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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
第一部:煉獄龍戦
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転移

 光が収まり、目を開けた久世は宙に浮いていた。

正確には宇宙空間のような場所に久世は一人浮かんでおり、遠くに見た事のない星がいくつも点在していた。


「なんだ、ここは?」久世が疑問を口にすると頭に声が直接聞こえてきた。


「おっ、目が覚めたかな、ようこそ!AWOの世界へ!」


「はあ?AWO?てか、あんた何処にいる!?」


 周囲を見渡しても依然声の主は見当たらなかった。


「僕は現実世界でこの世界の管理ルームから君に話しかけているんだよ、だから姿を探すのは無駄だよ」


「運営様が俺に何の用だ!さっきのチケットはお前の仕業か?」


 久世が今の現象の原因をコイツの仕業か?と疑い問い詰める。


「その通りだよ、あの閃光には催眠効果があったね。眠らせた君のBMIを強制起動させて飛ばしてあるのさ。実は君にある件を手伝ってもらおうと思ってね、他の研究員には内緒でこの世界に招待したんだ」


 声の主は楽しそうな無邪気な口調でそう言った。


「何?」


「実はね、エターナルプラネットの中は時間の進み具合が現実とは異なるんだ。まぁ、人が誕生してからの歴史の再現を数年でシュミレートするなんてことをするんだ当然だね。具体的な方法論や何倍速で進むのかなんて君には必要ない情報だから省こう。でだ、魔法やモンスターの概念が追加された訳だけど、旧暦である西暦2114年相当まで進んだエターナルプラネットの中は現実世界とは地形も種族も都市の名称や指導者なんかも違うけれど、世界体系や技術はさほど変化は見られなかったんだ。

そこで、さらなるシュミレートが行われた。これからの、未来の可能性というやつだね。現在、新聖暦500年にまで迫る勢いで仮想世界の中は時間が進んでいる。」


 新聖暦というのは、現実世界のこよみである。旧暦である西暦2315年に起きた第三次世界大戦後に西暦は改められ新聖暦となった。核戦争による環境破壊が起き、地球の文明レベルは著しく低下した。しかし新暦200年、放射線を劇的に低下させられる物質が開発され以後、地球の環境はみるみる良くなり、現在の新聖暦1013年には西暦2200年代にまで回復している。


「しかし、世界大戦による環境汚染が起きなかった仮想世界は同じ年代まで進んだ結果、我々の世界の文明レベルを超えることが予測されたんだ。そして一部の科学者たちは仮想世界の住人たちがこちらの世界に進出してくるのではないか?という仮説を立てた」


「おい待て、ゲーム世界のNPCが現実世界に来れるわけないだろう?」


「いや、完全に不可能という訳ではないんだよ、ゲームへのログイン方法は知っているね?」


「ああ」と久世が答えると声の主は話を続けた。


「プレイヤーである君達を含め管理側の我々も等しく精神を転送して仮の肉体を操っている。もしこの逆の事が出来たら?NPC達が自分たちの精神を僕達の体、正確には脳に転送する事が可能だった場合僕達が日常的に使っている肉体を乗っ取り活動する事が出来てしまうんだ」


「そんな馬鹿な・・・」


「まあ、実際にエターナルプラネット内からこちらの世界を観測するなんて事出来るわけがないし、そんな事が実現可能な文明レベルに辿り着かないよう現在は仮想世界の流れも現実世界と同じに設定を変更し常に監視している状態だけどね」


「まあそんな訳で、君には万が一に備えてライフサイドと呼ばれているNPC達のエリアを渡り歩いて不穏な動きをしているNPCなんかを発見してほしい。僕たちで行ってもいいんだけど、僕らは所詮科学者だからね、そういった世界で暮らしていけるだけの能力は持っていないんだ」


「いやいや、そんな理由だけじゃ俺は選ばれないだろう」


「まあ他に君を選んだ理由はいくつかある。不穏分子を発見してほしいといったけど、目立つ行動は避けてもらいたい、だから野蛮な性格の者や、レベルが著しく高い者、社会性が皆無の者等は除外した。そして君はNPCカードを数多く所有し彼らとのコミュニケーションも上手くいっている。他にもNPCカードを持っている者で有望な者も何人かいたんだけどね、相手がNPCって事で下に見る者も多くてね、言っている意味分かるよね?」


「ああ」久世が頷く。


 AWOアナザー・ワールド・オンライン以外のゲームのNPCは所詮NPCだけあって決められた言葉しか話せなかったり柔軟な思考を持って会話を行うことなど出来ない。しかしAWOのNPCは長年のシュミレートの中での経験が内部蓄積し自己進化を進めた結果、普通の人間と変わらない思考能力が備わっている。声の主が久世に聞いたのはその辺りのことを理解しているのかという質問だった。


