スライムEND
「・・・なんです、今の?」
星夜は、ナイアルラトフォテップが映し出した光景が理解出来ず、そんな言葉が口からもれた。いや、今展開した光景を理解したくなかったという方が正しいのか?
【見たままだ。汝が錬成した新種のスライムがハングリードッグ達を駆逐したのだ】
「いや、スライムポットがあの犬達を駆逐したって、スライムポットは動いていなかったじゃないですか!?」
星夜は、今の映像からわかることをあえて言った。
【たしかに普通の人間にならそう見えるだろう。しかし、汝には何が起こったのかうっすらとだか見えていたはずだ】
「それは・・・」
たしかに星夜は、ナイアルラトフォテップの言うとおり何が起こったのかうっすらとだが見えていた。しかし、それを自分が錬成したスライムポットがしたのだとは信じたくはなかった。
そして、ただスライムとスライムポットを錬成しただけであんなになるなんてっと、思っていた。
【ふむ。そんなに認められないようなことだろうか?我々にとっては面白くはあるが、汝にとってはあの新種はそれほどに認められない存在なのか?】
「その、さすがに自分が危険な存在を錬成してしまったという事実はちょっと」
【ふむ、人間にとってはそんなものか】
「そんなものですよ」
【ふむ、だかあんなのはまだ序の口だぞ?】
「どういう意味です?」
【いや、我々の力であの新種の能力を把握しているのだが、時間さえあればあの新種、世界の一つや二つ滅ぼせるぞ】
「なんですかそれ!?」
星夜は、ナイアルラトフォテップのその物騒極まりない言葉に叫び声を上げた。
【言葉のとおりだ。あの新種は、時間さえあれば世界を滅ぼせる】
「ええっと、あのスライムポットってただ戦闘能力を得ただけじゃないんですか?」
星夜の認識では、ハングリードッグを瞬時に倒せる戦闘能力を得ただけだと思っていた。しかし、ナイアルラトフォテップの話が事実なら、あのスライムポットにはまだ星夜の把握していない能力があることになる。
【それは違うな。あの新種の場合は、本来持っていた能力が錬成したことでマズイことになっているだけだ。ハングリードッグ達を駆逐した戦闘能力は、その副産物に過ぎない】
「アレが副産物?」
【そうだ。汝は先程アレが何をしたのかどの程度まで見えた?】
「ええっと、スライムポットの中から何かが飛び出して来て、その何かがハングリードッグ達をスライムポットの中に引きずり込んだところまでですね」
星夜は、スライムポットから飛び出して来た液状の何かを思い出しながら、ナイアルラトフォテップにそう答えた。
普通に考えれば、その何かはスライムポットに錬成したスライムに決まっている。しかし、星夜はその何かをスライムだとは断言出来なかった。
その理由は、まず動きが早過ぎた。一瞬のうちにスライムポットから出入りしていた為、姿がはっきりしなかったのだ。
次に、飛び出してきたものの形状だ。スライム達は水風船みたいな姿だったが、スライムポットから飛び出してきたのは不定形の液状のものだった。
ファンタジー系ではなく、リアル系の粘菌型スライムという感じで、路線変更したようなビジュアルになっていた。複数体のスライム達を錬成したせいでそうなってしまった可能性はあるが、やはり違和感があった。
最後に、最初とかぶるがその動きがスライムにしては早過ぎたことだ。
星夜の知っているスライムといえば、川の付近でポヨンポヨンと跳ね回っているスライム達だ。
とてもあんな高速で動くところが想像出来なかった。
【ふむ。あの新種の中身以外は全て見えていたようだな。それでは汝の為に少し解説でもしよう】
「解説ですか?」
【そうだ。汝も知りたいだろう、自分が錬成したものがああなった理由を?】
「それは・・・まあ、そうですね」
星夜は、躊躇いがちにナイアルラトフォテップに頷いた。
スライムポットがああなった理由は知りたいが、知るのが怖いというのが躊躇いの理由だ。
「それではまずは前提から話そう。あの新種は汝の錬成によって発生した。そしてその発生した新種の能力は、あくまでも錬成時材料となったスライム達と、スライムポットの能力と同じだ」
「そうなんですか?」
【そうだ。錬成されたことでたしかに能力の性能は向上しているが、別に新しい能力を得たというわけではない】
「じゃあ、そのスライム達が持っていた能力っていうのは、どんなのですか?」
【分裂に合体、スライム生成。あとは肉体の人間肉体器官への変換等だな】
