追憶④
「あっ!カオスちゃん!来たよ」
正門が開け放たれそこからまず最初に現れたのはゾウに似た姿のモンスター、ファンファン。その背中には大きな垂れ幕が敷かれて、その上に簡易な木造の櫓が組まれており、シルクハットに燕尾服の老人が笑顔で指揮棒を振っていた。
その後に次々と進軍してくる集団は、青と白を基調とした服を身に纏い、顔に様々な形にくり抜かれた眼や口が特徴の仮面を着けたピエロや妖精の格好をしていてパレードの音楽に合わせて踊りながらゆっくりと進んでくる。
中ほどには大きな移動式のステージがファンファン2頭によって引かれており、その上ではピエロ達がジャグリングをしたり、口から火を噴いたりと様々なパフォーマンスをしている。
「わぁ、凄いね・・・」
ミレイが感嘆の声をあげ、キラキラした眼でパレードの様子を見ている。隣に居るカオスも今まで生きてきた中で一番規模の大きいパレードに胸躍らせていた。
台車から次々と夜空に向かって様々な色の花火が上がり、空を鮮やかに照らす。
そしてパレードの最後尾には複数の台車が3頭のファンファンに引かれており、一番大きいものは縦5メートル、横20メートル程もある巨大な飛竜を象ったモニュメントだった。
大小様々なドラゴンのモニュメントの口から火が吹かれ、首が可動し空に向かって咆哮が上がる。
パレードの様子を追い掛けながら楽しんでいたカオス達はパレードを追い掛け、遂にアナトリア城前まで来ていた。
そして・・・変化は唐突に起きた。
シルクハットの老人が操っていた白い指揮棒はいつの間にか消えており、代わりに赤色の指揮棒を握っていた。
老人が赤色の指揮棒を夜空に向かって振るうと指揮棒の先から巨大な火の玉が空中へと放たれ、周囲に拡散すると幾何学的な文字が浮かび上がった。
「あれ、なんて書いているんだろうね?」
誰かがそんな事を口にした矢先、台車に付けられていた花火を打ち出す為の大砲は何故か空では無く城や民家、人へと向けられており、人々が疑問に思う前にその大砲が火を噴いた。
そこに入っていたのは花火では無く、鉛で出来た大砲の弾。それは様々な場所に着弾し家を外壁をそして人を吹き飛ばし破壊する。
その出来事を合図に今まで踊っていたピエロ達は隠し持っていた短剣やサーベルを取り出し人々に襲いかかる。
その突然の事態に困惑する二人。混乱し逃げまどう人々の波に二人は引き離されてしまう。
「ミレイ!」
「カオスちゃん!」
人ごみに押されみるみるうちにミレイの姿を見失ったカオスだったが、不意に後ろから手首を掴まれた。
「誰!?」
素早く後ろを振り返ると、カオスの手首を握っていたのは龍騎士の副団長であり、幼いころからの教育係であるガゼルだった。
「ガゼル!?」
「姫様ここは危険です避難を!」
そう言うとカオスの手を引っ張って城へと連れて行こうとするガゼルだったが、カオスは掴まれた手を振りほどきガゼルを見据える。
「ミレイと逸れたの!探さないと!」
「駄目です!今は一刻を争う事態です。それにあの集団の狙いはおそらく・・・」
ガゼルがそこまで口にしかけた所で近くに大砲の弾が着弾し爆発する。その爆風により二人は弾き飛ばされ、離れ離れになってしまう。
「うう・・・」
爆風に吹き飛ばされたカオスはその衝撃に一瞬気を失いかけるも持ち前の気力でなんとか意識を保ち、立ち上がる。
すると近くに居たピエロがカオスの顔を、爆風により顔を覆っていたベールが無くなり顔を完全に見せているカオスの顔を見て大きな声でこう叫んだ。
「対象発見!直ちに応援を!」
「えっ・・・?対象・・・?狙いは・・・私!?」
カオスは先程ガゼルが言いかけていた言葉も思い出し自身の危機について自覚する。ミレイを探しに行き合流した方がミレイをより危険な目に合わせるであろうことも。
「逃げないと!」
迫るピエロにカオスは反対方向へと逃げ出す。が、先程の衝撃により体が上手く動かずピエロに捕まってしまう。
「おら!動くんじゃねえ!大人しくしろ!」
「いやっ!」
抵抗するカオスだったが、大の大人に抵抗するだけの力は持ち合わせていなかった。
振りほどこうと暴れているうちに首にぶら下げていた笛が目に入る。
