新生×修正×決着
フワフワして落ち着かない。それが久世の今の素直な感想だった。
突然死んでくれとか意味分からない事を言い出した鏑木。そして視界のブラックアウトは正直焦った。
そんな事を思い浮かべながら足元から再構築されていく身体を見つめる。
見ると言ってもそれは第三者視点から見ているに過ぎない。構成されつつある肉体は久世の物だが、まだ久世のものではない。
しかしカオスとジャンヌには悪いことをした。未だに空っぽになったアレスという肉体に寄り添い泣いてくれている。
まあ事前に説明する間もなくこんなことになっているのはアキラの所為なのだから後で現実に帰ったら一発ぶん殴ってやろうと決意する久世。
アルドラとアークもあまりMPを消費しないような戦い方に戦法を切り替えている。
いくらカード補正と久世の召喚スキルサポートがあるからといってもHPやMPは無限ではないのだ。いくら普段の3倍近い数値を有していても、だ。
本人達は気付いていないのも節約戦法に走らせた要因ではあったのだが。
暫くの後、煉獄龍を再び殲滅したアルドラとアークがカオス達の元へと戻ってくる。
カオス達の様子からアレスの身に何があったのかを察し、表情を曇らせる。
俺はここだ!心配しなくてもいい。そう叫びたい久世だったが、今はただの精神体。何もすることは出来ない。
そして彼女達に悲しんでいる暇はない。何故なら煉獄龍達のリポップがまた始まったからだ。
先程までと同じ軍勢が現れ、感情が欠落したかのような表情のアルドラとアークによって蹂躙される。
さっきまでと違いMPの消費等お構いなしといった攻撃方法だ。アレスの死の影響だろう。感情がないような無表情に見えるが眼には薄っすらと涙を浮かんべている。
肉体構成が完了するまでの間、久世は鏑木と入念に打ち合わせを行った。
そして程なく、新たな肉体が完成する。そして完成した肉体を見た久世から開口一番、
「おい、これは___マジか?」
『うん。だって緊急事態だったし、元々保存してたし・・・?』
「はぁ!?おまっ!コレ保存してたの?」
『いや~だって消去するとか言われたから記念に貰っておきたかったんだよ。他にも色々あるよ?』
「言わんでいい。頭が痛くなる・・・」
精神体では感じるはずのない頭痛がした気がして気が滅入る久世だったが、この肉体ならば確かに自分の有する能力を十二分に発揮出来るだろうと確信する。
『手順は覚えたよね?』
「ああ、問題ない」
『良し!では検討を祈るよ』
こうして久世の意識は新たな肉体へと宿り、再度大地へと降臨する。
幾度目かになる煉獄龍の殲滅を終え、息を整えるアルドラとアーク。
アレスの突然の死をなんとか忘れようと目の前の敵を叩き潰すがそんな事で長年連れ添ってきたアレスの事を忘れられるはずもない。
そもそもアレスが死ぬなんてことあり得ない。カオスを除く三人は確信している。
だが、心のどこかでは息をしていないアレスを見たことで言いしれぬ不安を抱えていた。
しかし召喚主であるアレスとどこか繋がっているような気がする感覚は消えてはいない。
故にアレスは、いや、ずっと本当は気付いていた。アレスという肉体に宿る本当の存在を。
その存在はまだこの世界のどこかにいるのだろう。だから繋がれている感覚は消えていない。
ならばその存在を探しに行くためにも今はこのドラゴンをなんとかするしかないのだ。
煉獄龍を倒すのを手伝う。それが彼との約束なのだから・・・。
「困りましたわね。いくらなんでもこうも復活されると厄介極まりないのですよ」
相変わらず頬に手を当てて首を傾げるアルドラに、いくら倒しても復活してくる煉獄龍にうんざりの様子のアーク。
ジャンヌは亡骸と化したアレスとカオスを涙を浮かべながら守っている。
まあ三人に近付ける存在等アルドラとアークがいる限り皆無なのだが。
何度目かになる殲滅戦を終え、リポップまでのインターバルまで後退する二人。
そしてその時、繋がっている感覚がアレスではなく、遥か彼方から感じられるのを確かに感じ取ったのだ。
「ねえ、ジャンヌ?アーク?分かりますか?」
アルドラの問いにジャンヌとアークが重々しく肯く。混乱しているのはカオスだけであった。
「えっ、何?どういうことなのアルドラ?」
自分だけがのけ者にされているような気がしてアルドラに質問するカオス。
「そうですねぇ。カオスはここいる。その体が主では無いといったら信じられますです?」
「これがアレスでは無い・・・?」
そう呟きアレスの体を見る。見た目も触った感覚も短い間ではあるが一緒にいたアレスで間違いないと思うカオス。
でも、本当にそうなのだろうか?煉獄龍に喰い殺されたと思っていたアレスは実は影武者で本物のアレスは別の所に避難していたこともあった。
その事を考えれば、もしかしたらここにいるアレスは精巧な偽物なのかもしれない。そういう考えに至って、
