検討会
番外編といいますか、久世の新しいアバターについての説明会となります。
サイバーテクノロジー社が運営するVRMMORPG。アナザーワールドオンライン。通称AWO。
今や世界人口の4人に1人はアカウントを持ち、日々ログインしているといっても過言ではないゲーム。
そんなAWOの特徴の一つにライフサイドと呼ばれるNPC達と同化し異世界を疑似体験するというものがあった。
その中でも最近アツいと噂されていたのが、惑星名:ファンタジア。
中世ヨーロッパの様な街並みが多く点在する剣と魔法の世界。
そこでは首都イシュガルという城塞都市を中心に煉獄龍と呼ばれるドラゴンの討伐戦が繰り広げられていたのだ。
その噂はダイブ型SNSを介し瞬く間に広がり、街の住人やその場にいる冒険者にまで現実世界の人が同化しリアルタイムでその情景を体験していたのだ。
深夜、突然襲来して来た煉獄龍に人々は興奮し、住人に同化していた者は恐怖を感じ、冒険者に同化していた者は煉獄龍と戦うスリルや痛みを味わっていた。
痛みと言っても自分で最初に痛覚軽減を10~60パーセントの範囲で設定出来る為、痛みを味わいたくない人は60パーセント軽減に設定していればそこまでの痛みは感じないよう配慮されている。
話を戻すが、煉獄龍襲来時、たった数体のドラゴンに決定打を与えられずにいた冒険者たちの元に二人の冒険者が現れた。
アレスとカオスという名の冒険者である。二人は上手く連携を取り合い、煉獄龍:成竜を追い詰めるも、アレスが喰い殺されてしまう。
それに怒ったカオスの意思に反応するかのように着ていた鎧が悪魔のような鎧姿に変貌し、一方的に成竜を蹂躙する。
カオスの怒りは留まる事を知らず、冒険者や街の住人をも殺戮の対象として蹂躙せんとする。
そこに現れたのは先程死んだはずのアレス。両手に持った双剣を駆使し、怒り狂ったカオスと対峙しやがて勝利を得る。
気絶したし元の姿へと戻ったカオスへアレスが近付き、やがて眼が覚めるカオス。
何度か会話が交わされ、徐にヘルムを脱ごうとするカオス。眩い光が発生し、光が収まる頃にはそこには一人の美女が誕生していた。
ダイブ型の某大型掲示板では、数年前から活躍していたレナードが実は女性だったとすぐさま書き込まれ、スレがいつくも立った。
ダイブ型の掲示板とは普通の電子掲示板とBMIを用いたフルダイブ機能を融合したものである。
投稿者は自身が作成した、またはランダム作成されたアバターを用いて、すり鉢状になっている広大な会場にログインし自ら発言を行う。
そこには椅子が設けられていて投稿者はそこに座る事が出来るのだが、進行役やフロアマスターと呼ばれる管理人がいる場合はその人物がすり鉢の底部に設けられた空間にて司会進行を務める。
なお、ログインせずとも通常の電子掲示板と同じように自身が持っている携帯端末からの書き込み等も出来るようになっており、その際、書き込まれた情報は会場にいくつも設けられた宙を舞うスクリーンに表示される。
「何故アレスが生きているのか?」とか「アイツ箱入りお嬢様じゃね?」等についても様々な憶測が飛び交い夜を徹して議論が交わされ、明け方になると煉獄龍イベント(実際に住んでいるNPC達にとってはイベント所か死活問題の緊急事態だが・・・)はこれで終了。今後のカオスとアレスの活躍に期待。と誰もがそう思っていた。
ところが。
イシュガルの兵士に同化していた一人の男性からスレにある一言が書き込まれる。
後にイベントを経験した者たちや参加できなかった者達を集めて行われた振り返り検討会に出席した投稿者より以下の会話がなされた。
「皆さんはあれこれ今回の煉獄龍イベについて検討してたみたいだけど、俺はまだ終わったとは思ってなかったわけよ」
得意げにスーツ姿にテレビが頭になっている投稿者が足を組みながら言う。
「NPC検索してたら丁度良く見回りをしてたヤツがいたからログインしてずっと外を監視してたわけよ」
「そうして異変を発見された訳ですね?」
司会進行役のデフォルメされた羊が頭の執事服のフロアマスターが豪華な椅子に座りながら対面に座る投稿者に問う。
「そういうわけよ。兵士君が見た先に歪みが見えたわけよ。その後すぐスレに書き込みを入れて状況を監視してたわけよ」
