一つの決着
ここは首都イシュガルの外縁部。煉獄龍の襲撃によって壁や大砲やバリスタ等が無惨にも破壊され、立ち並ぶ石造りの建物もここ周辺は全壊又は半壊しているものが殆どだ。
負傷している住民は無く、周辺には成竜のブレスによって多大なる火傷を負った冒険者達が体を休めている。
本来、そのダメージによって命を落とす者がいてもおかしくない状況だった。しかし重傷者はいるものの、死人は一人も出ていなかった。
その理由はとある人物が範囲回復魔法を使用した為、負傷度が軽減されたというものだった。
そして今回の立役者であり、範囲回復魔法スキル【エリアヒール】を使用した張本人であるアレスは建物が倒壊し成竜や一人の冒険者が暴れて更地と化してしまった空間に一人佇んでいた。
目の前には漆黒の鎧に包まれた人物が仰向けに倒れている。その鎧は先ほどまでとは違い、ヘルムは禍々しい捻れた角が元に戻り、鎧は展開されていた箇所が閉じ、鉤爪は通常形態へと戻っている。唯一背中に生えた剣はそのままなものの、その大きさは以前と比べかなり縮小されており、正面から見ると全て元通り見える位だ。
その様子から見ていたアレスから安堵の表情が漏れる。もちろんこの倒れている人物が目を覚まし再び襲ってくるかもしれない。その可能性も考えてガゼルを含む冒険者達には未だに距離をとってもらっている。
「頼むぜ。レナードさん・・・」
見守ること数分。漆黒の鎧を身にまとった人物・・・レナードがゆっくりと上半身を起こす。
視界がぼやけているのか辺りを頻りに見渡すとアレスの姿を捉えたのか一心に見つめている。
「ここ・・は・・・?煉獄龍は・・・?ア・・レス?アレスなのか!?」
視界がはっきりしたのか、アレスの名を呼び立ち上がろうとするレナード。しかし上手く立ち上がれず前のめりに倒れてしまう。
「レナードさん!まだ立ち上がらないで下さい。ダメージが残ってるんですから」
そういうとレナードに肩を貸すアレス。
レナードの体は度重なる激闘の披露とアレスに受けた膝蹴りにより膝が骨折しており、最後に受けた技によって軽い脳振盪を起こしていた。
「君は確かに煉獄龍に食われたはず・・・どうして?」
「あれは身代わりだったんですよ。俺、召喚術も使えるんです。」
「召喚術?聞いたこともないな。魔法なのか?」
「そう思ってもらって結構です。まあそのおかげで助かったんです。レナードさんにはいらない心配をかけた上にあんなことになってしまって申し訳ないですが・・・」
「いや、こちらそこ済まない。お陰で誰も殺める事無く済んだ。それに・・・君も生きててくれたしな」
「そうですね。体の方は大丈夫ですか?」
「なんとか・・・な。おぼろげにしか覚えていないのだが、最後の技は一体?」
足を止め首を傾げるレナード。アレスはふふっと笑うと「あれはですね・・・」と説明を始めた。
アレスが最後に放ったスキル【電磁抜刀】。納刀状態の刀を電磁誘導により加速させ打ち出すスキルでその速度は音速を超えるというとんでもない技である。
これは雷系統のスキルと刀剣類のスキルがある一定以上になると取得可能になる複合スキルで今回の煉獄龍・成竜戦における切り札だった。実際に取得可能となったのは幼竜を倒した後だったのでタイミング的にはぎりぎりだった為、スキルレベルは1のままである。しかしレベル差をものともしない高威力を発揮する上位スキルに変わりはない。だが使用した代償により、アレスのMPはまたもやガス欠寸前だった。
ともあれ、その一撃をアゴにまともに食らったレナードは衝撃とダメージにより気絶したのだった。
「なるほどな・・・」
「暴走状態が解除されたのはおそらく胸の宝石とヘルムに傷が入ったからでしょう」
言われてレナードは顔を自信の体へと向ける。そこには胸の部分についている大きな宝石のような玉に縦ヒビが入っており、顔を籠手の付けた手で撫でるとヘルムには確かに大きなヒビが入っていた。
「だろうな。鎧を纏っている時にいつも感じる感覚が消えているからな。ただの重量級の鎧に戻ったようだ」
鎧を身に纏ってから感じていた何者かが囁くような幻聴が消え、今まで軽減されていたであろう痛みが体を襲い、数年ぶりとなる空腹を感じていた。
「今なら脱げるかもしれんな・・・」
そう言うと徐にヘルムに手をかけるレナード。ピシッという音と共にヘルムだけでなく、全身の鎧に亀裂が入り始める。
全身に隈なく亀裂が回ると亀裂から淡い光が漏れ始め、一気に光が増し眩しくて見えないほどの光量に思わず目を瞑るアレス。光が収まり、眼を開けるとそこには美しい艶やかな長髪をした美女が佇んでいた。
「ん・・・?えっ?レナードさん?ええっ!?」
突然の光景に呆然とするアレス。当然だろう。最初は老人のような声と言動から歴戦の黒騎士と思っていた人物が、本人からの暴露で実は同い年の子だったことが判明した。はずだったのに、いざ蓋を開け手見れば、艶やかな透き通るような薄紫の長髪にティアラを着け、吸い込まれるような赤い瞳を持つ綺麗に整った顔立ち。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるというモデルを遥かに凌駕するプロポーションの女性だったとは誰も予想出来ないだろう。
「う~ん!久々に肌に感じる風が気持ちいいわ!」
両腕を上げ、体を伸ばしつつそんな事をのんきに言い放つレナード。その動作で胸についている双丘がたゆんと揺れ、アレスの眼は釘付けになっている。何故なら彼女の今の姿は一糸纏わぬ裸・・・ではなく、紫と青の2色に彩られた際どい水着姿だったからである。
「え~と、あのぉ。レナードさん・・・ですよね?」
我に返ったアレスが恐る恐るレナードに尋ねる。
「ああ。そうです。いえ、違うな・・・。ああ!もうっ!鎧の所為で口調が変わっていたから前にように話辛いわね」
今までのレナードと違い落ち着いた雰囲気を醸し出すレナードは今までの口調に戸惑いながらも、一拍開けてからその透き通るような声でこう口にした。
「鎧が取れた今、偽りの名を語る必要もないでしょう。私の本当の名はカオス。失われた王国、アナトリア皇国の皇女です」




