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アナザー・ワールド・オンライン  作者: ジン
第一部:煉獄龍戦
10/54

強襲×迎撃③

「戦闘開始だ!」


 アレスとレナードが成竜の左右へと分かれ散開する。


(まずはヘイトを稼ぐ!)


 ”ヘイト”とは敵キャラクターのプレイヤーに対する敵対心のことである。主にMMORPGで使われる用語の一つで、敵がどのプレイヤーに対して攻撃するかを決定する項目である。

 MMORPGでは、基本的戦術として盾役と呼ばれるタンク職が敵を挑発。ヘイトを稼ぎ、自身に敵を引きつける。そしてDPS(Damege Per Second)と呼ばれるアタッカー職が敵を攻撃。HPヒットポイントを削り、回復役であるヒーラー職が盾役を回復するといった形で戦闘が行われる。

 その為アレスは盾役としてこの戦闘を行おうと決め、先陣を切る為にその身軽差を活かし煉獄竜・成竜へと接近する。


(本物の意思があるこの世界でどの程度有効かは知らないけど!)


 内心では他のゲームとは違い、独自の思考形態で物事を考えるAWOのモンスターにどの程度今までのMMORPGの考えが通用するのか?と考えながらも戦闘に集中するアレス。

成竜は接近しようとするアレスに口を大きく開き火炎弾を何発も放つ。アレスはそれを巧みにかわしながら先程ガゼルの攻撃で鱗が剥がれている横腹に接近し切りつける。

 元々の切れ味に加え、鱗が剥がれていた成竜の腹はいともたやすくアレスの雷剣ペルクナスを受け入れ、その身が引き裂かれ血が噴き出す。


(良し!やれる!)


 ペルクナスについた血を払いながらアレスは再度成竜と距離を取り、狙いを付けられないよう右回りに成竜の周りを駆けまわる。

 成竜は憎々しげにアレスを見つめ、火炎弾をさらに放つ。

瓦礫がれきや段差に躓かないよう配慮しながらアレスはそれを回避。レナードに目を向ける。

 レナードはアレスの真反対に位置しており、丁度成竜の背中側に陣取っている。


(仕掛けるか・・・)


 肩に背負っている大剣に手を伸ばし、成竜へと接近するレナード。

その手にその大剣が握られ、柄を回すと今まで隠されていた布が解けその大剣が露わになる。

2M近くあるその大剣は血のように赤黒くつばは奇怪な形をしており柄は長め、並大抵の筋力では扱えぬであろう重量を誇っているように見える。刃は片刃で出来ていて、細身の剣に巨大な半月型の刃をくっ付けたような形をしている。その接合面は赤く染まっており、良く見ると小さな髑髏どくろが幾重にも積み重なっていた。

ツーハンデッドソードに分類されるその大剣はその昔、人間、亜人を問わず大勢の生物を殺戮した忌むべき剣として代々とある王家の宝物庫の奥深くに封印されていた魔剣【ソウルイーター】であった。 


「参る!」


 重量級の鎧や大剣を物ともせずに素早い動きで成竜の死角、真後ろから接近し攻撃しようとするレナード。

だが、鋭い嗅覚と感を持ち合わせた成竜はレナードの接近に気付き体を反転させる。その長く鋭利な尻尾を振りながら。


「っく!」


 成竜の意図に気付いたレナードは速度をさらに早め、振り放たれた尻尾による薙ぎ払いをジャンプして回避しそのままソウルイーターを振り下ろす。

勢いのついた刃が成竜の尻尾の付け根付近へと叩きこまれ成竜から悲鳴が上がる。

さすがに切断には至らなかったものの、当たった個所は鱗が何枚も剥がれ落ち、血が噴き出ていた。


(ふむ、倒せない敵ではないな。このまま押し切る!)


