ヘクセンナハト③
小出しにするべきか、長文で行くべきか、悩みます(汗
カルメンは正面のシャルロットを見据える。長く伸びた銀髪を後ろで縛り、深紅の瞳を真っ直ぐカルメン向けている二年生序列二位の少女。
少女は僅かに身を屈めると瞬間、
「!?」
カルメンの目の前に迫っていた。咄嗟にカルメンは体勢を右へ傾けた。するとカルメンが元いた位置と寸分違わない位置に突き出された手刀が過ぎ去っていった。もし避けられずにその手刀をその身で受けていたら弾き飛ばされ脱落していたであろう。そう感じさせるだけの俊敏さと凶悪性を兼ね備えた攻撃だった。
体勢を崩したカルメンだったが、持ち前の身体能力をフルに活用し地面に右手を着くと同時、右手の力だけで自身の身体を押し出す。加速した身体を空中で翻る事で何とか体勢を整え、シャルロットを見据える。
距離は先程と同程度の数メートルだ。カルメンはシャルロットの予備動作に注意を払いながら魔法を練り上げる。
シャルロットの髪の色から察するに得意魔法は・・・そう考えた所で思考が一瞬、停止する。
そういえば、銀色って何の属性だっけ?
炎属性の適性を示す赤、水属性の適性を示す青、風属性の適性を示す緑、土属性の適性を示す茶髪や黄色、光属性の適性を示す金髪。どれも見れば一目瞭然の判断基準だ。
中には複数の魔法適性があり、紫苑のように紫色の髪をしたものや、適性値が低く、色が淡くなる者もいる。薄桃色の髪をしているカルメンやロゼなんかがそうだ。
シャルロットの銀色は何かを薄めたが為に銀色なのか、それとも別々の色が混ざり合って銀色になっているのか。赤、青、緑の三原色を混ぜ合わせても銀色にはならない。土属性の適性を示す茶髪に三原色が混ざり合った色なのかというとそうでもないみたいだ。
では、一体彼女の得意魔法とは?
カルメンは考える。
考えるが故に、その一瞬の思考がシャルロットを近付ける要因となってしまった。
思考が別の事に集中したが為にカルメンの練る魔法は発動が僅かに遅くなり、その間にシャルロットはカルメンへと再び肉迫していた。
中途半端となった火炎の矢をシャルロットへと放つが、本来の効果である追尾機能が失われ、ただの直線に飛ぶ矢となった火炎の矢はあっさりとシャルロットに回避されてしまった。
カルメンは後方へ移動を試みるも既に至近距離まで迫ったシャルロットから逃げきることは出来ず捕まる事となった。
「へぇ、やるじゃないっ!」
驚きの表情と共にバッと後方へ下がるシャルロット。
確かにシャルロットはカルメンを捕まえたはずだった。
なのに何故?
それはカルメンの衣服が突如燃え上がったからだ。突如燃え上がった制服に触れたシャルロットは即座に危機を感じ飛びずさった。
無条件反射という言葉をご存じだろうか。
動物が示す反射現象のうちで、先天的なものをいう。例えば梅干しを見ていると唾液の分泌の量が増すとか、煙にあうと涙が多量に出て眼球の表面を洗うなどの現象は、無条件反射の例である。
今回のシャルロットの行動も同じで、突然出現した火に、本人の意識に関係なく身体が勝手に火から遠ざかったのだ。
それをカルメンが狙ってやったかどうかは兎も角として、シャルロットの攻撃を防ぎ、距離を置くことに成功したわけだ。
そして燃え上がった衣服はというと、燃え落ち、下着姿になっている・・・訳では無かった。
これこそがシャルロットが驚いたもう一つの理由でもあった。
お互いに着ている物は学校指定のノースリーブのワンピースのような制服だった。
それが今はどうだろうか。カルメンの燃え盛った制服は今や別の衣服へと変貌を遂げていた。
白地のワイシャツの上から薄桃色のバリアジャケットを着込み、手足には白銀の装甲が見て取れる。背にはひと振りの大剣が背負われていた。
その姿はまさに、
「魔法衣の習得は一年生末期に習うはずなんだけどねえ・・・」
そう、シャルロットが呟いた通り、デバイスの武器化と魔法衣は一年生最後の授業で習い、二年生から本格的に習い始めるのが本来であった。
だが、二学期を少し過ぎたこの時期に既に習得しているなどあり得ない事だった。
確かにデバイスが武器や防具になることは世の中の常識だ。
それでもアストリットのような例外は兎も角、武器化や魔法衣はイメージ力が物を言うものだ。
戦争や争いの少ないエグランテリアにおいて、武器や防具の概念はほとんどない状態である。
最初は見本の武器を教員が見せ、自分に合った武器を直に触れ、イメージを固めていくのが常である。
そんな中、誰の助けも借りずに自分の力だけでデバイスの制限を解除し、変化させるなど驚くべきき事だった。
(これは後ろに黒幕がいるね)
そもそもデバイスのロックを外すなんて所業。一介の学生に出来る訳が無い。職員の誰か、もしくは学院長自身が一枚噛んでいるに違いない。
「まっ、そんなことどうでもいいか」
シャルロットにとって相手が使えないはずの事が出来る事など驚きはしたものの、正直どうでもよかった。
何故ならば。
「これで対等、本気を出せるってものだからね」
にこやかにほほ笑むと徐にデバイスたるカードを取り出すシャルロット。
「戦場を駆る者、幾戦の奇跡を生み伝説と成る。最果ての道を歩み、いざ行かん遥かなる頂へ。我は戦乙女、戦場を駆る者!」
歌う様にデバイスの起動キーを口にするシャルロット。
長き詠唱にも似た起動キーはシャルロット自身が戦うことにおいて本気を出すスイッチみたいなものだった。
シャルロットの身体を光が包み込み、観客席からは黄色い声援が上がる。
灰色のラインが入った白銀のプレートメイルに、白銀に輝く前開きのロングスカート。頭には煌びやかな羽の装飾が映える白銀のサークレットを付けたシャルロットが佇んでいた。
手には水晶から削り出したような透き通る槍頭を持ち、金色の文様が浮かんだ柄の長い槍を持っていた。
槍を巧みに振り回し、カルメンを見据えるとにこやかに笑いながら弾むような声色で告げる。
「さあ、これからが本番だよ!」




