初登校初日:久世の場合
久世が惑星を後にし向かったのは惑星エグランテリア。
鏑木からの情報によればそこは剣と魔法のファンタジー世界。
一見するとファンタジアと変わらないようにみえる。しかし魔法を使えるのは女性のみで魔物の存在もいないなど相違点は多々ある。
それはこの惑星を作り上げた創造主の趣味やら願望が強く出た為だろうと推察された。
ウイルスに感染した対象は既に鏑木の方で把握済みだ。よって久世は対象からウイルスを除去するという簡単な任務となるはずだった。
対象は二名。一人は現在中学生で私立中学校に通っていた。
さっそく対象に近付きウイルス除去スキルである超越浄化を使用すれば事は済む。
だが、実際に行動を起すには不都合がいくつもあった。
一つ目は発症したウイルスにしか効果が出ない事。
二つ目はこのスキルは攻撃属性にあたる為、使用するには相手を切りつける、打撃をあたえる等の攻撃行為をしなければならない為、傍目から見れば通り魔として見られてもおかしくは無い事。
三つ目は例え発症した対象を攻撃しても煉獄龍を倒した時のようにウイルスごと宿主を消し去ってしまう恐れがあったからだ。
今回感染しているのはNPC。いくら仮想世界とはいえ同じ人間を切り捨て、無に帰すというのは良心が痛む。
ウイルス感染したモンスターは簡単に殺せるのに同じ人間では躊躇してしまうのは、久世の甘い所であり、良いところなのではあるのだが・・・。
そんな理由もあって暫くは中学生の子は放置し高校一年生の感染者の方をどうにかしようということになった。
だがここでも問題が発生した。その相手が通っていたのが男子禁制の女学院だったのである。
天津乙女女学院。
穢れ無き淑女を育成する目的で創設された女学院の為、今まで頑なに男子禁制となっていた場所である。
「さすがに潜入は不味くないか?NPCに同化してる現実世界の人間もかなりいるだろう?」
『まぁそうだね。でもその点は心配ないんじゃないかな』
「どういうことだ?」
『だって久世君。女性アバターもっているじゃない?』
「・・・・・っえ?」
とそんな会話がなされ、渋々久世は黒耀姫を使用し天津乙女女学院に潜入する事になったのだ。
潜入する際に現地の人間に手助けをしてもらうべく、カードバインダーを閲覧していた所、打ってつけの人物が居た。
天津乙女女学院の学院長であるシェリー・メイディランドである。
サバイバルサイド時代に何度も遊撃役として召喚し友好を深めていた妙齢の女性だった。
彼女のユニークスキルは恐ろしく特殊で強かった。彼が初期パーティとして常に呼び寄せるほどに。
そんな彼女を頼りに彼は天津乙女女学院に向かう事となる。
人目を避け、学院長室まで辿り着いた彼は驚愕することとなる。
「あなたは・・・うちに貴女のような生徒はいたかしら?」
そう、彼女は久世の事を覚えていなかったのだ。
まぁそれは当然の事で久世は現在、”アンタレス”ではなく”黒耀姫”の仮想体を使用しているし、サバイバルサイドに召喚されたNPCの記憶はライフサイドに帰還した際に封印されるという基本的情報を忘れていたためだ。
仕方なく彼は目の前の人物を目の前に召喚すると言う面倒な手順を踏み、シェリーの記憶を元に戻し協力を仰ぐことに成功する。
それと同時に彼は自分以外の情報収集手段として”ドッペルゲンガー”を召喚する。
召喚されたドッペルゲンガーはアレスの形を取り、購買で情報収集を行うことになる。
男子禁制の乙女の園という事ではあったが、元々アレスは女顔の久世の顔その物であるし、中身がドッペルゲンガー。なお且つ、久世の召喚した制限付きであることからアレス(ドッペルゲンガー)の滞在が許可された。
季節は2月。もうすぐ3学期が終わり、春休みを迎えようとしている時期に彼、いや彼女は天津乙女女学院に中途編入することとなる。
緊張した心臓を落ち着かせ自身の通う事となる教室のドアの前で担任の教師からお呼びがかかるのを待つ。
(学校なんて2年振り・・・だな。ボロ出さない程度には頑張らないとな)
教師からお呼びがかかり、意を決して教室内へと入って行く。
開け放たれた教室のドアから2月のまだ寒さの残る風が温まった教室内へと入り込み、教室の室温を僅かに下げる。
そんな些細な風が彼女の着ている制服のスカートや流れるような艶のある長髪をなびかせ、教室内の生徒たちの視線を集める。
「両親の都合でこのような時期に編入することになりました。アストリット・グレーフィン・フォン・ハルデンベルグと申します。宜しくお願い致します」
久世、いやアストリットは深くお辞儀をし頭を上げるとそこには静寂が広がっていた。
(あれ?なんかマズッたか?)
