ヴェロニカ・アーノット②
お待たせしておりまする。
決闘を見届けた少女の形を模したホログラムである監視者がすうっとその場から消えうせてから一言もアストリットが口を開かず呆然と立ち尽くしているのを見かねたアルドラが遠慮がちに声をかける。
「あの、主?」
アストリットの表情はアルドラ達が今まで見た事が無い表情だった。魂が抜け出て真っ白に燃え尽きたようなボクサーのような感じになっていた。
アルドラ、青龍、ウンディーネはそれぞれ顔を見合わせたのち、恐る恐るといった形でアルドラが代表して話しかけた。
「ハッ!?ああ、ゴメン。ありがとう助かったよ。この埋め合わせがきっと!」
それに対しアストリットは今しがたアルドラたちの存在に気が付いたような表情、仕草で3人を見つめ後、アルドラたちが反応を示す前に思考操作でNPC帰還の操作を行い、パンッと両手を合わせ3人に謝った。
「え?あの、ちょっ」
戸惑うアルドラたち3人は何か言う前にすっと光に包まれ消え去った。すると再び静寂に包まれた屋内実習場。そこには冷や汗を掻きながら四つん這いに崩れ去ったアストリットしか残っていなかった。
(オーバーキルで殺しちゃったってこと?それともスキルが未完成だった?ヤベェ、頭が回らねえ!)
スキルは間違いなく発動した。残りHP計算もダメージ計算も抜かりなかった。アルドラの使ったスキルの追加効果か何かか?
ヴェロニカの死にパニックになってしまいながらも思考を巡らせていたアストリットに戦況をモニターしていた鏑木から声がかかった。
『久世君。心配しなくていいよ。彼は死んでない』
「アキラ・・・?」
放心状態になっていたアストリットが鏑木からに説明を聞きながら段々と冷静を取り戻していく。
鏑木曰く、スキル【超越浄化】Ver1.2には相手のHPを10パーセント残す「手加減」が追加されていた為、ヴェロニカは死んでいないとのことだった。
では何故ヴェロニカが死亡判定され死体の欠片も残らなかったのか?
それはスキル【超越浄化】Ver1.2に組み込まれたもう一つの機能にあった。
その機能とは何らかの障害やイレギュラーによって、対象が死亡・データの抹消化になった場合、記憶や肉体のデータ等を元にNPCを再構築する「転生システム」だった。
通常では、死亡認定を受けたNPCは記憶や肉体を記憶していた記録媒体が初期化され新たなランダムデータを組みこまれどこかの惑星で新たな命として生まれ変わるのだが、鏑木の作成したこの「転生システム」は記憶、肉体のいずれかまたはその両方を保持したままの状態でその場に配置することが出来た。
ヴェロニカは手加減によりHPが10パーセント残ったものの、凍結状態で身体を砕かれたことにより肉体の再生が不可能と判断され、HPは残っているのに死亡するという結果になった。
つまりどういうことかというと、今現在ヴェロニカは肉体を修復中でそれが終わればこの場にまた現れるということだった。
「なんだそういうことか。心配させんなよアキラくーん」
ほっとして表情で鏑木に「黒耀姫」の艶のある声色でそう言うアストリットに思わずドキッとしてしまいながら鏑木は黒ぶち眼鏡をクイッと上げながら上ずった声で続けた。
「ん、んんっ!ただしこの転生システムは僕が急ごしらえで作ったプログラムだから完璧な代物ではないからね?元のデータを再構築するだけの簡単なプログラムだけど、以前言ったように運営側である僕たちはNPCに対して直接的な改変が出来ない状態になっているから、転生システムが上手く作動してくれるのかはやってみなきゃ分からないのさ」
ウイルスの影響か、ワールドシュミレーターたるエターナルプラネット内における全てのオブジェクトに対し、サイバーテクノロジー社を含めた全ての企業による干渉が一部制限されている。
その為、鏑木たち運営側は干渉できる存在であるプレイヤーに対してステータス機能の上昇や新たなスキルを付与し、NPCやオブジェクトに関わらせる事で間接的に干渉するしかない。
つまり鏑木が直接NPCであるヴェロニカに対してウイルス除去パッチをあてる事は不可能な為、アストリットというプレイヤーにウイルス除去用のスキルを与え、使用させる事で干渉するしかないわけだ。
そのような面倒な工程を踏んでヴェロニカに撃ち込んだウイルス除去スキルである超越浄化ではあるが、直接的な干渉が出来ない上に即席で作ったプログラムの為、完璧では無い。
