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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
第一部:煉獄龍戦
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未開の地へ

 久世が目を覚ますと見知らぬ天井だった。

起き上がり、辺りを見渡すと石造りの個室のベットに寝かされていたようで、入口付近に木の椅子に座って腕を組んでいる全身鎧フルプレートの男が目に入った。


「あ、あの?」


 久世が声をかけると頭を下げていた全身鎧の男の頭がハッと持ちあがり久世の方に視線を向ける。

 どうやら久世を見守っているうちに寝てしまっていたらしい。


「む、どうやら目が覚めたようだな。体の方は大丈夫か?」


 全身鎧の男が久世に話しかけてくる。


(あれ?ジャンヌを召喚したつもりだったんだけど、別のやつ召喚しちゃったのかな?でも見覚え無いんだよな・・・でも、傷治ってるしな、どういうことだ?)


 ジャンヌを召喚し自分の回復と煉獄龍の撃退を無事終え、目が覚めた時はジャンヌが介抱してくれるだろうと考えていた久世は現実との食い違いに頭が混乱するも全身鎧の男に答える。


「え、ええ。ところであなたは・・・?」


「私はレナードと言う者だ。ジャンヌという女性に頼まれてな、貴殿を安全な街まで連れて行ってほしいと。それでこの街、イシュガルまで運んできたというわけだ」


(イシュガル?そんな国あったか?もしかして地球じゃない別サーバー?情報収集が必要だな)


「そうだったんですか。ありがとうございました」


 久世がレナードに頭を下げると「礼を言われるほどの事はしていない」と手で制され、この辺りの情報について話してくれた。


 レナードの話によると最初、久世が飛ばされた場所はイシュガルと呼ばれる国に存在するフォレストガーデンとよばれる迷いの森とのことだった。


 人が住むには多種多様なモンスターが多く生息し、森の大木の殆どがトレントと呼ばれる木の形をしたモンスターであり、人を襲うことはめったにないが集団で移動する習性を持つため、トレントの大移動による大規模な地形変化が数日に一度の割合で起こるこの森林では、よほど森やモンスターに熟知した人物で無いと生きて帰ることは困難だという話であった。

 そんなフォレストガーデンに住むモンスターが大挙をあげてキャンプ(イシュガルを含む国家には首都が存在するだけで街より小さい集落、村に相当する場所はキャンプと呼ばれる)に攻め込み、食料を奪っていく事件が発生していた。


「おそらく原因は先程の幼竜に棲家を奪われたモンスターが、居場所や食料を求めて人間の町に進出してきたといったところだろう」


 レナードは今回の依頼内容に対する原因が、森の痕跡や発見されたモンスターの死骸等から、他所から来たなんらかの上位モンスターが森を荒らしていると突き止め探索を行っていた。

 そしてその探索中に竜の咆哮を聞きつけたレナードがジャンヌと久世を偶然発見し駆けつけた次第であった。


 森林を伐採され、そこに住んでいた猿等が街に下りてきて食料を奪っていくようなものかと久世は考えた。 


「なるほど、そうだったんですか」


 久世が納得したように呟き、会話を続ける。


「・・・以上がこの辺りの説明になる何か質問はあるか?」


 レナードが簡単に周辺の状況を説明し終わり久世に疑問点が無いか問いかける。


「いえ、今のところは・・・。あ!いや、何点か・・・」


「ん?答えられる範囲だったらお答えしよう」


「はい、ええと・・・」


 アレスはここがサバイバルサイドとどの程度の違いがあるのかをレナードに尋ねた。魔法やスキルの概念や使用するMP、レベル等NPCにはないであろう事柄まで。

その結果分かった事は、NPCにはレベルの概念は無く、モンスターを倒したり家事をしていたりすると不思議な事に体が軽くなり行っていた動作がスムーズになったり、新たな技を思いつくのだそうだ。

さらに、スキルの事は技や戦技アーツと呼ばれていることや魔法の概念はあるがMPの概念は無く、己の決められた魔力量に応じて魔法が使える等の事がわかった。


(なるほど。現実世界だってレベルなんて無いしMPなんて形の無い物は分からないようにしているのか)