そんな事を思っていると生徒の一人からポツリと言葉が漏れる。
「天使みたい・・・」
(・・・・はいっ?)
「本当。同性の私たちですら見惚れてしまうくらい・・・」
(まあそりゃあ、黒耀姫は当時のサイバーテクノロジーの最高傑作だからなぁ)
「それにあのお美しさの上に、編入試験のテスト成績は歴代トップだったらしいわよ」
(まあWiki見ながらですから・・・)
内心で聞こえてくる言葉にツッコミを入れながらやり過ごすアストリット。
担任の先生から自席を言われ歩いて行くと熱い視線が周囲から浴びせられる。
(参ったな。この様子じゃ隠密行動は早々にあきらめた方がいいだろうな)
情報収集はアレス(ドッペルゲンガー)に任せる事を算段におきながら自席へと着席すると隣の席の生徒から声がかかる。
「初めまして。秋月紫苑よ。宜しくね」
挨拶をされ、自己紹介を返そうと相手の顔を見たアストリットは相手の顔を見て驚愕する。
(ウソだろ?AWO・・・いや、エターナルプラネット内で自然造形でここまで整った美女がいるなんて・・・)
そう、秋月紫苑と名乗った生徒はアストリットを驚かせるには十分な容姿をしていた。
黒に近い濃い紫色の長髪をなびかせ、意志の強そうな眼に整った顔立ち。身体もモデルのようなスタイルで胸は制服の下から大きく主張しているほどだ。
通常、エタータルプラネットに存在するNPCは顔やスタイル、性格がランダムに決められる。
ゲーム性を重視し美男美女が現実世界より多いのは確かだが、偉人や歴史上の名立たる人物でもないただの一般生徒である紫苑の造形は誰かが手を加えたのではないか?と疑うほど整っていたのだ。
(もしかすると創造主の好みの子なのかもしれないな)
そんな風に思う事にしたアストリットは当たり障りのない挨拶を紫苑に返す。
程なくしてホームルームが終わり、先生が教室から出ていく。
すると我先にそれまで大人しくしていた生徒たちが立ちあがり、アストリットの方へと詰めよってきた。
「アストリットさんは今までどこで暮らしていらしたのかしら?」
「綺麗な黒髪ですわね。得意な魔法はどのような魔法なのかしら?」
等々、口々にアストリットに対する質問が矢継ぎ早に繰り出される。
(聖徳太子でもないんだから聞き取れないって・・・)
どうしたものかと対応に困っていると隣から鶴の一声がかかった。
「貴女たち。アストリットさんが困っているでしょう?少しは迷惑と言うものを考えなさい」
鋭い口調で放たれた言葉に教室が一瞬で静寂に包まれる。
「も、申し訳ありません。紫苑さま」
一人のクラスメイトが紫苑に謝罪の言葉を述べるが、紫苑はというと、
「謝るのは私ではなくてアストリットさんにではなくて?」
と、さらに冷ややかな口調で答える。
「も、申し訳ありません。アストリットさん。少しはしゃぎ過ぎましたわ・・・」
口々に謝罪を述べるクラスメイトにアストリットは「気にしていないから」と声をかけるので精いっぱいだった。
なんなんだこの子は。ちょっと威圧的な子なのかな?
