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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
潜入!天津乙女女学院編
37/54

魔法学科:久世の場合②

結局、一週間更新は無理だったのであった・・・。

「アストリットさん!あのような美し・・・ゲフンゲフン!華美な魔法衣は禁止です!でないと他の生徒たちに悪影響を与える恐れがありますので」


「す、すみませんでした」


 クラス中の生徒が鼻血を噴き出し気絶するという怪事件から数分後、意識を取り戻したカトレアにアストリットは早速注意を受けていた。

 しゅんとするアストリットが周囲に眼を向けると、気絶から覚めた同じクラスの生徒は未だ血走った眼でこちらを見たり、先程の光景を思い出したのかフラッと意識を手放していた。


「カトレア先生。どういった魔法衣ならいいんですか?参考にお手本を見せてもらいたいのですが?」


 アストリットがそう言うと、鼻血を噴き出し片膝をついただけに留まっていた紫苑を呼び寄せるカトレア。


「紫苑さん。お手本に魔法衣を見せてあげてくれるかしら?」


「分かりました」


 紫苑は頷き、アストリットの前に立つと「良く見ててね」とウインクをしてから、


「着装」


 と短く呟くと紫苑の身体が光に包まれる。

 光が消え失せ、紫苑の魔法衣が顕現された。

 紫苑の髪と同じ深い紫色の全身鎧。幾重にも折り重なった装甲には金色に輝く装飾が見て取れる。

 女性特有のボディラインに沿って装着された鎧は紫苑のプロポーションも相まって扇情的だ。

 鋭いエッジが肩、肘、膝、踵等随所から突き出ており、素手での対人戦闘も想定されているのだろう。

 龍の鉤爪のような物が胸当てに使われており、お腹周りだけが直接肌を見せていた。


 手には先程、顕現させた槍が握られている。

 二つの漆黒の角が螺旋状に織り込まれた槍に全身鎧の紫苑は天津乙女女学院という女学院には似つかわしくない格好だった。

 しかし、この姿こそが天津乙女女学院が目指す魔法使い。

 【エルダーウィッチ】に最も近いとされる姿であった。


「随分と禍々し___格好良い姿ですね・・・」


 思っていた魔法少女を大人しくしたような格好が出てくると思っていたアストリットは目の前の紫苑の格好に唖然とする。

 自分の姿は平気でこれは良いのか?とカトレアに視線を向けるが、カトレアはうんうんと頻りに頷いている。


(まぁ、いっか・・・)


 良くも悪くもこの世界サーバーに順応するべきだと思ったアストリットは深く考えずに行動することにしたのだった。


「じゃあ、さっそく模擬戦に移りましょうか!」


「はい?」


 パンと手を叩き、にっこりとほほ笑みながらカトレアは絵を描くように腕を動かすと戦闘用のシールドが辺り一帯に広がる。

 これは屋内実習場でも使われている技術で、屋内実習場では決められた範囲内にシールドを張る事が出来るのに対して、屋外実習場では広大な校庭を含め天津乙女女学院の敷地を使用した戦闘訓練が行われる為、その範囲はシールドを張る術者によってその大きさが変わる仕様だ。

 今回は校庭の半分。大体、東京ドーム一個分の広さのシールドが張られた。

 展開されたシールドの中に人は3人しかいない。アストリットとカトレア。そして紫苑である。

つまり・・・。


「私の相手って紫苑・・・?」


「あら?私じゃ不満?」


「滅相もアリマセン」


 全身を放電させながら槍を軽々と振り回す紫苑に片言で言うアストリット。

どうやら模擬戦を断るという選択肢は無いようだ。


「アリーの実力を見るのは初めてよね。本気で行かせてもらうわ」


「お、お手柔らかに」


「アストリットさん。武器化と魔法衣を」


「あっ、はい」


 カトレアの言葉にカードを刀状に変化させるアストリット。そして魔法衣を出そうとして留まる。


(乱れ桜は出せないんだから・・・どうすっかな~。面倒だ。このままでいいや)