 アレスがレナードの答えに大まかな推察を終えると、今後の活動に対する方針を決める。


「幼竜を狩ったということはもうこの国のギルドに報告しに行くんですか?」


「ああ、森林を騒がせていた原因はあいつでほぼ間違いないだろうからな。一旦ギルドへ報告に戻るつもりだ」


「そうですか・・・じゃあ差し支えなければ、俺も一緒に連れて行ってもらえませんか?」


「君をかね?」レナードが首を傾げた。


「はい、実は家を先程の竜に焼かれましてね。帰るところがないんです。元々、いろんな場所を巡って冒険しようと思っていたところですし、こう見えても俺、魔法使えるんですよ?」


「ほう、魔法を・・・いや、そうは言われてもな。私は荒事専門の冒険者だ。確かに色んな国をまたいでクエストをこなす身だから私に付いて来れば旅もしやすかろう・・・しかし危険は伴う。場合によっては命を落とす危険性もあるのだぞ・・・?」


 レナードは久世にさとすようにに語りかける。

 久世も自分のレベルの低さを実感しているし、先程の戦闘で負傷することへの恐怖が刷り込まれている。

一緒に行きたいと猛烈にアピールするのは、自分一人での戦闘を極力避けたい思いと召喚はいくつもの制限があるため不用意に使えないという理由があった。

しばらくその問答が繰り返しているとレナードの視線が時折久世の後ろにある机に向いていることに気づいた。


「ん?」と疑問に思い後ろを振り返ると、久世の所有品が置かれていた。

 携帯、サイフ、音楽プレイヤー等、久世が転送される前に所持していた物がそのまま再現され所有品欄に表示されていた。

レナードの視線を追うと携帯・・・についている猫のストラップに視線が向かっている事に気付いた。


「レナードさん、ニャンニャン先生分かるんですか?」


 久世は机から携帯を取り、ニャンニャン先生のぬいぐるみを掴むとレナードに見せた。

ニャンニャン先生とは現実世界で大昔に流行ったアニメの中に出てくる猫のストラップだ。

少し前から大昔のアニメが大量にリメイクされ、放映されていたのを見ていた久世がゲームセンターで取った物だった。

秋目友人禄あきめゆうじんろくだったかな、レナードさん・・・興味アリとみた!)


「い、いや、知らん。奇怪な猫の置物だったからな・・・少しばかり見ていただけだ」


 明らかに動揺を見せるレナード。しかし目線はストラップから外さない。


「もしレナードさんが引き受けてくだされば、このストラップ差し上げますよ?」


 「えっ?」その言葉にさらなる動揺を隠せないレナード。さらに久世はたたみかける。


「いま即決していただければ、もれなくこちらの色違いストラップもプレゼント!!」


 と、同じニャンニャン先生のストラップ黒色バージョンを見せる。

 レナードの目がヘルムの奥で光った・・・気がした。


「む・・・そうだな、その愛らし・・・んん!