本来であればデバックと呼ばれるプログラムが正常に意図した通りに動くかや、バグが無いかなどを確認する行為を何十、何百と繰り返し異常動作が無い事を確認してから使用するのが普通である。
しかしそんな時間は当然あるわけもなく、テストするにしてもNPCに対して直接干渉を禁じられている現状ではどうしようもないのである。
もちろん鏑木は少ない時間ながらもミス一つないようプログラムを組み、バグなど起きないと自負している。
それでも数万分の一の確率で発生するバグや、発生条件が複雑怪奇で、一度発生した後、同じ事をしても二度と発生しないバグ等も存在するのは確かだ。
それはAWOを作る以前から自作の同人ゲームを作成していた鏑木は良く知っていた。
だからこそアストリットに対して念を押したのだった。
だがアストリットに鏑木のようなプログラミングについての知識はない。そのため鏑木の作ったスキルを信用こそすれ疑惑の眼で見るといったことは無かった。
「アキラの作ったものに間違いなんてないって。大丈夫大丈夫」
鏑木の不安の事など気にもせずあっけらかんと言うアストリットにこれ以上何を言っても無駄かなと鏑木は黙って状況を見守ることにした。
ヴェロニカ・アーノットは深い深い闇の中に浮かんでいた。
感覚的には海の中にずっと潜っているような感覚だったが、不思議と息苦しくは無く、心地よかった。 眼をあけてみると辺りは深い闇に覆われており身体の自由は利かなかった。
死んでしまったのだろうか。このまま天国に送られるのだろうか?そう思ったヴェロニカだったが、ふと死ぬ直前の事を思い出す。
(天国には・・・行けそうにありませんわね」
死んだ事により冷静になった事で自分のしでかした事を客観的に見れる事が出来るようになったヴェロニカは思わず自分の所業に苦笑いする。
自分では溶かせなかった紫苑の心を溶かし、その隣に立ったアストリットという人物に対し嫉妬心を抱き、あまつさえ決闘まで挑み刃を向けたのだ。
男として紫苑の隣に立つ等といった事を求めていたわけではない。そもそも自分は物心ついたときから男性しか愛せない、自分の身体についている異物や平たい胸に対する違和感を抱えていたし、女性である紫苑と添い遂げようと思ったわけではない。ただ憧れの存在に近付き、一緒にいたかっただけだったのだ。
そんな憧れの存在の隣に立つアストリットという女性に対して抱いた小さな嫉妬はその存在を見た時から消し飛んでしまった。
見るもの全てを魅了してやまない絹のように白い肌に、闇よりも濃い艶やかな黒髪。吸い込まれそうなほど綺麗な黒耀石のような瞳。
漂ってくる気配はまさに大昔に廃止された貴族制度の時代に存在したといわれている上流貴族のようだった。
二人が連れだって歩いている姿を見て、小さな嫉妬心など薄れ応援する気持にもなり始めた。
ただ時折押し寄せるただならぬ怒りや憎しみの感情に我を忘れてアストリットに強過ぎる視線を向けたことは何度もあった。
小さなかがり火にいきなり油を大量に投下されたかのように燃え盛る激情を押さえつけるのは苦労した。
結局、紫苑が模擬戦で傷つき、その模擬戦の相手がアストリットだったと知った時は激情に身を任せ決闘など挑んでしまったわけだが。
それこそがウイルスの影響で感情と身体能力が劇的に変化した要因だったわけだが、ヴェロニカに知る由も無い。
混濁する意識の中、ヴェロニカは願う。
(もし、私が死ぬのではなく、まどろみの眠りに付いているだけならば、これが夢で覚めた先に現実が待っているならば、どうか私にアストリットお姉さまに謝るチャンスをお与えください)
そう願い、遥か上空の水面から差し込まれる小さな光が大きな光へと変わりヴェロニカを暖かく包みこんだのを眼と身体で感じ取ったヴェロニカはそのまま意識を再び手放した。
「う、ううん・・・?」
「気が付いたのね?」
「アストリットお姉さまっ!?」
ぼやけていた意識が次第にはっきりしてきたヴェロニカが最初に見た光景は美しい美貌にほっとした表情を浮かべるアストリットの顔だった。
慌てて起き上がろうとしたが、上手く身体が動かず苦痛に顔を歪めていると、
「無理しなくてもいいわよ。先程まで戦っていたのだから」
そう言われ、意識を手放す前の記憶を手繰り寄せる。イフリートを召喚出来た後の記憶が曖昧だが、確か・・・。
「そう、でしたわね・・・私は負けたのですね」