 振り下ろしから横なぎの態勢に移行しソウルイーターを振る。成竜の血を浴びたソウルイーターの髑髏から不気味な音が聞こえ、剣が先ほどよりもドス黒く輝く。

 これはソウルイーターの固有スキルで、相手の血を取り込み吸収、そこから得た力を己と所有者にもたらす【吸血ブラッド・スイーパー】によるものだった。

 この剣は一定時間内に自他問わず血液を摂取させないと所有者の精神を侵略し狂乱状態にさせる等があった。だが、一度吸血し始めるとその吸収した個体の強さに応じて剣と所有者のステータスを強化してくれる。

 横なぎからの攻撃を成竜は体を捻り、己の中で一番強固な双角で受け止める。


「ぐうっ」


 その圧力に剣を押し戻されたレナードが思わず唸る。そこに。


「こっちだトカゲ野郎!」


 レナードと成竜の攻防の隙をついて接近してきていたアレスが声を張り上げ威嚇する。


「グルゥ!」


 アレスに一瞬気を取られた成竜の力が僅かに弱まったのを感じたレナードは剣の腹で角を滑らせ離脱する。


「済まない。助かった」


「いえ、それよりも」


 アレスが成竜に目を向けると、くちばしをカチカチと鳴らし始めていた。


「よし、もう一度私が防ごう」


「分かりました。援護は任せてください!」


 そう言うとレナードはソウルイーターを背中に戻し成竜へと駆ける。

アレスはというと一旦距離を取り、ペルクナスを鞘へとしまい片膝を突いていた。

 これは刀系のスキルで【瞑想めいそう】といって、経過時間に応じてMPの回復を早めるスキルで自然回復よりも遥かに早くMPを回復出来るのである。もっとも特定のポーズでじっとしていなければならないため余り実戦向きではないのだが、現在成竜はブレスの予備動作を行いながらレナードを見据えている状況だった為、これ幸いと使用していたのだった。


(早く回復してくれ!!)


 と、言ってもいつ攻撃対象が自分に向くか冷や汗を掻きながらスキルを使用しているアレスではあったのだが・・・。


(どうやらあのブレスの予備動作中は他の事が出来ないようだな)


 先程のガゼルのように至近距離で空中に浮遊されブレスを吐かれる事を警戒したレナードは少し距離を置いて停止した。


(近づけば先程のガゼル殿達のようになるのは明白。ならば)


「吸え!ソウルイーター!」


 ソウルイーターを抜き放ちその切っ先を成竜に向けるレナード。ヘルムに覆われ顔は視認できないが、その声には苦痛の色が見て取れた。

 成竜へと向けられたソウルイーターの先端からおびただしい量の悪霊のようなものが噴出し成竜へと絡み付く。その悪霊は実態を持っており、主に成竜の口を閉じさせる形で絡み付いている。

 これはソウルイーターの固有スキルである【アンデッド・バインド】の効果だった。

自身のHPとMPを同時使用して発動出来、その使用時には多大な苦痛を伴う。しかしその反面効果は絶大で、今までにソウルイーターで屠った敵の数だけ出現させる事の出来る悪霊を使役し対象を拘束するスキルである。副次的効果として取り付いている間、対象のHPを吸収する事が出来た。ただし、その吸収したHPはソウルイーターへと吸収され、使用者には還元されないのだ難点だったが。


「アレス!頼む!」


「了解!」


 動きを止める事には成功したものの、スキルを使用した反動と拘束を破ろうとのた打ち回る成竜を抑えるために悪霊の制御に手いっぱいだったレナードがアレスに攻撃を促しアレスはそれに応じる。


(MP・・・1/4ってとこか。いや、今使わないでいつ使うってな!)