奇妙なすとらっぷ?とやらは全く興味は無いが、そこまで熱心に申し込まれては致し方あるまい。同行を許可しよう」


 言うや否やストラップをひったくるレナード。(よほど欲しかったんだなあ)とこの場にあるニャンニャン先生に感謝しつつ久世は話を再開する。


「では、まずこの国の案内からお願いできますか?あと、申し遅れましたが俺の名前はアレスと申します」


 久世改めアレス(アレスは久世のNPC名であるアンタレスの略称である)はレナードに頭を下げる。


「ああ、こちらもよろしく頼む。ではまず支度をして外に出よう。一先ずイシュガルから説明しなければな。


 首都イシュガルはフォレストガーデンから北に進み広大な平野を抜けた先にある山脈に存在する城塞都市である。

断崖絶壁に建てられ、巨大な城壁によって囲まれている。

全ての建物が石作りで出来ており、長年周辺の山々から飛来するドラゴンの群れに対抗すべく大きな見張り台やバリスタや大砲が設置されたやぐらが見渡せる。

街は入口の門から数Km程緩やかな坂道となっており坂の左右に平屋の建物が並んでおり、奥に行くほど高い塔のような建物が見られる。

 これは入口付近が身分の低いもの、頂上付近に近づくほど高位な身分の者が住まう土地であるイシュガルの身分制度を表していた。


 そんなイシュガルに存在する冒険者ギルドは街の中央付近に位置しており、4階建てのビルのような建物だった。


「ここがイシュガルに存在する冒険者ギルドだ」


「へえ、なんかもっと豪華な建物だと思ってました」


 アレスが居た宿から徒歩で辿り着いた冒険者ギルドを前にゲームや漫画で見た事のあるギルドを思い浮かべつつそう言うと


「土地柄もあるが、ここはつい数年前に新たに設立されたギルドなのだよ。イシュガルでは冒険者はあまり好まれていなくてな・・・このような質素な作りになったらしい。

作られた経緯は昔、ドラゴン達が街中まで襲ってきた際に追い払った冒険者の活躍の功績によるものらしい」


「そうなんですか・・・てか、こんな中までドラゴン来るんスか!?」


 アレスが驚いたように突っ込みを入れる。レナードは肩をすくめながら遥か遠くにそびえ立つ山々を指差した。


「今から数十年前まであの山々は煉獄龍インフェルノ・ドラゴンという非常に気性の荒いドラゴン達の巣だったんだよ。君を襲っていたドラゴンもこいつになるな、っと、話を戻そう。

当時度々、各国家を結ぶ飛空挺がその竜に襲われる事件は多発していた時期があったらしく、当時、その事態を重く見た他国家の冒険者ギルドが精鋭の冒険者をイシュガルに派遣したらしいのだが、イシュガルには滅龍騎士ドラゴンスレイヤーと呼ばれる一団があり、代々竜から国を守っていたんだが、その連中が冒険者の助けなどいらないと断ってしまったらしいんだ。

それに気を悪くした一部の冒険者が煉獄龍インフェルノ・ドラゴンを狩りに独断で山に向かい返り討ちにあったらしい。

それで終われば話は簡単だったのだが、激昂げっこうした煉獄龍インフェルノ・ドラゴン達がイシュガルに押し寄せてきてしまってな、街を焼き払ったそうだ、その際に当時、英雄とされていたグウェンダルという冒険者が逃げまどう人々を助け、煉獄龍インフェルノ・ドラゴンを追い返したらしい。

グウェンダルの勇姿に魅せられた滅龍騎士は冒険者からの強力をようやく受け入れ、煉獄龍を山々から追い払ったというわけさ、その功績が称えられこの国にもギルドが誕生した訳だが・・・」


