夢のマイホーム(土地買収)計画1
背の高い木々が生い茂り、頻繁に深い霧に覆われるアシュタル王国の北の森。
年中厚い雲がかかっている灰色の空にどこからか聞こえる不気味な鳥の鳴き声。
森の背後に広がるアシュタル王国と隣国のサリエル国まで連なる山脈は、ほとんどが草木の生えない真っ黒な岩石を主成分としているため無機質で荒んだ印象を与える。
また、500年前、アシュタルとサリエルが戦争をしていた大戦期には、国境を面しているこの辺は激戦地であった可能性が高いというのも不気味さに拍車をかけている。
「暗く不気味な怖ろしい呪われた地」それがこの国における北の森の一般的な認識である。
そのため、北の森には魔女が住むだとか強い化け物が住んでるだとか色々な伝承があるが、実際にはそこまで強いモンスターはいないし、森に住むのはおとなしい草食動物が主で、他の森に比べたらとても安全である。古戦場と言われているが、不思議なことにアンデットの類もここにはいないのだ。
とはいえ、気味が悪いことには違いないが。
そんな、呪いの森とも呼ばれる北の森に俺の家はある。
家族3人がちょうど余裕を持って暮らせる木造りの暖かみのある家で、綺麗好きの母がきちんと手入れをしているので、とても快適で過ごしやすい。
なぜこんな辺鄙な場所に居を構えているかと言うと、理由は簡単。両親がモンスターだからだ。
ちなみに母がゴブリンで父がリザードマン。そして俺は人間だ。
モンスターといっても父と母は文字の読み書きもできるし、やたらに知識が豊富だ。母は手芸や工芸が得意で父はリザードマンながら剣術を嗜んでおり、普通の森にいるようなモンスターとは全く別物と言ってもいいだろう。
母はゴブリンにしては、美人なほうだと思う。皮膚は緑で背も小さくやっぱりゴブリンの域を出ることはないけど、他のゴブリンに比べるとスリムでお腹も出てないし、なにより綺麗好きで、いつも綺麗に結っている金色の髪と目の色がとてもきれいだ。
父はというと、人間の目から見てもかっこいいと思う。
整った顔に、細マッチョな引き締まった身体と光り輝く青い鱗。その立派な姿はリザードマンっていうかもはやドラゴンと言ったほうがしっくりくる。
北の森は不気味だが、危険な動植物は少ない上に豊かな資源に恵まれた森で家族三人なら飢えることもなく自給自足の生活が可能なのだ。
唯一危険があるとすれば、冒険者くらいだろう。
北の森には強いモンスターもいなければ、豊かとはいえどここだけに自生しているようなレアな植物も鉱物もない。
それでもまれに冒険者はやってくる。
俺の両親といえども一応はモンスターだから、冒険者に襲われる事があるのだ。
父は無茶苦茶に強いのであまり心配はしてはないが、問題は母だ。母はあまり強くはない。
うちの両親は人を襲うことは絶対しないのに、全くひどい話である。
一度、両親守るために俺が徹底位的に冒険者を追い返したことがあり、北の森に強力な魔物が出現したと勘違いしたのか、冒険者ギルドに俺の討伐依頼が出たと聞いた時は焦った。
強者冒険者が続々とやってきてしまい、追い返すのは中々骨が折れる作業だった。
それ以降は、無理に冒険者を追い返すことはせず、できるだけ友好関係が築けるように努力している。何事も平和が一番だ。
中には、仲良くなって時々顔を見せに来る冒険者もいて、今日もそんな冒険者の一人が我が家を訪れていた。