追憶③
カオスとミレイが知り合ってから8年が過ぎ、カオス達は16歳となっていた。
その頃のカオスは、艶やかな透き通るような薄紫の長髪をなびかせ、強い意志を宿す赤い瞳。子供の時からさらに磨きがかかった白くつやのある肌。綺麗に整った顔立ち。日ごろの鍛練の成果か、引きしまったウエストに細長い手足と抜群のプロポーションの美少女となっていた。
そして彼女の横に立つもう一人の美少女。茶髪のショートヘアに眼鏡をかけ、子供の時からのイメージカラーである黄緑色のAラインワンピースに上からカーディガンを羽織っているミレイである。
もちろん、8歳の時とは違い成長した体はカオスには劣るものの、十分なスタイルに育ち、読書の似合う文学美少女といった風貌である。
そんな二人は今、知り合った頃から通い続けている城の地下通路を抜け、アナトリア湖に来ていた。
慣れた様子で桟橋に小船を固定すると二人は大きな声で同時に叫ぶ。
「「シーちゃーん!」」
すると水面から勢いよく一体の蛇が水面から数十メートル上空へと飛び出してきた。
その巨体が水面へと勢いよく落下すると辺り一面に水飛沫が上がる。それは当然近くに居た二人に降り注ぎ、衣服をびしょ濡れにする。一人を除いて。
「だからいつも言っているでしょう?最初に服は脱いでおきなさいって」
「うん。分かってはいるんだけどね。その、恥ずかしいじゃない!?」
「そんなこと言ってぇ。どうせ私達しかいないじゃない。ほらっ!」
「きゃっ!」
服までびしょ濡れになり暗い顔をするミレイとは対照的に明るく笑っているカオス。
カオスは最初から青と紫に彩られたビキニの水着に腰に透けている紫色のハーフ丈のパレオを身に纏っていた。
そんなカオスはびしょ濡れのミレイから服をささっと脱がす。
脱がされたミレイは小さな悲鳴を上げるとその場にへたり込む。ミレイも下に水着を身に着けていたようで、上下お揃いの赤いハイビスカスのような花柄のビキニに、深紅のパレオをしていた。
「シーちゃんもここ数年で大きくなったよね。大きくなったというより逞しくなった・・・?」
「そうね。水竜から成長して別種になったのよ。きっと」
ミレイが水面から顔を出す水竜を見上げながらそう言うとカオスが答える。
8年の月日が経った水竜は数十メートルあった細長い胴体は、太く分厚い甲殻へと変貌していた。申し訳なさそうな位しか無かった短い手足も強靭な鉤爪を持つ太い手足になり、ウツボのようだった顔つきも全体的に厚みを増し、強靭な顎に鋭い眼光。そして全体が深蒼の装甲のようなもので覆われていた。
普通、何十、何百年と過ごすうちに自然進化するモノをこの水竜は僅か数年足らずで自らを存在進化したのだった。
その名を海竜。水竜の正当なる上位種である。
何故、水竜はこの短期間にこれ程の成長を見せたのか。それはこの湖に秘密があった。
AWOを含めエターナルプラネットに住む住人(モンスター含む)にはレベルが確かに存在する。
普段それは運営側にしか見えない。普通に暮らすだけなら特に意味の無い数値ではあるが、レベルはその者の強さを意味する。そして当然、レベルの限界値も存在する。アレスとレナードが戦った煉獄竜・成竜もレベル☆50と成長の限界に達していた。しかし成長の限界に達していたからこそ、あそこまでの強さを発揮したのである。
レベルの限界値というのはその者が生まれた時に、ある程度種族によって、一定の範囲内でランダムに決められる。人間はレベル40~50。竜種はレベル30~60といった感じである。
成長の限界に達していた者は、その時習得していた隠しパラメーターや入手困難な進化用アイテム等を保有していた場合それに応じた存在進化が可能となる。
今回、このシーちゃんこと、水竜が進化したのは、己の成長限界であるレベル30に達していた事と存在進化するのに必要なパラメーターを有していたからに他ならない。
当然、種族の違いやその時のレベルによって敵を倒したり、何かを成すことによって得られる経験値は増減する。人間が1レベル上昇する経験値と竜種が1レベル上昇するのに必要な経験値は違うのである。