「この国に厄災を持ちこんだのも、救ったのも同じ冒険者・・・イシュガルの人達も感謝する人もいれば恨みを持つ人もいる、だからギルドもあんな感じだということですか」


「まさしくその通りだ」


 レナードの説明にアレスが納得したところである疑問が浮かんだ。


「ん、今の話聞く限りレナードさんまた聞きって感じに聞こえたんですけど・・・?」


「当然だ、私はまだ生まれていたかったのだからな、他の冒険者の受け入りさ」


「レナードさん声から察するにかなりのお年ですよね・・・?何歳なんですか?」


「失礼だな、私はまだ23歳だぞ」


「うえ!俺とタメ!?」


 今までの言動や仕草等から数十歳上に見ていたアレスは驚きを隠せなかった。


「まあ、よく人に言われはするが・・・あまりそう驚かんでくれ・・・此方もそれとなく気になっていたのだが、君はもしかして・・・男か?」


 「はいぃ!?」レナードの言葉にアレスは驚く。


「いや、顔つきは中性的だし体の線も細く声も高いだろう・・・?正直判断しかねていたのだが、そうか男だったか」


 レナードがうんうんと頷き、アレスが落ち込んでいるとギルドに入ろうとしている連中が邪魔だと睨んできた。


「む、入口前で語ることではないな、入るとしよう」


レナードが「行くぞ」と冒険者ギルドの門へと向かい、慌ててアレスがそれを追う。


 冒険者ギルドの中は、奥にあるカウンターに受付嬢が座っており、手前に冒険者が座り雑談をしている長テーブルがいくつも置いてある作りとなっていた。

レナードは受付嬢の前まで進むと、「マスターのガゼル殿に取り付き願いたい」と受付嬢に告げると、「少々お待ちください」と受付嬢が奥のカーテン裏へと入って行った。


 カウンターで暫く待っていると、カーテンの奥から厳つい筋肉隆々の白髪を三つ編みで纏めた髪型をした40代位の男が現れた。


「おう!久しぶりじゃねえか!元気にしてたかレナード!そっちの嬢ちゃんは見ねえ顔だな!」


「お久しぶりですガゼル殿。後、こちらはアレスと申します。れっきとした男性ですよ」


「ガハハハ、ひょろっちょいから女だと思っちまったわ!」


 ガゼルはアレスの背中をばしばしと叩きながら豪快に笑う。


「いったいって!このおっさんがギルドマスター?」


 涙目になりながらアレスがレナードに質問を投げかけた。


「ああ、こちらの方がイシュガルのギルドマスターのガゼル殿だ。駆けだしだった私を世話してくれてな、恩人さ」


「へえ」とガゼルをアレスが見つめているとガゼルがレナードの体を上から下まで見つめ、


「相変わらずその鎧は脱げねえようだな・・・んで、何か用があって訪ねて来たんだろう?奥で話そうじゃねえか」


「?」とアレスは疑問に思いつつも、ガゼルの案内でカウンターの奥にあるカーテンを潜り階段を上がり4階のギルドマスター室まで移動した。


ギルドマスター室は奥に執務用の机が置いてあり、その手前に来客用のテーブルとソファー。その両端に本棚が設置されているという簡易な作りとなっていた。


「来客があった時位しか使わねえ部屋だが、寛いでくれ」


 ガゼルがアレスとレナードにソファーに座るよう指示し自身も反対側のソファーにどかっと座る。


「んで何の用件だ?普通のクエストだったら俺を呼び出すまでもないだろう?」


「ええ、実は依頼されていた周辺のキャンプを襲っていたフォレストガーデンの魔物達の調査の件でして」


「ほう、まだ依頼してから数日じゃねえか!早いな」


 ガゼルが身を乗り出しながら聞いてくる。


「はい、フォレストガーデンまで出向いたところで、ドラゴンの咆哮が聞こえてきたものですから、その方面に向かって行くとドラゴンの亡骸とこちらのアレス殿を抱えたジャンヌと言う女性が立っておりましてな。状況を確認するとアレス殿がドラゴン・・・煉獄龍に襲われていたのをジャンヌ殿が助けドラゴンを屠った《ほふ》様子でして」


「ほう!煉獄龍を単身でか!何者だその嬢ちゃんは?」


「いえ、その場でアレス殿を頼むとすぐに立ち去られてしまった為なんとも・・・しかし佇まいからすると相当な手だれかと

それに煉獄龍とはいえ幼竜でしたからな・・・しかしフォレストガーデンのような辺境に煉獄龍の生き残り・・・しかも」


「ああ、幼竜ってこたあ、親がいる。それに煉獄龍は卵を産むとき最低でも4、5個は産むからな・・・そのサイズのモンが後数匹は生息しているってことだな?」


 レナードの言葉にガゼルが口をはさむ。


「ええ、その通りです。早急にイシュガルの滅龍騎士ドラコンスレイヤー達と冒険者達に通達し討伐を依頼するべきです」


 ガゼルが腕を組みうなる。そしていつの間にか部屋の入り口に控えていた従者に指示を飛ばす。


「おい、今すぐイシュガルの滅龍騎士団に出向いて煉獄龍の生存の件を伝えろ、冒険者達へのクエスト依頼は俺が直々にやる。いけ!」


「畏まりました」


 従者は深々とお辞儀をした後、静かに出て行った。


「フォレストガーデンの魔物どもの奇行は煉獄龍が原因と考えてまず間違いねえ。あの討伐戦を生き残った親竜が卵から孵った幼竜を外に出せるまで育てるのに数十年・・・時期的にはぴったりって訳か」


