クラス対抗戦
私が天津乙女女学院に入学してから既に半年が経った。
最初は話し方だったり、初めての寮生活で戸惑う事もあったけれど、友達のマリーやロゼ、紫苑お姉さまやアストリットお姉さまのお陰で大分馴染むことが出来たと思う。
そうそう、魔法学科の授業中に新しい友達が出来たの。
名前はエリス・ロヴェラ。
綺麗な水色の短めなポニーテールが特徴な女の子だ。
初めて会った時から今まで一言も喋らない不思議な子。表情とジェスチャーだけで思っている事を表現しちゃう凄い特技を持ってるの。
凄いのは特技だけじゃなくて魔法も凄腕だったの!
水属性の魔法が得意で派生技で氷の魔法を自在に操ることが出来る子で、私の土属性の魔法とは相性が悪くて中々模擬戦だと勝てないんだぁ。
本気を出せば勝てるかもしれないけれど、お母さんから本気は出さないようにって釘を刺されているの。
理由はなんだたっけ?思い出せないや。
それに学院に入った頃の記憶が凄く曖昧で上手く思い出せないの。
でも、一つ覚えている事がある。
それは緊張した私が前を気にせず歩いていた時にぶつかってしまった先輩。
尻持ちをついた私に手を指しのべ、気を使ってくれた優しい先輩。
それにとっても美人で・・・、同性である私ですら胸が熱くなってしまったのを覚えている。
私は今、その先輩と一緒に暮らしている。
暮らしている。と言っても一緒の部屋で同棲____ってことではないけれど。
私の丁度、真上の部屋に住んでいる先輩。
一緒にお風呂に入りましょうって誘ったこともあるけど、先輩は顔を真っ赤にして断られてしまった。
そんな先輩の一面を見て、ますます好きになった。
度々、魔法学科の授業で紫苑お姉さまと一緒に模擬戦の相手としてやってきてくれる時もあるの。
その時は一緒の組になるよう聖女アリシア様にいつも祈っているわ。
それでも一緒に成らなかった時は同級生に少なくない嫉妬を覚えてしまう。
そんな時は思いっきり魔力を使ってストレスを発散させるの。
そうすると身体が脱力感に見舞われるけど、周囲に漂っている魔素を吸収して魔力を回復させてすぐに復活できるから気にはならない。
【自動魔力回復】
それが私の持つ祝福の一つ。
周囲の魔素を吸収し、通常の魔法使いが自然回復出来る魔力量を大きく上回る速度と量を獲得できる私だけの能力。
そのお陰で私は魔力欠乏症になることはない。
魔力を大量に込めた魔法を何度だって使う事が出来る。そのお陰で魔力欠乏症の妹にも膨大な魔力を供給することが出来た。
能力のお陰か、私はクラス___いいえ、一年生で一番強い魔法使いとして見られるようになった。
祝福っていうのは、私たちが生まれる時に聖女アリシア様から頂ける能力のことで、頂ける祝福はたくさんある中から一つだけ選ばれるみたい。
中には両親や先祖から祝福を受け継ぐ子もいるみたいだ。
いるみたい____って言ったけど、実は私もその一人。お母さんの祝福を受け継いでいる。
そのお陰で私は二つの祝福を使う事が出来るの。その能力がなんなのかはクラス対抗戦で分かると思う。
そうそう。これからクラス対抗戦が行われるの。前回の授業中にクジ引きで対戦相手を決めて、早速対戦が始まっていた。
その中で私と同じくらい強い子が何人かいたの。一人目は先程話に出たエリスちゃん。
私よりも膨大な内包魔力量を持ち、多彩な攻撃手段のある彼女。だけど、長期戦になるとやがて魔力は尽き果てる。
私がクラス対抗戦で勝てる理由があるとすれば、単にこの能力のお陰。徐々に魔力を減らしていく彼女と回復能力のある私では属性的な相性はエリスちゃんが勝っていても、最終的に魔力が減る事のない私が負けることは無いはず。
