キャラ設定をしよう③
初くん:小説を書いてみたい少年
文ちゃん:書き方を教えてくれる少女
「それではキャラ設定3話目を始めるわ」
「うん」
「今回は敵キャラね。実はこれが一番大変よ」
「それはなんとなく分かるよ」
「へぇ、初くんにしては察しがいいわね。どうしてか聞いても大丈夫かしら?」
「うんまぁ、何て言うか……そもそも主人公とヒロインの設定が簡単に決まりすぎだよね」
「そうね。大して考えてないものね」
「うん、だからそれ以上簡単ってことはないんだろうなーって」
「まぁ、そうね。概ね合ってるわ。でも、勘違いしないで」
「ツンデレ?」
「勝手に萌え属性を付加しないでちょうだい。そもそも私はツン10デレ0よ」
「デレないの!?」
「デレないわ。少なくとも初くんには」
「その情報は聞きたくなかった」
「聞こうが聞くまいが事実は変わらないけどね。まぁ、そんな事はどうでもいいのよ」
「どうでも……」
「悪役を作る場合でも、2つのパターンから考えるわ」
「主人公とヒロインと同じなんだね」
「ええ。主要キャラっていうのはね、分かりやすい方がいいのよ」
「なるほど」
「で、だけど。悪役、今回は魔王ね。これは、徹底的に悪いやつか、良きライバルにするかよ」
「どういうこと?」
「まず悪いやつね。これはこちら側、つまり人間に対して冷酷で非情で悪辣なヤツよ。こういう魔王は倒してスッキリするのがいいわね。ただ、キャラに深みは出にくいわ」
「ふむふむ」
「次にライバル的なヤツね。これは、倒すべき目標と言い換えてもいいわ」
「目標?」
「そうよ。主人公が自分のために倒すべき、超えるべき相手よ。この場合、魅力的なキャラにしないといけないわ」
「え、敵なのに?」
「そうよ。魅力的な敵だからこそ、主人公が苦労して倒してカタルシスを得ることが出来るのよ」
「カタルシス?」
「なんかこう、気持ちいいー! ってことよ」
「あぁ、なるほど」
「ライバルにするなら、いいところばっか盛り込んだらいいわ。人間を滅ぼすにも、何かどうしようもない理由があるといいわね」
「どうしようもない理由?」
「そう。例えば、人間に迫害されている魔族を助けるためとか。他には侵略を始めたのが実は人間側で魔王は抵抗してるだけとか」
「そうすると、逆に人間が悪いみたいだね」
「悪いことに反抗するっていうのは、擁護の対象になりやすいから。魔王に好印象を持たせやすくなるわ」
「そうだね」
「初くんはどっちにするの?」
「うーん、ライバルの方がカッコいいからそっちにしたいなぁ」
「分かったわ。じゃあそうしましょ。なら、魔王は何で人間と戦ってる事にする?」
「うん、ちょっと考えたんだけど」
「なに?」
「こっちも主人公と同じように異世界召喚された人間で、あっちはあっちで自分達の平和のために戦ってるってどうかな?」
「そうね、ベタだけどいいと思うわ」
「あれ、ベタかな? 個人的には中々奇抜なアイデアだと思ったんだけど」
「確かに変化球にはなってるわね。ただ、ちょっと言いにくいのだけれど、誰も考えたことのないようなアイデアというのは相当難しいわ」
「どういうこと?」
「有史以来、人間は様々な物語を生み出してきたわ。それは何億……いえ、それ以上かもしれない。そんな中で、誰も考えたことのないアイデアというのは本当に難しいことよ」
「そうなんだ……」
「でも、気落ちすることはないわ。確かにアイデアは出し尽くされているけれど、一番大事なのは、それをどう描くかなのよ。それこそが個性なの」
「個性……」
「似たような話でも、書く人が違えばそれはもう別物になるわ。当たり前よね。知識も人格も経験も何もかもが違うのなら、表現や伝えたいことだって違う」
「うん」
「もちろん、あからさまに既存の作品の内容を模写するのは駄目だけれどね。でも、貴方が紡いだ物語はそれだけで貴方だけの、世界で唯一無二の作品になるわ」
「そっか」
「ええ。だから安心して初くんの妄想を世界に公開しなさい」
「良いこと言ってたのに台無しだ!」