「そう・・・ね。信じられないこともないわね」
「そう、なのですか。では一緒に待つのですよ。我らが主の帰還を・・・」
そう言うと遠くの方角を見るアルドラ。
煉獄龍がリポップする中、四人は煉獄龍とは正反対の方角を揃って見ていた。まるで何者かを待つように。
眼が覚めた久世が最初に見たのは木々が生い茂る森林だった。
「あれっ?」
精神体でいる時に見ていたカオス達の少し後ろに出現するとばかり思っていた久世は、今現在の光景に眼を疑う。
マップを開いて確認するがやっぱりといった様子で納得する。
久世が今いる場所。それは久世がアレスとして一番最初にやって来たフォレストガーデンだった。
「なーんでスタート地点がここなのかなアキラ君・・・?」
こめかみに血管を浮かび上がらせながら拳を握りふるふると振るわせている久世。
『ごめん。アレスの設定地点から変えてなかったみたい。てぺぺろ!』
「テメェ。帰ったらマジでぶん殴ってやる!」
鏑木の渾身のギャグに、一体何百年前の声優のギャグを披露してくれんだと苛立つ久世。
が、今は早くカオス達の所に向かわなければと気持ちを切り替える。
体の調子は問題ない。むしろ以前の体より馴染んでいる位だ。
「流石に走って行くのには距離があるか」
マップでいち早く首都イシュガルの位置を確認すると手慣れた様子で緑色の本を呼び出す。
普段の移動にはアルドラの竜神状態を使っていた為、飛行する為の魔物を召喚する必要があった。
ふと、とある一ページに眼が止まりニヤリとする久世。
「やっぱこの体で行くならコイツだよな」
出て来た魔物は両足を地面に着地させるとその大きな翼を仕舞い、久世に話しかける。
「久しいな。主殿。元気にしておったか?」
「やあ、久しぶり。ってかこの格好で俺って分かるものなの?」
「何を言っておるのやら。我らは主殿と魂で繋がっておるのだ。見た目で無く中身を見て判断しておるのだ。馬鹿にするでないぞ?」
「ははっ、そっか。悪かった。でだ、緊急事態なんだ。向かいながら説明するから取り合えず乗せてくれない?」
「なんと魔物使いの荒い主殿じゃ。まあ良い。乗るがいい」
「さーんきゅ」
そう言うと跳躍しその魔物の背中に乗る久世。久々に乗るこの羽毛のモフモフ感が堪らなく懐かしくなり思わず頬ずりしてしまう。
「ああ~気持ちい~」
「これっ!主殿!そういう事は人型の時にじゃなっ!」
「ははっ!照れてやがんの!」
「調子に乗るでないわっ!!」
羽を広げ羽ばたく魔物。その高度はみるみる内に高くなり一気に加速すると首都イシュガルへと突き進む。
来る!
ジャンヌ達は魂の繋がりが徐々に強くなっている事を認識する。
そしてソレは眼にも止まらぬ速さでジャンヌ達の遥か頭上を通り過ぎ、煉獄龍の中を突っ切り空中で一回転すると優雅に静止する。
突っ込まれた煉獄龍達はそのあまりの衝撃に吹き飛ばされ絶命している。
強靭な成竜の甲殻をも容易く破壊する程の威力を秘めた空飛ぶ弾丸となってい一羽の大鳥。
全身が神々しい程に光り輝き、メインカラーは赤。羽根は虹色に輝き、頭には王冠。鳥類独特のクチバシを持っている。巨大なウズラのような鳥。
中国の伝説上の神鳥で四神・五獣の一つにも数えられる朱雀が今まさに降り立ったのだ。
「あれがアレス・・・?」
カオスが首を傾げながら言うとアークが「いやぁ、違うんじゃないかな?」と同じく首を傾げる。
そんな二人をしり目にジャンヌが朱雀の背中を指差す。すると今まさに朱雀の背中から何かが地上へと降下する。
数百メートル落下による土煙が辺りに立ち込め、視界が晴れた際、そこに立っていたのは一人の女性。
腰まである長い漆黒の美しい黒髪をなびかせ、髪の色とは対照的な白がメインカラーの着物をベースに作られたドレスを身に纏っている。服の様々な個所に花が描かれ咲き乱れている。
袖は半透明なレースが所々使用されており、中の肌理細やかな細腕が透けて見える。
衿(首のまわりを囲んで、前胸元で交差する細長い部分のこと)からは豊満な胸が見え隠れしており、腰より下には動きやすさを重視したのか、スリットが入っており美しい太ももから先が見え隠れしており扇情的だ。
背中も大胆にV字に露出しており、昔でいえば花魁。今風に言えばキャバ嬢辺りが着ていてもおかしくない服装の女性だった。
「ねえ、今度こそ本当に・・・あれがアレス・・・?」
先程の朱雀を見て問いかけた時には感じなかった頭痛に苛まれながら、頭を抱え隣のアークに尋ねるカオス。
すると隣のアーク。いや、他の三人も認めたくない、容認出来ない。事実を受け入れたくないといった表情で遠くにいる美女を見ている。
だが確かにあの人物からは魂の繋がりを感じる。それは否定しようのない事実である。
(えっ!マスター(主)って本当は女性だったの?いや、元々女顔ではあったけど!!)
