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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
第一部:煉獄龍戦
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厄災の兆し

 カオスからアナトリア皇国滅亡の経緯を聞き終わったアレスは静かに息を吐くと、ベットの上で壁際に寄りかかった。

 現在アレス達が居るのはイシュガルの宿の2階にある部屋だ。既に煉獄龍インフェルノ・ドラゴンの討伐から数時間が経過し、周囲は明るくなり始めていた。

ガゼルや滅龍騎士団ドラゴン・スレイヤー達は倒壊した建物や壁の片づけや負傷した者の手当てを行っている。アレス達は少し暇をもらってお互いの情報を整理しているのである。


 アレスは目の前にAR表示されているカオスのデータが羅列されているカードを見ながら横に居る人物をチラリと盗み見る。隣には同じくベットの上に座る一人の女性。シーツで全身を包んだ薄紫色の長髪に整った顔立ちをした女性、カオスである。

 課金ガチャで手に入るカードには様々な情報が記録されている。本人の名前から生い立ち等々、カードを合成し場面が進むにつれその情報は増えていく。アレスは先程カード一覧からカオスのカードを探した際、実はカードが4枚揃っていた事に気付き、カードを合成し増えた情報を見ながらカオスの話を聞いていたのだった。


(枚数ちゃんと把握して合成していれば、会ってすぐ気付けたんだけどなぁ・・・)


 そう思いながら合成していったカードの場面を思い出すアレス。最初のSRカードの場面は水着を着ているカオスが湖で遊んでいる場面。おそらくアナトリア湖でドラゴン達と遊んでいた時のものだろう。

次の場面、SRカード同士を合成したSR+のカードでは黒い鎧を身に纏い肩に大剣を背負っているカオスが映っている。説明には故郷の国が無くなり、各地を放浪している。とある。これは説明の通り、アナトリア皇国が滅び、各地を転々としている時のものだろう。

そして最後のSR+同士を合成したSSRカードでは鎧が取れ、再び素顔を晒しているカオスが映っている。着ているのは最初とは違う水着を着ていて正面に向かって笑顔で手を差し伸べている場面だった。これは今までに見たことのない場面、そしてカードにも詳細がかかれていないことから未来に起こる出来事なのだろう。


(あれ?でもカードの絵柄ってNPCの起こった出来事を撮ったものじゃなかったっけ?未来の絵柄とかあるのか・・・?)


 カードの詳細について公式見解がどうだったか思い出そうとするアレスだったが、カオスから遠慮がちにかけられた言葉によって思考は一時中断する。


「あの~、今ので話は全部なんだけど。今度はアレスの話を聞かせてくれないかしら?」


 上目遣いで聞いてくるカオスに思わずドキッとするアレス。現実では中々お目にかかれない美貌の持ち主であり、シーツに包まれているとはいえ、その中は鎧を着込む前に着ていた踊り子風の衣装である。現れた時は水着かと思ったアレスだったが、本人から赤面しながら全力で否定されていた。

 そんなカオスに健全な男子であるアレスが上ずった声で返答してしまうのも無理からぬことだろう。


「うえっ!ああ、うん。そうだね!俺は実はげんじ_ブルラアアアアアアア!!!」


 思わず本当の事を口にしようとしたアレスだったが、突然全身に激痛が走り変な声を上げてしまった。

それを見たカオスはビクッと肩を震わせ眼を見開き驚いていた。


「だ、大丈夫?」


 心配そうに見つめてくるカオスにアレスは手で制し大丈夫のジェスチャーをする。


(現実にかかわる話が出来ないってこういう事かよ・・・)


 未だ残る痛みに涙目になりながらアレスは抵触しない程度に話をしてみることにした。


「いや、ごめん。実は故郷の事を話そうとしたんだけど、なんていうのかな。呪い?みたいなのがかかってて話せないんだ。話そうとすると今みたいに激痛が走るみたい。俺も今初めて気付いた。だから当たり障りのないことを話すよ」


 そう前置きを置いて、話しだすアレス。自分が育った町や通った学校どうしてここに来たのかなど、現実に関する当たり障りのない部分を抽出して慎重に話す。


「ってことは要するにアレスはどこか遠い国から友達に頼まれて突然ここに飛ばされてきたってことなのね?」


「まあ、要約するとそんな感じかな。その友達とも連絡が全然とれないし、これからの予定も全然なんだけどね」


「そう、じゃあ・・・さ」


「ん?」


 シーツに顔を埋め、もぞもぞと顔を動かしチラッとアレスの方に顔を向けると徐に話し始めるカオス。


「初めて会った時に言ってくれたじゃない?一緒に冒険したいって。あの話ってまだ有効かな?」


「え、それって・・・」


 アレスがイシュガルに来る理由となった方便。家が焼かれ、冒険者として様々な国々を巡りたいという言葉。それを今も有効かと、カオスは訪ねているのだ。


「まあ、私ももう鎧の力もないひ弱な一般人に戻ってしまったけれど、冒険は続けていくつもりよ。今回の戦いで改めて実感したわ。私にはまだまだ皆を守れるような力も、そして気持ちも足りないって。だから冒険者として旅をして強くならないといけない。体も心も。その旅にアレスも付いてきてくれると・・・その、嬉しいなって・・・」