そしてこのアナトリア湖には多種多様な水棲モンスターが生息している。その中にエンジェル・プランクトンというモンスターがいた。
このモンスターは眼には見えない程の極少なモンスターで、生息地域が限られ、出現数も少ないというレアモンスターである。レアモンスターだけあってこのモンスターから得られる経験値は常に一定だった。つまりレベル1でも100でも貰える経験値は一緒。しかもかなりおいしい量が貰えた。
そんな貴重なモンスターが豊富に出現するのがこのアナトリア湖だった。
普段から水中を泳ぎまわりながら魚などを捕食していた水竜が、自分でも気付かぬうちにエンジェル・プランクトンを食べ、その経験値を自身のものとし成長。
そしてカオスやミレイとの遊戯が基礎トレーニングとして様々なスキルアップを併発。
つまり、偶然が重なり存在進化に至ったのだった。
そのような事を知る由もない二人は不思議なこともあるものねと成長したシーちゃんを見上げていた。
水面から顔を出す海竜の頭を撫でながらカオスは「今日は様子見と水浴びに来ただけなのゴメンね」と海竜を再び水底へと戻す。
波打ち際で遊ぶ美少女二人。その姿は仲の良い姉妹にも見える。
「そういえば今日って大通りを使ったおっきな催し物があるみたいよ」
「あっ、私も聞いたことあるかも。確かサーカス団が来るんだっけ?」
「そうそう。折角だから見に行きましょう」
「いいけど。カオスちゃん仮にもお姫様なんだから変装位しなきゃダメよ?」
「分かってるわよ。もう子供じゃないんだから」
ミレイの言葉に口を尖らせるカオス。アナトリア皇国では16歳を成人と見なし、祝いの席を設けるのが風習だった。
そして本日の夜。カオスとミレイを含めた少年少女達の成人の祝いが催されることになっていた。
話に出てきたサーカス団とはその催しのために国外から招かれた一団なのである。
「支度もあるしそろそろ戻らないとね」
「そうね。もうお昼過ぎですもの。どうりでお腹が鳴るわけだわ」
「カオスちゃん。人前でそんな事言っちゃダメよ。お姫様なんだから」
「もう!ミレイの前でしか言わないったら!」
半笑いでそんな事を言うミレイにカオスは思いっきり水をかける。するとミレイは顔面に特大の水鉄砲を食らうとキャッと悲鳴を上げ、後ろに転けてしまう。
再びずぶ濡れになったミレイは「カオスちゃ~ん・・・」と恨み顔でカオスを見る。
そんなカオスは舌をペロッと出しゴメンゴメンと平謝りをする。
二人の関係は数年後も変わらず健在であった。
二人が水遊びを堪能した日の夕暮れ。二人は成人の儀に参加。といってもお祭りを楽しむためだが・・・。私服に着替え城下町へとやって来ていた。
ミレイは先程来ていたワンピースを乾かしたもの。カオスはというと、顔を隠すためか踊り子のような格好をし、顔をベールで隠していた。周りは既にお祭りムードでカオスの格好を特段気にするような者はいなかった。
「すごい人だねカオスちゃん」
「そうね・・・。城門からサーカス団は来るのかしら」
「出店の人の話しだとそうみたいよ」
アナトリア皇国は正門から城下町そしてアナトリア城までなだらかなS字カーブとなっているメインストリートで繋がっている。その城下町の中ほどにある中央広場と呼ばれる円の形に広がっている空間にカオス達はいた。
周囲には同じくサーカスを見に来た人で溢れ返っており、出店も数多く目立つ。
二人はその雰囲気を楽しみながら正門が開け放たれ、サーカス団が入場してくるのを今か今かと待っていた。
「今年は例年に比べて規模が大きいらしいよ。なんたってお姫様の成人の儀もあるものね」
「からかわないでよミレイ。あ、門が開いたわ!」
徐々に開かれていく城門と様々な楽器が奏でるパレードの音楽に心躍らせる二人。
だが、それとは反対に太陽は徐々に沈み始め、暗くなってきた夜空に浮かぶ月は赤く不吉な色をしていた。




