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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
第一部:煉獄龍戦
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召喚されし聖少女

 地面にふわりと降り立ったジャンヌは静かに目を開け、その紫色の瞳で辺りを確認し現状を把握した。


「ずいぶんと私のマスターをいたぶってくれたようですね?」


 静かな闘志を瞳に宿しジャンヌは煉獄龍インフェルノ・ドラゴンを睨めつける。


「しかしあなたの相手は後です。まずはマスターの手当てをしませんといけませんからね」


 そういうとジャンヌは久世に手を伸ばし回復の魔法を唱える。すると失ったはずの足を含め久世の体はみるみる回復していった。

 通常、回復魔法で欠損した四肢を生やすことなど容易ではない。しかしジャンヌは久世の持つSRスーパーレアカードを4枚合わせて合成したSSRカード、『祝福をその身に:ジャンヌ・ダルク』によって召喚された為、カードによる能力補正とその際に取得した回復魔法スキルが使用可能だった。


 ジャンヌが久世に回復魔法を使用しているのを目撃した煉獄龍は怒りの方向を上げ、空を舞いジャンヌに突進してきた。

 突進してきた煉獄龍の頭をジャンヌは片手で受け止める。受け止めた衝撃でジャンヌの後方に衝撃波が突き抜け、足が地面にめり込むがジャンヌの顔は平然としている。


「!?!?」


 煉獄龍から驚愕の声が漏れる。


「その程度の力では私に傷一つ付けることは敵いませんよっ!」


そのままジャンヌは煉獄龍を片手一本で放り投げると久世の回復に専念する、放り投げられた煉獄龍は空中で体を捻り態勢を立て直し着地を成功させると同時に息を吸い込み火炎弾を放つ。

 放たれた火炎弾がジャンヌと久世を焼き尽くさんと轟々と燃えながら迫るもジャンヌはそれをいつの間にか握られていた白銀の剣で一閃する。

 そして、久世から離れ煉獄龍を見据える。


「さて・・・と、マスターの回復が終った為、全力でお相手させていただきます。ドラゴンと戦うのは初めてですが生きて帰れるとは思わないことですね」


 煉獄龍に向かって丁寧にお辞儀をした後、ゆらりとジャンヌの姿がゆらいだ後、ジャンヌの姿が突然消え、煉獄龍の前に現れる。


「ハッ!」


 一撃必殺の威力を秘めた横薙ぎの剣が煉獄龍を襲う。永久の時を経た煉獄龍ならその動作のすべてを視認し受け止める事も出来たかもしれないが、生まれて間もない幼竜の煉獄龍にはそれは出来なかったようで、ジャンヌの一撃を首にもろに受けその首が胴体から離れる。


「マスターの命を狙ってしまった己の不運を呪いなさい」


 ジャンヌは煉獄龍だったものを一瞥いちべつすると久世に寄り添い息があることを確認する。


「無事、回復は出来ているようですね。しかし、マスターの行動範囲にドラゴンが生息しているなんて聞いたことがありませんね・・・」


 ジャンヌが肩をなでおろすと、辺りに危険がないかを確認しつつ疑問を口にした。

 サバイバルサイドでの久世の行動範囲はかなり狭まっていた。元々NPC達との会話をメインにしていたのもあるが、自分の低レベルも相まって余り初期の街から離れなかった。

 精々、イベントが行われた際のダンジョン等に向かうだけでいつも相手にしていたのは獣型のモンスターが主だった。

 通常、ドラゴン・・・竜種が出現するエリアは極々限られたエリアであり、最低でもレベル30後半はないと生き残れる相手ではなかった。


「マスターが目を覚ますまで寄り添ってあげたいところですが、そろそろ時間のようですね。幸い付近にモンスターの気配は無いようですし、おや?」


 自身の召喚限界時間を察したジャンヌが久世をどうしようか考えていると、反対側の平原からこちらに向かってくる影が遠くに見えた。

 目を凝らして観察してみると、全身を漆黒の全身鎧フルプレートに身を包み、布で身の丈ほどの何かを包み込んだ物を背中に背負った人物だった。


(ふむ、装備と雰囲気から判断するに相当な手だれでしょうね・・・問題はどのような人物で目的は何か・・・)


 久世をお姫様だっこする形で持ち上げ全身鎧の人物に近づく、もちろん警戒は緩めない。

 お互いの声が聞こえる範囲に近寄った際、ジャンヌの方から声をかけた。


「ごきげんよう、こんな森で会うなんて奇遇ですね。参考程度に何をされていたのかお聞きしても?」


「む?私はこの周辺の魔物の掃討を依頼された者だ。戦闘音が聞こえてきたためこちらにはせ参じた次第だったが・・・不要だったようだな」


 枯れた老人のような声の全身鎧の男がジャンヌの後方に横たわる煉獄龍の亡骸に目を向ける。


「首を一撃・・・か、相当な手だれと見受けるがお名前を聞いても・・・?」


「ジャンヌ・・・と申します。レディに名前を聞く際は殿方から名乗るものではなくて?」


「む、これは失礼した。私の名前はレナードと言う。して、そちらの胸の御仁は?」


レナードと名乗った全身鎧の男はジャンヌにお姫様だっこされている久世に目を向ける。


「私の・・・いえ、先程あのドラゴンに襲われていたのを見つけ助けただけの関係です。出来れば保護をお願いしたいのですが・・・」


 ジャンヌが久世をレナードに差し出す。


「あの煉獄龍の被害者であったか。分かった、引き受けよう。してジャンヌ殿は?」


「私は一緒には行けません。どうぞお構いなく」


「いや、しかし」


 頑なな意志を瞳に宿したジャンヌは一瞬寂しげな目を久世へと向けレナードに目を向ける。


「ただこれだけは約束して欲しいのです。その方を無事にどこか安全な場所まで送り届けると」


 ジャンヌが澄んだ瞳でレナードを見つめ、レナードは暫く沈黙を保った後。


「分かった。引き受けよう。しかし、このような物騒な場所に一人では・・・いや、あれを倒したのもあなただったな」


 再度、ジャンヌの後ろに横たわる煉獄龍の亡骸を確認し、久世を肩に担ぎレナードはジャンヌに背を向ける。


「では、付近の街まで責任を持ってこの御仁をお預かりしよう。ジャンヌ殿もお元気で」


「ええ、よろしくお願いします」


 後ろから聞こえる返答を聞きながらレナードは歩く。そして暫く進んだ後ふと足を止め、後ろを振り返るとジャンヌの姿はそこには無かった。


「まこと、不思議な御仁だったな・・・。さて、一先ず落ち着ける所にまで向かわねばな」


 そう言うとレナードは踵を返すと森を抜けだすべく歩きだした。



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