カオスは宙に浮いたままの笛を口で咥えると思いっきり鳴らす。
「何を!・・・ってなんの音もしねえじぇねえか。驚かせやがって」
ピエロは安堵の表情でそう言うとドラゴンのモニュメントへとカオスを引き摺って行く。
するとモニュメントが二つに砕けると中から一匹の狼が現れた。毛は黒く体は通常の狼よりも一回り大きく、全長2メートル程はあるだろう。牙を剥き出しにし、周囲を威圧している。同様に他のモニュメントの中からも複数の狼が顔を出し始めた。
「おっと、我らの牙狼様はご立腹だねえ」
モニュメントの中から現れた狼を見ながらピエロはニヤリとしている。牙狼達は本作戦の為に本国から貸し与えられているモンスター達だった。本来気性が荒く並みの人間には扱えないモンスターだが、強力な魔法道具によって操られていた。
牙狼達の背には鞍が付けられており、人が乗ることを想定した準備がされている。おそらくこの狼達に乗って脱出するつもりだろうとカオスは引き摺られながら思考していた。
「カオス様!」
途中、ガゼルが意識を取り戻しロングソード片手にカオスを助けるべく接近する。
しかし一匹の牙狼がガゼルの進行を妨害する。
「ええい!」
執拗な噛みつきによる攻撃をいなし牙狼を切り捨てるも二匹目、三匹目の牙狼が襲いかかってくる。
ガゼルは焦る気持ちを押し殺し戦闘に専念する。
カオスが引き摺られながら必死に抵抗していること数分。徐々にピエロ達が集まり出し、カオスが焦りを感じ始めたその時、カオス達の周囲に風が吹き荒れた。
「来たわね」
カオスが空を見上げると暗くなった夜空に浮かぶ白い影。結晶のように透き通り、氷のような色をした甲殻。何者をも喰らい尽くすであろう強靭な顎に鋭い牙。氷結竜が君臨していた。
「なんだっ!?」
ピエロの男は突如現れた氷結竜にギョッとし、しかし直ぐに顔を引き締めると周囲に集まっていた仲間に指示を飛ばす。
だが、相手は宙を舞っており、自分達の得物は短剣かサーベルばかりで対空装備は無い。それにいくら牙狼でも空を飛ぶことはできない。
よって氷結竜が放つ氷の息を防ぐ手立ては無く、ピエロ達は次々とやられていった。
牙狼はというと持ち前の身体能力で氷の息を回避し空をにらみ、唸り続けている。
氷結竜の到着を合図に城の城門が開かれ次々と土竜に乗った龍騎士や飛竜に跨った龍騎らが現れ、ピエロ達を一網打尽にしていく。
その姿にカオスは安堵の表情を浮かべる。事態は直ぐに収束する誰もがそう思った。
「この程度の煩わしい爬虫類共で我らを本当に駆逐出来ると思っておるのか」
未だ先頭のファンファンの上で指揮棒を振り続けていた老人が乾いた声で、しかし冷え切った感情を込めた口調でそう呟くと右手で振っていた赤い指揮棒の他に、左手には黒色に赤い紋章が刻まれた指揮棒が握られていた。
そして両手の指揮棒を振りまるで周囲に見せつけるかのように指揮棒を大きく振るう。
「何を・・・」
戦闘を終え、カオスの所へと走っていたガゼルは遠くに見える老人の行動に一抹の不安を覚える。
「踊れトカゲ共!ワシの手の中で!!」
すると変化はすぐに現れた。
「おい!どうした!」
突如進軍を停止する土竜達に困惑する騎士達。空を行く龍騎達も同様で空中でホバリングした状態の飛竜に困惑する。
次第にドラゴン達の変化は大きくなる。眼は赤く充血し瞳孔が大きく開かれ息が荒くなる。そして。
「グルウァ!」
ドラゴン達は乗り手である竜騎士達を次々に振るい落すと契りを結んだはずの騎士達に襲いかかった。
飛竜に騎乗していた騎士達は空中へと放り出され、地上に落下し大勢が墜落死した。
運良く落下死を免れた騎士達も空から急降下してきた飛竜によって喰い殺される。
「一体何がどうなっている!?」
牙狼を切り捨てていたガゼルもつい先程やってきた自分のパートナーである土竜に突如襲いかかられ、思わず反撃を加えその剣を相棒の血で濡らしていた。
「レイナード・・・」
己の手によって逝った土竜の眼を閉じると踝を返すと先程、氷結竜が飛来した位置へと走る。
(もし全てのドラゴンが同じ状態になっているとしたらカオス様が危ない!)
