追憶⑤
宝物庫に隠れてからどれくらいの時が経ったのだろうか。
カオスは部屋の片隅で未だ聞こえる巨大な何かが破壊される音や自分を探しているであろう襲撃犯達の怒号を聞きながら体を震わせていた。
普段から活発的に動き回るカオスであったが、この時ばかりは初めて他人から向けられた殺意と狂気に体が竦んでいた。
「皆は大丈夫かしら・・・」
自分を宝物庫に隠したガルシア。襲撃者に立ち向かっているであろうガゼル。初めて出来た友達であり、襲撃によって逸れてしまったミレイ。
カオスは何も出来ない自分の力の無さに自身に対する怒りがこみ上げて来た。
先程も皆の力を借りなければここまで避難することも叶わなかったであろう事を理解している分、よけい怒りは強まる一方だった。
「私に力があれば皆を守ってあげられるのに」
そう口に出し体育座りで膝を抱えていた腕に力を込める。
辺りを見渡すと国の財形を担う金銀財宝が暗闇の中でも分かるほど眼につく。そしてその奥を見ると何か赤いモノがキラッと光った。
「何かしら?」
ふと気になったカオスが立ちあがり、光った方へと足元に転がる財宝に躓きながら近付くとそこには一つの鎧が飾られていた。
薄暗い暗闇よりもさらに深い闇を体現したような色の全身鎧。その胸の鎧には今まで見た事のないほど大きな赤い宝石が付いていた。
「これが光ったのね。この鎧がお父様が言っていた呪いの防具?」
カオスが宝石を撫でるように触っていると宝石が淡い光を放つ。ビクッと驚いたカオスは思わずのけぞってしまい尻もちをついてしまう。
「いったぁー」
お尻を撫でながら立ちあがるとカオスは宝石を触った右手を見る。手には何故か今まで感じたことのない力が宿っている。そんな感じがした。
「これが・・・鎧の力?もしかしてこれを着れば・・・」
手には未だ暖かな力が宿っている。カオスは宝石を見つめると吸い込まれるような感覚に陥る。
カオスは導かれるように鎧を装着する。初めて着る戦闘用の鎧。しかしまるで歴戦の騎士のように慣れた手つきでカオスは鎧を着込んでいく。
すると最初からカオスの為に誂えたかのように鎧は体にジャストフィットしていた。
体は羽のように軽い。辺りを見渡すと棺のようなものが隣に鎮座していた。
カオスが蹴り開けると中にあったのは2メートル以上ある大剣が入っていた。
大剣は血のように赤黒く鍔は奇怪な形をしており柄は長め、刃は片刃で出来ていて、細身の剣に巨大な半月型の刃をくっ付けたような形をしている。その接合面は赤く染まっており、小さな髑髏が幾重にも積み重なっていた。
「なんて禍々しい。でも剣は剣。・・・だよな?」
剣を手に取ると2、3回振り回す。思ったより軽いなと思うカオスだったが、鎧のステータスアップによる効果だという事には気付いていないようだ。
背に大剣を背負うと宝物庫の入口へと向かう。カオスが手をかざすと魔法陣が幾重にも重なって展開し一つの魔法陣に組み上がると宝物庫の扉が開かれる。
宝物庫を出て、階段をゆっくり上がって行くと隠し扉になっている城の一階部分に出る上扉を押し上げるカオス。
上扉を少し開け、辺りを見渡して人がいないことを確認し地上へと出るカオス。
するとそこには変わり果てた一人の老人が倒れていた。
「っ!父上・・・」
ガルシアの遺体の傷を見たカオスは、宝物庫へと続く隠し通路を守って逝った事を悟り深い黙とうを捧げその場を後にする。
カオスが宝物庫から出た時、襲撃から既に数時間が経過していた。
城壁に空いた穴から街へと出たカオス。傷ついたドラゴンや騎士達があちこちに見受けられる。みな辛うじて息がある程度だ。
「街が・・・」
城門からなだらかなカーブを描く大通りへと出たカオスは街の変わりように愕然とする。