エリスちゃんの次に強いのはロゼちゃん。
天津乙女女学院に入学し、クラスで一番最初に友達になった女の子。
彼女の得意な魔法は火属性の魔法。
カトレア先生から教えられたことを忠実にこなしてきた努力家さんだ。
今では火の玉をいくつも操り、攻撃する手段を持っている。
まあ、彼女が本当に得意なのは生活魔法みたいだけどね。
他のクラスでも強そうな子がたくさんいるけど、負けるわけにはいかない。
私はクラス対抗戦に勝ち、学年代表となってアストリットお姉さまとヘクセンナハトで戦い、勝利した暁には天津乙女女学院の校舎裏にある食堂のさらに裏手にある。この世界が誕生してからあるともいわれている巨大な桜の木の下でアストリットお姉さまに告白をするのだ。
ユウは決意を込めた眼で地下実習場へと向かう。
季節は夏。夏休みまでもう少しというこの時期にある行事が行われる。
それがクラス対抗戦だ。
クラス対抗戦とはその名の通り、クラスの全員がトーナメント方式で戦い、クラスで一番魔法を上手く使える者を決める戦いのことだ。
その戦いに勝った者は学年対抗戦に出場し、学年最強を決めることとなる。
そして夏休み明けに行われるのが、ヘクセンナハトと呼ばれる全学年で一番誰が最強の魔法使いかを決める戦いだ。
当然、三年生は一年生や二年生より魔法学科や日常生活を通じて魔法の知識や実力があるのは当たり前である。
一見すると不公平な戦いとなるように見えるが、そこは様々な配慮がされている。
ひとつ目が【能力限定】である。
この能力限定と呼ばれるスキルは魔具または魔法としてエグランテリア以外の惑星でも幅広く使われているポピュラーなものだ。
この能力を付加した魔具を身につけると、使用者の能力値が制限される。
制限値は5~90%の範囲で設定出来、より高い設定難度を施すにはそれなりの才能や道具が必要となる。
エグランテリアで使用される一般的な能力限定は5~50%の範囲で設定される物が多い。
今回、三年生に使用される能力限定は50%。
二年生に使用されるのが30%といった具合だろう。
それでもサバイバルサイドのようなゲーム風に言えば、HPやMP、その他、STR《筋力》等が半分になるだけで、使用出来るスキルは変わらない。
そもそもこの惑星にはスキルといった概念が無く、魔法とは自身の生み出すイメージ力を現実に反映させたものといった風潮が強い。
これはエグランテリアを創造したクリエイターがそう望んだ結果なのかもしれないが、厳密にいうとこれも一種のスキル扱いである。
どういう事かというと、魔法を使う対象が自身の魔力(MP)を使用して魔法を発現する。
その際、使いたい魔法をイメージし、そのイメージに則り魔法が発現されるわけだが、システム的には間にもうひと工程入る。
それは使いたい魔法をイメージした時、それに類似した魔法スキルが検索され、イメージに最も近い魔法スキルが発現する。といったようにスキル検索機能が間には入る。
つまり本人たちの認識はどうあれ、使っているのはエターナルプラネット内にある惑星中から検索され、該当したスキルを使っているのだ。
そのため、本人がイメージした通りの魔法にならない理由の一つに、該当するスキルが存在しない。
と、いった事が挙げられるが、エターナルプラネット内には数億種類にも膨れ上がった膨大なスキルが存在するため、そのような現象が起きるのは極めて稀なケースである。
もし魔法が正しく発動されなかったとするとイメージ力が弱く、検索・該当するスキルが大過ぎて判別できないか、よほど変なイメージを想像したかのどちらかだろう。