というのが紫苑に対してアストリットが感じた第一印象だったのだが、次の授業でその考えは払しょくされることになる。
アストリットはは中途編入の為、授業は関係なく通常通りに進む。
教科書を昨日の今日でまだ持っていないアストリットが少し困っていると紫苑が机をくっ付けてきた。
「ねえ、アストリットさん。貴女まだ教科書を持っていないでしょう?良かったら私の教科書を使ってちょうだい」
「あ、ありがとう秋月さん」
先程他の生徒に見せた態度とギャップのある態度に面喰っていたアストリットだったが、次に紫苑から放たれる言葉にさらに驚くこととなる。
「紫苑で良いわよ。その代わり、私もアストリットって呼んでもいいかしら?」
「別に構わないけど・・・」
「そう、構わないのね。ふふっ。ありがとうアストリット」
嬉しそうに自分の名前を呼ぶ少女に首をかしげるアストリットなのであった。
放課後、休み時間などを利用して学院内の施設を案内してくれた紫苑にお礼をかねて挨拶をし、今日から自分が住まう寮への案内を頼もうと紫苑を探しているアストリット。
「紫苑さまなら生徒会室にいると思います・・・」
何故か蕩けた目で同い年なのに敬語で自分の質問に受け答えする生徒に疑問を感じながらアストリットは紫苑の居場所を聞くことに成功し、早速足を生徒会室に向けた。
生徒会室とかかれたプレートの部屋の前へと到着したアストリットはドアを開けようとドアの取っ手に手を伸ばした際、教室内の声が聞こえてきた。
「す、すみません。紫苑お姉さま。今度は必ず時間までに終わらせますから!」
聞こえてくる声には聞き覚えが無い。それに紫苑を呼ぶ際にはお姉さまを付けている事から下級生だろうと判断する。それにこの声・・・は、
(泣いているのか?)
聞こえてくる声は涙声で震えているようだった。
「あ、あの。他にお手伝い出来る事はありませんか!?私、紫苑お姉さまのお役に立ちたいんです!」
「そう。じゃあ来年度行われるヘクセンナハト開催時における審査書類一式を17時までに処理してくれるかしら」
「えっ、こ、この量をですか?」
聞こえてくる声から察するに相当な量が目の前に提示されているのであろう。
下級生の生徒の顔が青ざめていくのがドア越しに分かるくらいだ。
「無理なの?では、魔法不正使用を行った生徒たちの中で反省文を提出していない生徒から反省文を受け取って来てくれるかしら?」
「分かりまし・・・ってこのリスト。二年生や三年生のお姉さま方の名前もあるのですが・・・」
「あたりまえでしょう。生徒会の仕事に学年なんて関係ないわよ。出来ないの?出来ないのなら貴女に仕事は無いわ」
「そ、そんな!」
「もういいわ。帰ってちょうだい」
紫苑の無慈悲な言葉に下級生の涙声が強くなっていく。
「他の!他のことならなんでもしますから!」
「貴女に出来る仕事は無いっていってるの。もういいから帰ってちょうだい」
「っつ!」
生徒会室のドアが開け放たれ、涙を溜めた下級生が走り去って行く。
それを見たアストリットはもの言わずにはいられなかった。
(必死に役に立とうって努力してる子に、役に立たないから帰れだ?何様だ!少しでも優しくされて勘違いした俺がバカだった!)
怒りを露わにしつつも、昔やったゲームでこんな状況があったような?と思考が半分それつつ 開け放たれたままの生徒会室に入り紫苑に近付くアストリット。
それに気付いた紫苑はアストリットに笑みを浮かべながら何事もなかったかのように話しかけてくる。
「あら、アストリットじゃない。どうかしたの?」
(平然としてやがる。やっぱコイツは冷酷な人間だったのか)
内に秘めた怒りを抑えながら先程のやりとりについて問い詰めるアストリット。
だが、紫苑から返ってきた言葉は意外なものだった。
「ちょっと待って、あの子が泣いていたのは私の所為だと言うの?」
(ハッ!何を白々しい!)