「うん、やっぱり君には適正があるね。それでどうだろう、この依頼受けてもらえないかな?」


 声の主の問いかけに久世は目を瞑り・・・そして静かに目を開けて答えた。


「分かった。引き受けてもいい。だが条件がいくつかある。現実世界と同じだけ時間は進んでるのだろう?俺の元の体とかどうするんだ?」


 久世が今後に関する質問を繰り返すと声の主は元々そういった質問が来るのを想定していたらしく答えた。

まず、久世の現実世界とでの体は声の主が責任を持って自宅から回収し丁重に扱うとの事。

そして久世が勤めていた会社には自主退職の願いを届け、サイバーテクノロジー社のエターナルプラネット管理運営を担っているチームに属させ報酬を払うとの事。その他にも現実世界におけるアフターケアについて色々と語った。


「・・・分かった、任せるよ。後、そろそろ名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか?」


「ん、ああ、済まない。僕は鏑木晶かぶらぎあきらだ。これからよろしくたのむよ」


「ああ、よろしくな・・・って鏑木・・・晶・・・?あっ!」


 久世が何かを思い出したように虚空の彼方を睨みつける。


「お前!大学の時、同じサークルだったアキラか!?なんか聞いた事のある声だと思ったら!」


「おっ、ようやく思い出してくれたかな?いや~嬉しいよ麗しの姫君」


「姫君言うな道化師野郎!忘れるかよ、魔天楼でお前とは何度パーティ組んで冒険したと思ってるんだ。てかイタズラ好きなお前の仕業だと考えるとなんか納得だわ。会社入ってから音沙汰ないと思ってたらこんな事してなのか」


「いや~、済まなかったね。この会社に入ってから住み込みでAWOの調整にかかりっきりだったからさ。おかげ様でこんな心配するハメになったんだけどね」


「なら、お前がログインすればいい話だろう?」


「いやいや、君に頼んだのには他にもいくつか理由があってね・・・」


 それから数分ほど昔話しに花を咲かせていたが、鏑木の声が真剣な声色に変わる。


「さて・・・と、じゃあそろそろ旅立ってもらおうかな」というと鏑木が言うと久世の体が光り始める。


「ちょっと待て!まだ大まかな説明しか聞いてないぞ!」


「え、ああそうだったね。君の体はサバイバルサイドの時とそう大差は無いよ、一部変更点はあるけど・・・」


「おい!変更点ってなんだ!言えよ!気になるだろ!」


「それは自分でおいおい確かめていくといいんじゃないかな、ビックリすると思うよ。それにさっき伝えた連絡手段を使えば連絡は取れるしさ。後、現実世界の内容に触れる話題や行為なんかで禁止事項に抵触する事はしゃべれないよう制限されているのと」


「サ・バルサイドと・・・・って・・・ショック・・・・が・・・制限・・・てねない・・・死ぬと・・・本当に・・死・・から!」


 鏑木が言葉を切り、重要な事・・・と思われることを口にしかけたところで久世の意識は途切れ途切れとなり体は完全に光に包まれ消失した。


「ってのは冗談・・・って行っちゃったか」

 

久世の体が宇宙空間から旅だったのをモニター越しに見送った鏑木は椅子の背もたれにもたれかかり一息つく。


「ふう。さて、久世君の体の移送の手配をしなきゃね。久世君のモニターもしなきゃ・・・」


 鏑木が目の前に何台もあるモニターを観察しながら机を撫でる。するとホログラムのキーボードが現れ、それをなめらかな動作で操作する。


「ん~?もしかして、もしかしなくても勘違いさせそうな途切れ方になった気もするけど・・・ま、いっか、いつでも連絡は・・・あれ?」


 連絡用のアイコンをタップするも応答が無い。さらに久世が転送先である転送地点を隈なく探すも久世の姿は一向に見つからなかった。


「あれ?おかしいな。自動追跡機能オートサーチが機能してない?いや、違うな。誰かが転移先を変更した?いったい誰が・・・」


 全サーバー内を検索するも久世のアバターは検索にヒットせず、追跡がブロックされているようだった。しかし久世のアバターの生存を示すALIVEの表示は消えていなかった。


「開発主任補佐であるこの僕以外でこんな事が可能な人間は・・・主任?いや、彼女は出張でいないはず。じゃあ一体誰が・・・」


 モニターの前で立ちすくむ鏑木。エターナルプラネットを統括する管理ルーム。その中にある数々のモニターには様々な惑星サーバーの状況が逐一アップされ監視されている。しかし全てを監視し管理する管理ルームのプログラムも持ってしても久世の姿は見当たらなかった。



 





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