オトシモノ
長らく小説を書いていなかったので、リハビリのつもりで書いた短編ものです。
ある日の学校の帰り道。
「ねぇ、これ君の?」
優しい声に振り返ると、そこには同じ学校の制服を着た男がいた。
そしてその手には、私が大事にしていたキーホルダーがあった。
「……あ!それ私の…!」
慌てて自分の鞄を見ると、付けていたはずのキーホルダーがいつの間にか無くなっていた。
「落としてたんだ…。ありがとう」
私がホッとした笑顔でキーホルダーを受け取ると、男の人はとても爽やかな笑顔で
「いいえ、どういたしまして。それ、綺麗だね」
と、キーホルダーを褒めてくれた。
「ふふっ、でしょ?友達が誕生日のプレゼントにくれたの」
友達がくれた猫のキーホルダーには、キラキラした飾り付けがしてあった。
「へぇ…、いいな。俺も欲しいくらい」
「だめよ、これは私がもらったんだから」
「ふは、わかってるよ」
そんなふうに話をした後、彼はバイトがあるからと言って去って行った。
また、ある時。
次の授業へと向かう途中、廊下で突然男の人に声を掛けられた。
「はい…?」
振り返ると、そこには以前キーホルダーを拾ってくれた人の姿が。
「あ、君だったんだ。ほら、シャーペン落としたよ」
可笑しそうに笑いながら、シャーペンを渡してくれた彼。
2回も落し物を拾われるなんて、思ってもみなかった。
「あ、ありがとう…」
私は恥ずかしさと気まずさで、頭を下げると慌てて教室に行った。
そして、またある時。
トイレに行っていた私は授業に遅刻しそうになり、小走りで教室に向かっていた。
曲がり角を行こうとしたその瞬間、
「ねぇ!」
と大きな声で呼び止められた。
その声には聞き覚えがある。
「…やっぱり」
これで会うのは3回目。
彼を見ると、苦笑いをしてしまう。
「ハンカチ、落としたよ」
そう言ってハンカチを手渡す彼の手は、プルプルと震えていた。
「……なに笑ってるのよ」
私がむすっとした表情で尋ねると、彼は声を出して笑い始めた。
「だって…、まさかここにきて『ハンカチ落としましたよ』っていうセリフを俺が言うなんて思わなくて…。どっかの少女漫画かっつーの」
あはははっと、彼の笑い声が廊下に響く。
「もう、そんなに笑わなくたっていいのに…。落としたものはしょうがないじゃない」
拗ねるようにしゃがむと、彼は私と目線を合わせるように座り込んだ。
そして、
「名前、教えてくれますか…?」
と言った。
彼の問いかけに、私は笑顔で答えた。
…――小さな恋の始まり――…
「…あ!授業!!」
「え、今さら?」
~Fin.~