杖やカードといったデバイスも実は、検索したスキルの使用イメージを当事者の脳内へと反映し、最適な魔法スキルを発動させるためのツールなのだが、それを知る者は運営側だけだろう。
そんなわけで、能力限定は能力といった名は付いてはいるものの、実際にはキャラクターのパラメーターを制限する能力であり、スキル制限をかけるものではないのだ。
当然、能力限定発動中に強力なスキルを使用する際は、制限された現状のMPを上回る消費MPが必要なスキルを発動することは出来なくなる。
しかし、常時発動型のスキル。一般的にパッシブスキルと呼ばれるものについては消費MPが設定されていないため、どんなにMPが減っていても使用可能だ。
そもそもアクティブスキルとパッシブスキル等の判別もエグランテリアには無い概念の為、そこまで規制されるといった事は起きなかった。
次に二つ目の対策だが、これは上級生と対戦をする際にはチームを組んで戦う仕様が成されている。
一年生と三年生が対戦する場合、三年生1人に対して一年生3人で挑むことになる。
一年生と二年生が対戦する場合、二年生2人に対して一年生3人で挑む。といった感じだ。
三年生の場合は少し特殊で、戦うのは常に1人。相手の人数は一年生が3人。二年生の場合はその時の三年生の実力によって2人ないし3人となる。
これは一年生と二年生の間には大きな実力差が生じるが、二年生と三年生の差は余り開かない場合が大きいからである。
理由としては、一年生の終了間際から習い始めるデバイスを用いた高度戦闘教育を二年生は受けているためだ。
この教育から魔法の使用が未熟なうちにデバイスの力をフルに発揮出来ないよう細工されていたデバイスの能力が解除され、あることが出来るようになるのだ。
この行為によって魔法使いたちの実力は何倍にも跳ね上がる。その為、基本的に二年生と三年生との間では差がないといわれている。
次に一年生と二年生の2人目、3人目の出場者の選定方法だが、ヘクセンナハト開催時には、既に各学年の強者が序列三位まで決まっていることになっているため、一年生はそのまま3人が1チームに、二年生は上位2人または3人が三年生と戦い、一年生とは上位2名が戦う事になる。
今日行われるのは1年B組のクラス代表を決める戦いだ。
先週行われた選抜戦にて既に四位までが決まっている。ユウ、ロゼ、エリス、クリスティーの四名が勝ち上がっていた。
そして今日は準決勝と決勝戦が行われる予定だった。
場所は屋内地下実習場。広い実習場を今は二面に分けられており、防御結界魔法による結界がカトレアの手によって張られていた。
二つのコートで向かい合う4人。
ユウと対するはエリス。ロゼと対するはクリスティー。
4人とも表情が強張っている。さすがに緊張しているのであろう。他のクラスの全員は実習場の隅っこで4名の戦いを見守っている。
カトレアが二つのコートの真ん中に立ちそれぞれの顔を見る。
「皆そんなに固くならないで。今まで学んできたことを十分に発揮してくれればきっと良い結果が残せるはずよ。悔いの残らないよう、各員全力で試合に挑むように!」
「「「「はい!!」」」」
生徒たちの気合いの入った声を聞いて頬を緩めるカトレア。
だが、試合の監督官としての責務を果たすべく、表情を引き締める。
「では準決勝は同時進行で行います。両名はコートの端へ」
カトレアの指示の下、4人はそれぞれのコートの端へと移動し対戦相手を見つめる。
「では、セット!」
セットの合図と共に全員がデバイスであるカードを思い思いの持ち方で手にする。
「始め!」
(先手必勝!)