最悪の状況を思い浮かべてしまった自身に活を入れガゼルは全速力で走った。
カオスの周辺にいる襲撃犯であるピエロ達をあらかた制圧していた現場でも同じ事が起きていた。
常時、大人しかった土竜達が血走った眼で乗り手に襲いかかっている。いや、ピエロ達にも襲いかかっている事から敵味方関係なく殺戮しているようだった。
「アーちゃん!」
先程まで空を飛びまわっていた氷結竜は地面に落下し苦しげな表情をみせている。
(アルドラの思考が読めない・・・今までこんなことなかったのに)
苦しみもがいている氷結竜の横で寄り添い心配そうな眼でその頭を撫でているカオス。
アルドラとはアーちゃんこと氷結竜の名前である。決してアイシクル・ドラゴンの頭文字でアーちゃんではなかった。
カオスはドラゴンタイプのモンスターの思考を読み取り、また自分の考えを相手に伝えるテレパシーのような能力を持っていた。それこそがカオスのユニークスキルだった。
そのような能力を発揮してもアルドラの思考を読み取ることは出来ず、こちらの意思を伝えることも出来ずにいた。
(不味い。このままじゃ・・・)
不安が徐々にカオスの表情を曇らせる。アルドラは苦しみながらもその顔を見た瞬間、重くなった体を徐々に起き上がらせる。
「アーちゃん!?」
アルドラは立ち上がるといつの間にか接近していた土竜達に氷の息を浴びせる。
絶対零度の息をかけられた土竜達はまたたく間に凍りつき、後続の土竜達に突っ込まれ粉々に砕け散る。後続の土竜はというと粉々となった氷が体に突き刺さり負傷し動きを止めていた。
「カオス様!」
そこにようやくやってきたガゼルや騎士達が合流しカオスの前に立ち、ロングソードを構える。
氷結竜に向かって。
「ガゼル!その子は大丈夫よ。他の子をお願い」
「カオス様・・・。分かりました。ですが、カオス様も城へ避難を」
「ええ、分かっているわ。ガゼル、アーちゃん・・・死なないで」
ガゼルと一緒に来た騎士達にガゼルの護衛を頼むと未だ混迷の続く街へと向かう。
騎士達に護衛されたカオスは何度かピエロやドラゴン達の襲撃に遭うもなんとかアナトリア城まで辿り着いた。
城門を抜け城へ入り、王座の間へと続く階段を上がる。
「カオス!」
「お父様!」
カオスの父でありアナトリア皇国を統べる王。ガルシア=アナトリアがカオスを抱きしめる。
「無事であったか。本当に良かった」
「お父様こそ。お母様は?」
「ああ、あやつは既に避難させた。さあお前も早く避難を」
ガルシアがカオスを伴って避難を開始したその時、城の城壁が崩れ大量の土竜がなだれ込んで来た。
その際、避難路に使われていた通路が潰されてしまう。
「く、通路への道が!仕方あるまい・・・カオス。宝物庫へ行け。あそこは我ら皇族にしか開けないように魔法の鍵が施されておる。それにあそこの壁はシェルクライムの甲殻から出来ておるからな。そう壊れることもなかろう」
シェルクライムとはアナトリア皇国に入る際に通る海域に存在するヤドカリのようなモンスターである。その堅固な甲殻は様々な用途でアナトリア皇国では使われてきた。主な使用方法は壁や武具であるが、シェルクライムの稀少部位である胸にある胸甲殻をふんだんに使用されている宝物庫はアナトリア皇国の中で一番堅固な守りを誇る場所と言えるだろう。
「お父様は?」
「わしはお前が宝物庫に逃げきるまで時間を稼がねばならん」
「嫌です!お父様も一緒に!」
「馬鹿な事を言うんじゃない!もう敵は直ぐそこまで迫ってきておる。先程騎士団長のロベルトがやってきてな。賊の狙いがお前の能力にあると聞いた。であるならば早急にお前を避難させなければならん」