「とぼけないで。貴女があの子に役に立たないから帰れって言ったから泣いていたんでしょうが!」
「ちょっと待って」
鋭い目つきで「待て」と言われ、実年齢が下の女子に気圧され言葉が出ないアストリット。
「私がいつ役に立たないから帰れなんていったの?私が言ったのは”仕事が無いから帰って”よ。役立たずなんて一言もいってないわ」
その言葉に思わず目を点にするアストリット。
もしかしてもしかすると俺はとんでもない勘違いをしているのでは?
そう思い恐る恐る紫苑に質問を投げかけるアストリット。
「いや、だって・・・さ。あの言い方じゃ誰が聞いたって”役に立たないから帰れ”って意味にしか聞こえないと思うんだけど・・・?」
「・・・・・えっ?」
アストリットの言葉に静まり返る生徒会室。
そして長い沈黙の後、先程までの威勢はどこへやら。青ざめ、汗を滝のように流しながら紫苑はカタカタと動きだす。
「ねえ、アストリット。もしかして、もしかして・・・よ?私の言い方って・・・すこーしキツかったかしら?」
気付いてなかったんかーーーーーい!!
「ええと、その。すこーしどころか、かなーり強かったと思うのだけれど・・・」
「じゃあ、あの子が泣いたのは私が・・・原因?」
(マジか、本当に気付いていなかったとは・・・)
「気付いていなかったの・・・ね?」
半ばあきれ顔でそう質問すると紫苑は気まずそうに視線をサッと逸らした。
(さいですか・・・)
アストリットが黙っていると徐に小さな声で何か納得したように喋り出す紫苑。
「そう、だからあの子たちはいつも来なくなったのね」
「あの子・・・たち!?他にも被害者がいるんですか!?」
「被害者って・・・そんなオーバーな・・・」
「いやいや、オーバーじゃないからねっ!?正常な反応だよっ!?」
ツッコミを入れていると急にバカバカしくなり、クールダウンしたアストリットはやれやれといった感じで頭を左右に数回振ると諭すような言い方で紫苑に話しかける。
「あのさ、出会った初日に、赤の他人の私が言う事ではないと思うのだけれど、今度からはもう少しやさしく話してあげたら?さっきの子も凄く傷ついていたし、貴女のためにも良くないと思うわ」
「わ、分かったわよ!でも私の言い方がキツイって思うのなら皆そう言えばいいじゃない!」
ちょっと拗ねた感じで言う紫苑はいつものどこか近寄りがたい雰囲気の美少女ではなく、年頃の可愛らしい女の子そのものだった。
「それは・・・多分、みんな特別な目で(恐怖の対象として)見ていたからじゃないかしら?」
少し含みのある言い方をするアストリットに紫苑は明らかに不満げな眼でアストリットを見ながら「特別ねぇ・・・」と呟いている。
「まあいいわ。それで納得しておいてあげる。それに私にも反省する点があったのは認めるわ。あの子にも後で謝っておくわ」
「そうしてあげて。っとそうだった。私が住む事になった寮について聞きに来たのよ」
本来ここに出向いた用事を思い出したアストリットは寮について聞くことにした。
「ブルーヘブン寮っていうらしいのだけれど。紫苑はどこにあるか知っているかしら?」
アストリットの言葉に紫苑は一瞬目を丸くして、微笑みながら、
「ええ、よーく知っているわ。案内してあげるわ」
「そう。よかっ_____」
「ただし!」
アストリットの言葉を遮るような形で喋った紫苑はイタズラが好きそうな笑みを浮かべ、自分の目の前にある机に山積みになっている書類を指差し、
「これを手伝ってくれたらね?」
と見返りとして書類整理を頼むのであった。
その後、夜遅くまで書類整理を手伝い精神を消耗したアストリットが紫苑に案内されたブルーヘブン寮で、着いて早々ひと悶着あったのは言うまでもないことである。
第二章は基本的にとあるゲームをパロっています。
気付いた方はニヤリとしていただけるといいのかなぁ・・・なんて




