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F先生
ちょっとした思い出話。
F先生は国語の先生。
細くて、高くて、坊主頭。
そして煙草を吸っている。
授業中。
蜂が入ってきて、教室中が騒ぐ中、F先生は平然と、冷静に、その蜂を叩き落とした。
百人一首大会。
着物を着こなし、朗々とした声を、体育館中に響かせた。
体育館。
何で集まったんだろうか、忘れてしまった。
ただ覚えているのは、F先生の怒声。
まるで雷が落ちたかのような怒声。
なかなかお喋りをやめない悪がきたちを静めた。
同時に私を怖じ気付かせた。
怒鳴られるのは好きではない。
でも、怒鳴られるのは人生で必要なことだ。
私もあんな声が出せたらな。
今でも、声が小さいからとよく聞き返される。
卒業式。
「元気でね」と、大きく、乾いた手が私の手を包んだ。それなりの力を込めて。
F先生。
もう定年かな。
煙草、まだ吸ってるんだろうか。
声が届くのは、大切なことです。
※同人誌『うさぎの短編集』にも収録されています。
詳細は活動報告を読んでください。