「はい、私も今回の討伐戦に参加しようと思っています」


「おお、そりゃありがてえ。だが、お前さんでも幼竜を相手するのはたやすいかもしれんが、成竜ともなると・・・正直、五分五分だぞ?」


「重々承知しております。幸い魔法を使えるアレス殿もおりますし、他の冒険者や滅龍騎士団とも連携を取りますから」


「そりゃ、もっともだな。ほう、お前さんその年で魔法が使えるのか?刻印を体に刻んでいるわけでもなさそうだしな?たいしたもんだ」


「刻印ってなんですか?」


 アレスが聞きなれない単語を耳にし質問をぶつける。


「刻印を知らんのか?まあ魔法が元から使えるようなやつには必要ないのかもしれんが・・・」


 顎鬚あごひげを撫でながらガゼルが言うとレナードが説明を加える。


「刻印というのはだな、魔法の概念を込めたインクで体に印を刻むことで刻んだ刻印に応じた魔法が使えるようになるのだよ。火の刻印なら火、水の刻印なら水の魔法がな。地方によっては紋章なんて呼ばれ方もしているな」


「へえ、そうなんですか」


「ああ、大昔の人物が魔法を使えない人に魔法が使えるように出来ないかと考えだしたらしい。私も簡単な回復の魔法は独学で習得していてな・・・すばやく使えるように右腕に刻印を刻んである」


 魔法を習得するには2種類の方法がある。魔法の詠唱が載っている魔法書を読み解くか、刻印を体に刻み使えるようになる方法である。

アレスの場合はレベルアップの際に手に入るスキルポイントを使用して魔法やスキルを習得しているのだが、NPC達にはその概念は無い。

そして、魔法を習得した者でも未熟な者は詠唱を唱えなければ魔法は発動出来ない。

しかし、自分が習得している魔法系統の紋章を体に刻むことで詠唱の短縮や無詠唱で魔法を行使する事が出来た。


「刻印の説明はそんくらいでいいだろう。さっそく下に降りて冒険者達を招集し依頼をかけなきゃな。お前さんがたはどうする?」


 ガゼルが時間が惜しいとばかりに話を切りあげさせ、席を立つ。


「我々は戦に備えて戦いの準備をしようかと思います。まだアレス殿の実力も見せてもらってませんからな」


 レナードはアレスを見ながら今後の方針を決める。


「そうか、分かった。時期が来るまで腕を磨いておけ。まあ早けりゃ2、3日ってところだろうがな」


「了解しました。それでは失礼します」


 レナードがガゼルに頭を下げ、扉から出ていくのをアレスは慌てて付いて行った。


 ギルドを出て、レナードがアレスの方に向き直り話しかける。


「先程言ったがまずはアレス殿の実力を知りたい。まず、武器を調達次第、街道でモンスターと戦ってもらおう」


「分かりました。ちなみにレナードさんレベルいくつなんですか?」


「初めて会った時も聞かれたがレベル・・・とはなんだ?」


「(レベルを知らない?)じゃあステータスウィンドウって分かります?」


「生命の窓のことか?あれは高位の神官が使える魔法ではなかったか?」


 腕を組み首をかしげながらレナードが答える。

 レナードの言う『生命の窓』とはステータスウィンドウの別称である。ライフサイドの人間達は現実世界の人間とそん色なく生活させる為に、電子マップやステータスの確認等ゲームによくある各種ステータス確認等の知識がない。つまり無いだけで出来ない訳ではない。