レンガや石材を用いて建てられていたイタリアの港町風な家々は今は見る影もなく、殆ど全ての建物が倒壊している。よく見ると壊されたというより、溶かされたように見える。
「狙いは私だけなのであろう!?何故街まで!父や民まで犠牲にならねばならんのか!許さん、絶対に許さんぞ!!」
カオスの心の奥底に燻っていた黒い感情が鎧や剣によって前面へと押し出される。
一度火のついた憎悪の心は収まることなくカオスの思考を覆い尽くし、カオスを狂気へと走らせる。
「なんだキサマ!」
と運の悪い襲撃犯がその場に居たカオスへと近付いてくる。手に持った短剣でカオスに切りかかるが、レナードは左手の籠手で短剣を防ぐと右拳を握りしめ右ストレートをお見舞いする。
ステータス補正のついた一撃をまともに食らった襲撃犯は数メートル吹き飛ぶと意識を失った。
カオスは気絶した襲撃犯の頭を踏みつぶし絶命させると未だ黒煙が上がっている街中へと歩みを進めるのであった。
ケルベロスによる攻撃から人々を国外へと逃がす作業にどれほどの時間を費やしたのであろうか。次々に黒煙弾により溶かされていく建物を見ながらガゼルは焦っていた。
生き残った住人達を緊急時に使用する船へと誘導するガゼル。アナトリア皇国は四方八方を山々に囲まれているため、国を出るには水路を使い海へと出なければならない。
それは部外者である襲撃犯もこの国の住人も一緒だった。港は3つの区画に整理されており、来客者用、住民用、漁業用に分かれていた。いずれも大きな石造りの仕切りで区切られており、今回ガゼルが住民を移動させているのは漁業用の港だった。
大型の水生モンスターを相手取って漁をすることもあるため、巨大な帆船が格納されているのである。
幸い、襲撃者達は港を占拠している、といった事態にはなっていなかったのでそちらへと誘導をしていたのだ。
「もう少しだ!慌てずゆっくり乗るんだ!」
生き残った住人達を乗せて次々に出港する帆船。皇帝を含む皇族が緊急時に避難するはずのルートも最終的には港へと着く。
しかし一向に現れない事から何かあったのではないかと、城へと避難したカオスを思い不安に駆られるガゼル。
城は団長のロベルトがなんとかしてくれているはずだと今は住人の避難を優先する。
そんな避難誘導の折、聞きなれた声を耳にしたガゼルは押し寄せる避難民の群れを見ると、そこには見紛う事無き自分の娘がいたのだった。
「ミレイ!」
「お父さん!」
誘導の他の騎士に任せ避難民の波を掻きわけミレイと合流するガゼル。
「無事で何よりだ。俺やカオス様の事は心配しなくていい。先に避難しなさい」
「え、でも・・・」
「言い分は聞かん。早く!」
「う、うん。無事でいてね」
「ああ」
二言、三言交わしガゼルはミレイの頭を撫でると避難船へと乗せる。
数分の後、住人の避難が全て完了したのを見届けるとケルベロスの暴れる区画へと向かう。
住民を避難させている間にケルベロスの意識がこちらに向いたときはアルドラが対処してくれる。そういう手筈になっていたのでガゼルは比較的冷静に行動出来ていた。
それでも内に秘めた不安や衝動に駆られ、足はどんどん速くなっていく。
港から街の中ほどに到着するとケルベロスの黒煙弾をアルドラがブレスを放ち相殺しているのが見えた。ケルベロスと氷結竜の力はほぼ互角。いや、氷結竜のが上だろう。しかし衰弱した状態のアルドラは徐々に押され始めていた。
「早く加勢してやらんと・・・」
2体のモンスターの間に入り込もうとするガゼルだったが、未だ残る襲撃犯に襲われ中々前へと進めない。そうこうしている内にケルベロスの攻撃がアルドラに当たるようになり、ついにアルドラは膝をつく。
マズイ!襲撃犯からの攻撃を切り返して先に進むガゼル。だが、2体までの距離はまだ遠い。
舌うちし向かうガゼルの反対側。城の方から黒い鎧の男が2体へと走って行くのが見えた。
(新手か!?)