 形状を考えるのが面倒になったアストリットは武器化だけで留める。

 それを見たカトレアは怪訝な顔で注意を促した。


「アストリットさん?魔法衣はどうしたの?魔法衣化した服は錬度によって対物理、対魔法だけでなく、使用者の速度や魔力回復なんかの追加効果も出るようになるから着ておいた方がいいわよ?それに紫苑さんの魔法衣は錬度A+はあると思うし・・・」


 カトレアの言った通り、魔法衣には錬度という経験値のような物が設定されている。

錬度は魔法衣を着用して戦闘を行うことで成長する。

 錬度にはランクがあり、F-からSSS+までが存在するが、現在のエグランテリアではS+までが確認されている。

 一般学生である紫苑がA+の魔法衣を持っているという事は異例の出来ごとなのだが、今は割愛するとしよう。

 カトレアの言葉に少し考える素振りを見せるアストリットだったが、


「いえ、取り敢えず武器化だけで十分です」


 と桜花の具合を確かめながら紫苑を見つめる。


「へえ、随分な自信ね。後悔してもしらないわよ?」


「そ~いう訳ではないのだけれど・・・」


 ハンデをわざと与えたようにも捉えられるアストリットの選択に武器を握る手に力が入る紫苑。

 険呑な雰囲気が醸し出される中、カトレアから開始の合図がかかった。


「シィッ!!」


 先に飛び出したのは紫苑だった。

 常人では捉えられない圧倒的な速度を持ってアストリットに接近する。

 手に持った槍の切っ先はアストリットの心臓の位置を確実に捉えていた。

 いくら肉体に与えるダメージが精神ダメージに変換されるシールド内だとしても、受けた方の精神ダメージは計り知れないだろう。

 

 しかしそれは当たればの話。


「なっ!?」


 目前に迫ったアストリットの身体が紫苑の視界からフッと消える。


「くぅ!」


 そして次の瞬間、紫苑の身体は横に吹き飛ばされていた。


(何をされたの!?全然見えなかった)


 突然の横からの攻撃に思考が混乱する。

 だが、持ち前の冷静さもあって空中で身体を捻り体勢を立て直し槍を地面に突き立て着地した紫苑は、攻撃を受けた方向を見る。

 するとそこには左足を上げたままの姿勢のアストリットの姿があった。

 アストリットは紫苑の突進を右に避け、そのまま左足で紫苑の横っ腹に蹴りをお見舞いしたのだ。


「魔法衣無しでこの動き。想像以上ね」


「褒めても何も出ないわよ」


「そう・・・ねっ!」


 片膝をついた状態から空中にいくつもの雷の槍を出現させ投擲する紫苑。


(さすがに当たったらマズイかなっ!)


 アストリットは跳躍し身体を捻りながら腕を振るう。

すると振るわれた腕から複数の雷の矢が紫苑へと飛来する。


「なっ!」


 驚愕し眼を見開きながら槍に雷を纏わせ片手で槍を回転させ雷の矢を払う紫苑。

そのまま空中へと飛び一直線にアストリットへと接近する。

 空中でぶつかり合った二人の間から二色の雷が迸る。

 紫苑の放つ紫色の雷とアストリットの放つ黄色い雷。


「まさか貴女も雷属性を使えるなんてね!」


「一番馴染んでる魔法なんでねっ!」


 AWOを始めてから数年使い込んできた魔法スキル。その中でも雷属性の魔法スキルをこよなく使い込んでいたアストリット。


 理由は単純。格好いいと思ったから。である。


 空中での鍔迫り合いはアストリットの勝ちで終わった。

弾き飛ばされた紫苑が一足早く地面へと着地するが態勢を立て直す暇もなく、上から風魔法で勢いを増したアストリットの一撃をその身に受ける。

 寸前、槍を盾とし直接ダメージを受けずには済んだ紫苑だったが、黒耀姫の規格外の筋力からもたらされる一撃は槍を叩き折り、紫苑のむき出しとなった腹へと吸い込まれるように命中する。


「くはっ!」


 横に大きく吹き飛ばされながら紫苑は口から吐血する。

 肉体ダメージは精神ダメージへと変換されるが、アストリットの強力な一撃は、精神ダメージだけに留まるはずだったダメージを一周回って肉体にまで影響を与えているようだ。


(マズイわね)