 アレスは自身の持つスキルの中から威力の高いスキルを選ぼうとして、MPの残量、そして万が一のことを考え別のスキル等を先に放つことにした。


「エネミーサーチ!」


 そして相手のステータスがAR表記で視界の端に現れたのを確認すると共に、一拍あいて片膝をついたその状態からスキルを放つ。


「飛翔雷閃」


 小さくそう呟きながらペルクナスを抜刀する。鞘から抜き出た刃から雷の斬撃が迸り成竜へと高速で飛来し着弾する。

 着弾と同時に小さい悲鳴を上げながら成竜は体を硬直させる。どうやら上手く麻痺状態になり雷の継続ダメージを受けているようだった。

 着弾と麻痺状態の確認をしたアレスはAR表記されている成竜のステータスを確認する。


「・・・えっ?」


 そこには驚くべき数字が並んでいた。

 煉獄龍・成竜。レベル・・・50☆。状態異常:麻痺。HP残量3/4。


「レベルの横に☆・・・だと。カンストしてるってのか?てかあれだけ食らってまだHP半分も減って無いのかよ!?」


「どうした!ぼうっとするな!動け!」


 レナードの叱責に我に返ったアレスが成竜の方を向くともう麻痺状態から回復したようで体を震わせていた。


「レナードさん!あいつに体力確認の魔法使ったんですが、まだ半分も削れてない!」


「何!?そんな魔法が?いや、今はいい。さすが成竜といったところだろう。地道に削るしかあるまい」


(レベル差30・・・か。参ったなぁ。いや、最初の一撃は効いたんだし防御力は低いのかもしれない。やるしかないんだ。それにあの謳い文句を思い出せ俺!)


 アレスがレベル差を気にしているのはレベル制のMMORPGをプレイしている者にとっては当然といえた。

レベル制のMMORPGではレベルとは絶対であり、例え数レベル差であったもそのステータスには多大な開きがあり、「ちょっと位、上のレベルの敵を相手にしても・・・」とモンスターと戦闘をしてみると痛い目を見るのはざらにある。

 AWOはまず職業レベルを上げ、スキルポイントを入手しスキルをアンロック。そしてスキルを使用する事でスキルの熟練度が上がり、スキルレベルが上がるという方式を取っているため、一概にレベルが高い者が強者とは言えない。しかしそれは果たしてモンスターにも当てはまるのだろうか?とアレスは内心もやもやが渦巻いている。ライフサイドでもレベル差5を超えると敵に瞬殺されるくらいの差が生まれていたためアレスはさらに慎重にならざる終えなかった。

 ちなみにベータテストが行われていたAWO内で低レベルだが高スキルレベルのとあるテスターが無双していた時期があり、ある雑誌のインタビューにて『レベルなんてただのお飾りですよ。スキル祭りだw』と騒いでいたのが雑誌に載った事があり、アレスが先程自身に言い聞かせてたのはそのことだった。


(一撃でも当たったら死ぬんだろうなぁ・・・)


「おい、おーい聞こえているか!」


 レベルを確認したことで弱気になっているアレスに再度レナードから叱責の声が聞こえる。


「はっ、はい!大丈夫です。やりましょう!」


「よし、先程の痺れさせる技もう一度出来るか?」


「いえ、MP・・・魔力を補充しないと・・・」


「そうか、では私が時間を稼ぐ。その間に回復を」


「分かりました!」


 そういうと成竜へと向かって行くレナード。アレスは先ほどよりも距離を取り、再び瞑想に入る。


「さあて、時間稼ぎに付き合ってもらうぞ。」


 レナードが自身から強烈な威圧感を放ち、成竜と対峙する。

先程までのレナードからは感じ取れなかった圧倒的強者の威圧に成竜も警戒度をさらに引き上げる。

 レナードの威圧感の正体はレナードのスキル【絶対強者の威厳】の効果だった。使用すると敵対勢力に多大なる威圧感を与え自身にくぎ付けにする。つまり盾役のヘイトを大幅に稼ぐスキルであった。

 未だに成竜へと絡み付いている悪霊を操作し動きを封じ込め接近しソウルイーターを振りかぶる。

切りつけるというよりは、叩きつけ、そぎ落とすといった表現が適切かもしれない。レナードが狙ったのは先程切りつけた尻尾の付け根付近。重量級のソウルイーターを一撃を再度もろに受けた尻尾は今度こそ叩き潰されて引きちぎられる。その切断面からは血が噴き出す。

