね。けど、街の付近にダンジョンなんて作って大丈夫なんですか?冒険者や軍隊に攻撃されたら面倒ですよ?」
さすがに街の中にダンジョンは作れない。なら、街の近場にダンジョンを作ることになる。しかし、それだと冒険者達の良いカモになるような気がした。
というか、ダンジョンなんて作って人間と攻防戦を繰り広げるなんて、面倒でしかなかった。
【さして問題は無いな。あの街の付近には、すでに複数のダンジョンが展開している。それと、ダンジョン攻略に来た者達は基本的に自己責任だ。錬成した魔物達の性能実験にでも使えば良い。あるいは、錬成の材料にしても構わないぞ】
「いや、それはちょっと」
魔物の錬成はともかく、さすがに人体錬成なんてことは星夜はしたくなかった。
【だが、あの世界の人の命は軽い。世界存続の礎となれるのだ、死する冒険者達の命はそちらの方が無駄にはならいぞ。ただ死ぬだけなら、ダンジョンで果てる意味も無いしな】
「すみません、神様の感覚はちょっと理解出来ません」
神様に平然とこう言われるとは、あの世界の命はどれだけ軽いんだと、星夜は内心戦々恐々としていた。
【そうか、人の身ではそれも致し方ないか。だが、しばらくすれば汝にも理解出来るようになるはずだ。あの世界で生きていくのなら確実にな】
「そんなに酷いんですか?」
【我々が言うのもなんだが、実際かなり酷いぞ。汝の故郷とは違い、人種差別に奴隷制度、国同士の戦争に魔物の氾濫。国の上層部の怠慢による餓死者等、人の命が散る理由やシチュエーションが溢れかえっているからな】
「うへぇー」
星夜は、ナイアルラトフォテップの言葉にうめき声が自然と出てきた。




