入学式
第二章開始です。一章と話の流れがガラッと変わります。
かなり人を選ぶ内容になっているとは思いますが(元からかも知れませんが・・・)読んでいただけると幸いです。
惑星名:エグランテリア。
そこは剣と魔法の存在するファンタジー世界。
しかしファンタジアとは違い、魔物は存在しない。他にも人間以外に種族がいないなど現実世界の流れを一部組んでいる。
そして、他と最も違う所。それは魔法を使えるのが女性のみ。というところにあるだろう。
そんな世界にある大きな魔法学園の一つ。天津乙女女学院が今回の舞台である。
4月。入学式。学園の正門をおっかなびっくり通るふんわりウェーブのかかった茶髪の女子生徒がいた。
生徒の名前は二階堂ユウ。今年度、天津乙女女学院へと入学する事になった生徒である。
控えめな日差しが桜並木を縫って湿った石畳を照らしている。春風に揺られながら舞う桜の花びら。校舎まで続く桜並木に自分の周囲にいるうら若き乙女達の黄色い声と軽い靴音が響いている。
(ああ、本当に何をやっているんだろうか)
今すぐ踵を返して逃げ出したい。顔面を赤面させているだろうし顔を俯いていれば何とかなるだろうとか思いながら足を速める。
どん!
「あっ」
地面ばかりを見ていた為か前を歩く生徒にぶつかってしまったのだろう。衝撃で尻持ちをついてしまう。
「大丈夫?新入生かしら?緊張しているのも分かるけれど前をちゃんと見て歩いた方がいいわよ?」
そう言いながら手をユウに手を差し伸べてくる上級生の女性徒。
「すみません。ありがと___」
引き上げてもらいながら初めてその女性徒の顔を見るユウ。思わずお礼の言葉が引っ込んでしまった。
何故なら自分が今まで見たこともないような美貌の女性だったからだ。吸い寄せられるような黒耀石の瞳。ほんのりと赤みのさした美しい艶やかな肌。腰まであるのではないかという程長い長髪を頭の後ろで纏め、長めのポニーテールにしている。服装は胸元のリボンの色が赤い事から最上級生だということが分かる。
ついつい見惚れてしまい、立ち尽くしてしまったが、幸い相手はキョトンとしているだけだった。
「どこか頭でも打った?保健室へ連れて行きましょうか?」
「い、いえっ!大丈夫です!」
そう言うと腕をブンブンと振り回すユウ。それを見て苦笑いする上級生。
「その様子では大丈夫そうね。後、あまりそういう風な事はしないほうがいいわよ?」
辺りを見回すと他の登校している女性徒達が遠巻きからクスクスと笑っているのが見える。
その様子を見たユウはまた赤面して俯いてしまう。
「ではまたね」
そう言い、その場を離れる上級生。後になって名前も何も聞いていないことを思い出すユウなのであった。
入学式の前、ユウは学院のとある一室を訪れていた。扉自体は何の変哲もない普通の扉だ。
しかしその扉の向こうから圧倒的なプレッシャーが放たれている。
扉の上にはプレートが付いており、そこには学院長室と書いてあった。
扉をコンコンと緊張した面持ちで叩くユウ。暫くの後、扉の奥の人物から「どうぞ」と声が掛ってくる。
「失礼します」
緊張した面持ちで部屋の中へと入ると、部屋の奥にいたのは豪華な椅子に座った妙齢の女性だった。
天津乙女女学院の学院長であるシェリー・メイディランド氏だ。
シスター服に似た服を身に纏い、手前にある執務用のテーブルに腕を乗せ、組んだ手の甲に顎を乗せていた。
「良く来たわね。入学おめでとうユウさん。私が天津乙女女学院の学院長を務めていますメイディランドです」
「初めまして。二階堂ユウです」
緊張しているユウの前で静かに椅子から立ち上がると学院長のメイディランドはユウの事を食い入るように観察する。
「ふむ。成る程確かに・・・」
何か考えるような仕草を見せる学院長にユウの緊張は極限にまで高まる。
そんなユウの前で学院長はとんでもない爆弾を投下する。
「これなら男性と思う生徒はまずいないでしょうね」
「はっ?」
学院長の言っている意味が分からない。理解できない。思考が追いつかない。学院長は今何て?
