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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
潜入!天津乙女女学院編
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ヘクセンナハト⑥

更新が遅くなっても読んでくださっている方々ありがとうございます。

 束縛系水属性魔法ディープミストにより発生した濃霧がマリーとヴェロニカを包み込んだ後、ヴェロニカはひたすら守りに徹していた。

 小柄な体躯を生かして狙いを定め辛いように左右に体を揺らしながら接近してくるマリー。

 その動きは非常に慣れた動きでありとても戦闘経験の浅い一年生の動きとは思えないほどだ。


「アハハ!次はこっちですよぉ~」


 手に持った赤黒い肉厚の刃を持つ鉈を器用に持ち替えながらヴェロニカの首を必要以上に狙ってくる。血走った目に狂気染みた表情はまさに殺人鬼に相応しい顔だが、あどけない童顔がその印象を中和していた。


(くっ!急所しか狙ってこないですわねこの子は。しかも鋭い!)


 相手の動きを予測しギリギリのタイミングで鉈を回避し続けるヴェロニカは苛立ちながらそう思った。もしこれが学院外もしくは結界の範囲外での戦闘であったならば、マリーの一撃をその身に受けた瞬間敗北が決まるだろう。

 いや、それだけではない。致命傷の一撃により回復系魔法を使用する間もなく死に至るだろう。そう考えると目の前の相手に身の毛もよだつ程の恐怖がヴェロニカに襲いかかった。

 平気で人体の急所を把握し狙ってくるマリー・デルマール。狂気染みた性格といい、いったい何故このような生徒が由緒ある天津乙女女学院に在学しているのか。

 放置しておけば、いずれこの学院に悪影響を与える可能性もある。試合を放棄してでも学院長に進言しなければならない。そう咄嗟に判断したヴェロニカは拡声魔法を使い学院長であるシェリー・メイディランドに声を出そうとした。濃霧により視界が遮られていようと声は届くはず。


 だがその声が外まで届くことはなかった。何故なら、


「はい、ストップ~」


 目の前に現れたマリーによって口を塞がれ地面に押し倒されたからだ。

 この小さい身体のいったいどこからこんな力が出たのか?と思うほどの力で地面に押し倒されたヴェロニカはマリーをどかして立ちあがろうとするが喉元に鉈を当てられ身動きが止まった。


「今、拡声魔法を使おうとしましたよねぇ?シャルロット先輩にでも援護を求めようとしたんですかぁ?それとも・・・」


 一拍間を開け、マリーは濃霧の先にいる人が見えるかのように一点を見つめてこう言った。


「学院長に私のこの(・・)状態・・の事を言えば試合は中断、私は退学になるとでも思ったんですかねぇ?」


 俯きクククと笑うとマリーは、


「残念ですけどぉ、私を入学させたのは学院長ですよぉ?当然この状態の事も知ってますぅ。残念でしたねぇ~」


とヴェロニカを嘲笑った。


 ヴェロニカはと言うと一拍間を空けてから小さく「そうですの・・・」と呟くと体に力を込めた。


「なら、普通に倒すだけですわっ!」


「なっ!」


 動きを見せたヴェロニカの行動にマリーは思わずギョッとした。

 何故ならヴェロニカは喉元に当てられていた鉈を素手で掴み取るとそのまま投げ捨てたのだ。


(出血してないなんて!?化け物か!)


 マリーの使用する武器である赤黒い刃を持つ鉈は【呪いの鉈(カースマチェット)】といい、触れた対象に出血と呪いの状態異常を一定確率で与える効果が付与されている武器だった。

