目覚め
説明会が長かった為、本編投稿です。
しかし相変わらずの短い文章では御座いますが平にご容赦を。
久世が目を覚ますとそこは自分のベットだった。
「あれ、夢・・・だったのか?」
寝ぼけた頭を覚醒させるべく、二階の自室から一階の洗面所へと移動する。蛇口を捻り、蛇口の下に両手を皿のようにして水が出てくるのを待つも一向に水は出てこなかった。
「故障かあ?」と疑問を持ちつつキッチンに移動し蛇口を捻るも、やはり水は出なかった。
「断水でもしてるのかな」と自身に言い聞かせ喉の渇きを潤すために冷蔵庫へ向かう。冷蔵庫を開け、清涼飲料水のペットボトルの口を開け、一気に飲み干す。
「うっわ、ぬるっ!」
生ぬるい飲み物と溶けた氷、冷凍食品の数々を見、冷蔵庫まで使用出来ないことに気付いた久世はテレビをつけようとリモコンのボタンを押す。が、テレビは点灯しない。配電盤を確認するもブレーカーも上がっている事から家の配線には問題が無いだろうと考え、外を見る。リビングふらふらと窓に近づき、ようやく異変に気づく。
「何がいったいどうなってるんだ・・・」
窓の外は、草木が茂り巨大な樹木が所狭しと生えた大森林だった。
とりあえず今のままでは埒が明かないと、久世は外に飛び出す。
「うん。間違い無くウチだ。でも、なんだってこんな森の中に・・・・・・」
改めて外から自分の家を見つめる。そこには森の中にポツンと一軒家が建つという奇妙な光景が広がっていた。
草木が風で揺れ、どこからともなく動物達の鳴き声が聞こえる。
「森の中・・・ってことは・・・」
そう呟くと、久世はAWOの中でメインメニュー画面を表示する行為である、右手を宙に向け人差し指と中指を振る動作行った。
すると久世にしか見えない透けているAWOのメニュー画面が宙に表示された。
「やっぱAWOの中か。夢じゃ無かったってことか。てか、ビックリすることってこれか?人ン家完全再現とか!しっかし、説明途中で送り出しやがったな!文句いってやる!」
メニューアイコンの中から運営への報告コマンドを選択し実行する。こうすることが鏑木への連絡手段となっていた。
が、一向に反応は無く、耳には砂嵐のようなザーザー音が聞こえるだけであった。
「連絡が通じない・・・向こうで何か問題があったって事・・・か?」
鏑木に対する不安が過るも現状の把握が第一優先だと久世は考えを変え、マップ機能を利用し現在地を確認する。表示にはフォレストガーデンという場所が表示され他の場所は白くなっていた。
「自分で歩かないとマップに反映されないのもライフサイドと一緒か、ステータスはっと・・・
なんで・・・キャラ名の横にNPCって書いてあるんだ・・・」
そこには、キャラクターネーム【アンタレス】NPCと表記されていた。
通常、サバイバルサイドではキャラクターネームの横には何も表記は無いはずである。そしてこの表記方法がされるのは
「俺、NPC扱いになってる・・・ライフサイドのNPC状態ってこと・・・?」
そう、ライフサイドのNPCへの精神転送を行う際、転送先のNPCはランダムか個別指定出来るのだが、転送した先のNPCのステータス画面を表示するとキャラクターネームの横にNPCと表記がされるのだ。
「まあライフサイドにサバイバルサイドの人間が居るのは可笑しいからしょうがない仕様なのか」と久世が納得し他のステータスを確認する。
装備としては先程から着ているパジャマが認識されている。武器は無し。職業:魔法剣士。そしてレベルは15と低かった。これは元々のサバイバルサイドでの久世と変わらなかった。
アイテム一覧を見ても所持品0となっており、サバルバルサイドで使用していたアイテムや武器等は別枠に見つけたのだがロックが掛っており取り出せないようになっていた。
「アイテムも一からかキツイな・・・。
サバイバルサイドと変わったところなんて殆ど無いじゃないか、探索するのもNPCを召喚すればなんとかなるか」
レベルが低くてもNPCを呼び出せるし戦闘を行う際も召喚したNPCが代わりにやってくれていたので問題はなかった。そんな久世は周りから箱入りお嬢様と馬鹿にされてはいたが本人は気にしていなかった。
