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夜に書いた言葉

作者: 矢積 公樹

若書きを繰り返した頃の姿を散文詩のかたちで短くまとめました。随筆ではなく詩としてまとめましたので言葉足らずはどうぞご容赦を。

 言葉が苦悩の蒸留液だった頃は夜しか書けなかったし、酒の力を借りていた。情熱という名の炎は無限と思えるほどの光を発して身を焦がしていたし、苦悩はそこら中にころがっていると思い込み、あちこちから探し出してきた。素材に困らないからいくらでも書けたし、書いてもかいても書き足らなかった。背伸びして買ったペリカンの万年筆でリングノートに書きなぐる。インクを補充するのももどかしく走り書きした詩の最後の連はいつも文字がかすれた。


 詩なり文学なりの形式にのっとって書くことが出来て満足してノートを閉じてもその3日後には二度と読み返す気になれないような代物ばかりだった。よく書けた、と首を縦に振った翌日に同じ本人が顔を手で覆って首を横に振る。どこまでも続くような調子はずれの一人語りの歌を、それでも唄わずにはいられず、酒を片手に書くようになってからはさらに加速した。といっても、より切実で赤裸々な言葉をつかみとるという勘違いがさらに進んだだけで、相変わらず残された文字が奏でる独善の乱調に耳が裂かれた。安物のレターパッドに書いていた頃は発作的にゴミ箱に叩きこんでしまい、数日後に激しく悔やんだ。同じ過ちを繰り返さないようなるべく高価で分厚いリングノートに書くようにしたが、救いようのないページを破り捨てる癖がつくとノートは見る間にやせ細っていった。


 やがて内なる炎が弱まり、耳の内側から聴こえる音がようやくまともなものになり、苦悩の定義が変わったことで素材がそう簡単に見つからなくなった。書きなぐりのノートはほこりをかぶって部屋の片隅に横たわり、ペリカンの万年筆はPCの側に転がっている。あの頃と同じ街に同じく独りで生きているが、歌はあの頃と同じではない。それが哀しくもあり、ただ、それ以上にごく自然なことであることも判ってきた。これからも見つけ、書き残すことが出来るだろうか。答はまだない。誰も知らないから探すしかない。いま、日々と言葉はそのためにある。

(了)

 敬愛する開高健には一生抜けなかった癖として「日本机にあぐらをかいて」「夜」「酒を飲みながら」でないと書けない、というのがあったそうで、それをもとにかつての自分を振り返り、自画像を描いてみました。

 それと、今の自分の身についた言葉で日常をつづるという目標を自らに課したことの宣言として残したいという思いもあります。こんな詩を書く奴にSFやファンタジーやメタを期待する読者は、まずいないでしょうから…

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