カトレアの合図と共にユウはエリスへと駆けだす。その際、身体に風魔法の一種である移動速度強化魔法を掛けることを忘れない。
魔法の恩恵を受けた自身の身体が羽のように軽くなったことを実感しつつ、ユウは接近する。
接近しつつユウは魔法をイメージする。イメージするのは鋭利な土で出来た矢。それをいくつも作りだし先行させる。
エリスは無表情のまま、自身の目の前に氷の結晶の形をした盾をいくつも出現させ防ぐ。
ユウは飛び上がり土を圧縮して作成した剣で横に一閃し、氷の盾を切り裂き全て破壊する。破壊された氷の欠片が両者の間に飛び散る様子は幻想的だ。
しかしその欠片は瞬時に形を変えることとなる。エリスが発動した魔法により氷の欠片が霧散し、周囲に深い霧を発生させ二人の姿を見えなくする。
「っ!どこにいったの!」
ユウは突如出現した霧によってエリスを見失ってしまい、周囲を手当たり次第に切りつける。
切り裂いた霧は再び集合し全方向を覆い隠す。
【ディープミスト】と呼ばれる氷属性の束縛魔法スキルだ。対象の周囲を霧で覆い尽くし視界を奪う魔法で、発動者は霧に漂う自分と違う魔力を探知でき、対象を目では無く感覚で把握する事が出来る。
これによりユウからエリスの事は見えなくても、エリスはユウの居場所を探知でき、攻撃し放題となった。
ユウはどこからやってくるか分からない攻撃に対応すべく神経を張り巡らせる。 そうしていると背中の方から殺気を感じ振りかえることは選択せず横に飛びぬく。
するとユウが今までいた場所に寸分違わず水の刃が飛んできた。
(ちょっ!確実に死ねるレベルの魔法じゃない!?)
飛んできた水の刃【ウォーターエッジ】の威力にギョッとするユウ。もしも当たっていればユウの胴体は真っ二つになっていただろう。
だがこれはあくまでも学院内での行事。致死性の攻撃を学院側が許すはずもない。
ユウ達が戦っているコートには防御結界が張ってあるが、防御結界には二つの役割がある。
一つは対戦者以外の者。つまり、観客や審判に対戦の余波が来ないよう攻撃魔法等の魔法効果を結界外に出さないようにする役割がある。
こうする事で使用された攻撃魔法なんかが観客に当たるのを防いでくれる。先程エリスが放ったウォーターエッジもユウが避けた事で防御結界に当たりかき消えている。
二つ目の役割は攻撃魔法等の肉体に加わる物理ダメージを精神ダメージへと変換してくれる役割があった。
これにより致死性の攻撃を受けても肉体は損傷する事は無く、その攻撃の威力だけが精神にダメージを与えるだけとなる。
つまり肉体に変化は無くともその攻撃の痛みだけが伝わる仕組みだ。
もしユウが先程の攻撃を受けたとしても身体が真っ二つになることは無く、身体が真っ二つになるような痛みを感じるだけだ。感じるだけだ・・・といってもその痛みは乙女たちには想像を絶する体験だろうが・・・。
学校対抗試合の際は実際に肉体にもダメージが通る仕様だが、この場では置いておこう。
このままではマズイと悟ったユウだが、視界は悪く次々に飛んでくるウォーターエッジを避けながら相手の位置を特定し攻撃するのは戦闘経験の浅いユウには厳しかった。
(どうする?風魔法や水魔法を使う?でも・・・!)
自身が複数の魔法を使えることをまだ隠しておきたいユウは土属性魔法だけで活路を見出そうと思案する。
最初に風属性の身体強化魔法を使ったが、他の属性でも同じような魔法はある為問題ないと判断するユウ。入学初日にシェリーの魔法を防ぐ際に水魔法を使ったことはとうの昔に忘れているユウではあったが。
(相手の場所が分からない状態で有効な魔法・・・でも消費魔力が大きい)
ユウが使おうとしている魔法は魔力を込めれば込める程範囲が大きくなる魔法だ。
しかしもし防がれてしまったら反撃のための魔力が無くなる。
いくら【自動魔力回復】でも瞬時に魔力が回復するわけではない。
一般の魔法使いたちより数倍早いといった程度だ。
だが、不器用な自分に出来るのはこれくらいだと意を決して魔力を込める。
「!?」
膨大な魔力の流れを感じ取ったのかエリスが反応するがユウは素早く魔法を発現させる。
下級魔法【アースグレイヴ】
だが先も述べた通り、魔力(MP)を込めれば込めるほど、威力か範囲を拡大出来る汎用性の高い魔法が発現される。
濃い霧の中からユウを中心に外へ外へと鋭利な土の棘が何十本と地面から突き出てくる。
さすがのエリスも恐ろしいスピードで地面から突き出してくる棘を回避しきれず何本か被弾し苦悶の表情を浮かべる。
と同時に霧が晴れた。エリスが霧に使用していた水分を一手に集め出したのだ。
魔力を消費して新たな水(魔法)を作るよりも今ある水(魔法)を流用し行使した方が魔力の消費が少なくすみ経済的なのである。
カードを持っている左手と逆の右手を上に掲げ、手のひらに水分を集め水の球体を作り出す。
ユウが霧が晴れた時に見つけたエリスの手には既に巨大な水の球体が出来あがっていた。
(何をする気!?)