 アストリットの想像以上の実力を見たカトレアはこのまま模擬戦が継続した場合、紫苑の受けるダメージは肉体にもダメージを与えてしまい、大怪我に繋がる可能性が高いと瞬時に判断し模擬戦を終了させた。

 ボロボロになりながら地面を転がりようやく動きを止めた紫苑にカトレアが駆け寄る。受けたダメージを確認するためだ。

 もし、受けたダメージが深刻な場合、ただちに処置が必要となる。エグランテリアにおいても肉体のダメージを回復させる為の回復魔法スキルは存在する。

 だが、この世界においての回復魔法スキルは高難度に設定されおり、使用出来る者は限られる。四肢欠損や臓器再生等の最上級難度の回復魔法スキルを使用出来るのは、未だ過去に存在したという聖女アリシアだけである。

 回復魔法スキルは光と水魔法に分類されており、光属性に適性のあるカトレアは回復魔法スキルを使用出来る数少ない教員だ。

 うつ伏せのまま動かない紫苑に駆け寄るカトレアの横を一陣の風が横切った。


「なっ!」


 カトレアの認識出来る速度を超えてアストリットが紫苑へと駆け寄ったのだ。

そして紫苑の傍らにしゃがみ込むと紫苑へと手をかざし何事か呟くと紫苑がすくっと起き上がった。


「ごめんなさい。紫苑。少しやり過ぎたみたい」


 起き上がった紫苑に済まなさそうに謝るアストリット。久々の対人戦闘。それも肉体にダメージを与えない仕様と聞いて少々張り切っていたのだ。

 それに能力限定スキル・リミッターでステータスを80(・・)パーセント制限されているという事もあり、まさか肉体に影響を与えてしまうなんて思いもしなかったのである。 

 バツが悪そうにしているアストリットに紫苑は「平気よ」とサムズアップして見せた。

 普段そのような事をしない紫苑の行動にアストリットは眼を丸くして驚いた後、「プッ」と噴き出し笑い、紫苑は紫苑で「ちょっと笑い過ぎじゃない?」と口元をピクピクと引きつらせていた。


 その光景を駆け寄ろうとしていた足を止めて佇んだカトレアが遠巻きから見ている。


(肉体の損傷、吐血から見て内臓も痛めてる。それに精神ダメージのキャパシティを超えて肉体にダメージが通ったという事は相当な精神ダメージを受けているはず。それなのに、紫苑さんの様子は普段と変わりない。つまり、肉体と精神の両方をあの一瞬で全快にし、なお且つ意識を取り戻させる魔法?そんなもの私は知らない・・・)


 この世に生を受けてから28年。自身の適性魔法である光属性について勉学に励み、教員免許を取る前までは国際魔法士として数年であるが働いていた事もあるカトレア。

 その光魔法に関する知識はこの学院、いや、魔法省務めの人間にも負けていない自信がある。

だが、今しがたアストリットが使用したと思われる回復魔法に心当たりが無かった。

 光属性では無く、水属性の回復魔法?いや、水属性の回復魔法は回復薬のような液体状の飲み薬のような物を作ったり、患部を水で覆う事で治療する方法が一般的なはず。

 ではアストリットの得意属性と思われる火と風の複合属性である雷属性の魔法か?

しかし火、風、雷のどれをとっても回復魔法として使用したなんて話は聞いた事が無い。


 アストリット・グレーフィン・フォン・ハルデンベルグ。


 天津乙女女学院の学院長であるシェリー・メイディランドの学院長権限で転入を認めたという黒髪の美女。

大昔に存在したという、”魔女”と呼ばれる魔法使いたちが使用したと言われている、おぞましき魔法と謂れがある闇属性魔法に適性がありそうな黒髪。

 一説には全ての属性が混じり合った色が黒であり、全ての属性魔法を扱える者の髪の色は黒髪になるという噂が実しやかに囁かれていたりするが、真偽のほどは定かではない。


(アストリット。貴女は何者なの?)


 アストリットの高過ぎる戦闘能力に対する畏怖の念と自身の知らない魔法を知っているかもしれないという好奇心に苛まれながら何とも言えない表情でアストリットを見つめるカトレアなのであった。


読んでくださっている方々に感謝感謝で御座います。


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