記憶が曖昧でもこの状況を見れば誰が見ても結果は明らかだ。何故ならヴェロニカは今、アストリットに膝枕されている状況なのだから。
顔を下に向けると何やシーツのような物を上からかけられているようだった。身体の調子を確かめ、倦怠感が抜けないヴェロニカはアストリットの行為に甘えることにした。頭をアストリットの膝へと静かに落とし眼を瞑り息を整える。
「どう落ち着いた?」
「ええ。お陰さまで・・・」
「落ち着いた所でちょっとしたネタばらしでもしましょうか、どこから話した方がいいかしらね」
そう前置きをしてアストリットは徐に語り始めた。
ヴェロニカの情緒不安定な感情や身体能力や内包魔力量の急激な上昇の原因について。
語られる内容はヴェロニカにも少なからず心当たりのある出来ごとであったし、何よりアストリットに決闘を申し込んだ原因も抑えていた感情の爆発によるものだったのだ。
「では、私に悪い精霊が取り付いていたのが原因だったのですか?」
ヴェロニカの状態異常をウイルス感染なんて説明出来なかったアストリットはこの世界では誰もが存在を認識している精霊に置き換えることにしたのだ。
負の感情を浴びた精霊が変質し魔に侵された精霊・・・魔精霊と呼ばれるとして現界することもエグランテリアの住人の間に広く知られている。
それを利用しヴェロニカは魔精霊に取り付かれていたという事にしたのだ。
「ええ、そうよ。それを取り除くために貴女を煽ったり、紫苑をダシに使ってしまったことはゴメンなさいね」
「いえ、元々は私が貴女に対して抱いていた悪しき感情が原因だったのですわ。私の方こそ申し訳ありませんでした・・・」
伏せ目がちに謝罪するヴェロニカに対しアストリットはヴェロニカの頭にそっと手を乗せる。
「ひっ______あっ・・・」
叩かれると思ったのか、ヴェロニカが小さな悲鳴を上げた後、怯えた表情が驚きに変わる。
アストリットがヴェロニカの頭を撫で始めたのだ。
「憧れが憧れだけであるうちは、それはとても無邪気で、可愛らしくて尊い感情だと思う・・・けれど
好きな相手に近寄る者を排除しようとか、その子に悪意を向けたりとかそう考え始めた時点で、それは思い遣りを欠いた行動と云わざるを得ない」
ヴェロニカの頭を撫でる優しい手つきとは裏腹にアストリットの口調は強く、ヴェロニカは思わず身体を縮こまる。
「人のことを顧みないのは、優しさを持てないことは、決して良いことではないよね?憧れや苛立ち、そして嫌悪、積み重なった感情の爆発した結果が魔精霊によって変質した姿だったとしても、それが先程までの貴女の姿なのだろうから。起してしまった行動の結果を今、問いただしても仕方ない・・・」
「ねえ、ヴェロニカ。貴女は暴走していて覚えていないかもしれないけれど、『私以外あの人には触れさせない!会話させない』っていったのよ。それって紫苑は孤高の存在だから、ずっと一人で友達も作らないでいろってことなのかな?」
「・・・・・・・」
ヴェロニカは眼に涙を浮かべながら横に首を振る。
「貴女は友達同士で親衛隊を結成して仲良くやっているのに、紫苑にはずっと独りでいろと、友だちを作るなと、そう押し付けているということです。貴女は自分が憧れている女性に対して、自分だったらしたくないことそれを押し付けようとしていたのだということを自覚しなさい」
「でもね・・・」そう前置きして次にアストリットから出た言葉を紡ぐ口調はやさしいものだった。
「どうせなら貴女の憧れや強い気持ちを言葉にして、紫苑にぶつけるくらいのことをして御覧なさい。その方が、余程勇気がいることなんだから。まあ人の受け売りなんだけどねっ」
ウインクしてニコッと笑うアストリットの顔は女神のようで眩しかった。
その言葉を受けたヴェロニカの決壊したダムのように眼から涙があふれ出た。
「私!紫苑お姉さまと仲良くなさっているお姉さまのことが羨ましくてっ」
美麗な顔を歪まして号泣するヴェロニカをアストリットは頭を撫でながら落ち着くのを見守りつつ天を仰ぎ、
(千早さん・・・貴方の言葉使わせてもらったぜ・・・)
と、かつて二次元に存在した男性に向かって感謝するアストリットなのであった。
ヴェロニカが泣きやんだ時には既に昼休みはとっくに終わり、五時限目も終わろうとしていた。
「随分と遅くなってしまったわね。皆心配していないと良いのだけれど・・・」
「すみません。私の所為で・・・」
泣き腫らした顔にまた涙を溜めそうになっていたヴェロニカに気まずそうにアストリットは話しかける。