 そのため、運営側が設定した呪文を唱える事でNPC達も各種確認は出来るのだ。

 実際、魔法の研究を行っている機関が、たまたま唱えた魔法がステータスウィンドウの表示魔法だった為、ステータス表示の魔法は存在が確認されているのだが、一部の特権階級がそれを隠ぺいし高位の神官・・・つまり自分達しか唱えられない魔法として周囲に認識させていた。

 そんな理由もあり、レナード達一般人がレベルやステータスウィンドウを知らないのは当然といえた。


「ん~、じゃあ後に続いて復唱してみてください。『アクティブステータス』」


 続いてレナードが復唱すると半透明のステータスウィンドウが胸の位置辺りに浮かび上がった。


「こ、これが私の生命の窓か。アレス、君はどこでこの魔法を・・・」


 驚いているレナードをしり目にアレスはレナードのステータスを確認する。


「レナード。レベル・・・・・・48!?高っ!」


 アレスが驚くのも無理は無い。AWOの世界はモンスターを倒したりクエストをクリアする事で経験値が手に入るのだが、レベルアップまでの必要経験値がかなり必要となる。その中で若干23歳のレナードのレベルが48というのは常軌を逸していた。

 サバイバルサイドの最前線で戦う冒険者達であっても精々40レベルに届くかどうかというところである。


(サバイバルサイドとライフサイドじゃ経験値が違うのか、それとも生まれた時からレベル上げが行われている所為なのかは分からないけど・・・そもそもAWOのレベル上限知らないし)


「これでも様々な経験をしてきているからな。それにこの鎧はある呪いが掛っていてな。メリット側の効果に経験値の入りが良いのだ」


「呪いってさっきガゼルさんが言ってた脱げないってやつですか?」


「うむ。それも含まれるが、この話はまた今度にして今はレベル上げに行くとしよう。少しでも生き残れる確立を増やすためにもな」


 そう言うとレナードはポーチから地図を取り出す。


(あっ、電子マップは俺らの特権なのか?)


 アレスが自分とNPCの違いを見つけているとレナードが地図の端を指差す。


「ここがイシュガルだ。そしてここから南に数Km行った森、ここがフォレストガーデン。現在、竜の谷は滅龍騎士団の方で定期的に巡回がされている。その為、人の出入りの無いフォレストガーデンが隠れ家に選ばれたのかもしれんな。一先ず、イシュガルからフォレストガーデンに向かう平野に出没する魔物を狩るとしよう。遠征の際、襲われる可能性も少なくできるしな」


「分かりました。ではまずは武器屋ですね?」


「そうだ。出発前にアレスの装備を整えなければな。付いて来てくれ」


 冒険者ギルドから数百m離れた白い石造りの建物に到着した。店の2階の窓から剣と盾のマークの入った垂れ幕が降ろしてある。


「ここが武器屋だ。防具も合わせて売っている。目印はあの垂れ幕だな。大抵どこの国に行っても変わらないからな」


「なるほど、じゃあ早速入ってみますか」


 レナードとアレスが店に入ると奥のカウンターから「いらっしゃい」と店員が声をかけてきた。


「何かお探しで?」


「ああ、この子に合う武器と防具をな。そういえば獲物は何を使う?」


 レナードが店内の武具を見渡しながらアレスに問いかける。


「そうですね・・・長剣の種類を見せてもらえますか?」


 そう言うと店員は「あいよ、ついてきな!」と長剣が所狭しと陳列されている一角にアレスを案内した。

 片手持ちで扱えるロングソードや両手で扱う重量級の長剣であるグレートソード、その他にもグラディウスやフランベルジュ等多様な長剣が並んでいた。


「この辺の武器屋の中じゃあ、品ぞろえはウチが断トツだろうねえ。好きに見てくといいさ」


 店員はアレスを案内した後カウンターの奥に引っ込んでしまった。


「(店員に勧められながら買い物するの苦手だからなぁ、正直助かったけど)種類多いな」


 アレスが改めて周囲を見渡すと、ガラス製のショーケースの中以外にも壁や天井にも所狭しと武器が設置されていた。

これだけの武具をこの店が所有する理由は単純に店主の趣味だった。元々、武具好きが講じてこの武具屋を始めた店主が、収集した武具を自慢する意味合いも含め所狭しと武具を設置し始めた為このような形態となっていた。本当に大切な武具は値札が貼られておらずショーケースの中に大切に保管されている。

