クロユリ
信じよう、伝説を。
その花言葉は……
夜。月の光もとどかない、しんとした森の中。
その鬱蒼とした中を、一人のヒトが歩いている。森の沈黙を乱さぬよう、ゆっくり、ゆっくり進んでいる。
そうしてその様子を、ふくろうが密かに見守っていた。
水の音に沈黙が破られたとき、ヒトは森の広い草地に出た。
そこにはやわらかな月明かりが降り注ぎ、穏やかに川が流れ、その川辺には、また一人のヒトが転び寝ている。
川のせせらぎにかき消される小さな寝息に、ヒトはしばしたたずみ聞き入っていた。
不意にふくろうがホーと鳴き、まるでそれに呼応するかのように、眠るヒトが身動ぎした。
ヒトは静かに近づいて、そのかたわらに一輪の花を置いた。
月明かりが、二人の身体すべてを緩やかに包み込む。
その夜、ヒトはヒトの訪れを知らず、また去ったのを知らなかった。
ヒトはヒトに何も言わず、また見られず、ただかたわらに、それを残した。
愛するヒトにクロユリの花を。
誰もおらず、誰も知らぬ、深い森での一つの秘め事。
ふくろうのみが例外である。
切に祈ろう、この願いの成就されることを。
深き森の夜は、まだ明ける気配がない。
◆花言葉◆
恋 呪い
【由来】
「恋」
アイヌ民族の伝説では、クロユリを思い人のそばに名前を告げずに置き、その人が花を手にとってくれたら、いつの日か結ばれる。
「呪い」
戦国武将の佐々成政の愛妾・早百合が密通を疑われて成敗された際、「立山にクロユリが咲くとき、佐々の家は滅びる」と呪いをかけた。
『想いを贈る 花言葉』より
花には珍しい色と強烈な香りで、「魔性の花」のイメージがあるため、不吉ながらも魅惑的な花言葉が生まれたようです。
『花言葉・花事典』より
※同人誌『三猿霊媒師』『うさぎの短編集』にも収録されています。
詳細は活動報告を読んでください。