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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
第一部:煉獄龍戦
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強襲×迎撃②

 アレスが幼竜を撃退する数十分前。レナードはイシュガルの外円部にてバリスタや大砲等の対竜迎撃用設備を次々と破壊している煉獄龍・成竜へと向かっていた。

 重量級の全身鎧フルプレートメイルを装備しているのにもかかわらず、風のように疾走するレナードは成竜へと向かう冒険者達を次々に追い越す。


「7、いや8割方破壊されてしまっているな」


 成竜に破壊され煙を上げている対竜迎撃装備の数々に眼を走らせながら唸るように呟く。

現在、成竜によって破壊されたバリスタや大砲等の設備に加え、見張り台用のやぐら等も大半が破壊され原形をとどめていない状態だった。

 それでも冒険者や滅龍騎士団ドラゴンスレイヤーは己の武器を掲げ、成竜へと戦いを挑むが、幼竜よりも遥かに太い胴体に長い尻尾、巨大な翼と堅い甲殻と皮膚を併せ持った30メートル近くある成竜にはまるで歯が立っていなかった。

 そして今もなお、遠くからは大音量の成竜の咆哮が聞こえてきていた。


「劣勢か、急がねば」


 成竜まで残り数Km。成竜へと急ぐレナードの遥か先では、冒険者と滅龍騎士団の混成部隊が熾烈な戦いを繰り広げていた。

 ある者は地上から少しでも柔らかい部位が無いかを探り探り攻撃し、ある者は半壊した建物ややぐらの上から成竜の翼をそぎ落とそうと重量級の大剣等を振りかざし飛び降りながら攻撃を行っていた。