 シーツで顔を半分まで隠しながら言うカオスにアレスは少しも迷わず真っ直ぐ眼を見て言う。


「分かった。友達と連絡がつくまでって事にはなるかもしれないけど、それでいいならこっちこそ大歓迎さ」


「本当!?ありがとう!」


 アレスとしても今後、鏑木と連絡が取れない状況では行動方針が纏まらないし地理にも詳しくない。一緒に冒険できる仲間がいるのはとても心強い。

それに数日間を共にしたカオスに情が移っているのも即決の判断材料だ。

お互いに笑顔で握手を交わすアレスとカオス。宿屋の一室にはその後も楽しそうな二人の談笑が続いた。





 アレスがカオスと談笑していると耳にノイズのようなものが聞こえるようになっていた。

最初は幻聴かと思っていたのだが音はどんどん酷くなるばかりだった。気になったアレスはカオスに聞いてみるもノイズが聞こえるのはどうやらアレスだけのようだった。

 そんな中、ノックも無しに部屋のドアが突然開け放たれた。


「「!?」」


 バンッという音と共に開かれるドア。

開かれたドアの前にいたのは息を切らせた新米冒険者のエミルだった。


「し、失礼します!アレスさん!大変なんです!ガゼルさんが呼んでます!」


 息を切らし、呼吸荒げにそう報告してくるエミルにアレス達はただ事ではないと判断し支度を始める。

と、いってもアレスの装備はロングコードを羽織るだけである。武器である雷剣ペルクナスは先の戦いで破損し現在はアイテムストレージに眠っている。カオスの着ていた鎧の残骸なんかも実は収納されていたりする。

 アレスはカオスをこのままの姿で街に出すのもなんだかなぁと持っているアイテムを確認すると手慣れた手つきでコンソールを動かして行く。

傍目から見ると何も無い空中に両手を伸ばし何やら怪しげに動かしているように見える。眼も焦点が合っておらず常に空中を漂っている。カオスにとっては見慣れた景色だが、初見のエミルにとっては恩人とはいえ少々不気味に映っていた。


「あの・・・アレスさん?」


 恐る恐る声を掛けるエミルにちょっと待っててと声で制すると右手の人差し指と中指を伸ばしこめかみに当てると眼を閉じるアレス。「これなら大丈夫か」と一人納得するとその動作を終えるアレス。その手にはいつの間にか何やらものが握られていた。


「それは?」


 カオスがどう見ても服にしか見えないモノを突然取り出したアレスに内心驚きつつ尋ねると、ソレを渡してくるアレス。渡された服は白いYシャツと赤と白のギンガムチェックスカートだった。


「わあ、見たこともない服ね。可愛い」


「その格好じゃ何だし、着てくれるかな?」


「ええ、ありがとう」


 貰った服をうれしそうに抱きしめるカオス。アレス達は部屋を出て廊下で待機する事にした。

待っている間、エミルがどうしても気になった質問を投げかける。


「あの、アレスさん?さっきのアレなんなんです?魔法か何かですか?」


「ん?ああ、まあ、魔法っちゃ魔法かな。ごめん上手く説明出来ない・・・」


 アイテムクリエイションといっても伝わらないだろうなと内心思い、言葉を濁すアレス。詳細に説明しようにも先程のように衝撃を浴びせられても困る。現代知識やサバイバルサイドでの仕様などの説明には慎重にならざるを得ないアレスだった。

 アレスが行ったのはアイテムクリエイション機能を使った服の作成である。

煉獄龍インフェルノ・ドラゴンを倒した時に入手した様々なボーナスアイテムの中に生産結晶があった為、レベル上げの際に手に入ったアイテムや宿のシーツなどをしれっと借用し素材として利用。

 通常3Dマップで作り上げたいアイテムを創造するのだが、今回はアレスの頭の中にあるイメージを投影し学校の制服のような服装を作成したのだった。

 急造の作品の為、防具としての防御能力等は付加されていない。本当にただの服だった。

あれこれあやふやに答えていると部屋からカオスが出て来た。最初からカオスのボディサイズを図って作ったかのように服はジャストフィットしていた。

まぁ、サイズ調整の時にカオスの体をスキャニングしたのはアレスだけの秘密だ。


「どう、似合うかな?」


 照れながらくるっと一周するカオスにアレスだけでなくエミルまで顔を真っ赤にする。


「う、うん。似合ってるんじゃないかな。サイズも問題ないようだし」


 照れながら答えるアレスだったが、エミルの要件が緊急を要する内容だったと思いだしエミル先導の下、宿を出た。




 街を走りながら現状の説明を求めるアレス達だったが、エミルは言っても「信じれないでしょうから」と詳細を話してくれなかった。よほどの異常事態なのだろうと判断し足に力を込める。

