序章
一人の青年が血走った鋭い眼光で携帯を覗き込んでいた。
「頼む!次でラスト!神様お願い!!」
携帯を地面に置き、意を決した表情で画面の真ん中にあるボタン『購入』をタッチする。
携帯の画面の中で幾何学的な紋章が円を描き、地面から神々しい光が放たれ天を穿つ。エフェクトが収まりその画面に一枚ずつカードが表示される。
彼が行っているのはAWOと呼ばれるゲームのコレクション機能の一つであるカードガチャ。一回5000円で20枚のカードを一気に引ける20連ガチャと呼ばれるものである。
「んあっ!Rは要らない!ああ~HR!でも持ってる!あ、当たらねえ」
もう何回、回したのだろう、幾度目ともつかない溜息を彼は吐いた。
「どうして当たらないかなあ、運営の陰謀を感じる・・・」
このゲームにハマっていた青年、久世命はある一定の間隔毎に行われる課金ガチャで手に入るカード取得に全力を注いでいた。
このゲームの課金によって手に入るカードは他のカードゲームとは少々異なり、最初に決まった定数しか用意されていないのである。
つまり早いもの勝ち。レア度SRクラスのカードとなれば用意されているカードが200枚かそこら、URカードに至っては50枚程である。
そしてこのゲームにおける最終進化合成を行う為に必要な枚数は4枚。ランクアップによる絵柄変化目的であれば3枚でも事足りるのだが、4枚のカードを合成することにより召喚した際、NPCのステータス補正や特殊スキルが身に付くのである。
その為、サバイバルサイドの冒険者達は数少ない有名NPCのカードを手にすべく課金ガチャを行っていた。
久世も毎回ガチャイベントが始まる度にすぐさまガチャページに飛び、課金ガチャを行っていた。給料の7割をこのゲームに費いやす程の重度の課金プレイヤーなのだが、冒険者としての順位は低い。
何故なら彼は、とあるゲームを長年やってきたことによる燃え尽き症候群に陥っており、AWOでは専らカード収集による会話が主目的にしており、強いカードを集めて冒険をこなし高順位に属する事が目的ではなかったからだ。
そして彼は夏真っ盛りの本日から解禁となった【水浴びガチャ】にて入手出来るSRカード【漆黒の皇女カオス:水浴び】を狙っていた。
「3枚は出たんだし合成済み!、せめて後1枚・・・、今で20万ちょっとだろう・・・今月の昼飯は食堂の天ぷらそば200円・・・いや、かけそばの150円で凌げば後2週間だから・・・なんとかなるかぁ・・・」
給料日までの残金や請求額を考えながら久世はもう何度目になるかも分からない最後にもう一度という言葉を呟いた。次で最後、次で・・・と言いつつ、ついつい課金してしまうのは悲しい課金者の性である。
「所持枚数が一杯になってきたな。レア度の低い輩は一括進化だ。ん?ユニークスキル知らん!いらん!」
久世が目当てで無いカード達も捨てる事無く最終進化させコンプを目指しつつさらなるレアカードゲットへと突き進む。
「ふう。課金は一先ずこれくらいにしておいて、手に入ったガチャ券使っておくか」
数十回に及ぶ課金ガチャにより集まった課金ガチャ特典である無料ガチャチケットやレアリティ上昇チケットを受け取ろうと考えた久世はアイテム受け取り画面を開く。そうして一括受け取りにてチケットを手に入れるとガチャページへと飛び、再びガチャへと挑む。
連打していた為、排出エフェクトをすっ飛ばしていた久世は4枚目のカオスが当たった事に気付かず、尚もガチャを回す。
そして最後のチケットを使いきったと思っていた矢先、久世は今まで見たことのないチケットを使用出来るようになっていた事に気付いた。
「【召喚確定チケット】?こんなのあったかな、もしかしてUR確定チケとか!?」
未だかつて見たことのないカードが当たるかもしれない期待を抑えきれず、久世は【召喚確定チケット】を迷わず使用した。
携帯画面上に幾何学的な紋章が円を描いていく、そして地面から神々しい光が天を穿つ。久世はカードが出現するのを今か今かと待った。
しかし光がいつまでも収まらない事に久世が疑問を持ったとほぼ同時に事態は起きた。
携帯画面の中から天を穿った光が飛び出し久世を包み込み視界全体覆い尽くす。そのあまりの眩しさに耐えきれず久世が眼を瞑ると意識が遠のき始めやがて意識を失った。