アナトリア皇国では見かけた事のない漆黒の鎧の男にガゼルが敵側の新手かと警戒する。
だが、鎧の男はアルドラに迫るケルベロスの攻撃を背中に背負った大剣を盾に防いだ。
「味方・・・なのか?」
困惑するガゼルだったが、今すべきことは早くアルドラに加勢することだと歩みを進める。
アルドラに迫る一撃を大剣の腹を盾に防いだカオスは大剣を振り、乗っていたケルベロスの前足を振り払うとアルドラに向き直る。
アルドラは目の前にいる鎧の人物に警戒の感情を向けるが、鎧の人物の眼を見た時、容姿や雰囲気に変化はあれど”ソレ”がカオスだということを認識した。
再びケルベロスに眼を向けるカオス。巨体から繰り出される噛みつきや引っ掻きによる攻撃を大剣を盾に防ぐが、カオスは元々戦闘訓練を受けた訳ではないので、いくらステータスが強化されていてもまともな戦闘など出来るはずもなかった。まあ、学んでいたとしても狂乱状態の今、それを発揮出来るとは限らないが・・・。
いい加減、攻撃を防ぐのが億劫になってきたカオスの元に一人の騎士がやってきた。ガゼルである。
「おい、貴様!なんだその戦い方は!武具が泣いているぞ!」
「ハアッ!」
黒騎士は盾にしていた大剣でケルベロスの中央の頭を殴りつけるとそのままの勢いで大剣でガゼルに切りかかる。
「うおっ!!」
流石に切られるとは思っていなかったガゼルは咄嗟に後方に飛び事なきを得る。
「なにしやが_うおっ!」
文句を言おうと黒騎士へと詰め寄ろうとしたガゼルだったが、そこにケルベロスの一撃が飛んでくる。
その場でしゃがみ込んで回避すると1人と1匹から距離を取る。
「なんだんだコイツらは・・・」
視界に黒騎士とケルベロスが入るよう位置取りし対峙するガゼル。右手には愛用のロングソード。左手には道中拾った円系の盾、スモールシールドを装備している。
ガゼルが警戒する中、先に動いたのは黒騎士だった。
素早くケルベロスへの足元へと潜り込むとそのまま回転切りをお見舞いする。強靭な足だった為、切断されることはなかったが左後ろ足と両前足を骨折し身動きが取れなくなるケルベロス。
苦しげに口から黒煙弾を放つが、黒騎士が大剣を振るうと黒煙弾はかき消える。
やがて動かなくなったケルベロスに背を向けその場を立ち去る黒騎士。
その光景をガゼルはただただ突っ立っていることしか出来なかった。
無視されたのは癪だが、先程の動きは人間の関節の稼働領域を遥かに超える動作だった。そんな動きを見せたカオスにガゼルは不気味さを感じ、再度声をかけることは出来なかった。
「ケルベロスがあんな簡単に倒されるだと・・・」
フードの男は今眼の前で起きた出来事を現実として受け入れることが出来なかった。
自分達の切り札であるケルベロス。自分が身を置く帝国にて使役出来る中でも上位存在にあたるモンスターを、いくらドラゴンとの戦闘で少し体力を削られていたとはいえ、たかが人間が一人で太刀打ちできる存在ではない。
「あの存在、危険過ぎる。皇女どころでないな・・・」
本来の目的であるドラゴンを支配出来る少女を目的から外すことにしたフードの男。
副目的であるアナトリア国の崩壊も概ね達成している為、すでにこの国に留まる理由は無い。
だが、”あの存在”を生かしたままにしてよいのだろうか?ケルベロスを戦闘不能にした後、次々に自分の部下達を血祭りにあげている恐ろしい騎士。近付くこの国の騎士もその餌食になっているようだ。
「狂戦士・・・とやらか?何にせよ、ケルベロスを欠いた今、奴を葬る手段は一つ・・・か」
フードの男は懐から丸い水晶のような物を取り出す。黒い手のひらサイズの宝玉は中を覗くと小宇宙が広がっているように見える。
帝国より持ち出した国宝級の魔具。一度きりしか使えないが、発動すれば国が一つ滅ぶほどの威力を秘めている。
フードの男は他の騎士や狂戦士に見つからないよう移動を開始するのであった。
その頃ガゼルはアルドラの状態を確かめると、自分の部下である騎士達をも攻撃対象として認識し始めた黒騎士を止めるべく動き出していた。
傷つき倒れている騎士に大剣を振りかざす黒騎士にタックルをかまし転倒させる。
人並み外れた膂力を持つ黒騎士だったが、間合いの取り方や剣の扱い方は素人と察したガゼルが戦闘方法を切り替える。
大ぶりの攻撃しかしてこない黒騎士をあしらっていると次第に辺りが暗くなってきた。
時刻はまだ深夜。しかし空に輝く星のおかげで視界は良好。のはずだったのだが、何故かガゼルの周りだけひと際影が差している気がして上を見た時、初めて異常に気が付いた。