何故、お嬢様と言われていたのかは久世の容姿が関係していた。AWOでのサバイバルサイドで使用するアバターの見た目は自身で一から作成するものと、自身の顔をスキャンし読み込んだものを使用する二通りのやりかたが主な方法だった。
久世は、自身の顔をスキャンしアバターを作っていた為、色白で女顔の華奢な体付きをした男性アバターとなっていた。就職してからの体つきは依然と見違えるほどたくましくなったが残念ながら長年つき添ったアバターには反映されなかったのである。
久世はNPCを呼び出すべくコマンドを唱える。
「ブック」
久世がそう唱えると目の前に分厚い緑色の本が出て来た。NPCを召喚にはブックと呼ばれる魔法でカードが収まっている魔術書を呼び出し、召喚したいNPCを召喚する事になる。
「来い!復讐に身を焦がす聖女:アンデッドジャンヌ・ダルク!」
久世が召喚魔法を唱え終っても辺りは変わらず動物達の鳴き声が聞こえるだけだった。
「あ、あれ?失敗したのか・・・?」
久世の目の前には赤文字で【ERROR】と出ていた。
「エラー表示なんて初めて出たぞ。MPはぎりぎり足りてるはずなのにな・・・」
どのみち呼び出せないのでは仕方ないと久世は呼び出した本を腰にぶらさげ、いったん家に戻りTシャツとジーンズに着替え、昔修学旅行で購入した木刀を装備し探索に出た。
空を覆い隠すように天へと伸びている大樹の大森林が開け、自分の膝程の草木が茂る草原に出た。見渡す限り一面に広がる草原は日本ではまず見られる事のない光景だった。
「新聖暦500年位って話じゃなかったか?もっと古い時代・・・というかもはや異世界じゃないのか」
以前学校の授業や資料で見た事のある過去の地球の光景を思い浮かべるもこんな場所あったっけな?と久世は考えながら奥へ奥へと進んでいく。
しばらく進むと森を抜け、辺り一面草原が見渡せる場所に出た。そのまま草原を進んでいくと遠くの方で微かに草村が動いているのが目に入った。
「なにかいるな・・・」
久世は身を屈め、接近してくる対象を観察した。
草むらを掻きわけながら、石を削り作った剣を持つ犬のような顔をした魔物コボルト。その群れが久世のいる方向へと進軍していた。
「レベルとステータスが表示されない!?これもライフサイドの影響か!」
久世が進軍してくるコボルトを意識するとコボルトの頭の上に名前が表示された。サバイバルサイドであれば名前の横にHPが表示されるのだが、表示がされず、さらにエネミーサーチの魔法を唱えると相手のステータスと弱点が表示されるのだが、今の段階で久世は覚えていなかった。
「レベルも分からない群れを相手にするほど俺も馬鹿じゃないんでな・・・」
久世はそのままの姿勢を取りコボルトの群れをやり過ごす。コボルト達はしきりに周囲を警戒しながら進んでいるもののどこか焦っているように見え、上空を隈なく見ては安堵の表情を浮かべていた。
「こいつら何を気にしているんだ?」
久世が疑問を口にした時、辺りに突風が舞い起こった。
思わず目を瞑り目を開けた時、ドサッと上空から何かが落ちて来た。良く見ると先程久世がやり過ごしたコボルトの数匹が地面に転がりこと切れていた。
生き残ったコボルト達が雄たけびを上げながら上空を睨む。久世もその視線の先を追うと、空を滑空する一匹の黒い影が見えた。
目を凝らして何者であるのかを確認する。そうすると遠くに居るモンスターの名前が表示される。
煉獄龍・幼竜
煉獄龍は態勢を変え、コボルトの群れに急降下しその足でコボルトを掴み再び空へ舞い上がると上空からコボルト達を離し落下させる。地面に叩きつけられたコボルト達は苦悶の声を上げたのち絶命する。
久世が遭遇した際の半分にも満たない数となってしまったコボルと達は森の奥深くへと逃走を試みるも、煉獄龍の口から燃え盛る火炎弾が放たれコボルと達を焼き尽くす。焼け焦げたコボルトの臭いに思わず死の危険を感じ久世がおう吐する。
するとその異臭に煉獄龍が反応し、久世を視界に捉え狙いを定めてくる。自分が標的となった事を悟った久世は逃げたくなる気持ちを奮い立たせ戦闘を開始する。
(逃げる?いや、さっきのコボルトみたいに狙い撃ちされるのがおちか!やるしかない!ビビるな!迎え撃つんだ!)