「槍部隊前へ!成竜を街へ近づけさせるな!」


 冒険者の中から己が得意とする得物事の混成部隊を作り、指揮をしている男が槍部隊へと命令する。

槍部隊はその長身な槍を片手に持ち、もう片方の手に大型の盾を用い、街の中枢へと続く街道を守るよう、成竜を包み込むように配置されていた。

 成竜の爪による攻撃をその大盾を使い防ぎ、槍を使って突くといった攻防が行われていた。


「弓部隊!槍部隊が下がった瞬間に放て!狙いは任せる!間違っても味方に当てるんじゃねえぞ!」


 軽装な装備を身に纏った弓部隊が偶に飛んでくる火炎弾を避けつつ、槍部隊が成竜を突き終わり大盾を構えて成竜の攻撃に備える準備が整ったのを確認すると同時に矢を放つ。

放たれた数々の矢が成竜へと飛来するも成竜の強靭な体には傷一つつかなかった。


「ちっ、やっぱ属性付加されてない矢なんぞ効かんか・・・」


 弓部隊の結果に毒づく指揮者の男、イシュガルのギルドマスターを任されているガゼルは身の丈ほどもある巨大な肉叩きのような形をしたハンマーを肩に担ぎながらそう言った。

 煉獄龍が飛来した情報を見張りの兵からいち早く通達されていたガゼルは過去の煉獄龍戦の経験もあり、冒険者や滅龍騎士団達の指揮を任されていた。

 しかし、前回と違い迎撃設備を破壊され万全の態勢を整えていない現状では成竜を相手取るには厳しい者があった。


「やはり俺が直接、るしかねえか・・・」


 そう言うとガゼルは自身の隣に控えていたギルドの受付嬢(もっとも現在は全身に鎧を身に纏い完全な戦闘態勢だが)に指揮を任せ成竜へと向かって行く。

 戦闘指揮を任された受付嬢・・・ミレイは声を張り上げ指揮を開始する。


「弓部隊は攻撃が効かなくとも牽制の為、弓を放ち続けてください!ただし戦闘部隊が取り付いた際は即止めるように!」


「そして槍部隊!ガゼルさんが向かいます!隊列を維持し待機!降下部隊は建物上にて待機。いつでも降下出来るように!」


 各部隊に指示を出し終わるのとガゼルが成竜との戦闘を開始したのはほぼ同時だった。

 弓部隊の矢を煩わしそうにしている成竜の後方に回り込んでいたガゼルがハンマーを成竜の腹にフルスイングする。


「おら!」


 完璧な動作で決まった横殴りのフルスイングが成竜の腹に当たり、何かを潰すようなミシミシといった音が成竜から出る。

 成竜がその痛みにうめき声を上げた時、ガゼルのハンマーが突如爆発した。これはガゼルの使用したハンマー用のスキルである【インパクトアウト】の効果だった。

 これは対象の急所に攻撃を命中させると対象に接している面が爆発し炎属性の追加ダメージを与える事が出来るスキルだった。


「やはり切るより叩いた方が効くか」


 爆発の威力により悶絶もんぜつしている成竜から一旦距離を取り次の攻撃へのイメージを膨らませながらガゼルが呟く。


「だが、ハンマー持ちは数が少ないからな・・・つか俺だけか。仕方ねえ」


 再度ハンマーを担ぎ成竜へと接近する。が、成竜の眼はガゼルをしっかりと捉え怒りの炎を燃やしていた。

 成竜が大きく息を吸い込み火炎弾を複数繰り出す。ガゼルはそれを左右に避けながら接近し今度は上から振り落とす。振り下ろしたハンマーが堅い甲殻を砕き鱗が辺りに散らばる。

 苦悶の表情を浮かべる成竜だが、鶏のようなくちばしをカチカチと鳴らし始めた。


(なんだ?こんな動作知らんぞ)


 初めて見る動作に危機感を募らせるも叩いた胴体から離れ後ろ足の方へとガゼルは陣取る。

 ガゼルが再度ハンマーを振りかがそうとした時、周囲に風が起った。

成竜が翼を羽ばたかせ宙に舞ったのだ。舞ったといっても5Mも浮いていないが成竜にはそれで十分だった。


 成竜が大きく口を開き、大音量の咆哮を上げる。そのあまりの音量にその場にいた全員が耳を塞ぎ思わずしゃがみ込む。そしてその最中、成竜の口から高温度の炎のブレスが吐きだされる。

吐きだされたブレスはガゼルだけでなく成竜の周囲を取り囲んでいた槍部隊をも巻き込む。

高温度のブレスに曝されたガゼル達はその熱風により肺や気管支が焼かれ、呼吸がろくに出来ず全身は炎に包まれ重度の火傷を負っていた。


 (しくじった!息が出来ねえ。体は・・・なんとかなるか)


 重度の火傷により地面をひたすら転がって火を消したガゼルはなんとか立ち上がるも、上手く体に力が入らない。さらにハンマーを拾うも、全体が熱された所為で高熱を放っており、柄を握った手は肉が焼ける嫌な音と臭いが充満する。


(ぐぅ、まだだ、まだやれる)


 火傷した両手でハンマーを持ち、ヒューヒューと空気を必死に息を吸いながらガゼルは成竜を睨む。

地面へと降り立った成竜は地面に横たわった槍部隊をその長い尻尾を振り薙ぎ払う。


「弓部隊!槍部隊の回収急げ!降下部隊はその間の援護を!」


 ミレイが必死に指揮を執るも、先程の光景を目にしたばかりの部隊は自分達が助けに近づいた際、また同じブレスを吐かれるのではないか?としり込みしてしまい中々行動出来ずにいた。

 そんな中、立ち上がったガゼルを見定めた成竜は動けなくなった槍部隊に見切りをつけ、視線をガゼルに移す。

 そして息を吸い込み火炎弾を吐く構えを取る。


(回避しねえと!動けぇ!)


 成竜が吐きだした火炎弾を転がりながら回避するも運悪く転がった先にあった瓦礫がれきに当たり止まってしまう。そこに最後の火炎弾が接近する。


「っギルマス!」


 ミレイが悲鳴を上げ、接近する火炎弾にガゼルは咄嗟にハンマーを盾代わりに自身の前に構える。

火炎弾はハンマーに命中しガゼルの手から弾き飛ばされる。それを見た成竜は大きく眼を見開き、カチカチと嘴を鳴らし始めた。


(やろう・・・またやる気か!)