 その確率は8割とかなり高く、一度食らえば出血によって徐々に体力(HP)は奪われ、呪いによってステータスが著しく下がるため、中々厄介な武器といえた。

 マリー自身、この武器にはかなりの愛着と自信を持っていた。家業・・の傍ら、オリジナルの呪いの鉈(カースマチェット)を行使し、数々の敵を葬ってきた。

 だからこそ、デバイスの武器化をする際、迷わずこの武器を選んだ。


 故にヴェロニカの行動には心底驚かされた。


 プライドが傷付いた。


 武器でも防具ですら無い、ただの素手で刃に触れて傷付かなかったという事実に。


 この刃に触れても何ともない、ヴェロニカの異常性に恐怖した。


 出し惜しみしていたらやられる。


 そう判断したマリーはヴェロニカに投げ捨てられたら鉈を追って後方へ下がると光の玉を2つ生成する。


「蒸発しちゃってくださぁい!」


 瞬間、マリーの生成した光の玉から一筋の閃光がヴェロニカに飛来した。

 咄嗟にしゃがみ込み回避したヴェロニカの元へマリーが迫る。それも光の玉を随伴させて。


「ええい。鬱陶しいですわっ!」


 呪いの鉈(カースマチェット)による攻撃を避けつつ、光の玉から放たれる閃光___レーザーをも回避する必要性に迫られたヴェロニカは守りに徹する。

 ヴェロニカ愛用の武器はレイピアであるため、肉厚な刃を持つ呪い鉈(カースマチェット)と切り結ぶには相性が悪い。

 魔法を使おうにも詠唱を口にしようとするとマリーの鉈が迫ってくる。

 距離を取ろうにもディープミストによる濃霧の中に突っ込んでしまいそうで躊躇われた。

 ただの霧ではなく、ユウの放った霧である。本来、ディープミストは相手の視界を奪い、濃霧の中にいる相手は発動者に筒抜けになるという目隠しと探索を行う魔法である。今回の使い方が異例なだけであって本来の使い方をされれば、濃霧の外からユウの援護射撃が飛んでくる可能性もある。そのためまずは濃霧の無い内側であるここでマリーを倒す必要がある。


 そうヴェロニカは考えていた。


 実際は確かに霧の中に入ればユウに居場所を探知されるが、マリーの性格を把握しているユウな為、援護射撃は飛んでこない。

 それにマリーの使用している魔法。光属性中級魔法にあたる【フォトンレーザー】は対象をレーザーで攻撃するというものであるが、霧に接触すれば乱反射し減衰するのは免れない。

 よって威力と射程を弱める事も可能なのだが、この世界には光属性の魔法使用者は少なく、加えてレーザーなどという兵器を多用する存在も希少な為、対抗策が練られていないのが現状であった。

 なのでヴェロニカがそういった行動に移らないのも仕方がない事といえるだろう。


(斯くなる上は!)


 覚悟を、というよりようやく本気を出そうと決意したヴェロニカ。


「イフリートよ!我に力を!舞い狂え!」


 デバイスの武器化、魔法衣化を音声起動認識により発動させるヴェロニカ。

 ヴェロニカの身体を炎が一瞬覆い尽くすと制服が戦闘用の魔法衣である、ワインレッドの簡易鎧の上から赤と白が基調のハーフコートを纏い、腰から足元にかけて前開きのスカートを履いた姿へと変わり、手には愛用のレイピアが現れる。

 魔法衣を身に纏い、武器を構えるヴェロニカにマリーは大きく舌打ちをするとフォトンレーザーを放つ。

 放たれたレーザーをヴェロニカは避ける事無く迎え撃つ。先程までとは違い、手には武器であるレイピアを持っているが故の対応だ。

 迫るレーザーをレイピアの先端で器用に弾くとマリーへと接近するヴェロニカ。


り合おうってことですかぁ?上等ォ!」


 奇声にも近い声を上げながら呪いの鉈(カース・マチェット)を接近してきたヴェロニカへと振り下ろすマリー。

 対してヴェロニカはレイピアの剣先で鉈の刃を受けようとせずレイピアのキヨン(剣でいうつばにあたる個所)で鉈の刃を受ける。

 レイピアは攻めの武器ではなく、守りの武器といえるものだ。相手の攻撃を切っ先で突いてはじく、刃先を合わせてそらせる、剣身中間部で剣を合わせて受け流す、根元の剣身最強部で受け止めてからバランスを崩させるなど様々な受け方がある。そこから攻撃に転じ、相手の急所を的確に狙い撃つのだ。

 今回ヴェロニカはレイピアの最も堅く反撃の一手に繋がるキヨンでマリーの鉈を受けた。

 キヨンはドブレと呼ばれる刀身の半ばから先端にかけての部分はフォルテと呼ばれる刃の半分より下にあたる部分と違い堅くなく柔らかい作りとなっている。その為マリーの肉厚な鉈をまともに受ければ折れてしまう可能性があるからだ。


