狂乱×覚醒①
「アレス!?」
突如、豹変した成竜の一撃によってアレスが食いちぎられ絶命した事に驚愕し、そしてその事に対し今まで感じた事のない怒りにレナードは支配される。
(よくもアレスを!我が友を!許さん!許さんぞ!)
「不味い!このままだとあの時と同じになっちまう!」
戦場から少し離れた場所から戦闘の様子を窺っていたガゼルが突如立ち上がりミレイに支えられながら呟く。
「また・・・とは?もしかしてあの時と同じような事が?」
ガゼルの言葉にミレイが質問を投げかける。
「ああ、そうだ。レナードのヤツ暴走しかかってやがる。昔と同じで対象を殺した後も暴れまわられちゃ敵わねえ。俺も当時は全盛期だったしその頃のアイツは剣や体術も素人だったからなんとかなったが、今のアイツを止められる力は俺にはねえ」
「そんな・・・じゃあレナードさんは?」
「煉獄龍を仕留めた後も止まらず暴走して街や人にまで被害が出るようなら」
そこでガゼルは言葉を区切り、一呼吸置いてから。
「街総出で奴を滅ぼさにゃならなくなる」
煉獄龍・成竜はアレスの亡骸を咀嚼し終えると、次の得物へと向き直る。
そこには俯いたレナードの姿があった。
『・・・さ・い。許さんぞ・・・!』
『ウオオオオオオオオオオ!!』
雄たけびを上げるレナード。すると身に纏っていた鎧に変化が現れ始めた。
最初は2本の角をあしらったかのような漆黒のヘルムと、胸の真ん中に大きな宝石が埋め込まれ、幾重にも重なる装甲と装飾が印象的だった鎧も今では、上向きだった2本の角は捻じれた角となり首の方まで垂れさがってきて、まるでディアブロの悪魔のようなヘルムに変化しており、胸の真ん中に合った宝石には禍々しい縦の眼が現れ、幾重にも折り重なっていた装甲は展開し禍々しい瘴気を放っていた。籠手や足に関しても先端が鉤爪上に変化しておりまるで本物の悪魔のような出で立ちとなっていた。
そしてレナードが手をかざすと地面に横たわっていたソウルイーターがふわりと浮きあがり、レナードの右手へと取り付き、骸骨の個所から触手のようなものが這い出てきてレナードの右腕を包み込み合体する。
『ハアァァァァァ!!』
ソウルイーターの感覚を確かめるように2、3度振り回すとその視線を成竜へと向ける。
すると先程までとは比べ物にならないほどの速さで成竜へと肉迫し一閃、成竜を切り刻む。
一度しか攻撃したようにしか見えなかった攻撃だったが、成竜の体には無数の切り傷が生まれていた。
おそらく激昂前の成竜の体であればいともたやすく切断出来たであろう攻撃も、今の成竜の体にはダメージを与えることはできても一撃必殺というわけにはいかないようだった。
(もっとだ、もっと力を!)
そう願うとさらに全身から噴き出る瘴気が濃くなった。レナードのHPを力に変え、どんどん鎧は力を増して行った。そして、現在は剣と鎧が接合されているため、相手さえいればそこから血を吸収し本来ソウルイーターにしか供給されない回復・強化能力はレナードのHPをも回復させ、敵の血をすすれば啜る程レナードは強く、そして戦う狂戦士へと変貌を遂げるのだった。
(視界が染まる。赤一面に染まる。私に鎧が剣が囁きかける殺せと・・・)
『ウオオオオオオ!』
成竜が嘴をカチカチと鳴らしブレスの動作に入る。
しかしレナードはその動作に眼もくれずさらに切りつけようとする。が、成竜は翼を広げ宙に舞い、ブレスを放つ。
『煩わしい』
レナードはそれを、ブレスをソウルイーターの横なぎで一閃するとまるで何も無かったかのようにブレスがかき消える。
そして宙にホバリングしている成竜に向かってジャンプしその背中の翼を切りつけそぎ落とす。
片翼を失った成竜は態勢を維持出来ず地面へと落下し苦悶の声を上げる。
『終わりだ』
そう成竜へ告げるとソウルイーターを振り上げ成竜の首へと勢いよく振り下ろす。振り下ろされた刃が首を正確に捉え、頭が弾き飛ぶ。
あれほどの脅威だった煉獄龍・成竜をレナードはものの数分で討伐してしまった。
「終わった・・・のか・・・」
その様子を一部始終見ていたガゼルの口から言葉が漏れる。
現在、レナードはその場に立ち尽くしており動く様子は見られない。しかしいつまた動き出し、こちらを襲うか分からない以上、警戒は緩められない。
ガゼルは眼とジェスチャーで冒険者と滅龍騎士団達に態勢を整えさせ準備する。
「おい、もしアイツがこっちを攻撃して来たら躊躇わずに攻撃しろ分かったな?」
「「「は、はい!」」」
先程までの圧倒的な戦闘力を見せつけられた冒険者たちはレナードに対し畏怖の感情を抱いていた。
もし自分達が標的となった際生き残れるのか?あの煉獄龍・成竜ですら数分しか持たなかったというのに。という感情が胸の奥から溢れだしてくる。
それもレナードの出すあの黒い瘴気の効果だった。
あの瘴気は人、モンスター問わず、生物全ての負の感情を増幅させる効果を持っている。
そのためこの場にいる人々にもそれは作用しており、恐怖や畏怖の感情が増幅され戦意を挫かれていた。
無論、瘴気の一番影響を受けているレナードは怒りと悲しみの感情に支配され鎧や剣の囁きに耳を貸し行動してしまっていた。
(まだだ、まだ血が足らない。そうだろう?もっと、もっとだ怒りと悲しみに身を任せろ)
『成竜は倒したんだ。もういいだろう?これ以上何かをしたってアレスが戻ってくる訳ではない』
(それでいいのか?街の連中がもっとしっかり戦っていればやつは死なずに済んだのかもしれんぞ?)
『街の人々は関係ない。それに冒険者たちもよくやっていた』
(本当にそう思うのか?心から、本心からそう思っているのか?)
『そうだ、私は・・・思っているはずだ。決してアレスが命を落としたのは彼らの所為では』
(では、お前はどうだ?お前が頼りないからあいつは死んだんだ)
『そうだな。私がもっとしっかりしていれば・・・彼は死なずに済んだ』
(そうだお前が弱いせいだ。お前は強くならなければならない。お前自身の為にもあいつのためにも)
『そうだ。私は強くならなければならない。どんなことがあったも』
(強くなるためにはどうしたらいい?答えは簡単だ。敵を倒してその生き血をオレに捧げればいいのさ)
『しかしもう敵などいない。倒すべき敵など・・・』
(いるじゃないか・・・ほらっ、あの向こうにた~くさん)
『向こう?あちらには街の人々が・・・なんだあんなに・・・モンスターがどうして?』
(ほぅら、お前がまただらだらしている間に街の人間はモンスターに殺されてしまったんだよ)
『そんな馬鹿な・・・私は・・・また救えなかったのか』
(そうさお前さんはいつだって手遅れ。何も救えない。だから強くならなくちゃならない。ほらまずはあのモンスター達を駆逐して・・・な)
『モンスターを駆逐。強くなるために、守るべき力を手に入れるために!』
(それでいい。それでいいんだ。レナード・・・)
虚ろな目をしたレナードの目線の先には大勢のモンスターが蔓延っていた。その数、数千匹。
今のレナードにはもう生き残った街の人々や冒険者などは一人も見えていなかった。




