ヘクセンナハト②
演舞場のバトルスペースには既にシェリーが演説を行ったステージ等が撤去されており、だだっ広い戦闘を行うだけのステージへと変貌を遂げていた。
そこに対峙するのは合計5名の乙女たちだ。
一年生代表の茶髪のふんわりとしたウェーブがかかったショートヘアの二階堂ユウ、金髪が目元辺りまで前髪が垂れ下がっていて表情の読みにくいカミカミ少女のマリー・デルマール、グリーン・ダイアモンド寮生であり一年生序列二位である淡いピンク色の長髪を髪留めで纏めサイドポニーテールにしているカルメン・シルヴァの三名と、二年生序列一位である燃え盛る紅蓮を体現したような赤い縦巻きロールの髪を靡かせ、余裕のある表情で腕を組み対戦相手を見ているヴェロニカ・アーノット。
二年生序列二位である男物の服を着させれば美男子にしか見えないような中性的な顔立ちに、その顔立ちに似つかわしくない凶悪な胸を持つ、ルビーのような煌びやかな輝きを放つ赤目に最近伸び始めた銀髪を後ろで束ね始めたシャルロット・シュトラウス。
「全力でかかってきなさい、一年生諸君。優勝は私たちがいただきますわっ!」
「いい勝負をしようねっ!」
一年生を煽るヴェロニカと対照的にニコッと爽やかに言い放つシャルロット。観客席からは黄色い声援が飛ぶ。
「うは、凄い人気だねえ・・・」
「それはそうですよ。だって炎姫と戦乙女のお二人ですよ?正直、三人がかりでも勝てるかどうか・・・」
会場から飛ぶ黄色い声援に気圧されているユウに緊張した面持ちで応えたのはカルメンだった。
二年生の中でもトップの実力を持つヴェロニカとシャルロットには紫苑と同じく二つ名が付けられていた。その理由はその内明らかになると思うが、そんな二人に声援が贈られないはずなどなかったのだ。
「精一杯頑張りましゅっ!」
相変わらず噛んでいるマリーはやる気十分に腕を振り回しながら前髪で隠れた瞳でヴェロニカとシャルロットを見つめていた。
そんな中、審判役のカトレアがいつもの教師服では無く、修道服のような物を着て現れた。
「皆さん、そろそろ準備は宜しいですか?」
カトレアの言葉に頷く五人。カトレアは全員を見やり静かに頷くと「では」と話を進める。
「ルールは先程言った通りです。変更はありません。肉体ダメージを精神的ダメージへ変換する魔法は効いたままです。安心して戦いなさい」
「「「「「はいっ!!」」」」」
「では、セット!____開始!!」
一番最初に動きを見せたのは一年生側だった。
ユウを中心にマリーとカルメンが二手に分かれ移動し始めたのだ。楕円型のアリーナの壁に沿って二人は徐々にヴェロニカとカルメンに迫っていく。
「狙いを絞らせないようにしたのかな?僕たちは人数が一人少ないからねぇ、ヴェロニカ頼める?」
「お任せあれっ!」
腕を組み思考するシャルロットは何とも余裕の表情でヴェロニカに任せることにした。
いくら二対三といっても魔法を使用した実戦経験も使える魔法の種類も一年とはいえ、学んできた二人にデバイスの武器化も魔法衣化も出来ない一年生に負けるわけないと思っていた。
少なくとも、自分たちが一年前に観戦したヘクセンナハトでは一年生代表は一勝も出来ていなかった。
去年、ヴェロニカは男バレを懸念して、シャルロットは家の事情で休みがちだったため、クラス対抗戦を棄権していた為、ヘクセンハナト参加は今回が初めてだった。
とは言っても、去年の戦いは見ているし、去年の一年生代表の同級生を下した自分たちがそれなりに戦えるのは理解している。
後は日頃の成果を発揮して一年生を倒せばいいだけである。
けれど去年の一年生たちは完膚なきまでに雷姫に開始早々叩き潰され、トラウマを負った経緯がある為、二人は劣勢になるまではデバイスの使用は控えることに予め決めていたりする。
そんな経緯もあり、二人が使うのは純粋に自分たちに宿る魔力のみである。さすがにデバイスの主機能である思考補助は一年生と対等に戦うべく使っている。
ヴェロニカは見て右側から迫ってくるマリーに対し火の玉を数十発放つ。放たれた火の玉にはそれなりの魔力が込められており、当たれば火傷程度では済まされないだろう。それをマリーは「あわわ」と驚きつつも右へ左へ回避してみせた。
(意外と回避能力が高いですわね・・・)
普段の寮生活で見ている姿と打って変わって俊敏な動きを見せるマリーにヴェロニカは感心する。
まあ曲がりなりにも一年生序列三位にまで選らばれ、本戦に出場しているのだから実力はあったのだろう。そう思いながらヴェロニカは左から迫ってくるカルメンに対しても火の玉を放つ。
「わわっ!炎の壁!」
迫る火球を目の前に両手を突き出して作りだした炎の壁で飲み込み、難なくやり過ごすとカルメンはヴェロニカに向かって走る。
一方ユウはというと、
「土の棘」
いくつもの土の棘を地面から出現させ執拗にヴェロニカとシャルロットの足元を狙って出現させていた。
「ユウ!しつこい女性は嫌われるよっ!」
「男性に興味はありませんのでっ!!」
軽やかにステップを踏みながら回避するシャルロットが言うと、ユウはそのように返答してきた。
「いや、その返答もどうなの?」
女性としてそれはどうなの?と思うシャルロットがやや呆れながらそう返すがユウは攻撃を緩めることはしなかった。
尚も執拗にアースグレイヴを放ち続けるユウにシャルロットはヴェロニカの傍を離れ接近しようとする。動き出したシャルロットの前に立ちはだかったのはカルメンだった。
「先輩、お相手願います」
「いいよ、お手柔らかにね」
真剣な表情のカルメンにどこかおどけた表情のシャルロット。だが、シャルロットの目は笑っていなかった。
その眼を見た瞬間、先程よりもカルメンは気を引き締める。何故なら相手は戦乙女と名高いシャルロット・シュトラウスである。
二年生でありながら三年生にも負けず劣らずな魔法技能を有し、最低出席日数しか学院に来ない麒麟児。その最たる技能は剣によるもので、デバイスの武器化と魔法衣によって形作られた姿はまさに戦場を駆る戦乙女のようで、女性しかいない(購買の店員を除く)天津乙女女学院の中でも数少ない中性的な容姿も相まって人気を博している。
そんな相手を前に習い始めた魔法と体技でどれだけ戦えるのか。カルメンは緊張を隠せない面持ちで拳を握ると、頬笑みを崩さないシャルロットを見据えるのだった。