「飛空挺だと!?」
ガゼルの頭上にはいつの間にか空飛ぶ船。飛空挺が現れていた。大きさは5、6人が乗れる程度。
船事態は木製で出来ており、左右4カ所に羽根のような物が付いている。天井には雨よけ用に帆が張られていて、飛空挺の後部に舵を取る歯車のような形の操舵輪があり、その下部に船を浮かし、動かす風魔法を生み出す装置が取り付けられている。
フードの男がドラゴン型のモニュメントに隠していた、船が使えなかった場合や作戦が失敗に終わった場合、部下を切り捨ててでも脱出する為に運び込んでいた飛空挺だった。
「ドラゴンを祭る忌々しき国よ、そこの狂戦士と一緒に滅ぶがよい」
フードの男が手に持っていた宝玉を発動させ地上に落下させる。
小さな宝玉はゆっくりと落下し地面に着弾するとその威力を発揮し始める。
フードの男が宝玉を落とす前、何かヤバイ事が起きる。今までに培ってきたカンがそれを告げている。そう判断したガゼルは眼の前の黒騎士の顎辺りに盾で一撃入れ、脳を揺さぶり動きを止めると、動きの止まった黒騎士を担ぎアルドラのいる城門辺りへと駆けだす。
何故、黒騎士を背負って一緒に連れだしたのか。それはこれから起ころうとしている”何か”に対する犠牲を増やしたくなかったのかもしれない。そんな思いに突き動かされたガゼルは一目散に走る。
地上へと落下した宝玉は砕け散り、さっそくその力を発揮する。
割れた宝玉からあふれ出る闇が辺りを覆い尽くそうと這い上がってきたのだ。
宝玉を中心に展開する闇はガゼル達の逃げる方向だけでなく、港の方にまで浸食を開始する。
次々に飲み込まれていく土地や船。それを見たガゼルはさらに速度を速める。
しかしあっという間に追いつかれガゼルへと闇が迫る。
その時、ガゼルの前へと一体のドラゴンが立ちはだかった。アルドラである。
アルドラはガゼルに眼を向けると、何事かガゼルに伝えて来た。カオスほどでないにしろ、この国の人間はドラゴンの思考を読み取る事が出来る。アルドラの意思をガゼルが正確に感じ取れたのはアルドラの意思が強かったのだろう。
『カオスを頼みます』
そう読み取れたガゼルはアルドラに眼を向け強く頷くと、迫る闇にアルドラを追い越し走り続ける。
アルドラは傷ついた体に力を入れ、最後の力を振り絞る。アルドラから光が放たれ、アルドラの後方に闇が浸食しないよう結界のようなものを張られた。
長い咆哮と共に光が徐々に増し、徐々に後方の城を、いや、カオスとガゼルを守るように半円状に広がる結界。
結界が完成し、予定よりもMPに余力が残ったアルドラも結界内に避難しようと後退しようとした時、後方から放たれた一撃にアルドラは吹っ飛び闇へと飲み込まれてしまう。
闇に飲み込まれながらアルドラが見た光景は地面に横たわりながら、黒煙弾を放ったケルベロスの顔だった。
「アルドラ!!」
アルドラの作った結界内に入ったガゼルは足を止め、アルドラが逝く最後の瞬間を見届けていた。
ケルベロスの息がまだあった事は認識していたが、攻撃する余力を残しているとは思っていなかったガゼルは自身の配慮の浅さに憤りを感じ、ケルベロスの息の根をこそ止めるべく接近する。
その時、闇が一瞬にして収縮すると辺りに大爆発が起こった。
大爆発により保たれていた結界が破れ、爆発による本流に巻き込まれるガゼル。
爆風に曝され吹っ飛ばされたが、なんとか息はある。立ちあがると目の前の光景に愕然とする。
「街が跡形もない・・・だと」
眼の前にはぽっかりと空いた空間があるだけ。正門から城門まで続く舗装された道路や街々が今はどこにも見当たらない。
後ろを振り返ると未だ気を失っている黒騎士と爆風で死んだのかケルベロスの死体が転がっている。
城壁は半壊してはいるものの、城事態は健在であった。
「アルドラのお陰・・・か。助かったぜ」
騎士達も爆風により吹き飛ばされたとはいえ、まだ大半が息があった。港を封鎖させていた騎士達は気の毒だったが、暴れる黒騎士から避難させるため、大半の騎士は城壁付近に移動させていたのが功を制したようだ。
「さあて、あんの黒騎士をなんとかせんとな・・・」
まずは武器から取り上げるかと頭を掻きながら黒騎士へと歩いて行くガゼルであった。
眼覚めたカオスの眼の前にはガンくれたガゼルの顔が視界いっぱいに広がっていた。
「うおっ!(きゃっ!)」
「気が付いたか?」
「ああ、ガゼル無事だったのか。良かった(ええ、ガゼル無事だったのね。良かった)」