と一同心の中でツッコミを入れながら「はわわ。これからどうしよう」とか「女性同士でもアリなのかしら?」とか「ジュルリ」など色んな声が呟かれる中で煉獄龍の前へと降り立った女性は行動を開始する。
(うわぁ、すげえ眼で見られてる。後でなんて言い訳しよう)
とカオス達からの視線に早くも冷や汗を掻き始めている久世。
既に朱雀には元の惑星に帰ってもらっている。これ以上人数を増やして場を混乱させたくなかった為だ。
思考操作でメニュー画面を表示し素早く武器を選択。装備する。
傍目からは袖口から武器が突然現れたようにも見えただろう。両手に握られたのは二振りの刀。
一刀は刃紋が桜の花のような桃色をしている刀。名を桜花。
もう一刀は刃紋が透き通る水面が表現されているような青色をしている刀。名を秋水。
久世が持っている武器の中で最高ランクの攻撃力を誇る刀である。
久世は自身の中に設定しているスイッチを切り替えると小さく息を吸い、吐きだす。
「いざ、参る!」
その場に残像を残し消える久世。
次にその本体が現れたのを人が目撃する頃には周囲に飛んでいたはずの煉獄龍が全て地に這いつくばっていた。
神速で一直線に移動した久世の周りには恐ろしい程の暴風が吹き荒れ、その風は刃と化し煉獄龍を襲い、翼を含む全身を真空刃によって切り刻まれ地へと叩き落としたのだ。
その時点で煉獄龍達は全て絶命していた。
スキルでは無く、圧倒的なSTR《筋力》とAGI《敏捷性》によるただの攻撃だった。
煉獄龍達は再びリポップする事は無い。何故なら死体が残っているからである。
アルドラによるバインドによる拘束からのアークによる攻撃で煉獄龍達は瞬く間に消し炭にされてしまい、今までは肉体が残らなかったのでリポップまでの時間が短かったのだ。
切り刻み、死体を残した状態であればその体が消えるまでリポップする時間は延長される。
某ハンターゲームでモンスターの死体から肉なり素材なりをはぎ取らないと一向に死体が消えず、次のモンスターがリポップしないのと同じ原理である。
そんなこんなで煉獄龍達を殲滅した久世は歪みが小さくとも残っている事を確認すると桜花と秋水を仕舞い、右手を歪みの方へ伸ばす。
すると手から複数の鎖が出現し歪みの中へと吸い込まれていく。
《スキャニング開始。____!!。ウイルスを発見。直ちに隔離、リアライズします。》
ウイルスを駆除する為に付加された簡易AIから警告と報告が上がると腕を引き戻しにかかる久世。
くいっと鎖を引っ張ると中から現れたのは巨大なドラゴンだった。
煉獄龍とは比較に成らないほどの物量。軽く全長50メートルはあるだろう。
久世は眼を合わせ、名前を確認する。
煉獄龍:古龍種。
「成る程、変質したデータとウイルスが成竜を取り込んだって訳か」
久世は目の前のドラゴンを一瞥すると再び姿を消す。次に久世が現れたのは煉獄龍の頭上だった。
「だけど、まあ・・・今の俺の敵では無いな!」
自然落下しながら桜花を再装備し両手で握ると刀身が赤く輝きだす。
「超越浄化!」
赤い流星と化した久世は頭上から真下まで一直線に煉獄龍を真っ二つに切り裂く。
切り裂かれた煉獄龍の切断面から淡い光が漏れると古龍種以外の煉獄龍も併せて消滅する。
《データの初期化。及びウイルスの駆除完了を確認。周辺にウイルス反応無し》
AIからの報告を聞き、2、3度桜花を振ると装備を解除する。遠巻きに見ていたカオス達が近付いてきたので慌ててログアウトボタンを連打する久世。
すると久世の肉体が粒子になって消失する。
「あっ!消えた!」
現れてからほんの数十秒で煉獄龍を瞬殺し、さらには親玉らしき煉獄龍までをも倒してみせた謎の存在。ジャンヌ達曰く、あれがアレスだという。
しかしその存在もこちらが近付くのを察知したのか、光のようになって消えてしまった。
走り寄っていたその歩みを止め、立ち止まると立ち尽くすカオス。
するとそこにアレスをお姫様だっこしているアルドラとアークとジャンヌが追いついてくる。
とそこに、
「あの、恥ずかしいから降ろしてくれない?」
と眼を覚ましたアレスが気まずさ漂う雰囲気を漂わせ苦笑いを浮かべていた。
キャラの個性化って難しいですね。遂に主人公は女性化するように・・・