「分裂と人体器官への変換というのはわかりますけど、合体というのは何なんです?」
星夜は、合体なんて能力がスライムやスライムポットにあるのか疑問に思った。分裂と人間器官変換の二つに関しては、本で読んだスライムの内容にあったので、その能力はあるものだと理解していた。スライム生成の方も、スライムポットがスライムを吐き出していたので、名称はともかくそういう能力があることは知っていた。が、合体なんて能力はスライムの内容には載っていなかったはずだし、スライムポットがそんな能力を持っているとは思えなかった。
【まあ、能力というか結果的にそうなるだけだからな】
「結果的にですか?」
【そうだ。スライムは全身を使って獲物を捕食する。その際、通常なら全ては消化吸収されるだけで終わる。ただ、その捕食した相手が同じ種類のスライムの場合、お互いの体液と核が重なり一つになる。この場合は合体ではなく融合か同化といった感じだな。そして、これを行うとスライムは合体した数に応じて強化される】
「強化されるんですか?」
【ああ。単純に体積などが増加する為、重量などが増すのだ。これにより、攻撃力の増加や防御力の向上が発生する。あとは肉体器官に変換出来る細胞の増加に、破損ヵ所を埋める細胞のストックが出来るから、スライムの生存率もぐっと向上する】
「かなりいろいろと強化されるんですね。けど、だったらなんであの辺りのスライム達は合体をしていないんです?あれだけの数がいたんですから、合体をしていればそれなりに強くなれたんじゃないですか?」
あの辺りでのスライムの扱いは、初心者ランクの冒険者が戦うような魔物だった。もしもその合体とやらをしていれば、スライムの危険度はもう少し上。下手をすれば危険種に指定されていたはずだ。けれど実際にはそうなっていない。なら、そこには何か理由があるんだろうと星夜は思った。
【それは我々の主の意向だ。いや、主の意向を請けた我々の仕業が正しいな】
「どういう意味です?」
【言葉通りだ。我々の方でスライムがむやみに合体しないようにスライム達にロックをかけている】
「なんでまたそんなことを?」
【少し前に言ったが、スライムで世界が一つ二つ滅ぼせるからだ。いや、今の言葉は訂正しよう。かつて実際にスライム達が合体を繰り返した結果、世界を滅ぼした前例があるのだ】
「えっ!?」
星夜は、前例があることに驚いた。
【あれは主が見ていた最初期の夢の世界でのことだった。ある一体のスライムが、他のスライムと合体を始めたのだ。最初は主も我々も取り立てて気にはしていなかった。だが、しばらくするとそんな場合ではなくなった。そのスライムは最初はスライム同士で合体を繰り返していたのだが、ある時からその対象が他の生物や物質にまで広がった。主と我々がそのスライムが何処に行き着くのか観察する為静観した結果、そのスライムは合体して取り込んだ全てを己に変え、星一つをスライムにしてしまったのだ】「星一つ丸ごとスライムになったんですか!?」
星夜は、星一つスライムになった光景を想像しようとした。が、途中で気持ち悪くなって想像するのは中止した。
【ああ。それと、この話には続きがある】
「星一つスライムになっているのに、続きがあるんですか?」
星夜は、全部スライムになった時点でその世界は終わっていると思っていた。
【それがあるのだ。星一つ取り込んでも、そのスライムの肥大化は停止することはなかった。やがて、そのスライムは宇宙の暗黒物質や他の星にまでその触手を伸ばし、一つの宇宙をスライム化する段階にまで到達した】
「宇宙をスライム化・・・」
星夜は、ナイアルラトフォテップの言葉に完全に思考が停止した。
【さらにまだ続きがある】
「まだ続くんですか!?」
星夜の頭は、もうショートしそうになっていた。
【安心しろ、これで最後だ。宇宙一つスライム化したもそのスライムは肥大化を続けた。そして、次元境界をも浸蝕。隣接していた異世界さえも自分の一部にしようとした。が、さすがにここまでくると静観なんてしていられないからな。主のお力でそのスライム化した世界は泡沫の夢よろしく弾けて消えた。その後、二度と同じことが起こらないように、その後のスライムにはロックがかけられたというわけだ】
「なるほど、そういうことですか。なら、あの新種のスライムポットは処分しないとマズイですよね」
ただスライムポットに移動能力を与えるだけのつもりが、えらいことになった上、せっかく取引をしたスライムポットを存在させているとマズイ状況。
星夜は、陰欝な気分になっていた。