 そんな長剣コーナーを何気なく見ていたアレスが気になる剣を見つけた。


「おっ、刀じゃん。でも形状がかなり違うな」


 アレスが見つけたのは日本刀のような武器だった。刀の峰に当たる個所、柄の位置から刀身の半分の位置まで刃付いており、長さの違う切刃造の刀同士を段違いに合わせて造られたような刀だった。当然、さやも専用の形をしており通常の鞘の二倍はあろうかという太さがあり、材質も木製ではなく金属製でで出来ていた。


「お、嬢ちゃんいいモンに目を付けたな」


 奥に引っ込んだはずの店主がいつの間にかアレスの背後に立っており話しかけてきた。


「俺は・・・・・・まあいいです。これって刀ですよね?」


 自分は男であると反論しようとしたが、面倒だと諦め、刀の説明を求める。


「そうさ、カタナと呼ばれる刀剣類だな。こいつは長モンだから長剣コーナーに置いてるんだがな、昔知り合いから珍しい武器が手に入ったってんで買い取った代物なんだが、見て見ろ」


 そう言うと店主がカタナの柄の部分と鞘を指さす。


「ほら、ここだ。見たこともねえ金属で作られてるだろう?明らかにこの辺じゃ手に入らねえ代物だ。鉄じゃねえし金属製のボルト止めがされてやがるのよ・・・いったいどんな意味があるのやら」


「確かに変わった武器ですよね・・・名前は・・・雷剣ペルクナスか」


「ん、嬢ちゃん!この剣の名前が分かるのか!?」


 つい手に取った拍子に浮き出たAR表示に出ている武器名を口にしてしまったアレスはしまったという顔で店主を見つめると、店主は驚きの表情でアレスを見ていた。


「い、いやっ、昔武器の書物を見たことがありまして、その中に似ていた物があったものですから。もしかしたら~なんて」


 顔を横に逸らしながら答えるアレスに店主は雷剣を見つめながらペルクナス・・・と呟いている。


「まあ、仮に剣の名前が分かったとしても・・・な。嬢ちゃんこの剣が欲しいのかい?」


「ええ、興味本位で手に取ったのは確かですが、いい剣ですし相性が良さそうだ」


 アレスは雷剣を見つめ、雷剣の名が意味するところには雷の属性が付与されている可能性が高い。性能や機能についてはアレスのステータス不足でロックがかかっており閲覧出来ないがいつの日かアンロック出来るだろう。


「そうか、俺もこいつは持て余してた所だっかからな・・・よし、売ってやる。だが、条件がある」


「条件ですか?」


 首をかしげるアレスに店主は今までと違った目で剣とアレスを見つめていた。


「ああ、もしコイツに秘められた何かが分かったら教えに来てほしい。それだけだ。」


「・・・分かりました。何か分かった所があれば伝えます。たとえ何年かかっとしても」


「ッハハ!何年かかってもか!そりゃありがてえ話だ!よっしゃ、防具もいいもん見繕ってやらあ!」


 そう言うと店主は機嫌良く、アレスを防具のコーナーに引っ張り込み防具も選んでくれた。

数十分後、武具店から煌びやかな細工が特徴の小型な銀色の籠手と脛当てをし、黒の布地に赤の刺繍が施されたロングコートを装備したアレスが出てくる。


「欲しいものは見つかったのか?」


 武具屋の前で腕を組みアレスを待っていたレナードが話しかけてくる。


「ええ、おかげさまで。では早速性能を試しに行きましょうか」

(なんかセ○ィロスみたいな格好になってしまった・・・)


 腰の雷剣ペルクナスを撫でながらアレスがレナードに告げる。

装備の整ったアレス達一行はイシュガルの外、フォレストガーデンへと続く街道のモンスターとの戦闘に向かったのであった。











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