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地の文「三人称①」

(うい)くん:小説を書いてみたい少年

(あや)ちゃん:書き方を教えてくれる少女




「では三人称の地の文にいきましょう。今回も地の文ありでいくわね。もちろん三人称よ」


「うん」


放課後、誰もいない教室で文と初は机を挟んで向かい合っていた。男女がこうしていると、青春という言葉が思い起こされるが、残念ながら二人の間に流れるのはそんな甘酸っぱい空気ではなかった。


「これでは言いきりの形にしてあるけれど、ですます調━━丁寧口調でもいいわ」


「へぇ、そうなんだ」


文の言葉に、初は素直に頷きました。例え嘘が混じっていても全てを信じてしまうんじゃないかと思うほどに、彼の瞳には濁りがありません。もちろん、彼女が嘘を付いているわけではありませんが。


「とまぁ、こんな感じね。どうかしら?」


「うん、なんだか丁寧口調の方が慇懃無礼(いんぎんぶれい)な印象を受けたよ。なんでだろ?」


「それは作者の性格のせいだと思うけれど……でもそうね、そうかもしれないわね」


文ちゃんも慇懃無礼(そういうところ)あるよね、そう思いながらも初はその言葉を飲み込んだ。


「これがさっき言ってた、登場人物の心情を書ける、という事ね」


「いやいやいや、何で読んでるのさ! そ、そんな事思ってないからね!」


「いいわよ別に。そうしてるのはわざとだし」


「文ちゃんの性格も作者の事言える程じゃないね!」


初のツッコミの声が教室内に響き渡りました。普段なら教室中の皆が振り向くところですが、幸いにして今は放課後で誰もいません。彼のツッコミは静まり返った校舎に、誰にも聞かれることなく吸い込まれていきました。


「三人称は別名『神の視点』と言われているの」


「神の視点? 神様が語ってるの?」


「まぁそういう事ね。その場にいない第三者の視点、俯瞰(ふかん)している誰かの視点、そういう視点での語りになるから」


「へぇ」


「神様だから、登場人物の心情も分かるし、場所が飛んでも、同じように語り続けられるわ」


「へぇ」


「あとはスピード感が出しやすいから、バトルものを書くなら実はこっちの方がいいわ」


「そうなの?」


「ええ。語り手の心情とか関係なしに事実を書き連ねられるから、余計な描写が無くて済むのよ」


「何かいいところだらけに聞こえるけど、やっぱりデメリットはあるの?」


「もちろんあるわ。例えば嘘を付けない、とかね」


「嘘を付けない?」


「一人称だと、誤情報を出せるけど、三人称でそれは許されないわ。絶対に間違った事を騙ってはいけないの」


「なんで?」


「小説としての体が成り立たなくなるからよ。あれもこれも嘘じゃ読者が混乱するもの」


「なるほどなぁ」


「ただ、お茶を濁すのはありよ」


「どういうこと?」


「嘘は付かずに、あえて情報を全部言わないとかね。いま、私たちは放課後の教室で机に座って話しているわね」


「そうだね。地の文にもそう書かれてるし」


「けれど、私たちが生徒だなんて一言も言ってないわね」


「そうだね。……あれ?」


「そう、私が教師で初くんが生徒であっても、おそらく読者は前出の情報で、二人共生徒だと思い込んでいるでしょうね」


「ほんとだ!」


「これが情報をあえて全部出さないことで、読者を勘違いさせる手法よ」


「へぇ、凄いね」


「上手く使えば読者をビックリさせる事が出来るけれど、使い所が難しいから、あまり安易には使わないでね」


「うん、正直使いこなせる気はしないよ」


「初くんだものね」


「まるで僕そのものが原因みたいに!」


「そして次のデメリットだけれど」


「やっぱりスルーなんだね」


初が叫ぶようにツッコミを入れた。


「一人称と逆で、主人公に感情移入しにくいわね。あくまで第三者の視点だから、客観的な見方になるのよ」


「そっか、確かにそんな感じするね」


「まぁ、何にでも言える事なんだけど、メリットは裏を返せばそのままデメリットになるわ。覚えておきなさいな」


「はーい」


「とりあえず今回はここまで。次回はまた三人称についてね」


「じゃあまたねー」


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