「そしたらアレスやカオス嬢が来たんでやっぱまだイベは継続中だって確信したわけよ」
「なるほど。そして訳ありサラリーマンさんが発見された歪みから煉獄龍の大群が現れた・・・と?」
「そういうわけよ」
得意げに頷くPN:訳ありサラリーマンこと投稿者。
「ではここからはその時のライブ映像を見ながらの振り返りに移りましょう」
フロアマスターが指をパチッと鳴らすと周辺のスクリーンが大きくなり、アレスとカオスのアップシーンが映し出される。この映像はNPCと同化したプレイヤーの目線を録画ないしスクリーンショットとして保存されたものである。
「えーまずココ。アレスとカオスが何事か話していますね。その後、二人はこの街のギルマスであるガゼルに会いに行き、二人だけでイシュガルから出ていきます」
フロアマスターが再度指を鳴らすとアレスとカオスの前方に三人の女性が跪いている場面が映し出される。
「その後、アレスが召喚したと思われる三人の女性が登場します。スクショが遠目で分かりにくいですが、それはアレスとカオスに同化出来たプレイヤーがいなかった為、用意出来ませんでした。フロアマスターとしてお詫び申し上げます」
立ち上がり周囲に深くお辞儀をしたフロアマスターは再び席につき解説を始める。
「ですが有志の方々がこの画像から召喚された三名の身元を洗い出してくれました。篤く御礼申し上げます」
フロアマスターが両手を叩くと解析した有志のプレイヤーの名前が表示され周囲から拍手が起きる。
「えー、解析結果によりますと一人目。これは皆のアイドル。惑星:オリジンより参戦のジャンヌダルク!」
「ジャンヌ、キター!!」「聖処女よっ!」「ジャンヌた~ん!」と周囲のアバターから歓声が上がる。
「二人目。こちらもオリジンより参戦!火炙りから蘇り残念系お姉さんとなってしまったアンデット・ジャンヌ・ダルク!!」
「残念!だけどそこがイイ!」「むしろ俺は好きだ!」「カード再収録求む!」生前よりも肉体は豊満に成長し精神が若干退化したアンデット・ジャンヌに歓声が上がる。
「そして三人目。人型の姿はかなりレア!ファンタジアより参戦の凍土地帯の絶対的覇者!雪崩龍ことアルドラ!」
「うおおおお!竜形態しか見たこと無かったけど巨乳のおっとり系お姉さまじゃないですか!?」「アルドラ様!お慕い申し上げております」「え?あの強烈な見た目の竜があの子・・・?」等、竜王化したアルドラしか見た事のない者が殆どだったため反応は様々だった。
「さて、ここで問題なのはこの三名を召喚したと思われるアレス。一応NPCという表記がされておりますが同化された方は未だ誰一人いないようです。どうやらサバイバルサイドでも同名同容姿の方がいらっしゃるようですが、真相の程はわかりません。こちらは別のスレにて議論が交わされているようですのでこちらでは検討などはしません。ですのでそちらを参照して下さい」
フロアマスターが指を動かすと空中にURLの貼られたスクリーンが登場し空中を漂い始める。
「そして、この後召喚されたアルドラとアンデット・ジャンヌの活躍によって煉獄龍は瞬く間に殲滅されてしまいます」
静止画像から映像へと画面が切り替わり、アルドラとアークが煉獄龍を倒している所が再生される。
「さあここからです。なんと殲滅されたはずの煉獄龍が再度出現。遠目からですが、アレス達も戸惑っている様子が分かりますね」
「この後、NPC側に変化が訪れます。なんとアレスが突然倒れこんでしまいます。戦闘をしているアルドラとアンデッド・ジャンヌは気付いていないようですが、ジャンヌとカオスは泣いているようにも見えます。アレスが死んでしまったのでしょうか?ジャンヌから回復スキルが使用されているような光が放たれていますが効果は無かったようです」
悲しげな表情になった羊の顔をしたフロアマスター。
しかし次のシーンが映り出すと顔がニヤけて止まらない。
「ひとまずアレスの事は置いておくとしましょう。さぁ、皆さん。長らくお待たせ致しました。何度目かの煉獄龍リポップ後に彗星の如く現れた朱雀。その身に騎乗していた一人の女性。そうです!あの姫様が私たちの前にNPCとして帰って来たのです!!」
周囲の観客から割れんばかりの歓声が上がる。