「気にしないでいいのよ・・・それよりも・・・ね?」
「は、はい。なんでしょうか?」
アストリットの雰囲気の違いを感じ取ったのかヴェロニカが恐る恐る尋ねる。
「えっとね。魔精霊を取り除くのに使った魔法がね。オリジナルでね?初めて使ったのね?それでね?ちょっとね?大変な事がね?」
「結局・・・何がいいたいんですの?」
中々核心に入ろうとしないアストリットにさすがに痺れを切らしたヴェロニカが強い口調で言うと、
「見てもらった方が早い・・・」
とヴェロニカの身体を覆っているシーツを指差す。
そういえば着ていた制服がいつの間にか無くなっていて肌寒さから察するに自分は今裸なのだろうとヴェロニカは思う。
なるほど。そのオリジナル魔法を使った時に服を弾き飛ばしてしまったのですわね。
そう思ったヴェロニカは「魔精霊を取り除くなんて偉業の代償ですもの。安いものですわ」とほほ笑んだ。
「そう?それならいいんだけど・・・本当に良いの?」
信じられないといった様子で訪ねてくるアストリットに替えの利く制服くらいで何をと思ったヴェロニカだったが、仮にも自分は男性で相手はれっきとした男の裸など見た事もない純情な女性だ。
自分の穢れた裸体を見せるもの失礼だと思いシーツを手繰り寄せる。
「すみません。アストリットお姉さま。汚いものをお見せしてしまって・・・というより」
ヴェロニカは先程まで気にしていなかった。というより相手が余りにも気にしていなかった為、忘れていた重要な事を思い出す。
「男性である私を、どうにかするつもりはないのですか・・・?」
そう、ヴェロニカは性同一性障害という病気を患ってはいるが、れっきとした男なのだ。
学院長の許可はもらっているとはいってもそんな事は学生であるアストリットには関係は無い。
決闘中に知り合った時から男性であることは知っていると告白はされたが、決闘を終えた今も教職員や生徒たちに密告せずに黙っているとは限らないからだ。
問われたアストリットはさらに気まずそうに眼を逸らし、俯いてしまう。
(ああ、やはり私の女学院生活は終わってしまうのですね・・・)
アストリットの行動を見て男性である事を周囲にばらす事を示唆した動作だと思ったヴェロニカは当然の結果だと思う。
入学して数カ月という期間、男性であることをひた隠しにしてきた。
しかも寮に入り女性と共に寝食を共にしてきたのだ。アストリットは出会った時から男性だと看過していたということだが、ヴェロニカの事を洩らさなかったのは学院長から説得されたからだとヴェロニカは思っていた。
そうでもなければ箱入りお嬢様が大多数通う歴史ある天津乙女女学院に男が性別を偽って通っている等度いう事を許せる人間などいないだろう。
アストリットの場合は中身が男性ではあるものの、仮想体は女性型なのだ。性別は決して偽っている訳ではない。
とはいえ、やはり中身が男性な為、ヴェロニカが女学院に入学している事にそれほどまでに驚きはしなかったし、現実世界では似たような設定のゲームもいくつかやったことがあり、ヴェロニカに対し負の感情はあまり抱かなかったのだが、当然ヴェロニカがそんな事情を知るはずもなく、今か今かと死刑判決を待った。
しかしいつまで経ってもアストリットは俯いたままシーツに指差したままであった。
さすがに疑問に思ったヴェロニカがシーツをめくり自分の身体を確認すると、
「なっ!どうなっているんですのっ!?」
ヴェロニカが驚愕した表情で自分の身体を見つめる。
それもそのはずだろう。下半身に長年忌み嫌ってきた息子が居なくなっていたのだ。
それだけじゃない。パッドでDカップまで上げていた平べったい胸には本物の隆起した乳房があり、体つきもどこか華奢になっており、肌艶もいつもと違っていた。
つまり総合するとヴェロニカの身体は女体化していたのだ。
そこでヴェロニカは先程のアストリットの言葉を思い出す。言いにくそうにしていた事を含めて。
「ア、アストリットさんがコレを・・・?」
するとビクッと身体を震わせたアストリットがおずおずと頷く。
「なんてことを・・・」
いつも感じていた自分の身体じゃない気持ち悪い感覚もどこへやら。触ってみて確かに感じる女性肌にヴェロニカは感極まってアストリットに抱きついた。
抱きついた拍子にシーツは剥がれ全裸でアストリットに抱きつくヴェロニカ。
「ちょっ!ちょー!!」
(生乳が!生乳が当たっとる!)
