ヘクセンナハト①
ロッカー事件を含め様々なハプニングに巻き込まれながら数日が経過していた。
心身ともに衰弱したアストリットだったが、ようやく苦労が報われる日が近付いていた。
そう、ヘクセンハナトがもうじき始まるのだ。ヘクセンナハトはクラス対抗戦で選抜された代表者が学年を超えて戦う行事である。
優勝した者はもちろん、参加者も学院を卒業後の就職に有利なだけでなく、周囲から一目置かれるような栄誉ある行事だ。
3年に一度の学校対抗試合も来年に控え、今年の一年生・二年生にかかる期待も大きい。三年生も就職先や進学先へのアピールの意味も含めてやる気に満ちていた。すでに三年生を含めクラス代表が選抜され、学年代表選手までもが決まっており、残すところは今年度の天津乙女女学院の第一位を決める戦いのみとなっていた。。
広大な敷地を持つ天津乙女女学院の一画に建設された演舞場と呼ばれる、普段は淑女たちがダンスを嗜む施設がある。だがこの時期は少し用途が異なるようだ。
まるでシンデレラ城のような壮観な城の城門前には広大な庭園部があり、庭園は中央に女神像の手から水が溢れ出ている噴水が設置されていて、その噴水を囲むようにサークル状に綺麗に整えられた色とりどりの薔薇で出来た生け垣ある。
この時期、魔法によって庭園部の中央にある噴水が地面へと格納され、噴水を囲むように設置されていた生け垣はまるで意思を持ったかのように動き回り、演舞場を取り囲む広大な森林へと移動されている。
つまり城の前には広大な更地が広がってるようなものだ。そこに学院長であるシェリー・メイディランド氏の手によって大規模な魔法が展開される。
更地となった庭園部に大理石のような光沢と艶のある白と黒とギンガムチェックの床が生まれ、その床を取り囲むようにドーム状の建物が出現する。
内部は円系に作られた会場に、観戦する為の座席の配置もすり鉢状となっており、空には光魔法を応用したパネルが設置されていて、そこにはヘクセンナハトで戦う生徒たちを様々な角度から撮影された映像が流れる仕組みとなっている。
その様子は現実世界のライブ会場のようなものだ。決して血生臭い剣闘士たちが戦い合うコロシアムのようなものではなかった。
戦闘を行うといっても、それは生死を掛けた戦いではないし、そもそも戦うのはうら若き乙女たちである。会場が殺風景で、殺伐とした場所であるわけが無かった。
会場には既に多くの学生たちが座っており、会場全体を包む熱気に当てられ興奮した様子でヘクセンハナト開始を今か今かと待ち望んでいた。
会場の中央に設置された壇上に学院長であるシェリー・メイディラントが立ち、開会式の演説が始まった。来賓の方々に対する御礼の挨拶から始まり、選手の紹介や応援の言葉などが次々とシェリーの口から紡がれる。
それを壇上の前に整列した状態のアストリットは凛とした表情を崩さず内心では感心しながらその演説を聞いていた。
(シェリーさん。本当に偉い人だったんだな・・・)
サバイバルサイドに召喚した時と余りにも表情や言動が違う事から、アストリットはシェリーが壇上に立つまで、本当にこのような歴史ある天津乙女女学院の最高責任者なのかと疑ってかかっていたのだが、実際に壇上に立ち、演説をするシェリーの姿は堂々としており、人を引き付ける魅力を放っていた。
その姿はまさに学院の最高責任者として相応しいものだとアストリットは思った。
アストリットがその様に思い耽っている間にシェリーの演説は終了したらしい。降壇したシェリーに代わりヘクセンナハト開催に伴う諸注意やルール説明を行うのは魔法学科の担当教師であるカトレアだ。
カトレアから語られるヘクセンナハトのルールは要約するとこのような形だった。
対戦はチーム戦で行われ、各学年の代表チーム同士が戦い、二勝したチームが優勝である。
仮に三チーム全てが一勝しか出来なかった場合、対戦内容を加味し優勝チームが決定される。
学年の代表者は一年生が三名、二年生が二名、三年生が一名である。これは各学年序列三位までの生徒たちの魔法学科での成績や魔法技能を元に学院長を含めた全ての教員が協議した結果である為、試合中の怪我など不測の事態が起きた場合を除き、この人数は覆ることは無く、交代も認められない。
試合は魔力回復の観点や精神的疲労をを鑑みて一日一試合とする。但し、対戦者同士が同日対戦を申し出た場合はこの限りでは無い。
試合中、デバイス以外の魔法道具の使用は一切認められない。使用が発覚した場合、直ちに試合を中止しその者を失格とする。
クラス代表選抜戦と同じで、肉体ダメージを精神ダメージに変換する結界を張っているが、対戦する者全員が望んだ場合、それを解除する事が出来る。
ルール説明に学年を代表とする面々は緊張した面持ちで頷く。
本日の開会式終了後に、さっそく第一試合が開始されるのだ。戦う順番は箱の中に手を入れ中のボールにかかれている番号が被った相手と戦う事になる。
各学年の代表者がさっそくクジを引き始める。一年生の代表者であるユウが引いたボールには1の文字が、三年生の代表者であるアストリットのボールには2の文字が、そして二年生の代表者であるヴェロニカの引いたボールには、
「第一試合の対戦者は一年生チームと二年生ですね」
ヴェロニカの引いたボールには1の文字が書かれていたのだ。
こうして第一試合はカトレアの呟いたように、一年生チームと二年生チームの戦いとなった。