頑なに一緒に避難する事を意見するカオスだが、聞こえてくる地鳴りのような足音にガルシアはカオスの手を引き、宝物庫へと続く隠し階段への入り口まで連れて行く。
「無事、生き残ったら成人の儀の続きをしてやろう」
「お父様・・・」
泣きじゃくるカオスの頭を撫でるガルシア。
「最後に、幼少の時から言い聞かせているが宝物庫には呪いの武具がいくつか置いてある。絶対に触れるんじゃないぞ」
「はい」
「では行け!」
カオスの背を押し行かせると隠し階段への扉を再度隠ぺいし、王族専用の煌びやかなロングソードを手に取る。ガルシアが聞こえて来た足音に後ろを振り返るとそこには侵入者であるピエロ達がいた。追いついてきたピエロ達に囲まれるガルシア。そして隊長格のピエロがガルシアに問う。
「娘はどこだ?」
「貴様らに言う道理はない」
「そうか。ならば妃同様死ね!」
「貴様ァ!」
激昂しピエロに切りかかるガルシアだったが、多勢に無勢、それに衰えた肉体では数人の手練を相手取る事は出来ず数分も持たず打ち取られてしまう。
「カオス・・・すまん」
力尽きたガルシアを踏みつけると隊長格のピエロは仲間に周辺の探索を命令する。
奇しくも宝物庫へと続く隠し階段への入り口はガルシアの死体で隠されたのであった。
城下町では未だ混乱が渦巻いていた。ピエロや牙狼以外にも普段アナトリア皇国を守護しているドラゴン達が一斉に住人達に襲いかかっているのである。
騎士達は懸命にドラゴン達に立ち向かうも、元々強靭な体を持ち己の相棒でもあるドラゴン達に全力を出せる者は少なく次第に劣勢となっていった。
ガゼルは時折、苦しそうに地に伏せる氷結竜と一緒に行動を共にしていた。
他の大勢のドラゴンを相手取るにはドラゴンの助けが必要不可欠であり、まともに行動できるドラゴンはアルドラを除いていなかったからだ。
(頼むぜ!カオス様のドラゴンさんよっ!)
気合い一発、ガゼルがアルドラの背中を強めに叩くとアルドラは眼を見開き、足に力を入れ再び立ち上がる。
一人と一匹が向かう先には未だファンファンの櫓から指揮棒を振っている燕尾服の老人が見える。相変わらずニコニコした表情の老人に苛立ちを隠せないガゼルだったが、今は迫りくるピエロや牙狼・土竜達に意識を集中させていた。
(いったい何人隠れて居やがった!数が多すぎる!)
敵の数に苛立ちながら剣を振るうガゼル。迫りくるピエロの攻撃をいなし反撃、牙狼やドラゴンはアルドラによるブレスで凍らせ先に進む。
だが、敵の数に徐々に疲弊したガゼル達は少しずつ進行する速度が落ちていた。
(このままじゃ埒が明かなねえ。何か突破口は・・・)
ガゼルが策が無いか思考していると隣のアルドラがガゼルの腕を軽く叩いてきた。
「なんだ。どうしたってんだ?」
アルドラは下がっていろとばかりに尻尾を振りまわし、ガゼルや周りの兵士たちを下がらせる。
皆が下がった事を見届けるとアルドラは自身の四肢に力を込め始める。
すると真夏に相応しい蒸々した熱さが急激に冷え込み始めた。変化はそれだけに留まらず、アルドラの全身を氷が覆い始めたのだ。氷は徐々に形を変え、頭と前足の部分が鋭角に尖っており、体を覆う氷も後方へ流れるように張り巡らされ、隆起した棘のようなものがいくつも出来る。
アルドラの固有スキルである【突撃態勢】の効果だった。
通常は積雪した雪等を利用し鎧を形成し突撃するスキルだったが、今現在の季節は夏。アルドラが周囲に漂っていた空気中の水分を魔力(MP)を使用し氷に変え己の身に纏ったのだ。
アルドラは低く唸ると自身を狂わそうとしている元凶を断つべく燕尾服の老人が乗るファンファンへと突進を開始する。