相手はいくら元男とはいえ、ニューハーフ的なものではなく、完全な女性となったヴェロニカだ。
女性のような男性から美少女へと転生したヴェロニカによる抱きつき攻撃にアストリットの精神は多大なるダメージを負った。
いくら制服越しとはいえ、女性にしかない二つの凶器を押しつけられてはアストリットも黙ってはいられない。
何とかヴェロニカを引き剥がし即座に後ずさる。
「ヴェロニカ落ち着いて!」
「こ、これが落ち着いていられますでしょうかーーーー!!!」
女性化して喜んでいるヴェロニカの様子にアストリットはようやくヴェロニカの精神的な病を思い出す。
(ああ、そうだ。ヴェロニカって性同一性障害だったんだっけか。じゃあ女体化しても問題なかったってことね・・・)
そう、ヴェロニカは悲願の女性化に我を忘れて喜んだ。
神々や精霊ですら成しえなかった性別交換をアストリットはスキル超越浄化によって成し遂げてしまったのだ。
何がどうなってヴェロニカの身体が女体化したのかは分からない。
ヴェロニカの思いが反映されたのか。ウイルスの影響が残っていたのか。氷漬けにされていたのが原因なのか。バグを引き起こす要素はそれこそいくらでもあったのだ。
本人が喜んでいるのだから気にする事は無い。
それが喜んで全裸で変なダンスを踊っているヴェロニカの姿を見たアストリットの感想だった。
その後落ち着いたヴェロニカに制服をアイテムクリエイションで素早く作成し着させたアストリットは新生ヴェロニカと共に屋内地下実習場を後にした。
授業を結果的にさぼってしまった為、担任の教師にはお叱りの言葉を受けたが、学院長のシェリーには「長年の問題の一つを解決していただきありがとうございます」と感謝された。
「さすがはマスターです」というシェリーの言葉を隣で聞いていたヴェロニカは「?」と気になったが詮索はしなかった。
その翌日。いつものように登校しようとアストリットと紫苑がブルー・ヘブン寮の玄関を出ていくと、後ろからヴェロニカが付いて来た。
「あら、珍しいわね。いつもは少し後ろから付いてきていたのに。どういった心変わり?」
と紫苑がヴェロニカにニヤニヤした様子で聞くと、
「はい。私、アストリットお姉さまには返しきれない恩が出来まして・・・昨日をもちまして紫苑お姉さま親衛隊を止めさせていただきました」
「あら?そうなの。残念ねぇ・・・」
あからさまに冷や汗をかき、ロボットのような機械的な動きになっているアストリットを見て楽しんでいる様子の紫苑。
「その代わり・・・」
「ん?」
上目遣いでアストリットを見上げながら悪戯を思いついた子供のような顔をしたヴェロニカが前置きを置きながら、
「本日からアストリット親衛隊を結成しアストリットお姉さまと友好を深めるべく邁進していきたいと思いますわっ!!」
と高らかに宣言した。
「ちょ!いきなりどうしたの?」
突然の方向転換に驚くアストリット。だがヴェロニカは尚もニヤニヤした様子でそっとアストリットの耳にその艶のある口を近付けると小声で、
「だってアストリットお姉さまがおっしゃったのではありませんか。私の強い憧れや思いをぶつけてみなさいって」
と顔を赤くしながら囁いた。
「ちょっとアリー。ちゃんと説明してもらうわよぉ?」
昨日までとまるで様子の違うヴェロニカの変わりようの原因はなんだ?とジト眼でアストリットを見る紫苑。
(はてさてどうやって誤魔化したらいいものやら・・・)
そう心の中でボヤキながら両脇を美女と美少女にぴったり寄り添われたアストリットは今日も天津乙女女学院の桜並木を歩いて行くのだった。
ヴェロニカ編終了。ようやくユウ君に戻る・・・かも