ユウが防御態勢を取る前にエリスの魔法が発現された。
巨大な水の球体から球体の体積を遥かに超える水があふれ出したのだ。
三日月のような形をした水の刃はウォーターエッジよりもさらに巨大で早い。
あっという間にユウへと接近し高圧水流にユウは飲まれる。
水はユウに当たった後、幻だったかのように消える。これは水が永続的にこの世界に残るものではなく一時的なものだからだ。永続的に残る水もあるがこれは別系統の魔法となる。
「カハッ!ケホッ!」
ユウが地面に横たわりながら苦しんでいる。巨大な水に呑まれ一時的に溺れたのだ。
ユウの体内へと入った水も消えて入るが痛みや苦しみは当然残る。
【クレセントウェーブ】と呼ばれる中級魔法だ。
本来一年生のこの時期に中級魔法を放てる生徒など一部の天才だけだろう。
事実、エリス・ノヴェラは水魔法の天才的な素質を持っていたのだ。
エリスの持つスキル。この惑星では祝福と言うが。は【水精霊の加護】と呼ばれるもので、水系統の魔法の適性率・威力を高め、水魔法を使用する際の消費MPを軽減してくれる。
ユウがエリスが膨大な魔力量を保有していると思ったのもこのスキルが原因で、一般的な女性と変わらない魔力保有量の彼女が水系統の魔法を消費魔力(MP)軽減された状態で連発したことがあり、それを見たユウが勝手に勘違いしていたのだ。
(デタラメな威力ねまったく・・・)
エリスの放ったクレセントウェーブに内心で毒づきながらユウはふらふらと立ちあがる。
先程消費した魔力もそこそこ回復している。次にもう一度あの攻撃を受けたらマズイことはユウが一番よく知っている。
相手もそのことは分かっているはずだとユウは考える。エリスの手のひらにある水の球体は先程よりは体積が減ってはいるものの、未だに大きい。
アレが尽きるまで同じ攻撃方法を取ってくる事は予想出来る。
「ならやられる前にやるしかない!」
エリスの足元に高さ2メートル程の土の棘が出現する。ユウの放ったアースグレイヴだ。
足元から突如出てくるアースグレイヴをエリスはサイドステップ、バックステップして踊るように回避していく。
しかし絶え間なく足元を必要に狙い突き出てくるアースグレイヴに中々反撃の手が出ない。
だが、狙いをつけなくとも魔法は放てる。エリスはユウのいる方向に向かって球体からいくつものクレセントウェーブを放つ。
三日月形の巨大な波がいくつもユウを襲うが、ユウの集中力は乱れない。尚も執拗にアースグレイヴをエリスの足元へ放つ。
エリスはアースグレイヴによる攻撃を回避しながら疑問を抱く。
何故これだけクレセントウェーブを放っているのにも関わらずユウはこれだけ正確に私の足元を狙えるのかと。
(回避に忙しいのは向こうも同じはず・・・なんで?)