 しかし、成竜はその痛みに耐え、切断面の筋肉を収縮させ止血してしまった。

さらにアンデッド・バインドの効果が切れ、悪霊達が消失してのを肌で感じた成竜はその鋭い鉤爪でレナードを引き裂こうと右腕を振り上げる。

 叩きつけたままだった姿勢だったレナードはソウルイーターを手放し自身の両手で振り下ろされた成竜の右腕を掴み耐える。

 地面に足がめり込み苦悶の声を上げるレナード。その威力の強さが窺える光景だったが、なんとか攻撃そ凌いだレナードだったが次の瞬間、成竜の口から炎が燻っているのが見えた。


(火炎弾か!?)


 レナードは攻撃を察知するも足は地面にめり込んでおり、上からは成竜の爪で圧迫されており身動きが取れなかった。そして、至近距離からの火炎弾がレナードに放たれた。


「レナードさん!!」


「うおおおおおおおおお!」


 雄たけびを上げたレナードは左手一本で成竜の右腕に耐え、右手で拳を握りしめ火炎弾を何発も弾き飛ばす。


「す、すげえ」


 アレスがその行動に驚愕と呆れの感情を持って見ていると、レナードの右手からは煙が立ち上っていた。

 いくら強靭な籠手に守られていようと、至近距離からの上位存在による火炎弾のダメージを消しされるものではなかった。

そして火炎弾を乗り切ったといっても依然状況は変わらず、成竜に抑え込まれていることには変わりなかった。


(あと少しだ!耐えてくれレナードさん!!)


 アレスが自身のMPを確認しながら唇を噛み締めながら耐え、レナードの無事を祈る。


(存外、時間稼ぎとは辛いものだな)


 苦笑しながらその圧力に耐える。しかし突然、その圧力が急に止んだ。


「む?」


 レナードが顔を上げて見ると成竜の眼はアレスを捉えていた。


「え、なに?なんでこっち向いてんの?」


 レナードが十分なヘイトを稼ぎ、攻撃を全く行わずにいたアレスに成竜の眼が向く理由は見当たらなかった。今起きたとある現象を除いては・・・。


 煉獄龍・成竜は知っていた。己の子を殺した忌むべき相手を。その血の臭いで。

一番初めに出会った幼竜に喰われたアレスの片足は今もなお、亡骸となった幼竜の腹へと収まっている。そしてその亡骸の歯にはおびただしい量のアレスの血が付着しており、その臭いをたどって成竜達はイシュガルまで辿り着いていた。捕食対象として見なしていた相手に我が子が殺された。そう思っていた成竜だったが街に来てからというもの、その臭いが薄れ対象の居場所の判別がつかないまま迎撃されたためそちらを優先的に排除していた。が、しかし、先程アレスがした行為。”唇を強く噛み締める行為”によって血が出たことにより、成竜はアレスのことを”我が子を無残にも殺した対象”として再認識した。そう、多大なるヘイトを超える敵対意識をアレスに持ったのだ。


「__________オオオオオオオオオオオン!!」


 煉獄龍・成竜は多大なる怒りを力に変える。先程まで黒かった体躯は少し赤みを帯び、黒かった瞳は赤く変化し、縦に細長い瞳孔はさらに開かれ、甲殻からはピシピシとした音が聞こえ、より強固になったようにも見える。


(まずい!)


 レナードが今までとは比べ物にもならない危機感を抱いた時には遅かった。


「はっ?」


 先程までの動きがウソのように成竜は地を這い未だ瞑想状態から抜け出せなかったアレスに接近し、その巨大な口を大きく開き、アレスを食いちぎる。

 食いちぎられたアレスは上半身だけとなり、地面にドサリと落ちる。その眼には先程までと違い精気がなく、色を失っていた。


 

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