「良かった、じゃねえ!切りかかってきたくせ!それにうちのモンを随分可愛がってくれやがったな。テメェ何モンだ?」
凄むガゼルだったが、黒騎士、カオスにはまったく心当たりがなかった。
「なんの事だ?私は宝物庫から出てきて・・・それから・・・?なんだ思い出せない。ガゼル!皆は?ミレイは?(なんの事?私は宝物庫から出てきて・・・それから?何思い出せない。ガゼル!皆は?ミレイは?)」
黒騎士の言い方に違和感を覚えたガゼルは腕を組み唸ると、まず名前から聞き出すことにした。
「まず、名前から聞こうか?」
「名前って何を言っている?私はカオスだ!鎧を着ているから分かんのか?」
「カオス・・・だと?嘘をつけ!カオス様はそんな口調や老人声ではないわ!」
「老人声・・・?」
ガゼルに言われて初めて自分の変化に気付く。何故今まで気が付かなかったのだろうか。口調はどこかの騎士っぽくなり、声はしゃがれた老人のような声になっていたのだ。
「違う!これは・・・恐らく鎧の所為で!くそ何故脱げんのだ!」
鎧を脱ごうと四苦八苦する自称カオスにガゼルは不信感を募らせるもいくつか質問を投げかけてみた。
するとガゼルとカオスしか知り得ない情報やカオスを含む王族しか知り得ない情報などをこの男は知っている事が判明した。
「まさか、いや、本当にカオス・・・様?」
うろたえるガゼルにカオスは、ガゼルと離れ城へ向かった後の事を静かに語り出した。
「そう、だったのですか・・・。なんとも信じられませんが」
「だが、確かなのだ。それよりこちらも質問が。私が気を失っている間の話を頼む」
「いえ、それは・・・」
ガゼルが言い淀んでいるとカオスが苦渋に満ちた声で呟く。
「この鎧を見ればだいたい察しが付く。私は人を・・・殺めたのであろう?」
「・・・・・・」
「そう、か・・・」
「いえ、ですが殺めたといっても襲撃犯だけです!正当防衛ですよ。幸い我が騎士団は生きながられています。無意識化で手加減したのでしょう」
「そうか・・・」
その後、ガゼルの口から無事ミレイが逃げおおせたことや、アルドラが身を呈してカオスを守った事等が伝えられる。
「ミレイは無事か。良かった。アルドラ・・・」
「カオス様・・・」
今はそっとしておこうとガゼルはカオスの傍を後にし、生き残った負傷者達をまとめ上げると城へ行くように命じる。街があった場所は今は大きなクレーターが出来ているだけで、唯一残っている建物が城だったからだ。
ある程度の事を負傷の軽い部下へと引き継ぐと再びカオスの傍へと戻ってくるガゼル。
カオスは未だに憔悴しているようだった。
「私はこれからどうすれば良いのだろうな。親と国を失い、呪われた武具を脱げず、どう生きていけばいいというのだ・・・」
「カオス様・・・」
ガゼルはどうにか生きる目的を持って立ちあがって欲しい。そう思ったが、不器用な性格の自分に上手いセリフなど出てくるはずもなく、直球勝負に出ることにした。
「カオス様失礼致します」
そう前置きして息をすぅっと吸い込むと大声で。
「何、下向いてやがんだ!お前の人生はこっからだろ!呪いだがなんだか知らねえがそんなちっぽけなモンに負けてんじゃねえ!俺がテメェに人生の歩み方ってモンを教えてやる!」
と言いきった。
「今日でカオス=アナトリアは死んだ。その鎧が脱げるまでは俺の息子だ!名前は・・・そう、だな。俺の土竜、レイナードからとって、レナード。でどうだ?」
そう言いながらにこやかに笑うガゼル。カオスの心も先程とは違い、まだ少しではあるが、生きる意味を見出していた。
襲撃が起きてから数日後、船で脱出した避難民から話を聞いた隣国、とってもアナトリア皇国から海に出て数キロ先にあった移動型海上都市トルマリンから兵士が派遣され、アナトリア城に避難していた生き残り組も無事回収された。
皇族が亡くなったことや街が丸ごとクレーターとなってしまい、もはや国として機能する事の出来なくなったアナトリア皇国は事実上、滅亡したのだった。
皇女であるカオスが生き残り、レナードと名を変えて生きている事実を知っているのは、ガゼルとその娘のミレイだけとなった。
その後、ガゼル達は様々な国を旅歩き、数年後の後イシュガルのギルドマスターへのスカウトをきっかけにイシュガルに住むようになり、カオスはというとそれを気に冒険者としての腕を上げるために流浪の旅へ出ることとなる。
過去編終了となります。第一章ももうすぐ終わる・・・はず?