迫りくる敵をかわす事もせず一直線に突き進む。数多いる敵を吹き飛ばしファンファンまで接近すると飛び上がり氷で覆われ巨大な爪と化した右腕による一撃を燕尾服の老人に与える。その一撃は老人だけでなく、ファンファンをも共に引き裂き、轟沈させる。
ガゼル達はアルドラが作った道を一直線に走り抜けると、力を使い果たしその場に倒れ、荒く呼吸するアルドラの元へと駆けつける。
「良くやった!これでドラゴン達は元に戻るだろう」
ガゼルはファンファンが倒れた事で出来た土煙の先でこと切れているであろう燕尾服の老人の方を見つめながらアルドラに労いの言葉をかける。
次第に土煙が晴れていき、視界が元に戻るとそこにいた。いや、あったのは・・・。
「人形・・・だと」
そう。そこにあったのは燕尾服を着た人形だった。周囲を見渡しても他に人影はなかった。ではいったい敵はどこに?そうガゼルが思考していると後方に残っていた大きなモニュメントの方から悲鳴が上がる。
「馬鹿め。いつまでもそんな目立つ場所で指揮するわけがなかろう」
黒いフードを被った男はガゼル達に軽蔑の眼を向け、自身の手に握られている一つの指揮棒に眼を向ける。
「まあ、自動人形に握らせていた狂乱の指揮棒は回収しそこねたが、厄介な氷結竜をあそこまで弱らせられたのは行幸じゃったな」
フードの男は地に伏せている氷結竜を一瞥すると、アナトリア城を見る。
「土竜を利用した城壁破壊も上手くいったようじゃし、後は小娘を見つけ出すだけか」
アナトリア城と城壁は土竜達の突進により半壊しており、所々からは煙が上がっていた。
そこにピエロの格好をした襲撃犯がフードの男の元へと駆けてくると報告を開始する。
「報告します。作戦により逃げ出そうとしていた王妃及び王は始末完了。対象は城に避難したと思われますが依然発見出来ず。今現在も捜索を続けております」
「御苦労。下がってよい」
「はっ!」
男は部下からの報告を聞き終わると邪悪な笑みを浮かべ、城の方へと眼を向ける。
「ではあぶり出すとするか。まずは街を綺麗にせんとな・・・」
男が指を鳴らすと、一番大きなドラゴンのモニュメントが割れ、大きな檻が露わになる。
中には何かがうずくまっているようだが、眠っているのかピクリともしなかった。
「目覚めよ。ケルベロスよ」
男が再度指を鳴らすと檻の中で眠っていたモノが眼を覚まし、静かに起き上がる。男が檻に向かって手をかざすと幾重にも張り巡らされていた魔法陣現れ、まるでパズルを解くかのように回転すると一つとなり消える。
ガシャンという音と共に檻が開き、中から一匹の漆黒の毛並みを持つ巨大な狼が現れた。
大きさは7、8メートル程あり、氷結竜よりも大きい。ケルベロスの名に恥じぬ鋭い牙を持つ凶悪な顔が三つついていた。その首にはどれも同じ刻印が施された首輪をしていた。
「さあ、ケルベロスよ。破壊しろ」
「ウオオオオオオオオオオオオオオンン!」
ケルベロスは大きく咆哮すると大気がその声によって震える。その咆哮は周囲に居たアナトリア皇国の国民や兵士だけでなく、味方であるはずのピエロ達ですら恐怖で体を震わせる。
ケルベロスは四肢の調子を確認すると体に力を漲らせ、疾走する。まだ形を残している建物に向かってその3つの口から黒煙弾を放つ。放たれた黒煙弾が建物に着弾すると、ごうごうと黒い炎が建物を覆い尽くしまたたく間に建物は溶け落ちる。
「なんてモン持ちこんでやがる!?」
悲鳴の上がった後ろから出て来た怪物、ケルベロスに驚愕するガゼル。味方であるドラゴン達も指揮棒の狂乱状態から逃れたとはいえ、未だ眼を充血させ呼吸は荒く満身創痍の状態だ。
ガゼルは自身の装備を再確認し、近くに居た騎士達をまとめ上げるとケルベロスの暴れている区画へと歩みを進める。