 身動きの取れないガゼル。恐怖で動けない冒険者。指揮する事を放り出し、ガゼルを助けにミレイが走るもその距離は開きがあり過ぎてとても間に合いそうになかった。


「誰かギルマスを!誰か!誰かお父さんを助けて!」


 走りながら、泣きながら助けを求めるもその声に応じる者は誰もいなかった。


 とある二人組を除いては・・・。


「ハッ!」


 疾風の風を纏った黒い影がミレイの直ぐ傍を通過し成竜へと向かって行く。

 その影は今まさに吐き出そうと口を大きく開いた成竜のあごを布で隠された大剣の背を使い思いっきり打ったたく。

 その余りの衝撃に成竜は思わず口を閉じ、そこに竜の内部機関であり、ブレスや火炎弾を吐く元、火炎袋から放たれたブレスがブチ当たり成竜の口の中に拡散する。

 吐き放たれるはずだったブレスが容赦なく成竜の口内を焼き尽くす。竜の火を放つための気管と呼吸したり食道へと続く気管は違うため、口内から内部へと出戻るブレスによる炎はそれらの気管を焼き、成竜の内部へとダメージを蓄積させる。

 さらに雷を纏った影がガゼルへと接近しガゼルを抱きかかえ大きくバックステップしミレイの直ぐ近くへと着地した。

 ミレイがその顔を確認すると数日前にレナードと一緒に冒険者ギルドを訪ねて来た、少し青みかかったショートカットの黒髪をした一見すると美少女に思える清廉な顔立ちをした子。アレスだった。


「あ、あの・・・」


 黒いコートを身にまとい、腕には銀色の籠手ガントレットを身につけ、先日見たときと別人のような動きを見せたアレスに話しかけるのがためらっていたミレイだったが、アレスの腕に抱かれたガゼルを見ると「父さん!」とすぐそばまで駆け寄ってきた。


「父さんを助けてくれてありがとうございます」


「父さん?君は・・・あっ受付嬢の・・・」


「はい。ミレイと申します」


「そう、娘さんが居たのか・・・。そういえば回復アイテム持ってるかな?余りガゼルさんの状態が芳しくない」


「は、はい!でしたらこれを」


 そう言いミレイはポーチから回復用のポーションを取り出しガゼルに飲ませる。多少せき込みながらもガゼルはそれを呑みこみ、HPが若干回復する。

 しかし、それだけでは衰弱したガゼルや槍部隊を回復させるには足りなかった。

 先程成竜のブレスを封じた黒い影・・・レナードによる手痛い攻撃を受けた成竜がそのダメージにより動きが止まったチャンスを生かし、ダメージの負っていない部隊が槍部隊を救出。回復を行っているが、その絶対数が足らず回復量は微弱だった。


「MP・・・今ならギリギリか・・・。対象、選択、効果範囲よし。エリアヒール!」


 アレスが魔法を唱えると身に纏っていた身体強化が切れ、バチバチとした雷が無くなる。

そして辺り一帯に緑色の魔法陣が広がりガゼルや槍部隊の面々に眼に見えた回復効果が表れ始めた。


「こ、これは・・・?」


「範囲回復魔法のエリアヒールです。一帯のけが人は回復しているはずです」


 アレスが先程使用したスキル【エリアヒール】は中級魔法に位置する。付与術師エンチャンターや魔法使い《マジックキャスター》等が覚えられるスキルで自身で設定したエリアの大きさに応じて消費するMPが変動しスキルレベルが上昇することにより既定量回復後も徐々に回復する追加効果等が付く回復魔法だ。残念ながらまだスキルレベルが1の為、回復しか出来なかったが十分な効果をもたらしていた。


「これで暫くは保つはずです。あとは頼みます」


 そういうとアレスは成竜と対峙しているレナードへと向かって行く。


「お待たせしました」


 成竜とにらみ合っているレナードの隣へとコートをなびかせながら合流したアレスがレナードに告げ、腰の右側につけた緑色の本と反対側に差された雷剣ペルクナスの鞘へ手をかける。


「来たか。む?少しの間に成長したようだな?」


「やっと覚悟が決まった・・・ってところですかね」 


 苦笑いしながらそう答えるアレス。その眼光には確かな覚悟が宿っており、成竜を見据えていた。


「申し訳ありませんが、MP・・・魔力が無くなって魔法が使えません。援護に回ります!」


「了解した。では撹乱は任せるぞ!」


「はい!」


 数M先の成竜がその巨体を震わせ首を上げ二人の敵対者を見据え咆哮を上げる。

ビリビリとした威圧感を肌に感じながら二人は得物を抜き放ち成竜へと対峙する。


「戦闘開始だ!」 


 


 

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