夢のマイホーム(土地買収)計画2
「キース、お前土地買わないか?」
「ジェドさん、どうしたんですか急に。投資の話とか押し売りには気をつけろって、この前来た時に口酸っぱくいってたじゃないですか。」
今日家を訪れているのは、40代後半くらいの、筋骨隆々で堀の深い整った顔をしている渋い感じのジェドというベテラン冒険者だ。
俺がまだ赤ん坊だった頃から両親と交流があり、基本的に森に引き篭もっている俺に世間での常識や外の世界の事を教えてくれる。
人間の言葉が流暢に話せない両親に変わって人間の言葉を俺に教えてくれたのもジェドさんだ。
それに、人間世界では俺はジェドさんの養子ということになっていて、役所にもそう届け出がされているので一応は俺の保護者である。
俺が人間の言葉をしゃべって、人間世界に戸籍を持っているのは両親の希望で、人間の体を持って生まれたからには、人間として生きてほしいということだった。
「まあそうなんだが。そもそもお前にそんな話をしたのは、今月でお前が15になるからだ。成人までは、あと3年あるが15になれば親からの独立も認められているし、土地も買えるし、契約だって結べるしな。」
「へぇ、俺でも土地買えるんですか?ジェドさんが勧めるんだったら買いますよー、幾らなんですか?」
あまり考える事もせずに、思った事を口にすれば何故か呆れられた。
テーブルに同席していた父も、ちょうどお茶を持ってきた母もちょっと難しい顔をしている。
うちの両親はこういうところが、ものすごく人間くさい。
「おまえは、どこの土地かも、理由も聞かずに買おうとするのか?俺はお前が将来がとってつもなく心配だぞ。」
「きーすも、せきにんある年になったんダカラ、そのジカクをもちなさい。アト、オカネのたいせつさについてはこれからちゃんとマナビナサイ。」
「ギ、ニンゲンのナカにはかなしいけどワルイヒトもいるのよ。きをつけないとイタイめミルわよ。」
お金の大切さを説くリザードマンに過去に人間と何があったのか世間の世知辛さを語るゴブリンの光景はたから見ればな可笑しく見えるだろうな。
普通のモンスターはそんな事喋れもしなければ考えてもいないだろう。
両親に何かしら秘密があるのはわかっているが、確かな事は俺が正真正銘、血のつながった2人の子供である事だ。
昔魔法で調べてもらったから確かだ。
それさえ分かっていれば、俺は両親に何も聞かない。2人も話したくないみたいだし。
「うん、ごめんなさい。お金とか人騙したりとか、人間世界って便利だけど、生きづらそうだよねー。ジェドさん、土地について詳しく聞いていいですか?」
「ああ、もちろんだ。まず、どこの土地かについてだが、購入を勧めてるのはここの北の森の土地だな。もう何百年前から売りには出てるが、呪いの森の土地を買おうなんて物好きもいないから、バカ安の値段で売ってんだ。」
「売りに出てるって事は、もしここの土地をだれか買って、その人が俺たち家族に出てけって言えば、森から追い出される事になるってことだよね。」
「ああ、そう言う事だ。逆にお前がここを買えば、冒険者の立ち入りを禁止する事だってできるってことだ。そうすれば、オヤジさんもお袋さんも、冒険者に襲われる事も無くなるぞ。」
「買う!!!!!!」
「ギ、キース。ちょっとオチツキなさい。」
思わず大声を上げて、立ち上がってしまったしまった所を母親に宥められるが、叫ばずには居られないだろう?
だって、冒険者の事は本当に悩んでいたのだ。下手すれば両親は殺されかねない。
人間世界ではリザードマンやゴブリンを殺すことは何の罪にもならないし、むしろ喜ばれる事に近いのだから。
「しかし、じぇどどの。ここはサリエルとのコッキョウふきんダガ、ホントウにウリにでてるノカ?」
「ああ、一応山脈を越えれば確かにサリエルだが、山脈は人の足で越えるには険しいしな。それにサリエル側の山脈の麓は幻覚作用のある濃霧が漂っているから、侵攻は不可能と思ってるんだろう。濃霧が発生する以前の大戦期には侵攻があったと聞くが。」
それから、ジェドさんと父は色々と難しい話をしていたが、俺の頭は土地の事でいっぱいだ。
土地ってどこ行けば買えるんだ?いやその前に貨幣なんて家にはあまり置いてないぞ。
何はともあれ夢のマイホーム計画(土地買収計画)始動である。