「どう、して?」
困惑するユウは思っている事をそのまま口に出していた。
「ああ。あなたは知らなかったのでしたっけ。あなたの事は貴方のお母様から事前に聞いていますよ。あの子は私の古い教え子の一人ですし、今でも交流がありますからね」
イタズラ好きな子供のような笑顔で種明かしをする学院長。
そもそも男性であるはずのユウが女学院である天津乙女女学院に何の口添えもなく通えるはずがないのだ。
ユウには双子の妹がいた。本来、天津乙女女学院には妹のカレンが通う手筈になっていた。
しかし生まれながらに魔力欠乏症という病気を持つ彼女は外部から定期的に魔力を供給されなければ生きていけない病弱な体の持ち主だった。
魔力とはこの世界の人間が体内に宿すエネルギーのことである。女性はこの魔力を自在に操る事が出来、魔法という形で具現化する事が出来た。
魔力は生命活動を維持するのにも使われており、魔法を使用し過ぎると意識が混濁し倒れてしまう。
これが魔力欠乏症である。
男性は魔力保留量が女性の何十分の一程度しか無く、仮に魔法を扱える者がいたとしても魔法を一回でも使用すれば即欠乏症で倒れてしまう。
カレンは生まれつき、体内に宿す魔力量が男性よりも少なく、生命維持に回すだけで精いっぱいだったのだ。
そしてユウ。彼女、いや彼は生まれつき魔力保有量が一般女性を遥かに上回る量を保有していたのだ。
一説には妹であるカレンに供給されるはずだった魔力を母親の胎内でユウが奪ったのではないかと医者に言われた位だ。
だが、成長と共にカレンの魔力保有量は年々上がって来ている。すでに日常生活には支障がない程度には。
しかし学校生活。魔法の実地訓練もある魔法学園に通えるほどの魔力保有量はない。
公共の場で魔法を発動させるのには政府の認可が必要となる。学校に通い、試験を受け免許を取得するのだ。
それも十代のうちに、だ。規則的な生活を送り、心身ともに魔法を正しく扱える人物に育てることを目的に学園そして法律が制定されている。
つまりカレンが学校に通えなければ例え今後、魔力保有量が上がったとしても魔法を使うことは出来ない。
そこで考え出されたのが兄であるユウが妹であるカレンの代わりに魔力保有量が向上するまでの間、学園に通うというものであった。
法的には完全にグレーゾーンだったが国際魔法士として活躍している母親と学園の理事長が旧知の仲ということもあり、この秘密作戦は開始された。
当然、ユウの気持ちは複雑だったが、自分が妹から知らず知らずとはいえ、魔力を奪っていたかもしれないという後ろめたい気持ちがあった為、強く反対はしなかった。
幸い、二人は双子で胸の大きさを除けば化粧で誤魔化せるほど瓜二つな容姿端麗な顔立ちをしている美男美女だ。
こうしてユウは妹の代わりとして天津乙女女学院へと女装し入学する事になったのであった。
「まあともかく。学院長であるシェリー・メイディランドの名の下に貴方の入学を受理致します」
「本気でいってるんですか?」
「ええ、本気ですとも。入学試験の成績も優秀。それに傍から見ても完璧な女性に見えますし、魔法の方も」
「っ!」
突如放たれた火の玉を咄嗟に前方に水の膜を張って防ぐユウ。
「問題無いようですからね」
にっこりとなんでも無かったかのように振る舞う学院長。
「僕が男であるということに問題はないんですか?」
「問題があるかないか、でいえばあるでしょうね」
「だったら!」
「ですが当校は女学院ではありますが、校則や入学規則には魔法の素養のあるものの入学を認め、その能力の正しい使い道とその者の心を鍛え心身共に成長させる。ということが書かれてはいますが、男性の入学を禁ずる。とは書いていないのですよ」
「それは方便では?」
「ですがそうでもしない限り、妹さんは今後魔法を使う事は出来ませんよ?」
核心を突かれ言葉に詰まるユウ。
「まあ、貴方が当学院の生徒を傷つける真似をすればお母様には悪いですが、その場で首を切り取って送り返しますからそのつもりで」
話は終わりだと言わんばかりのプレッシャーを放つ学院長に何も言い返せないユウ。
だが、学院長はにこやかな表情で続ける。
「しかし貴方が通常の学生通りに生活するのであれば強力は惜しみません。何か困った事があったら、いつでも訪ねていらっしゃい。見た目は女の子でも中身は男の子のままなのですから、些細な相違で気付かれる可能性もあるのですからね」
「分かりました」
「荷物は既に寮に届けさせてあります。場所は入学案内のしおりを見ればわかるでしょう」
「そろそろ入学式が始まってしまいます。お行きなさい。貴方に聖女アリシア様の祝福があらんことを」
学院長から祝福の言葉をもらい学院長室を後にするユウ。
先程学院長にも言われたがこの後は入学式が待っている。先程貰った入学案内のしおりを見ながら聖堂へと向かう。
天津乙女女学院は現実世界でいう所のキリスト教系統のお嬢様学校だ。パブリックスクールをモチーフに作られた女学院で、幼等部から大学院までの一貫校として建てられている。校則自体は割と緩めだが、魔法の目的外使用に対する処罰はきつめに設定されている。
学院に通う者達は特殊な家柄の者以外は基本的に寮生活を送ることとなる。
当然、ユウも例にもれずどこかの寮へと入ることとなるだろう。
「ここかな?」
案内図を見ながら聖堂へと辿り着くユウ。そこは教会をモチーフに作られた聖堂で前方に見える壇上の上には巨大なステンドグラスが見える。
長方形の椅子がいくつも規則正しく並べられており、新入生達は思い思いの場所に着席している。
ユウも入口からすぐ近くの椅子へと腰掛けると入学式が始めるのを待った。
入学式も恙無く終了し寮への道へ進む。生徒会長やら何やらが話しているのをぼんやりと聞いていた気がするが頭には入ってこなかった。
何故ならこれから向かう先は乙女の巣窟である女子寮である。これから短くても数週間、長ければ数年間お世話になる寮だ。
絶対にボロを出すわけにはいかない。そんな決意も込めてユウは寮へと足取り重く向かうのだった。
久世君。もといアレス君はどこにいってしまったんでしょうか・・・。
作者も現在行方を捜索中です。