そう思いながらエリスは一瞬だけ視線をユウへと向ける。
「!?」
なんとクレセントウェーブがユウを避けるようにユウの目の前で二手に分かれ後方へと流れ消えているではないか。
(まるで見えない壁があるみたい・・・)
エリスはその光景に目を見張っていたが、彼女の考えは正しい。
ユウの使用している魔法は防御魔法。風属性の下級魔法である【エアシールド】だ。
エアシールドは気流を操作し火や水の流れを吹き飛ばす力・・・遮断効果がある魔法だ。
光魔法にある太陽光を集中させレーザーとして放つ【ソーラーレーザー】や帯電したエネルギー弾を放つ雷属性の【スパーク】等の吹き飛ばせない魔法には効果は無いが、クレセントウェーブのような水に対しては、エアシールドの遮断効果によって気流操作を行い、空気の層を作り水を両側に流すといったことは可能だった。
(流石に二つ同時使用はキツイでも!負けられない!)
思い人の顔を思い浮かべながらユウは魔法を使用し続ける。
魔法の同時使用で瞬く間に魔力が消費されていく。【自動魔力回復】の効果で少しずつ回復はしているが、消耗の方が当然激しい。
だが相手もクレセントウェーブを手当たり次第に放ってきている為、魔力消費は向こうのが大きいだろう。
どちらが先に魔力が尽きるかが勝負。
(でもあえて仕掛ける!!)
持久戦より短期決戦を選択したユウはある魔法を発動する。
一方、エリスはこのままでは埒が明かないことは自覚していても中々反撃に有効打を見いだせずにいた。
クレセントウェーブを何らかの防御魔法で防がれているのは分かった。
しかし今、クレセントウェーブによる攻撃を止めれば、防御魔法に使っていた分の魔力をアースグレイヴに回され、威力か有効範囲を上げてくるのは分かっていた。
そもそも一年生でこれほど高度な魔法と種類を持っている事が異常なのだ。
自分ですら中級魔法であるクレセントウェーブ。下級魔法のウォーターエッジ。防御魔法のヘイルシールドと覚えるのがやっとだというのに目の前の少女はいったいいくつの引き出しを持っているのか。
(本当に不思議な子)
そう思いながらアースグレイヴを回避していると魔力消費による身体の生命活動の低下や思考が散漫になっていたことでユウがアースグレイヴでエリスを密かにある位置に誘導している事に気付かなかった。
魔力は本来、身体を動かすのにも使われる大切なエネルギーだ。魔法を使用し続け、生命活動に支障をきたす程使用すれば身体に変調をきたすのは当然だ。
ユウの場合は【自動魔力回復】がある為、滅多なことではそうはならないが、一般女性の平均保有魔力しか持たないエリスは違う。
そんな魔法学科の最初の座学で習ったことすらも忘れるほどエリスは追い詰められていた。
アースグレイヴをバックステップし回避していると背中に何かが当たる。
(なに?これは・・・!)
エリスは防御魔法が張ってあるコートの端っこまで誘導させられていたのだ。
そしてここでユウが発動していた魔法がようやく実体化する。
「ケフッ!」
エリスの身体がくの時に折れ曲がり膝をつき、エリスは余りの衝撃に意識を手放してしまう。
風属性の中級魔法【不可視風】。不可視の風の刃がエリスのお腹へと深々と突き刺さり止めを刺したのだった。
この魔法は不可視なうえに威力もかなりある為、発動までに時間がかかる大技だった。
そして確実に当てるためにエリスの気を逸らす必要もあった為、アースグレイヴで壁際まで誘導し壁に気を取られた一瞬を狙って放つよう計算して最初から放っていた
カードによる演算補助がなければとてもこの芸当は出来なかっただろう。
「これで後一人・・・」
カトレアの試合終了の合図を聞きながら反対側で戦っている相手を見る。
すると向こうも決着がついたのか、一人の女性徒が膝をつき、桃色の髪の少女が立っていた。
つまり・・・。
「決勝はロゼちゃんか・・・」
目線の先には準決勝を勝ち抜いた選手。親友とも呼べるようになったロゼがこちらを見ていた。
ユウとロゼ。これより数分後、二人の決勝戦が始まろうとしていた。
ユウ君の様子が・・・。
対抗戦を進めるために日常パートをある程度飛ばしています。
ある程度ケリがついた所で番外編として掲載する予定です。




