魔法学科:久世の場合①
キリが良いので短いですが投稿
後にエグランテリアの美食会を揺るがす事件となったケーキ騒動から数日。
アストリットは遂に魔法学科の授業を受けることとなった。アストリットは今まで普通科の学校に通っていた設定となっている為、魔法をカードを使用して発現するのは初めてのことだ。
時期的に年度末の実技試験が行われようとしている時期である。魔法学科の担当教師であるカトレアからアストリットは実技に関しての初歩的な授業をマンツーマンで教わってた。
他の生徒たちはというと実技試験に向けての個人練習を行っている。
「じゃあ言った通り、光の玉を出現させてみて」
「は、はい」
緊張した面持ちで頷くと眼を閉じ念じ始めるアストリット。
最初は「むむむ」と念じていたアストリットだったが、次第に「むぐぐ」と顔を歪めカードを手に持ち念じるようになっていた。
数分経っても一向に光の玉が出来る気配は無かった。
「う~ん。アストリットさんは魔力適性値が低いのかしら?」
魔力適性とは女性が誰しも持つ魔力を扱う適性値のことである。
これが高ければ高いほど、魔力をイメージ通りに操る事が出来るのだ。しかし魔力適性が限りなく0に近い者でも思考補助装置であるカードを用いれば光の玉を出現させるくらいは可能だった。
そんな事もあってカトレアがうんうんと悩んでいる横でアストリットは冷や汗を掻いていた。
(授業で習った自分の中の魔力を感じ取り、イメージに投影して発現するとか現実世界の人間である俺が出来るわけないよな・・・)
いくら身体が仮想体だったとしても、魔力を感じ取る等といった行為を”黒耀姫”が出来るわけもなく、そもそも黒耀姫が存在した”摩天楼”には魔法が存在しない。あるのは体力ゲージとスタミナゲージだけだった。
鏑木の手によって多少の変更は加えられてはいるものの、そのような機能まで追加されているわけもなく。
(仕方ない・・・な)
そう心の中で呟くと小声で【ライト】の魔法スキルを唱える。
するとアストリットの周りに三つの光の玉が浮かび上がった。ライトの魔法スキルは本来、暗闇などで松明の代わりに明りとして使用する初歩的な魔法スキルだ。
ユウの使用した光球とはまた違う魔法スキルである。
「あら、アストリットさん出来るじゃない!」
その様子を見たカトレアは満面の笑みを浮かべている。対してアストリットは「あはは」と苦笑いだ。
カードを使用しての魔法の発現は問題なしと判断されたアストリットは次の段階へと移る。
デバイスであるカードの能力制限を解除した高度戦闘教育だ。
魔法の扱いが未熟な一年生は、魔法の扱いに慣れてきた三学期の終了間際辺りから、デバイスを用いた高度戦闘教育を受けることになる。
この教育から魔法の使用が未熟なうちにデバイスの力をフルに発揮出来ないよう細工されていたデバイスの能力が解除され、あることが出来るようになるのだ。
そのある事というのは・・・。
「来たれ!」
紫苑がカードに施された待機状態を解くキーを音声入力にて解き放つ。
すると長方形だったカードが形を変え、一本の槍へと変貌した。
鋭利に尖った先端の刃と、刃と一体化している柄の部分には細かい装飾が施されており、名工が作成した一品だと思われる。
紫苑の魔力を吸い取り、微かにバチバチと放電している。
「これがデバイスの待機状態を解除した姿。武器化状態ね。紫苑さんの場合は槍の形状をしているけれど、基本的には使用者の適性や意思をカードにはめ込まれた魔鋼岩が読み取って形状を変化させてくれるわ。解除するには個別に設定した単語を口に出せばいいの。最初の設定ではアクト・オンよ」
「なるほど」
カトレアの説明に頷くアストリット。
(なるほどね。カードが何故、武器扱いのストレージに収まっていたのか理由がようやく分かったな)
転入したての頃、カードを受け取ったアストリットがアイテムストレージにカードを仕舞いこんだ際、いざ取り出そうとした時に色んな道具が収納されているアイテムストレージを検索してもカードが見つからず、探した結果、武具欄に格納されていた事があったのだ。