 数分後、アレス一行が到着したのは煉獄龍インフェルノ・ドラゴンとの戦いの跡が残る外円部だった。そこには既に戦闘態勢の整った冒険者や滅龍騎士団ドラゴン・スレイヤーがいた。

負傷していた傷はあらかたアレスの放ったエリアヒールや回復薬等で回復している為行動に支障は無い。

 アレス達に気付いたのか、集団を纏めていた筋肉隆々の男性。ガゼルが娘であるミレイに付き添われながら近付いてくる。


「おう、元気そうだな」


「ガゼルさんも思ったより元気そうですね」


「ああ、お前さんの回復魔法のお陰だぜ」


 ガハハと笑いながら傷に触ったのか「いてて」と苦しみ出すガゼルにミレイが「もう」と介抱している。

 その微笑ましい出来ごとにカオスは笑みを浮かべている。


「ミレイ・・・」


「カオス・・・ちゃん」


 カオスはミレイのことを見据えている。その眼は若干の緊張に彩られていた。

後ろから他の皆には気付かれないようにアレスはカオスの手を握る。カオスは勇気を貰えた気がして深呼吸してからぎこちなく微笑みながら。


「ただいま、ミレイ」


ただ一言を紡ぐ。


「カオスちゃん!!」


 涙を浮かべながらカオスへと抱きつくミレイ。カオスの眼にも涙が光っている。

レナードとしてはなく、親友カオスとして数年ぶりに再開した二人をアレスはそっと距離を取り暖かく見守るのであった。






 再会による場面もひと段落し「緊急の用件てなんぞ?」と呼び出された理由についてガゼルに尋ねるアレス。ついて来いと先導するガゼルに従い案内されたのは外円部に建てられた首都イシュガルを取り囲む城壁の上だった。

 辺りには切り立った山々の上に建てられている為、断崖絶壁が見渡せる。城壁は地面へと接している個所、具体的には首都イシュガルへの入り口である正門から半円状に断崖絶壁の所までである。それより先は崖になっており、眼下には雲の海が広がっている。夜明けが近い為、太陽が見え隠れしており壮観な景色が堪能出来る。


 「最初に異常を発見したのは見回りをしていた兵士だ。夜目が利くヤツでな、イシュガルの北に位置する山脈・・・かつて煉獄龍インフェルノ・ドラゴン共の巣窟だった所だ。そこを何気なく観察してたらしいんだが」


 ガゼルがある一点を指差すとその指先が示す方向を追うアレスとカオス。


「見えるか?」


「いったい何が・・・ん~???」


 首をかしげ観察するが何も異常を見つけられないアレス。だが、隣に居たカオスから「あっ」という声と共に顔を掴まれぐいっとさせられる。


「ぐえっ」


 変な声を出しながらその先を見つめると山脈へと続く道のある空間が歪んでいるように見えた。


「歪んでいる?」


「ああ、あんなモン今まで生きてきた中で見たこともねえ。それにな、報告されてからどうやら少しずつ大きくなってきているらしい」


「へえ」


 言いながら電子マップを表示させその地点を観察するも特に異常は見受けられない。

気の所為か、アレスの頭に響くノイズも大きくなっているような気がする。何かあの歪みと関係があるのだろうか?そうアレスが思い始めた時、眼に見えて変化が訪れ始めた。


「なんだ!?」


 ガゼルの驚きの声と共に、歪みがどんどん大きくなり空を覆い始めた。歪みが広がり歪みの中心から亀裂が入り割れる。

 中が割れ、そこから見えたのは大量の1と0の数字の羅列。歪みの中は黒い背景。文字は緑色。それは歪みの中を大量にひしめいて今なお増え続けているようだ。見たこともない現象に戸惑うガゼル達。

 しかしアレスだけは、この世の存在でないアレスだけはこの意味を少なからず理解出来ていた。


「二進法のデータ羅列・・・?でもなぜ・・・」


 小さくつぶやくアレスの前で羅列されたデータが、現実世界ではただの数字が、仮想世界では数字は名や体を表す。

 数字は徐々に形を変え、肉体を、精神を構成していく。

出来あがった物体は大小数百を超える何か。そのフォルムには皆見覚えがある。


「ま、さか・・・!」


 見開かれた眼の先には数百体のドラゴン。数時間前、街が総出となって戦った相手。

しかもソレは幼竜等という生易しいものでなく、全てが成竜以上。煉獄龍インフェルノ・ドラゴンの大群が今まさに君臨したのだった。




 

 

 

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