久世が木刀を正面に構え飛行している煉獄龍と対峙する。無謀に思えるこの行為に対して煉獄龍は地面に降り、四足歩行で久世に突進を開始する。
体を横に投げ出す形で煉獄龍の突進を回避し離れざまに一太刀浴びせるも堅い甲殻はびくともしなかった。
「なら、こいつはどうだ!イグニート・ソード!」
久世が魔法を唱えると、木刀に炎が巻きついた。スキル【イグニート・ソード】は対象の持つ、刀剣類の武器に炎属性を纏わすことが出来、低レベルの久世が覚える数少ないスキルの一つだった。
「せい!」
再び接近してきた煉獄龍に木刀で切りつける。が、先程よりかはダメージを与えられているようだが、微々たるものだった。
何度か木刀を打ち付けているうちにバキッと音がしたと思うと木刀が折れてしまった。
「耐久度が無くなったのか!?でもサバイバルサイドじゃ威力が下がるだけじゃ!」
武具には耐久度が設定されており、アイテム等を使用し耐久度を回復させないと威力や防御力低下といった効果があった。しかし、ライフサイドでは耐久度が0となったアイテムは破壊され使い物にならなくなる仕様だったのである。久世がそのことについて知るすべはなかった為この結果は当然といえた。
武器を失った久世に煉獄龍は目を細め態勢を低くし突撃の姿勢を取る。久世はその場から逃げようと背を向けて走り出そうとするが地面に横たわった何かに足を取られ転んでしまう。
「くっ、コボルトの死体か!」
苛立ちながら転んでしまった態勢を立て直し煉獄龍の位置を確認しようと顔を上げた久世が見たものは、目前に迫った煉獄龍が大きく口を開き、久世の右足が無残に食いちぎられる光景だった。
「_____________________ッツがあ!!」
(いでぇ!なんだこれ!?はっ?ゲームの痛みじゃねぇぞ!?クソッタレ!!)
久世の体に言葉にならない激痛が襲いかかる。足を食いちぎられた煉獄龍の突進をまともに食らった久世は吹き飛ばされ地面をのた打ち回り切断された足からおびただしい量の血が溢れだす。
(何が起きた?なんで痛覚遮断が効いてない?これもライフサイドの影響ってことかよ・・・)
通常、AWO内では痛覚遮断が適用されている。どれだけ強い攻撃を受けてもチクリと針で刺されたような痛みしか感じない。これは実際に致死量相当の痛みをアバターが受けた際、その痛みを自分本来の肉体にフィードバックし、痛みが残ったり脳が体が死んだと認識し実際に死が訪れるといった事象が回避する為の処置である。
しかし、プレイヤーのいないその世界の住人、NPCにとっては本当の世界であるライフサイドエリアでは当然そのような規制は無かった。
片足を失った久世が痛みを堪え、どうにか逃げようと地面を這うも煉獄龍は弱った獲物をいたぶるように足でけり上げる。
「ガハッ!」
腹を強く蹴られ宙を舞った久世の肉体は内臓が潰れあばら骨がいくつも骨折し瀕死の重傷を負う。
薄れ行く意識の中で久世はこの世界に飛ばされる前の鏑木の途切れ途切れの言葉を思い出していた。
『サ・バルサイドと・・・・・って・・・ショック・・・・が・・・制限・・・てねない・・・死ぬと・・・本当に・・死・・から!』
(じゃあこの世界で死んだら・・・俺・・・死ぬのか・・・)
「___し、死んでたまるかよ・・・!」
久世の目の前には先程まで腰にぶら下げていた召喚用の本が蹴られた拍子に外れ開かれていた。
無意識に手を伸ばし本に触れる。すると本から頭に情報が流れ込んできた。
「なるほどな・・・。後は・・・頼んだぜジャンヌ」
久世が意識を失った後、本が光り輝き久世の目の前には白銀の鎧を身に纏い、頭には白銀の髪飾りを付けた女性、かつて百年戦争でオルレアンを解放したフランスの英雄。カトリックの聖人ジャンヌ・ダルクが降臨した。