 身長も低くリーチも短い呪いの鉈(カース・マチェット)を使用しているマリーの目の前にはヴェロニカの扱うレイピアの先端が迫っている。

 キヨンで刃を受け止められた時には既に切っ先がマリーへと迫っていたのだ。そのまま腕を伸ばすヴェロニカ。その動きに呼応してレイピアの先端がマリーに向かう。

 寸での所で顔を逸らし必殺級の一撃を回避したマリーは後方へと飛びずさると冷や汗を拭う。


(目を狙ってきましたねぇ・・・野郎ォ)


 いくら肉体に与えるダメージを精神ダメージに変換する結界が張られていようとも目に剣を刺されるなど形容もしがたい痛みを伴うだろう。

 先程まで必要以上に人体の急所を狙っていたとは思えないほど自分の事を棚に上げるマリーだったが、本人はそのことには気づいていない。


 それから幾度も攻撃を仕掛けるマリーだったが、デバイスの能力を十二分に発揮したヴェロニカに攻撃を与えることは難しく、逆にカウンターにより少しずつではあるが被弾し始めていた。


(このままじゃジリ貧ですねぇ。こうなったら・・・)


 意を決したマリーは手に持っていた呪いの鉈(カース・マチェット)を手放すと両手を上にあげ降参のポーズを取る。


「なんなんですの?」


 マリーの突然の行動に怪訝な表情を浮かべながらマリーへと向かっていた足を緩めるヴェロニカ。

 宙に浮かべていた光の玉すら消し去ったマリーはやれやれといった様子で語り出した。


「はぁ、ヴェロニカ姉さまがこんなに強かったなんて想定外ですぅ。もう降参ですよ降参」


 ついには地面に寝転がり始めるマリーにヴェロニカも警戒はしつつも、武器を下ろす。


「降参って貴女・・・。由緒あるヘクセンナハトに参加を許されておいて降参ですの?」


 ヴェロニカを含む生徒や教職員を含めこの世界の一般人にとってヘクセンナハトというものは自分たちの、ひいては学院の未来を左右する一大イベントである。

 優秀な成績を収めた生徒は学院を卒業後の就職にも有利であるし、教員にとってもその生徒を育て上げた実績として評価があるのである。

 理由はほかにもいくつか存在するが、どれも魅力的なものである。もちろん参加するだけでも意義は大きいのだが、勝ち進めば進むほど、己の実力を見せれば見せるほど他者___来賓からの覚えは目出度くなる。

 その為、参加者は決して試合を途中で投げ出すことはせず、正々堂々とどちらかが倒れるまで戦うのである。

 予断ではあるが、戦闘技能を見るヘクセンナハトとは別に学院対抗の体育祭などもあるのだが、この話は機会があれば説明するとしよう。


 話がそれてしまったが、要するに決着がついていないにも拘らず、試合を途中で棄権する発言を見せたマリーに対しヴェロニカは怪訝な表情を受けべているわけだ。


「そうですよぉ。そもそもあまり目立ちたくはないですしぃ。ヘクセンナハトに出ただけで目標は達成したようなものですしねぇ・・・」


 とマリーは一旦言葉を区切り邪悪な笑みを浮かべて言った。


「それにぃ、ヴェロニカお姉さまにボロクソに負けたって大泣きでもすれば、愛しいアストリットお姉さまがきっと抱き締めて撫で回してくれるでしょうしぃ」


「なぁ!?」


 自分でも驚くほどの大声で反応を示したヴェロニカが思わず口を抑えているのをにやついた顔で見ていたマリーはさらに続けた。


「他にもあんなことやこんなことも・・・愚負負負負負・・・」


「あ、あんなことやこんなことですってぇ・・・」


 マリーの言葉にヴェロニカの脳内ではアストリットのあられもない姿が矢継ぎ早に過ぎ去っていく。それも相手はヴェロニカではなくマリーであり、アストリットからヴェロニカに向けられる視線は熾烈なものであった。

 マリーが身体をくねらせている間、ヴェロニカは俯き、ブツブツと何か呪詛のようなものを口から吐き出していた。

 そして、ついに妄想が自分のキャパシティを超えたヴェロニカは大きく咆哮した。


「それ以上その口を開いたらこの場で焼き殺しますわよマリー!!」



今年度もお読みいただきありがとうございました。

来年度も変わらずお読みいただければ幸いです。


それでは良いお年を・・・。

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