「摩天楼。あの地獄のようなゲームに現れ、そして去って行った幻のプレイヤー。いえ、プレイヤーでは無く、自立型のNPCだったとも噂されております。漆黒の長髪を持つ和装美女!【黒耀姫】の登場です!!」
スクリーンには轟音と共に着地し両手に刀を持つ和服の女性が降り立っている。しかし遠巻きで顔までは分からない。
「我々の有志が解析ソフトを駆使し今日、やっとの思いで鮮明な画像をもたらしてくれました」
涙ながらに語る羊の執事。客席にいる何人かのアバターも同じく涙ぐんでいる。おそらく解析した有志の面々だろう。
「ではご覧ください。有志の方々の思いの結晶を!!」
スクリーンの画像が切り替わり、黒耀姫の全体姿と顔がアップで映される。
「おぉおおおおおおおおおおおおお!!」
客席のアバター達から歓声が上がり、スタンディングオベーションが巻き起こる。
際どい和服を元に作られたドレスを着た黒髪、黒眼の女性が今まさに頬笑み、煉獄龍との戦いに挑んでいく様を見て歓声が沸き起こる。
何故、これ程までに黒耀姫というキャラが人気を博しているのか。それはAWOの前作、魔天楼にまで話は遡る。
以前軽く説明した摩天楼というゲームは極悪な設定を施された敵と難易度の高いフィールドから鬼畜ゲー、死にゲーと呼ばれている。
プレイヤー達はゲーム開始直後からどん底に叩き落とされながらもゲームを進めること数カ月。
こんなゲームはもう嫌だ。止めよう。心折れかけた男性プレイヤー達はそう思い始めていた時期があった。
そんな中に突如現れたのが黒耀姫という名のプレイヤーである。
最初のキャラクターメイキングでは作り出せない程の美貌を持った和服姿の女性。
しかも戦闘能力も凄まじく、対人戦は元よりボスモンスターの攻撃を一度もその身に受けることなく受け流しカウンターを浴びせる姿は、まるで演舞を舞っているかのようで、その美貌も相まって男女共に熱狂的なファンが現れたのだ。
この人が続ける限り、俺も歩みは止めはしないと誰もが心に決意しゲームを進めるようになったのだ。
そんな黒耀姫もこの摩天楼のサービス終了と共に人々の眼から姿を消したのだが、摩天楼のサービス終了から3年。
まさかAWOの、しかもライフサイドで再び見ることが出来るとは。元摩天楼のプレイヤー達は歓喜に震えていたのである。
しかし皆が崇拝する黒耀姫。中身は23歳独身の男性だった。久世命。運営の手違いによって他のプレイヤーをも上回る不幸の果てにその見返りとして運営から貰った仮想体。それが黒耀姫だった。
当時、久世は摩天楼のベータテスト等にも参加しその重厚な世界観と高難易度のゲーム性に魅了された一人だった。
いざ製品版を購入し、友達を含めた冒険仲間と一緒にチュートリアルをこなし、各サーバー毎に移動となった時に事件は起きた。
正門を潜った後、周囲には誰一人プレイヤーはおらず、久世一人だったのだ。
いくら待っても一向にプレイヤーは現れず、入ってすぐ行われる強制イベントに巻き込まれる久世。
久世は運営のミスにより正規サーバーではなく、ベータテストで使われていたサーバーに送られてしまったのだ。
しかも運営がその事実に気付くのは数週間後になる。その間、久世は一人で大人数でクリアするクエストに単身挑み続けることとなる。
さらに久世の不幸は続き、ベータテスト用のメニュー画面からログアウトボタンが消えており、さながら本気物のデスゲーム状態となってしまっていたのだ。
幸い、長期的なログインに備えて親が祖父母用に使っていた睡眠中の栄養補給や排せつ処理等を行ってくれる介護用のカプセルを使っていた為、現実世界での餓死等は防げたが、久世の怒りは凄まじかった。
運営側からのお詫びでは納得せず、様々な要求をしたのだが、黒耀姫という仮想体もその時貰ったものである。
そんな事ともいざ知らずフロアマスターの渾身の説明が続く。
「______であるからして!!______でしょう!?」
集まった参加者達もうんうんと頷いている。
そして振り返りも終盤に差し掛かり、
「と、言う訳で、今後も各惑星のNPCの動向を監視し、我らが姫を全力で応援しようではないか!願わくばサバイバルサイドへの伸展、並びにカード化を運営には追求していきたいと思います」
深々と頭を下げるフロアマスター。周囲の参加者達も大いに頷き、その場は解散となった。