「じゃあ早速やってみてちょうだい」
「はい」
腕を組み斜に構えているカトレアから合図がかかる。それに合わせアストリットはデフォルト設定の単語である「アクト・オン」と唱える。
デバイスであるカードがアストリットの声紋認証を実施しカード型から変動を遂げる。その形は・・・。
「剣・・・なのかしら?」
デモンストレーションの為呼ばれていた紫苑が首を傾げながら言う。
アストリットの武器化状態のデバイスは所謂【ショーテル】と呼ばれる剣だった。
かなり特殊な形状をしており、刀身が半円を描く様に大きく湾曲しているのが特徴だ。本来であれば相手が構えた盾等を掻い潜り攻撃できる有能な刀剣類なのだが、重心が一般的な刀剣とまったく異なる為、扱いには相当な技量を必要とする武器であった。
当然、この惑星には存在しない類の刀剣だった為、紫苑が首をかしげるのは当然のことであった。
(こ、これは【執行者の魔剣シリーズ】・・・)
武器化したカードを見て苦笑いを浮かべるアストリット。
この武器はアストリット・・・久世が摩天楼時代、対人戦でよく使っていた武器の一つだったのだ。
(もしこの剣が本当に執行者のショーテルと同じ性能なら使えない。いや、使っちゃいけないな)
ショーテルを見て、アストリットはすぐさま刀状にカードを変形させる。
執行者の魔剣シリーズと呼ばれる刀剣類にはとあるギミックが仕込まれており、乙女の園である天津乙女女学院で使われる事は躊躇われた。
その為、メイン武器の一つである【桜花】と同じ形状を取らせる。これで有事の際は大手を持って本物の桜花を使用出来る。
「へえ、綺麗な刀ね」
水晶のように透き通っている薄桃色の刀身を見た紫苑から感嘆の声が漏れる。
摩天楼の50階層のボスを単独撃破した際にドロップするレアアイテムだ。
摩天楼プレイヤーでもそうそうお目にかかる事の出来ない稀少武器に紫苑の眼が釘付けだったが、カトレアから二人に武器化を解くよう言われると名残惜しそうに視線を外した。
「さて、武器化も出来た事だし、次は魔法衣もいってみましょうか!」
「魔法衣って魔法使いが着る戦闘服みたいなものですよね?これもカードを?」
アストリットが同意を求めるように視線を移すとと頷くカトレア。
「そうよ。方法は一緒。デフォルト設定では【アクト2・オン】よ魔法衣は今着ている服を魔法衣に変えるの。カード自体が変わるわけではないの」
「そうなんですか。良し!アクト2・オン!」
言うとアストリットの身体・・・というより制服が光に包まれる。
「どんな魔法衣が出来あがるのかしらね」
紫苑の言葉にカトレアも興味津津である。
この時、アストリットは気が付いていなかった。
武器化もそうであるが、デバイスによる武装変化は持ち主の適性が意思が反映される。
しかしそれはあくまでエグランテリアに存在するNPCにのみ適応される。いわばエグランテリアに存在する全てのNPC専用のパッシブスキルのようなものなのだ。
アレスを含むプレイヤーがデバイスであるカードを武器化・魔法衣化をさせる際に再現される武具は、そのプレイヤーの使用頻度の高い武具が選択され再現される。
つまりどういう事かというと・・・。
アストリットの元である黒耀姫の最強装備であり、使用頻度の最も高い防具である【乱れ桜】が選択されアストリットを包む魔法衣はその形を取る。
白い生地に様々な個所に花が咲き乱れている着物をベースに作られたドレス。
袖は半透明なレースが所々使用されており、中の肌理細やかな細腕が透けて見える。
衿からは豊満な胸が見え隠れしており、背中も大胆にV字に露出し、腰より下のスリットから美しい太ももから先が見え隠れしている服装。
そんな魔天楼をプレイするプレイヤーを男女問わず魅了した魅惑の扇情的な衣装を着たアストリットを見たカトレアや紫苑を含めた生徒たちは例外なく・・・。
「「ブフーーーーーーーーーーーーーッ!!」」
鼻から赤い液体を大量に噴き出しながら即倒するのであった。




